作品タイトル不明
十五話 進撃のペンラート⑥
「偉大なるリーヴァイ様の名の許、貴殿は、この愚拙が始末する! これほど不快な者は、愚拙の生涯を通しても初であるわ!」
ペンラートを乗せるキメラドラゴンが天高く上昇していく。
「最期におちょくってやろうと思ったのか? んん? この愚拙は信仰厚く、慈悲深い。せっかく愚拙は楽に殺してやろうと思ったが、貴殿には貴殿の愚行に相応しき地獄を用意してくれる! たっぷりと、後悔するがよい!」
キメラドラゴンの上昇と共に、滞空していた十数体のワイバーンと、トロルの群れが、俺目掛けて接近してくる。
トロルがここまで到着するのは大分先のことになりそうだが、なかなか壮観だ。
「ア、アベル殿! あれ、対処、できますか!? できるんですよね!?」
ユーリスが俺の両肩を掴んで揺らす。
俺は手で制して離してもらう。
「任せてくださいユーリスさん! ちょうど、試したいオーテムがあるんです!」
「あの、真面目にお願いしますアベル殿!」
俺は杖を振るい、魔法陣を俺の右側に浮かべる。
「 বহন(運べ) !」
俺の右側に、黒塗りされ、大きな単眼の彫られたオーテムが出現する。
カタカタと揺れる単眼オーテムの口から、二つの円らな瞳を持つ、黒い靄が顔を出す。
「きゅう?」
俺がファージ領の魔獣災害の際に得た、魔獣を操る悪魔、ハーメルンである。
ハーメルンは俺と目が合うと、面倒臭そうにこくこくと頭を上下させ、オーテムの口の中へと戻っていく。
「鼠群の指揮者グリムオーテム!」
このオーテムは、ハーメルンの持つ魔獣の操者たる魔法の範囲、効果を拡大させる、いわば増幅器の様なものである。
ハーメルンが入っていなければちょっと頑丈なだけのただのオーテムだが、ハーメルンが中に籠っている今、魔獣に対して強烈なメタ能力を誇る魔獣殺しオーテムとなる。
「 পুতুল(人形よ) দখল(踊れ) 」
俺は続けて杖を振るう。
グリムオーテムの単眼が輝き、口許がカタカタと動く。
「 হাসিহা-(キャハ) হাহা-(ハハ) হাহা-(ハハ) হাহা-(ハハ) 」
怪しい紫の光が辺りに球状へと広がり、薄れてすぐに消えていく。
俺へと興奮した猪の如く直進していた数十のトロルの群れが速度を落としていき、やがてはきょとんとその場に立ち止まる。
その後、唸り声を上げながら、トロル同士で棍棒をぶつけ合い、同士討ちを始めた。
俺のことは、もう完全に眼中にないようだった。
遥か空より、ペンラートがキメラドラゴンの頭の先で、困惑の面持ちでこちらの様子を窺っている。
だがペンラートよ、お前も高みの見物を決め込んでいる場合じゃあないぞ。
「グ……グゥ」
キメラドラゴンの身体が震え始める。
滞空しているだけなのに翼の動きが乱れて行き、ゆっくりと高度が下がっていく。
ハーメルンの支配魔法は、高位の魔獣には通用しにくい。
元々が下位の魔獣を大量に指揮するための魔法なのだ。
オーテムを挟んで効果と範囲を底上げしているが、キメラドラゴンは調子を崩すのが限界の様だ。
まぁ、A級相応の魔獣をこれだけ乱すことができたら、上々といったところだ。
ペンラートが、キメラドラゴンに何か喚き散らしながらしがみついている。
罵倒しているように見えるが、高度が高すぎてこちらからは聞き取れない。
空を舞うキメラドラゴンは、ペンラートが引き連れて来た十数体のワイバーンに囲まれていた。
ワイバーン達は、完全にグリムオーテムの支配下にある。
魔獣を数匹連れて来たのが完全に裏目に出ていた。
ワイバーンが、キメラドラゴンの周囲を飛び交い、頭部にいるペンラートを狙う。
キメラドラゴンは支配魔法の干渉に抗っている状態であり、万全ではないはずだ。
だが、さすがはペンラートのお気に入り。
小回りの利く細身のワイバーン達の猛撃を、あの巨体で、ペンラートを庇いながらも上手く回避している。
肩や背など、当たり障りのないところで攻撃を受け、凶爪でワイバーンを引き裂いて地に落としていく。
まぁまぁだな、あのドラゴン。
だがグリムオーテムの数の利を覆すには至らず、重ねて攻撃を受けていく。
一体のワイバーンがキメラドラゴンの翼に噛みつき、大きくバランスを崩させた。
その隙を突いて、他のワイバーンが腹部を引き裂く。
キメラドラゴンが、更に高みへと逃げる。
ワイバーン達が、続いてわらわらとキメラドラゴンの後を追い掛けていく。
キメラドラゴンの口から、赤に輝く光線が放たれ、後を追い掛けて来たワイバーン達への攻撃を行う。
直撃した一体は光線に弾かれて態勢を崩し、身体から炎を上げながら暴れ、落ちていく。
しかし、掻い潜ったワイバーン達が、キメラドラゴンへと接近し、再び爪での攻撃を加えていく。
キメラドラゴンは、血塗れになりながらワイバーンの群れから逃げ惑う。
「す、すぐに終わりそうですね……。さすがはアベル殿」
ユーリスはワイバーンに囲まれて消耗していくキメラドラゴンと、それに比例して顔がどんどん引き攣っていき最後にはほとんど泣き顔になったペンラートと、そして同士討ちして既に死体の山と化したトロルへと順番に目をやり、呆れ半分といった調子でユーリスが言う。
「アベル殿相手に数で挑んでも無意味ということですね。あの老人がなんだか気の毒に見えてきました」
ペンラートは顎が外れんばかりに口を広げ、必死の形相でキメラドラゴンにしがみついている。
キメラドラゴン陥落は時間の問題に見える。
「実は、もう一体、試したいオーテムがあるんですよね。実戦で使っておきたいので、ペンラートがギリギリ無事でいる間にぶつけておくことにしましょう」
俺は手にしていた杖を握りしめる。
「じょ、冗談ですよね、アベル殿? そんな、崖から落ちる間際の人間の背を蹴とばす様な真似をしなくても……」