軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十一話 進撃のペンラート②

「出没したナルガルンは二体……か。もうあの国、なんでも有りだな」

俺は馬に乗りながら、前方に見えるナルガルンを見てぼやいた。

三つの首を持つ巨大な竜が二体、山側からこちらへやってくるのが遠くに見える。

今回も恐らく再生魔術式が仕組まれているのだろうが、前回は宝の山に見えたが、今回は在庫の山にしか見えない。

俺の脳裏に、ラルクの倉庫が浮かぶ。

現在は埃の被ったナルガルン装備が乱雑に突っ込まれており、某木材タワー積みパーティーゲームの終盤の如く不安定さとなっている。

……というかこの間、盗みに入った領民が重ねられていたナルガルン鎧を崩して下敷きになったと聞いた。

腐ってもAランク鎧、大きな破損はなかったらしい。

盗人の方は知らん。

「向こうも、工作が失敗して、形振り構ってはいられないのでしょう。リーヴァラス国が、正面からディンラート王国とぶつかりたかったはずがありません」

俺の背後で手綱を握るユーリスが答える。

緊急だったが、残念ながら俺に乗馬の経験はなかったため、長めの鞍をラルクに探してもらい、ユーリスに操縦を一任している。

最初は俺が後ろだったが、後ろ足が地面を蹴ったときの衝撃がまともに来て痛かったので、駄々を捏ねて前に回してもらった。

リーヴァラス国は、内乱でそれどころではなく、地方の魔獣災害への対応もおざなりになっていたはずだ。

ナルガルンが複数体国にいたとしても、まぁあり得ないことではない。

以前に送り込んできた改造ナルガルンは、あくまでもリーヴァラス国の陰を隠しつつファージ領と他を分断するための工作でしかなく、本気で仕掛けてきていたわけではなかったのだろう。

「アベル殿の活躍で、早々に敵対関係が表面化し、リーヴァラス国に選択肢がなくなったのでしょう。本気で動かざるを得なくなった、というところでしょうね」

「本気で動かざるを得なくなったにしては、たったのナルガルン二体か……」

あまりにしょっぱい。

あのちぐはぐパッチワークな再生擬きの魔法陣にどれだけ自信があったんですか!? と問い掛けたい。

そもそも、これ以上ナルガルンはいらない。

どうせならもっと別の魔獣にしてくれればよかったのに。

ひょっとしてこれはそういう、リーヴァラス国流の高度な嫌がらせなんだろうか。

「…………」

俺の呟きに、ユーリスが押し黙る。

「どうしました?」

「再生するAランク魔獣を相手に、軽々しくそんなことを言えるのは、アベル殿くらいですよ……。私達は、あのナルガルン一体に、兵を揃えて攻め込んで、撤退を強いられたんですからね……?」

しかし、本当にちょうどペテロの依頼があってから、すぐの侵攻だ。

ペテロが焦燥していたのに、俺が日和見だったせいで後手に回ることになってしまった。

まさか、本気でナルガルン二体ということもないはずだ。

国ぐるみの特攻自爆ではなく、勝機があって挑んだのだとすれば、リーヴァイの槍クラスの兵器をまだ備えているのかもしれない。

他の三大国の動きも不穏だという。

思ったよりもディンラート王国は危機的状況に立たされているのかもしれない。

「でも、まずいですね……」

「何かお気づきになったのですか? アベル殿が、まずいだなんて……」

「いえ、これで、また防具の価格崩れが起こります……。ナルガルンが複数体出て来たという話は、まず領外に広まります。そうすれば、ナルガルンショックを知っている商会や……下手すれば、私兵を囲っている貴族なんかは、全力で防具を売り捌いて、値が下がってから買い戻すことで、損失を抑えようとするでしょう。我々が内々で抱え込もうと決めても、事実が広まった時点でまた市場がパニックになります」

「……領地の物理的危機に比べれば些事ですよアベル殿」

昔は再生ナルガルンを見て大喜びしたものだが、アルタミアにペテロと、いくらでも金を生み出す金の鶏が二人いる今となっては、ナルガルンには特に価値を感じない。

というか、今でもまだ余っているほどだ。竜はデカすぎる。

「「「ギシャァァァァァアアァァアアッ!」」」

二体いるナルガルンの片割れが、俺に注目した。

三つ首が各々に俺を睨み、咆哮上げる。

一気に俺達の方へと駆けて来る。

咆哮を聞いて、馬が委縮して立ち止まった。

「わわ、私は実際にアベル殿がナルガルンを倒したところを見たところがないのですが……本当に、あんな巨体を倒せるんですか……? おまけに、また前回同様に、首が、再生するかもしれないんですよね?」

