軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四十五話 教皇サーテリア⑩

「どうでしょうか、アベル様! アベル様は、辺境地の一魔術師としておくには、あまりに勿体のない御方です! どうか国主となり、民を導いてはいただけないでしょうか?」

俺を教皇にしたいというサーテリアの顔に、迷いはなかった。

しかし、俺はリーヴァイ教に詳しくないどころか、リーヴァイには悪感情しかない。

そもそも宗教や国の長になれるような器だとは思っていない。

「あ、あの、俺そんな、サーテリアさんが思ってるほどいい人じゃないっていうか……多分、どっかで情報が曲解されていますよ。それに、教皇なんて……そんなの、乗れませんよ。リーヴァイ教の事なんて何も知らないのに……」

サーテリアが何を期待しているのかはさっぱりわからないが、悪いが、イエスといえる理由が何一つない。

俺のことを下調べしていたとはいっているが、どうにも適当に調べたとしか思えない。

リーヴァイに行動を制限されていたので、あまり大きくは動けなかったのかもしれない。

「アベル様は、ディンラート王国法の魔術規制に悩んでいるとお聞きしましたが、アベル様が教皇となれば、聖典の解釈も思うがままですよ! それに、このリーヴァラス国では、稀少な魔鉱石が豊富で、古代より残る、未解明な魔術石板も、多く保存されております! 研究対象にも困らないはずです! 人員も、国中から選りすぐりの魔術師を集め、リーヴァラス国最高の魔術師団を用意してみせます! 魔術訓練で早々に根を上げるような者はおりません! 国の存続を懸けて、倒れるまでアベル様から学んでくれるはずです!」

「マジですか!?」

俺は思わず、前のめりになって声を上げた。

ペテロが唖然とした顔で、サーテリアと俺、そしてリーヴァイへと順に目を走らせる。

さすがにこれは予想していなかったらしい。

「サーテリア……アナタ、そこまで下調べしておいてそうするってことは、国を、悪魔に売るつもり? 正気かしら!? 重圧に押し潰されて馬鹿になったんじゃない!?」

ペテロがサーテリアへと非難する様に指を向ける。

『サーテリア……貴様! 余と敵対しているアベルを引き込むことで、余を牽制するつもりか! どこまでも貴様は、このリーヴァイに対し、舐めたことを! ふざけるな! 急に貴様が教皇の座を、他国の、よりによってディンラート王国の、他の三大神官を捕らえた男に譲る? 民が納得するわけがないだろうが』

リーヴァイが、口を大きく開けて吠える。

「……私がお飾りなことは、リーヴァラス国の民は、薄々勘付いている事です。リーヴァイ様が指名したとなれば、公には不平を口にする者はいないでしょう。それにアベル様は、リーヴァイ様の槍を扱えるというではありませんか」

サーテリアが、冷たい目でリーヴァイへと言い放つ。

『余に、余に、アベルをリーヴァラス国の中枢に置くと公言しろというのか! そんな余の首を絞めるような事を、するわけがなかろうが!』

「できないのなら、リーヴァイ様はここで、アベル様に消されて、私と国と、仲良く心中するだけです。リーヴァイ様の我儘で破談になるのならば、私は龍脈も使いません!」

『サ、サーテリア、貴様……アベルと国の主権を牛耳り、余を、この余を、ただの飾りに仕立て上げようというのか? 貴様……こんなことが、本当に許されると、思っておるのか……?』

リーヴァイがサーテリアへと、説得する様に、或いは懇願する様に、声を掛ける。

「……はい、その通りです。申し訳ございませんリーヴァイ様、こうしなければ、リーヴァラス国がなくなってしまいますので」

サーテリアが淡々とリーヴァイに頭を下げる。

「ディンラート王国から信頼を得るには、ペテロ様の重宝している魔術師を国の中枢に添えるのが一番です。加えて、リーヴァイ様の影響力も弱めなければ、納得してはいただけないでしょう。それに、四大神官の三人を欠いた今、各地の内乱を抑えるには、ペンラート殿以上の錬金術師が必要です。リーヴァイ様、これは、貴方が身勝手に動いたために広がった穴なのです。アベル様ならば、一人で全て埋められます」

リーヴァイは目を血走らせ、何かを言おうとしたのか、口を動かす。

だが、言葉が紡がれることはなかった。少し遅れて、リーヴァイの口から嗚咽が漏れる。

『余が……神であるこの余が、こんな小娘に言いくるめられて、飼い殺しにされるというのか……?』

それだけ言うと、がっくりと三つの目が閉じられた。

ペテロは先程までのサーテリアを嘲弄する様子はなく、真剣な表情で、彼女へと目を向けていた。

「……そう、そこまで覚悟は、できていたのね」

つ、ついに、リーヴァイと、ペテロが折れた……?

