軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三十四話 大神クゥドル⑧

クゥドルの単眼が、驚愕に見開かれる。

『人の身で、我が触手を落とすなど、あり得ぬにも程がある! 我が精霊体が鈍っているだけでは、いくらなんでも説明がつかぬぞ! まさか貴様なぞが、ヨハナンよりも、格上だというのか?』

クゥドルが俺目掛けて落下してくる。

クゥドルは煤に汚れ、触手は焦げており、一部は焼け切れている。

この様子なら、停戦が通るのではないか?

最初に話していたときの様子を見るに、全く話が通じない相手ではないはずだ。

「クゥドル様! 戦闘は中断して、メアを狙う理由を教え……」

教えてください、と言いたかった。

メアが、大神に命を狙われる様な理由が、全く思い浮かばないのだ。

話し合えば、誤解が解けるのではないかと考えたのだ。

だが、クゥドルは俺の言葉を無視し、落下しながら残っている数多の触手を操って俺へと伸ばす。

「 তুরপুন(錬成せよ) 」

俺は魔法陣を浮かべ、大気中の成分を寄せ集めして魔力で性質を変え、強引に繋ぎ、特性のカスタマイズ金属・ヒディム・マギメタルの錬成を開始した。

今回の性質は、クゥドルの触手に備え、耐衝撃性特化にした。

俺の前方に、生成したヒディム・マギメタルのバリアを半球状に展開。

重力加速の乗ったクゥドルの触手が、ヒディム・マギメタルのバリアへと高速で連続的に叩きつけられる。

生きた心地がしなかった。

早々にヒディム・マギメタルのバリアにガタが来て、崩壊を始める。

まともに防げるのは数秒だった。

ヒディム・マギメタルのバリアがあっという間に凹凸塗れになる。

俺はヒディム・マギメタルのバリアの限界を悟り、早々にアベル球の魔法陣を紡ぐ。

「 শিখা(炎よ) এই হাত(球を象れ) 」

クゥドルの触手の連続攻撃が一層苛烈になり、ヒディム・マギメタルのバリアを突き破る。

『その魔術はもう使わせぬ!』

続けて俺の腹部目掛けて放たれた触手の突きを、アシュラ5000が遮って横に逸らす。

他の触手攻撃も、世界樹オーテムと通常オーテムの計四体が往なしていく。

一体の通常オーテムを遠くまで弾いた触手を、世界樹オーテムが前転しながらのタックルを決めて上へと弾き飛ばす。

「押し通す!」

『触手の手数が追いつかぬ!? なぜだ、なぜ……』

「目玉もらったァッ!」

通常オーテム一体を巻き込み、直進でアベル球を放った。

強い光が視界を覆い尽し、白い世界の中で、進行方向にあった通常オーテムの影と、クゥドルの触手のシルエットが崩壊する。

オーテム諸共、クゥドルの触手のガードを粉砕したのだ。

無論、それだけでは終わらない。

そしてそのまま、延長線上にあったクゥドルの単眼を穿つ。

アベル球の輝きが、クゥドルの弱点丸出しの単眼へと吸い込まれる様に直撃した。

光が晴れたとき、クゥドルはアベル球に押し込まれる様に、壁に背をぶつけていた。

目玉の水晶体に罅が入り、白目が真っ赤に染まっている。

『ば、馬鹿な……この、クゥドルが……法神クゥドルが、人間相手に……?』

伸ばしたクゥドルの触手が、地面へと垂れる。

上手く弱点にぶち当てられたのが響いている。

こっちも短期間でアベル球三発とやや疲れたが、まだまだ動ける。

「……ま、まさか、精霊兵器クゥドルを、正面から捻じ伏せたの?」

ペテロは離れた位置から呆然と俺を見ていた。

声は震えており、身体は恐怖を押し殺すようにゾロモニアの杖に抱き着いていた。

俺もペテロへと視線を返す。

「……運がよかったみたいです。早々に弱点が突けてよかった。クゥドルが、本領を発揮していたとは思えません」

俺は広間を見回す。

メアとミュンヒの姿は既にない。

こんなにあっさりと片が付くなら、目の届くところで待機しておいてもらった方がよかったか……。

クゥドルが造り出したディンイーターの群れが、俺達が入ってきた通路へと向かって走っている。

クゥドルが動けない間におっかない主人から離れる算段なのか、それともまさかメアとミュンヒを追うつもりか?

しかし、どうにもディンイーター達の様子に、濃厚な恐怖の色が見えた。

まるでこれから、恐ろしいことが起こると知っているかのような……。

クゥドルの肉塊が、激しく痙攣する。

それに合わせる様に、古代聖堂全体が振動を始めた。

「なっ!?」

古代聖堂の至るところに、術式が生じ、壁や床が光を放つ。

この聖堂全体が、最初から何かの大掛かりな魔術を発動する目的で造られたもののようだった。

この聖堂の床や壁が、精霊体から造られたものであるということは、最初に見たときから見抜いていた。

壁に浮かんだ術式を目で見て解析し、内容を読み取る。

そして、理解した。

この古代聖堂自体が、クゥドルの精霊体を用いて作られたものなのだ。

この術式は、目覚めたクゥドルへと、聖堂に用いられている精霊体を返却するためのものだ。

壁や床から精霊の光が生じ、それがクゥドルへと吸収されていく。

目に見えて壁が削れいく。支えや壁を失った古代聖堂が崩壊を始めるのは、時間の問題の様だった。

早くここから離れないと、まずい。

倒壊に巻き込まれる。そして何より、精霊の光を集めるクゥドルから、これまで体験したこともないような凄まじい邪気を感じる。

古代聖堂の精霊体の大部分がクゥドルに吸収されたためか、天井から上が透けて見えていた。

それを見て、俺は言葉を失った。

空が、赤い。真っ赤だ。おまけに黒い巨大な靄のようなものが、空に渦を巻いている。

渦の中心は、ここ、古代聖堂だった。

クゥドルの高まっていく魔力のため、クゥドルの存在のために空が色を変えたのだ。

ごっそりと移動する精霊の光が、クゥドルへと螺旋を描く様に飛び込んでいき、クゥドルの肉塊が、触手が、どんどん膨れ上がっていく。

あっという間に、高さ十メートルほどに達した。

パンパンに膨らんだクゥドルの肉塊の上部に、青白い肌の、女の上半身が生える。

神話で見たクゥドルの姿、そのものである。

女の目が高くから俺を見下し、唇を開いた。

『本当に、驚いた。この法神クゥドルが、人間相手に完全体を開放せねばならんとはな』