軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二十一話 不死の怪僧ラスブート②(side:ラスブート)

「全力でやらせてもらう、とは大きく出たものですな。魔女アルタミア、確かに貴女は、魔術の精巧さ、練度では、この私よりも遥かに勝る。だが、それがどうしたというのですか? 戦争は、美しさを競う競技ではない」

ラスブートが、アルタミアへと顔を向けて嘲弄する様に言う。

依然として、表情はそのままであり、一切の感情の色が顔からは窺えない。

「貴女は研究に特化した魔術師である。対して、この私は戦闘術に特化した、暗殺者に近い魔術師。錬金術師としては貴女の方が格上でも、こと戦いに関しては、私の方に軍配が上がる……」

ラスブートは頭に手を置き、得意げに語りを続ける。

そして怪面の如き顔の目がアルタミアを睨み、床を蹴って彼女へと一気に接近する。

「さて、貴女が本気ならば、私も同じく本気で行かせてもらうとしようか」

ラスブートは、魔術に加え、格闘術においてもリーヴァラス国有数の実力者であった。

彼は格闘術と魔術を融合し、独自の戦闘技術として昇華させている。

自身の間合いでの戦闘ならば、速度特化の魔術と、禁術で鍛え抜かれた彼の膂力より繰り出される高速の格闘術で、反撃を許さぬ連続攻撃を仕掛けることができる。

「アンタ、私の魔弾を受けても平然としている辺り、確かにちょっとばかり頑丈みたいね。いいわ、試してあげる」

アルタミアが手を振るう。

アルタミアを囲む様に、宙より十二本の剣が現れる。

空気中の成分、精霊、魔力を素材として組成された、即席魔導金属ヒディム・マギメタルである。

この魔導金属は、魔術師から与えられた魔力を分子の結合力に変換し、強引に物質の状態を書き換え続けることで、金属としての性質を保っている。

故に、この魔導金属は魔力が使い尽されれば分散する特徴があるのだが、元より戦闘間に使い切るつもりの武器であれば、関係はない。

十二本の剣が、ラスブート目掛けて直進する。

ラスブートは呪猿杖を振り回し、華麗に弾いて地面い叩き落とす。

「どうしたのですかな? この程度の攻撃では、痛くも痒くもな……」

ラスブートの操る呪猿杖に弾き落とされた剣が、再び一人でに持ち上がり、ラスブートを強襲する。

「ちっ! しつこい!」

いくら弾けども再起する剣を前に、ラスブートが苛立つ。

アルタミアは悠然と、再び手を上げる。

更に十二本の剣が、アルタミアの周囲を覆う様に出現する。

「なっ……!」

「……言っておくけど、私は、優しくないわよ」

アルタミアが腕を下ろす。

ラスブート目掛け、新たな十二本の剣が放たれた。

「魔女め……厄介な魔術を扱う」

ラスブートは地面を蹴り、身体を大きく曲げて、剣を回避する。

だが、いつの間にやらラスブートの死角に潜り込んでいた剣が、ラスブートの身体を、背から腹にかけて貫通した。

「む……?」

ラスブートの無表情な口許より、鮮血が垂れる。

一撃を受けて体勢を崩したラスブートへと目掛けて、次から次へと、宙を踊る剣が迫る。

ラスブートの身体に、また新たにニ本の剣が貫通する。

足元には血だまりが生じていた。

続けて別の剣が突き立てられるより先に、ラスブートが魔法を詠唱する。

「 হন(運べ) 」

ラスブートの巨体が消え、やや離れた位置に出現する。

先程までラスブートの立っていた位置に十の剣が突き刺さった。

転移の魔術には膨大な魔力と高い集中力が要される上に、大きな隙を晒すことになる。

そのため、通常ならば一対一の戦いではまず用いられることはない。

だが、ラスブートは、ごく至近距離に限定することで、転移魔術さえも戦闘の攻防に用いることができた。

「……なるほど、そういう魔術か。まさか、あの一つ一つが追尾持ちとはな。この手のことは、お手の物と言うわけか。確かに私でなければ死んでいた」

ラスブートは身体に刺さった三本の剣を強引に引き抜き、床へと放り投げた。

血がとめどなく溢れていくが、ラスブート本人にそれを気に掛ける素振りはない。

(やっぱり、ただタフなんて次元じゃなさそうね)

アルタミアはラスブートの様子を見て舌を巻く。

ラスブートは壁に設置されていた掛け時計の示す時間を睨み、舌打ちを鳴らした。

元より、指令とは関連の薄い戦いである。

ここに時間を取られていれば、水神からの指示である、空神の遺産、『赤石』を回収できなくなってしまう。

「……貴女は私好みで実に壊し甲斐がありそうだったのですが、これ以上は、ナンセンスですな。時間が掛かり過ぎた。これでは、目標を見失う。魔女、貴女の相手は、またいずれにじっくりと」

言うなり、ラスブートは部屋を出て、アルタミアより逃走する。

「っ! 待ちなさい!」

ラスブートの後を追ってヒディム・マギメタルの剣が放たれるが、彼はそのすべてを尽く回避していく。

(大体の部屋は、透明化している間に確認した……あと考えられる部屋は限られるが、この騒動で逃げて居なければよいだのが)

ラスブートは、ある一室の扉を蹴破った。

部屋の奥にいた、青い髪のドゥーム族の少女、メアが彼を振り返った。

「ほう、物音はここまで聞こえていたはずですが、逃げなかったのか」

メアはラスブートの奇怪な容貌を見ると、恐怖にぶるりと身体を震えさせるが、首を振ってラスブートを睨みつけ、弓を構えた。

「ち、近づかないでください! それ以上来たら、撃ちます!」

「さてお嬢ちゃん、そんなもので本当にこの私を殺せるのか、試してみるといい。弓矢など、私にはそよ風に等しい」

「 হন(運べ) 」

通路より、アルタミアの声が響く。

次の瞬間、壁を破壊し、怪しげな碧の輝きを放つ人一人よりも一回り大きい三角錐が現れた。

続けて、同程度の大きさの、同色の立方体が天井を貫き、ラスブートの目前へと落下した。

三角錐と立方体には、所狭しと魔術式が刻まれていた。

アルタミア特製、純 幻の銅(オレイカルコス) 製の立体である。

「なんだ、これは……?」

「ラルク男爵! 悪いけど、この館、潰しちゃうかも!」

アルタミアが叫ぶ。

その声に応じるように、部屋の外のどこぞに身を潜めて隠れていたらしいラルク邸の住民達が、慌ただしく外へと逃げる音が聞こえる。