「いえ……あの再生の魔法陣には難点が幾つかあって、ある条件が整うと発動しないんですよ。ぶっちゃけ、大した魔法陣じゃないです。魔術式もまともに読めない錬金術師齧りが、適当に弄ってたら『たまたまできた!』って燥いでるようなものです」

俺は淡々と返す。

ナルガルンに組まれていた再生の魔法陣は、はっきりとそう大したものではない。

過去の適当な魔術式を足して、引いて、ちょっと変えてみて、そうやって強引に作られただけのものであることは、一見して明らかだった。

正面から戦うことが専門の剣士にはわからないだろうが、俺のような、後方での研究が主体の錬金術師寄りの魔術師には、すぐに弱点がわかる。

イカロスにはもっとしっかり解析しろと言いたい。

奴の怠惰が、ナルガルンの撃破を遅らせたといっても過言ではない。

そのお陰で俺がファージ領で大きい面をしても許されているわけではあるが。

「そ、そうなんですか? 生体の、完全複製即時再生ですよ? そう簡単にできていたら、もっと世の中がとんでもないことになっていると思いますが……」

「だから生体魔術の大半は禁忌指定にされているのでしょう」

「それは倫理面が大きいかと」

「それに、ナルガルンに組まれていた魔法陣は、即時再生を完全な形で行うことはできていませんでした。魔法陣を構成する魔術式の構成に気が付けば、効果の粗がわかったはずです。弱点が見えていれば、充分に私兵団と錬金術師団の戦力でナルガルンを倒せたはずですよ」

「そうだったんですか!?」

俺は頷き、杖を構える。

「ええ、ちょっとやって見せますね」

ナルガルンの片割れはこっちへと向かってきているが、もう片方はこちらを一瞥しただけでそれ以上の関心を見せない。

ナルガルンの元々の気性の問題なのか、行動パターンを制限されており、個々に役割を持たせられているのかはわからない。

が、どっちにしろ、二体とも沈めるだけだ。

それに変わりはない。

俺は杖を振るい、魔法陣を三つ浮かべる。

「 বাতাস(風よ) ফলক(刃を象れ) 」

各魔法陣から風の刃が放たれる。

轟音と共に上空に浮かび、ナルガルン目掛けて飛来していく。

一番前のめりになっていた赤いの首の、頭部のすぐ下を綺麗にかっさらってすっ飛ばした。

鮮血が舞い、頭部が下に落ちる。

残された青と黄の目に驚愕が宿り、すっ飛んだ断面図を睨みつける。

すぐにナルガルンの首の付近に、魔法陣が浮かぶ。

それと同時に、別の二つの風の刃が、青と黄の頭部をすっ飛ばした。

展開しかけていた魔法陣が縮小し、不発に終わる。

「ほら、三つ同時に首を落とすと、再生術式が機能しなくなるんです。ナルガルンへの依存が大きすぎるんですよ」

振り返るとユーリスが、冷めた目で俺を見ていた。

「どうやって、同時に斬り落とせと……?」

残ったもう一体のナルガルンの三つの頭が、真顔で地に沈んだもう一体のナルガルンへと目を向け、固まっていた。

それからゆっくりと、六つの目が俺の方へと向けられる。

「まぁ、そもそもアレ、首しか生えないんで、身体ぶっ飛ばしたら無意味なんですけどね」

「「「ギシャァァァァァァァァァァァァァァアアッ!!!」」」

ナルガルンが、俺に背を向けて山の方へと逃げていく。

「 শিখা(炎よ) এই হাত(球を象れ) 」

杖先に炎の球を生じさせて、魔力を継ぎ込む。

結界で圧縮して無理やり球状を保たせ、エネルギーを増大させていく。

別にアベル球を使うまでもなかったかもしれないが、さすがにか細い首と違い、胴体を確実に吹っ飛ばすのは骨がいる。

半端に魔力をケチって殺し損ねたときのことを考えると、これが一番手っ取り早い。

放たれた白光の球体が、ナルガルンの背に飛来する。

視界が白い光に包まれ、ナルガルンの断末魔の悲鳴が響く。

視界が戻ったときには、爆散させられたナルガルンの焦げた鱗と肉の破片、そして、ボロボロになった三つの首が残っていた。

「容赦ないですね……」

「もうあんまり興味ありませんし、持ち帰っても手持ちのナルガルンの価値を下げるだけですしね。不要でしょう」