ということは、え、俺、俺が教皇になるのか?

俺はちらりと、リーヴァイの方を見る。

凄く悲しそうな目を俺に向けた後、顔を逸らされた。

最初の好戦的な様子とは打って変わってのこの有様である。

俺の討伐は、龍脈に全て託していたらしい。

肝心な龍脈の鍵を、サーテリアが抱えていてよかった。

他の大神官ならば、とんでもない事になっていただろう。

「えっ……本当にアベル、リーヴァラス国の教皇になるんですか?」

メアが恐々と俺へと尋ねる。

俺はサーテリアへと横目を向ける。

凄く綺麗な笑顔で返された。

「なんか、そうらしい……」

俺が四大神官を埋めないといけないのだろうか。

俺とサーテリアは固定として、後はアルタミアとペン爺か?

収集家……は、いらないな。多分、呼んでも来ないな。

いや、まだわからない。リーヴァラス国には、もっとすごい人材が眠っているかもしれない。

いっそのこと、七人くらに枠を増やすか?

「……なんだか、アベルが遠くなっちゃいますね」

メアが寂しそうに言う。

俺は少し腕を組んで考える。

「メアも、リーヴァイの大神官になるか?」

「いいんですか!?」

メアが声を弾ませて、サーテリアを見る。

サーテリアは笑顔で頷いた。

「ええ、ええ、他ならぬアベル様の推薦でしたら、問題ありません。アベル様に引き受けていただけさえするのならば、多少の無理も私が何とか通してみせます。リーヴァラス国は多くの問題を抱えておりますが、共に協力し、平和な国に変えていきましょう」

「平和な国……あっ!」

メアが唐突に、何かを閃いた様に声を上げた。

「どう致しましたか、メア様?」

サーテリアが笑顔でメアへと尋ねる。

「あ、いえ、ごめんなさい、大した話じゃないんです。ちょっと疑問に思っただけで……失礼な話になっても嫌ですし……」

メアが声を上げてしまったことを恥じる様に口の前に手を当て、サーテリアに謝る。

「いえいえ、疑問に思ったのでしたら、私がお答え致します。宗教の違い、考え方の違いは、私も尊重できるよう、心掛けております」

「えっと、じゃあ、そのう……メア、思ったんですけど、あの、もしかしてこれ、水神様いなかったら、全部上手く行きませんか? ほら、ペテロさんも妥協できると思いますし!」

サーテリアが、引き攣った表情を凍り付かせた。

リーヴァイの方から、大きな音が鳴った。

巨大な青い腕が、宮殿の柱の一つを、壁に指を突き立てて握り潰していた。

苛立ちが我慢の限界を超えたらしい。

多分、俺の表情もちょっと引き攣っていただろう。

「メア……それはできないんだ。ここまでサーテリアさんの一派がリーヴァイ教の教派統一を進めて来られたのは、一番に、元々の教神であるリーヴァイが味方に付いていた事が大きい。リーヴァイを切った時点で、サーテリアさんの行ってきた統一に、一切の正当性がなかったと宣言するようなものだ」

恐らくそうなれば、内乱も、今の規模では治まらないだろう。

全国民が敵に回ってもおかしくない。

ペテロはリーヴァイを殺した時点で国中が大混乱に陥ると予測していたが、リーヴァイを堂々とサーテリア側が処分などすれば、混乱はその比では済まない。

リーヴァラス国と和解するならば、リーヴァイは、お飾りとしてリーヴァラス国に残り続けてもらわないといけないのだ。

「そ、そうなんですね、メア、黙ってます、ごめんなさい……」

「いえいえ、お気になさらずに!」

サーテリアが、やや引き攣った笑顔でフォローを入れ、恐る恐るとリーヴァイの顔を確認していた。

何はともあれ、無事に話し合いで解決した。

また後日に、ペテロから王家に話を付けてくれ、正式に同盟が結ばれるのだろう。

もっとも、これから俺は、どうなるのか……。

「ペテロさん、これでいいんですよね?」

俺はペテロへと目を向ける。

ペテロは何か考え事をしていたらしく、頬に皺を寄せ、下唇を噛んでいた。

「……はぁ、だからまともに話し合いなんて、したくなかったのよ。後味が悪いわね」

溜息を零し、俺へと顔を向ける。

「アベルちゃん、戦闘の準備を整えておいてちょうだい」

「えっ……ペ、ペテロさんも、認めたんじゃ……」

ペテロは小さく首を振る。

「もう詰んでるのよ、この国は。これから滅んでいく国の主の、夢見物語に付き合うつもり? アナタは流されてるだけで、そんな覚悟なんてないはずよ。ここからは、ワタシも少し、真面目に話させてもらうわ。サーテリア、アナタもわかっているんでしょう? なるべく最良の形で亡命させてあげるから、もう諦めなさい」