軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二十八話 続・ファージ領の猛者達③

館に近づくにつれて、段々と全体がしっかりと見えて来る。

半壊したラルク邸の二階層内部で何かが跳ね回っているなぁ、とは思っていたのだが、よくよく見ればそれはちょうど十体のオーテムで、暴力の中心には、身体を守る様に丸まった大男がうつ伏せになっていた。

「……で、ペテロさん、あの、あっちの、ラルク邸跡の二階にいるのが、その主犯でいいんですか?」

ペテロがやや溜めを作り、神妙に頷く。

「そう、あれがリーヴァラス国よりの襲撃者よ。そうね、アルタミア」

いや、そんな緊張感作ろうとしてるのはわかる。

でも、それもあの有様だとちょっと……。

アルタミアはいくらか落ち着きを取り戻したらしく、やや不貞腐れた様子で頷く。

「ええ……あれが、そうよ」

あれが、刺客……。

唐突にラルク邸に現れ、アルタミア相手に不死に近い身体と、実戦に特化された近接魔術と格闘術を用いて互角以上に戦い、最後は館を謎の爆撃魔術で半壊させた、恐ろしい魔術師であると、断片的に聞かされていた。

「助けてくれ! 助けてくれ! 痛い、本当に痛い! やめっ!」

大の大人が、わんんわん泣きながらオーテムにされるがままになっている。

……なんだか、聞いていたイメージと違う。

既にアルタミアと刺客の決着がついていて、一応は生け捕りに成功しているとは聞いていたのだが、これは予想だにしていなかった。

俺の中でリーヴァラス国の格がまた一つ下がった。

というか、アルタミア関係ねーじゃん。あれ俺のじゃん。

「とりあえず解放して、牢にでも繋いでおきますか……」

一時はファージ領に閉じ込め、またマリアス達同様に別領地の、重要犯罪者を収容する監獄に送ることになるだろう。

「……あの異様な風貌に、大柄な身体と頑丈さ。殺戮司祭、ラスブートね。新リーヴァイ派の誕生以前から、ワタシがリーヴァラス国の第二要注意人物としてマークしていた魔術師よ」

今アレを目前にそんな話をされても、ラスブートとやらの株が上がる前に、リーヴァラス国全体の株が下がる。

「……二番目ってことは、一番目がサーテリアですか?」

「今の最要注意人物はそうだけど、当時はサーテリアは無名だったから、気にも止めていなかったわね。その頃にワタシが最も注意していたのは、悪魔の大脳、首繋ぎの悪鬼と恐れられた錬金術師、ペンラートよ」

「あっ……」

「彼は人道に反したキメラの生成を若い頃から何度も行っていて、それは当然リーヴァイ教の基本教典にも反していたわ。なのにあいつは、不安定な情勢のリーヴァラス国でほぼ全ての教派に喧嘩を売り続けたせいで、何十回、いや何百回と刺客を送られながらも、まったく研究の手を緩めなかった、という伝説を持つわ。笑えない冗談だけど、そういう意味ではアナタに近いかもしれないわね。今は、水神四大神官の一人になっているはずよ。アベルちゃんにとっても、あの男は容易な相手とはならないでしょうね。リーヴァラス国と敵対する限り、いずれ奴と対峙することになるわ」

すいません、もう倒しました。

というか、一回ペテロさん、宿を出るときにすれ違いました。

扉近くでそわそわしてたペンラートにぶつかりそうになって、ミュンヒがキレて、あなたが諫めて軽く頭を下げた老人がそれです。

ファージ邸跡地のすぐ目前まで来る。

殺戮司祭ラスブートとやらの、捨てられた子犬の様な瞳と目が合った。

「早く、この人形を、止めてくだされぇっ! お願いです! それか、その悪辣嗜虐趣味の魔女の持ち歩いているはずの、髑髏を破壊してくだされぇっ!」

俺はラスブートの発言を受けて、ちらりとアルタミアを見る。

アルタミアはラスブートの醜態を冷たい目で睨みながら、鼻で笑う。

「私もそいつには酷い目に遭わされたから、ちょっとした意趣返しよ」

随分とお怒りらしい。なんだか俺へと向ける目線も冷たい気がする。酷く不機嫌と窺える。

家と百年近い研究成果を焼き尽くしても、グーパン一つでで許してくれたアルタミアをここまで怒らせるとは、いったいラスブートは何をやらかしたのか。

「……とりあえずこのままじゃ埒が明かないので、オーテム止めますね」

「お願いしますっ! お願いしまっ……ゴボッ!」

必死に大口を開けるラスブートの口を、オーテムのキックが強引に閉じさせた。

噛んだ舌から血が滲み、口からぶらぶらと揺れている。うわぁ……痛そう。

俺のこのオーテムは、意識が飛ばないものを相手取ることなんて想定していなかったのだ。

まさかそんな無限拷問を味わいかねない呪いの様な魔術を自分に掛けている人間がいるとは予想だにしていなかった。

可哀想だが、正直俺はそんなに悪くないと思う。

これ以上無意味に痛めつける意味もないので、とりあえず解放しよう。

「どうかしらアベルちゃん? リーヴァラス国を野放しにしておけば、ラスブートと同等以上の刺客が、こっちの不意を突いて攻撃してくるのよ。こっちから打って出るしかないの」

