軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四十話 大神クゥドル⑭

近い内にまたクゥドルの攻撃が来る。

それに合わせて、ゾロモニアの転移結界がまた発動するはずだ。

正面から攻撃しても、触手に阻まれて逸らされ、クゥドルへとまともにダメージを通すことはできない。

土製の竜をぶつけたときと同様に、ゾロモニアの転移結界発動と合わせて魔術を発動し、クゥドルの隙を突ける可能性を少しでも上げるべきだ。

「 হন(運べ) 」

俺は呪文を唱え、傍らに世界樹のオーテムを呼び戻す。

魔力の消耗がどうしても激しくなるが、後を考えて動いている余裕はない。

こっちの最大規模の単発の魔術が通らない以上、オーテムコールで数を増やすしかない。

俺は意識を完全に無にし、魔法陣を組むことだけを考える。

大規模魔術でも、意識を専念できるのであれば、オーテムコールに頼らなくても、二重くらいならば、どうにか発動できる。

ただ、その上に更に重ねてオーテムコールを併用するとなると、少々安定性に難が生じる。

もっとも、今はそんなことを気にしている場合ではない。

クゥドルの触手が俺とゾロモニアを襲う。

結界を覆う術式が強い光を放ち、気が付くと俺は、別の土塊の竜の残骸の一つである、大きな背中の上に乗っていた。

距離を置いた先に、クゥドルの巨体が触手を束ね、海面へと打ち下ろすのが見える。

クゥドルの一撃は、海に大穴を空けた。

底のない、地の果てまで続く様な穴であった。

それを埋めようとするかのように、巨大な波が生じ、海を荒らす。

クゥドルは規格外過ぎる。

一挙一動が、俺のアベル球と同等以上の威力を誇っている。

俺は頭の中に浮かべた魔法陣を、二つ同時に展開する。

「 বায়ু(風よ) 」

俺の詠唱と同時に、世界樹オーテムが、俺の声を模した声を発する。

「 বায়ু(風よ) 」

世界樹オーテムの周囲にも、俺と同数、二つの魔法陣が生じる。

空に、四つの巨大な風の円盤が生じた。

よし、行ける。

ゾロモニアも、俺の横で呆然と四つの円盤を見上げる。

「四連アベルノコギリ!」

杖を降ろす。

出鱈目な軌道で四つの風の回転刃が、空間を削り取る様な轟音を伴って舞う。

『そ、その魔術、そこまで並行発動ができたのか……』

ゾロモニアが呆れ気味に言う。

「失敗したら近くで破裂して俺がバラバラになりかねないから、あんまりやりたくはないけどな」

四つの円盤が、クゥドルを囲う。

先行するアベルノコギリが、こちらを振り返るクゥドルの目前へと到達。

クゥドルは姿勢を前傾させて、先頭のアベルノコギリをやり過ごす。

続く二つ目のアベルノコギリは、クゥドルに当たる前に高度が急落し、角度をつけて海へと入る。

大きな水飛沫が上がり、辺りに雨が降った。

海に大穴が生じ、そこを起点に巨大な渦が巻き起こる。

『やはり、精度は犠牲か。妾も驚きはしたが……これでは、魔力が勿体ないだけであろう。確かにクゥドルに少しでもプレッシャーを掛けて行きたいところではあるが、もっと数を絞るべきであるぞ、アベル』

残る二つのアベルノコギリは、軌道を大きく湾曲させ、左右からクゥドルを挟撃。

だがクゥドルは、それさえ易々と上昇して回避。

翼による立体的な動きは、正攻法では捉えようがない。

二つのアベルノコギリが衝突。

風の円盤が、まるで金属塊が擦り合わせられる様な不快な音を立て、行き場を失った膨大なエネルギーが衝撃波となって爆散する。

衝撃波の影響を受けたクゥドルの巨体が、わずかに高度を落とす。

『悪いが、正面から受けてやるのは止めだ』

クゥドルの声が響く。

その真下から、海に落ちていたアベルノコギリが、巨大な渦の中央部より急浮上し、角度を付けてクゥドルを狙う。

『……む?』

アベルノコギリは、何も制御を誤って海に落ちたわけではない。

軌道を隠し、クゥドルの隙を突くために狙って潜らせたのだ。

クゥドルは触手を固め、一か所に交わる部分でアベルノコギリをガード。

アベルノコギリの力を敢えて受け止め、翼を大きく広げて後方へと飛び、身体の軌道を横に逸らして綺麗にアベルノコギリをやり過ごした。

あれだけやって、触手の一本も落とせなかったか……。

やはり、魔術の力押しでは無理か?

