軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二十一話 ドゥーム族の襲撃①

俺はメアと二人で、ファージ領内にある宿屋へと向かっていた。

「アベル……別に行かなくていいんじゃないですか?」

「い、いや、一応な。白髪赤眼って、そんなにいるものじゃないし……」

どうやらここ最近、ファージ領近辺でフォーグの 魔物災害(モンスターパニック) が発生し、折り悪く巻き込まれた隊商が犠牲になるといった事件が発生していたらしい。

巻き込まれた隊商の馬車は散り散りになって逃げ、積み荷を失い予定を大きく変更した者も多くいるそうだ。

その際に移動の足を得ようと隊商の護衛として参加していた冒険者が迷子になって仲間から外れてこの村に流れ着いたそうだが、地理にも極端に疎かった上に金銭もあまり持っていなかったらしく、周囲も扱いに困っているのだそうだ。

そこまではいい、よくある話だ。

可哀想だと思うが、俺がどうにかしてやる義理も正直ない。

冷たいがラルクの采配に期待して十字を切るしかない。

俺はわざわざそんな問題に自分から首を突っ込んで回るようなお人好しではない。

直接頼み込まれたら同情してまあどうにかしようと俺も思うかもしれないが、向こうも俺に頼ろうと考えるような縁はないだろう。

ただ、引っ掛かったのは、その迷子がどうやら白髪赤眼で、俺と同じマーレン族らしいということだった。

失敗した。

少し考えれば、置き去りにしたジゼルが俺を追いかけて村を出ることは想像できたことだったのだ。

恐らく、この村に来て困っている、というのはジゼルだろう。

放置して逃げるという選択肢が頭を過ぎったのも事実だ。

だが、見知らぬ地で金銭もなく一人困っているジゼルを放置して逃げれば、兄どころか人間失格だ。

会ってからどうするか、といった具体的なプランはまるでない。

ジュレム伯爵とクゥドルの抗争に俺とメアが巻き込まれている状態でマーレン族の集落に帰ることだけは絶対にありえないのだが、しかしそれをジゼルが納得してくれるかどうかも別問題だろう。

俺はぐるぐるあれこれ考えながらも、逃げる選択肢はないのでとりあえず会ってから決めるしかない、という決断に至った。

これほど悩んだのは家出の日以来である。

おまけに選んだ手段が、何一つ決まっていないけれどもとりあえず事態だけ進めて自分を追い込んでいくという悪手だったのが情けない。

しかし、それ以外に取れる手が、どれもあまりにも非情に思えてならなかったのだ。

報告を聞いて悩み過ぎて吐きそうになっているとメアに身を案じられ、自然と相談する流れになったのだが、その際に「顔合わせするならメアも絶対行きます!」と断言されてしまったのだ。

それもそれでジゼルを無意味に煽る結果になるとしか思えなかったが、メアも引き下がってくれそうになかったので、俺とメアで会いに行くという、考え得る中で最悪級の選択肢の一つを取ることとなってしまったのだ。

「その、アベルの元許嫁の妹のジゼルさんってどんな子ですか? ちらっとだけ、メアも前に聞いたことありますけど……」

「あ、あれ、前に話したっけ?」

「ちょっとだけですけど……メア、忘れませんよ」

「そ、そうだったか……ははは」

思い出せない、どのタイミングで話したことだったか。

話してもそんなにまずいことはなかったとは思うのだが、なぜだろう、恐ろしい居心地の悪さを感じる。

早速問題の宿屋を訪れる。

「あー! これはこれは、アベル様! 来てくださいましたか!」

店主が宿屋に入ると、慌ただしく店主が俺へと駆け寄ってくる。

「ど、どうも……」

「あの、迷いマーレン族、引き取ってくださるんですよね? 滞在費くらいはこの際、目を瞑りますので……!」

……ほとんど犬みたいな扱いをされている。

いったい今、ジゼルがどういった状況なのか。

俺は苦笑いしつつ「まだ決まったわけじゃないですが……」と前置きを入れつつ、多分赤の他人という事はないだろうな、と直感を持っていた。

俺は教えてもらった部屋へと向かい、扉をノックする。

……返事がなかった。少し待って再度叩いてみたが、やはり返事がない。

店主が部屋を間違えたのだろうか。

「いない……?」

「……アベル、もう、帰りませんか?」

メアが俺の袖を軽く引っ張る。

「いや、でも、そういうわけにも……」

そのとき、部屋の中からぐすっと、嗚咽を上げるような声が聞こえて来た。

このまま黙って突っ立っているわけにはいかない。

俺は即座にドアノブに手を掛けた。

「ジ、ジゼル、だよな……その……」

部屋の中には、ベッドの横に三角座りして小さくなっている女の子がいた。

先端で束ねられたボリューミーに広がっている白い髪に、マーレン族特有の赤い目は勝ち気に少しだけつり上がっている。

泣き腫らしたためか、白目までわずかに血管が走り、赤くなっていた。

フィロだった。

フィロは扉の隙間から覗く俺を見て目を瞬かせ、手で目を擦り、もう一度俺へと目を向けた。

それから顔を真っ赤にして、俺へと人差し指を向けた。

「ア、アアア、アベルゥ!? ど、どうしてここに!? ほ、本物なのか?」

「え……なんでフィロがこっちに……」

フィロが歯を食い縛って立ち上がる。

「なんで、はないだろう! なんでは! よくもそんなことが言えたものだな! それはボクの台詞だ! キミが唐突にマーレン族の掟を破って外に出るから、族長の孫娘であるボクが、わざわざキミを連れ戻しに出るように決まったんだよ! ここに来るまで、どれだけ大変だったか! 文句の一つでも言わせてもらうよ!」

「そ、そうなのか!?」

だが、かつても掟を破って外に出るマーレン族は度々いたが、追いかけるようなことはしなかったはずだ。

香煙草(ピィープ) 関連のせいか?

しかし、あれは問題化しないように、しっかり製法を纏めて族長に引き継いだはずだ。

「あの後に、ジゼルちゃんがどれだけ傷ついていたか! キミがそこまで、考えなしだとは思って無かったさ。正直、少し失望したよ。手紙一つ残さずに出て行くなんて、キミには何の愛着も集落にはなかったのかい?」

「…………」

返す言葉もない。

あのときは動転していて、他に何もいい方法が思い浮かばなかったのだ。

手紙は残していたはずだが、フィロは知らなかったのだろう。

こんなところで反論するつもりもないので、甘んじて受け入れることにした。

しばらく、俺とフィロは黙ったまま見つめ合う形となった。

多分俺は恐ろしく情けない表情を浮かべていたことだろう。

少し経ってから、フィロの目尻がわずかに下がった。

「こんなことばっかり言うつもりじゃなかったんだけどな。……元気そうでよかったよ。もう二度と、会えないかもしれないって、本気でそう思ってたんだからな」

「……その、本当に悪い」

フィロが俺からそっと目を逸らす。

「……もしもあの時に、ボクに相談してくれてさえいれば、どうにかしてあげることだって、できたかもしれないのにさ。こんなことしなくたって」

俺はちらりと、扉の陰に隠れたままのメアへと目を向ける。

メアは出て来るタイミングを完全に見失っていたらしい。

戸惑い気味に俺へと目線を返す。

俺が入ってくるよう目で合図すると、メアは勢いよく首を横に振った。

「……ん、そこに誰かいるのかい?」

フィロに問われて諦めたらしく、メアが肩身狭そうにそうっと入ってきた。

「あ……え、えっと、どうも……はじめまして」

場の空気が凍り付いた。