それはわかっている。

相手の個人の戦力自体はさして警戒していないが、このまま放置を続けていれば、割を食うのは俺の周囲の人間、メアやラルク達だ。

リーヴァイに目を付けられてしまった以上は、決着をつける他ない。

「……今ひとつ説得力に欠けますね、ペテロ様。せめてアレが、もう少し粘ってくれていたのなら……」

絶賛暴力の渦中にいるラスブートを見て、ペテロの側近、ミュンヒがそう評した。

俺がミュンヒへ目を向けると、即座にペテロの拳がミュンヒの後頭部を捉えた。

その後ペテロは何事もなかったかのように腕を背に隠し、姿勢を正す。

……今、ミュンヒの口にしたことは、ペテロの本音でもあったのだろう。

ペテロとしては、これを機に俺を嗾け、リーヴァラス国という不穏な勢力を排除しておきたいはずだ。

ミュンヒも考えなしではないが、ラスブートのあんまりな状況を目にし、つい口が滑ったのだろう。

かなりいい音が鳴ったので相当痛かったはずだが、今では被りものから覗く口許も無表情に直線を保っている。

「……アベルちゃん、ラスブートの狙いは、明らかに最初からメアちゃんをピンポイントで狙いに来ているわよ。正直、この期に及んで、連中がいくらでも代えの利くラルクを、わざわざ大掛かりな囮と暗殺の二段構えで狙いはしないわ。そういう節がなかったかしら、アルタミア」

「確かに、そうね……。メアの誘拐が目的だった、みたいなことを口走ってはいたわ」

「えっ……」

俺は思わず声を上げる。

狙う対象の一人かもしれない、くらいには考えていたが、しかしメアが第一目的にまでされているとは考えていなかったのだ。

「殺戮司祭ラスブートについては、ワタシも事前に調べていたからそれなりに背景も知っているわ。元々リーヴァイ教の中でも邪教とされる一派の人間だったとはさっきも言ったでしょう? その頃のラスブートは、敵の捕虜、時には味方さえもリーヴァイへの生贄として捧げ、その人物のあらゆる尊厳を辱めた上で、最大四百日掛けて拷問死させたとして悪名高いわ。そうすることで、その人物の全てをリーヴァイへ捧げたことになる、とね。信仰教派は変わったはずだけど、今回もそうしなかったとは限らないわ。新リーヴァイ派も、真っ当な連中にはワタシには思えないもの」

「なっ……!」

一歩間違えれば、メアがそうなっていた。

もしもファージ領に襲撃に来たのが、自戒剣クゥドラルグとアムリタフル装備の収集家だったのなら、法神クゥドルクラスの敵だったのならば、オーテム十体など何の意味もなかっただろう。

自分の浅はかさと、相手のやり口に嫌悪と苛立ちがふつふつと湧いて来る。

「……ペテロ様、ちょっと盛ってませんか?」

ミュンヒが小声で何かをペテロに耳打ちする。

素早く放たれた裏拳が、再びミュンヒの後頭部を捉えた。

「……俺の考えが、甘かったです。いつかはどうにかしないといけない相手だとは考えていましたが、どこか悠長に捉えていました。今決断します。準備が整い次第、こっちからリーヴァイを討伐に出向きましょう」

「ようやく決断してくれたわね。ワタシも、今後は後方支援を一切惜しまないわ。何でも言って頂戴」

「ペテロ様、この方相手にそれを約束するのは……!」

「覚悟の上よ。毒を喰らわばフォーグまで、と言うでしょう?」

「それは毒の唾液を受けて自棄になった冒険者の言葉ですペテロ様!」

俺は一度、リーヴァイの投擲武器を防ぎ、腕を落としたことがある。

だが、クゥドルも触手を十本単位で失おうが、ビクともしていない様子だった。

本気を出したリーヴァイがどこまで戦えるのかは、全くわからない。

しかし、俺は絶対に勝つ。勝ってみせる。

これ以上、メアを巻き込むわけにはいかない。

「早速準備を進めましょう。乗り込むのは、早い方がいい。どのくらい不在になるのかもわからないので、錬金術師団の方にも指示をきっちりと出しておかないといけませんね」

俺は身体を翻し、ラルク達のいる宿屋へと急ぐことにした。

「あっあの! グボッ! そろそろゲボッ! 私の救出をバホホホウ!」

ラスブートが、身体をあらゆる方向に捻じ曲げながら、俺へと必死に手を伸ばす。

「あと一日はそうしてろ外道が!」

ラルク邸を魔術で爆撃したばかりか、メアを攫って拷問を企てていた野郎だ。

俺が情を掛ける道理は一切ない。一日どころか、奴のやったという四百日でもいいくらいだ。

「私そこまでしてないのに!」

ラスブートの悲鳴が飛び交う中、俺は足取りを再開させる。

メアはすぐ後ろについてきたのだが、なぜかアルタミアとペテロ、ミュンヒがしばし躊躇う様に留まり、ラスブートを眺めていた。

しかし俺が振り返ると、何事もなかったかのように俺へと向かって歩いて来た。