『よくぞ、そこまで自在に操るものだ。だが、惜しかったな。もう魔力も尽きたであろう? これが高々一人の人間と、膨大な犠牲の上に築かれた巨大な精霊体……神として造られた、我との違いだ。人の身は脆く、また魔力容量も狭……』

「 শিখা(炎よ) এই হাত(球を象れ) 」

俺は諦め悪く、杖を掲げて続けてアベル球を発動。

このタイミングで使っても魔力を溝に捨てる結果に終わる可能性が高いため、実際に使うかどうかは少し悩んでいたが、四連アベルノコギリを放つと同時に脳内でアベル球の魔法陣は描いて、すぐ発動できるようにセットしておいたのだ。

無論、こっちもオーテムコールを前提とした、二×二の四連の構えである。

「 শিখা(炎よ) এই হাত(球を象れ) 」

世界樹のオーテムが、俺に似せた声で追加詠唱。

四つの魔法陣が浮かび、その上に同数の炎が生じる。

球状結界が包み込み、炎を球状に圧縮。紅蓮に燃える炎が、白い輝きを放つ小さなボールへと変わる。

四つのアベル球は、ガンガンと俺から魔力を吸い上げ、膨張と圧縮を繰り返す。

俺が杖を動かすと、四つのアベル球がそれぞれにクゥドルへと直進。

アベルノコギリを逸らして体勢が宙で傾いていたクゥドルは、それでも翼を畳んで急降下することで、一番高めを狙って俺が放ったアベル球を避ける。

残りの三つは、複数の触手を伸ばして叩き落していた。

白い爆発に包まれ、伸ばした触手が疎らに黒く焦げ、一部が炭化していた。

クゥドルは、アベル球を本体から離れたところで暴発させることで、ダメージを抑えたのだ。

その犠牲にした触手でさえ、まだ十分に稼働可能な範囲であるというのが笑えない。

『前言は撤回する。やはり、貴様を人間と捉えるのは止めよう。これ以上、こんなところで余計な消耗をしたくはないのだがな……』

やはり、単純な小細工では、クゥドルの圧倒的な力と、対応力の前に押し潰されて終わる。

今のところ、もっともダメージを稼げたのは、クゥドルに触手十数本の放棄を強要した、リーヴァイの槍だ。

あれを他の魔術と複合し、クゥドルへと投げ続けるしかない。

『……ここまで魔術を使い熟せるとはの。アベル、そちならば、できるかもしれぬな』

「何の話だ?」

『リーヴァイの槍には、三つの力がある。一つは雨降らし、二つ目は刻印による召喚……そして、三つ目は』

「事象改変による必中……」

『そう、リーヴァイの槍には、外しても運命を書き換えて当たったことにする力がある』

神話として知ってはいた。

だが、本当にそんな反則的な力が、あるものなのか?

一度リーヴァイの槍を時間を掛けて調べてはみたのだが、その第三の能力については、イマイチわからなかった。

仮にあったとしても、俺には発動の糸口さえわからない。

『妾は、アレの発動術式を知っておる。それさえ使い熟すことができれば、駆け引き無用で、あのクゥドル相手に槍を突き立て続けることができる。恐ろしく燃費の悪い魔術にはなる上に、クゥドルがそれだけで倒れてくれるかは怪しいが、やってみる価値はあると思わんか?』

「ほっ、本当にか!?」

なぜ、もっと早くに言いださなかったのか。

こんな状況ではあるが、俺もちょっとワクワクしてきた。

俺の魔力が尽きるか、先にクゥドルがくたばるかは賭けだが、試す価値は充分あるはずだ。