軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四話

アルタミアに錬金術師団の講師を丸投げした俺は、錬金術師団の研究所に引きこもって大神宝典の解析を行っていた。

アベルポーションで無理矢理体力を増強し、一週間こもりっきりで作業を続けていた。

大神宝典を他の古代書物と比較してみたり、書いてあることを意訳し、指示に従った魔術を行使してみたり……とやっているが、なかなかうまく進まない。

正直、ここまで行き詰ったのは俺の現人生で初である。

ファージ領で集められる魔術の触媒はあらかた集めたのだが、やはりここは辺境地であり、手に入るものの幅もそう広くはない。

他の都市へ行って、検証用の魔術の触媒となる素材を買い漁る必要がありそうだ。

……集めるのに、二週間は掛かるだろうな。

錬金術師団に頼んだら買ってきてくれるだろうか。

ファージ領支部の冒険者支援所に、お使いの依頼でも出してみるか。

割高にはなるが、ラルクに泣きつけば錬金術師団の経費にしてくれるはずだ。

「アベル……調子どうですか? そろそろ休眠取ったり、外出たりした方がいいですよ……」

俺が手を止めるのを見計らって、メアが不安げに声を掛けて来る。

「圧倒的に素材不足だな。とりあえず、一週間の対価がこれくらいだな」

俺が部屋の隅を指で示すと、メアがその方向へと目を向けて顔を顰めた。

メアの眼先には、青色の薄ぼんやりした、蛸の様な生き物がノロノロと地を這っている。

「な、なんですかあれ……?」

「悪魔……というほど知能はないから、精霊獣だな。大神宝典に描いてあった魔法陣を現代風にちょいちょいと直して、わからなかった部分をこっちで描き換えて、今手許にある素材で俺でも行使できるように改造してみたんだ。大事そうに描いてあったからなんだと思っていたけど、やっぱり人工精霊に関するものだったらしい」

精霊獣とは、精霊が寄り集まってできた魔獣のことである。

そこから更に力を付けたものは高位精霊やら、悪魔やら言われるようになるが、時代や地域によって定義はまちまちであるので、俺はあまり意味のある区別だとは思っていない。

「じ、人工精霊って……あの、精霊創造って、三大禁忌魔術の頂点だってアベル、言ってませんでしたっけ」

「い、いや、大神宝典に書いてたくらいだし、問題ないんじゃないか」

「……難しいことはメアにはよくわかんないですけど、そんなもんなんですか?」

「ほら、俺はあくまで、古代書物の検証と考証を行いたいだけであって、それ自体が目的なわけじゃないから……」

「そろそろこれ、ラルクさんからファージ領追い出されません? メアはどこでもついていきますけど……」

メアが諦めた様に言い、また精霊獣へと視線を戻す。

それから屈んで、恐る恐ると精霊獣へと人差し指を近づける。

精霊獣も反応してメアへと触手を伸ばし、ぺたりと人差し指へ先端を突き合わせる。

「あ、意外と可愛い……」

大神宝典を読み解いている内にわかったことだが、精霊創造の際には、魔力を宿す生物を元として精霊化を行う必要がある。

精霊創造では、行使の際に外部から流し込む魔力は、本質的に魔法陣の制御以上の役割を持たせることができない。

どのような形態の精霊を生み出すかは、魔力と魔法陣に依存する。

だが、どれほどのポテンシャルを秘めた精霊を創造するのかは、何を素材にするかが最重要ポイントとなる。

単純に言えば素材の総魔力から、精霊化の過程で損なわれた魔力を差し引いた分が創造される精霊のポテンシャルとなる。

だがこの魔力減衰は、素材の数や素材の魔力が高ければ高いほど大きくなるため、強い人工精霊を作るためには、素材の厳選と巨大な魔法陣での徹底した制御が必要とされる。

この蛸擬きの素材は、フォーグの心臓が八体分と、後は魔石や魔草、細かい魔獣の部位である。

たまたま試してみると指向性が合っていたようなので、おまけでデヴィンの法衣にくっ付いていた魔石も使っている。

魔力減衰率は、40%に抑えるのが精一杯だった。

この程度の素材では、ここらが限界のラインなのかもしれない。

因みに素材は揃えるのが面倒だったので、錬金術師団の予算から冒険者支援所に依頼を出して集めてもらったものである。

……そういえばメア、フォーグは苦手だと言っていたな。

素材のことは黙っておこう。

俺は机の上に置いた杖を持ち上げ、メアと戯れている蛸擬きへと向けた。

「 এটা(奴を) প্রকাশিত(表せ) 」

魔法陣を浮かべてから、呪文を唱える。

俺の目前に、ふっと小さな四角い平面が浮かぶ。

――――――――――

『イカロス』

STR(筋力):???

MAG(魔力):48

――――――――――

名前は既に精霊獣の魔紋と共に、ステータスの術式に登録してあるため表示される。

特に思いつかなかったので錬金術師団前団長さんからお借りすることにした。

蛸なのに烏賊とはこれ如何に。

因みに精霊体であるため、筋力値は産出されない。

値はだいたい20を一般人の平均値の目安となるよう調整しているので……ぶっちゃけ、微妙なところだ。

名前の元のイカロスさんの魔力と大差ない。

「とりあえずアベル……そろそろ解析はお休みしません? まともなものも食べてませんし、全然寝てないみたいですし、メア、不安で不安で……」

メアは精霊獣を腕に抱きながら、俺の隣の空いている椅子に座った。

精霊獣は満更でもないのか、抵抗する素振りはない。

「俺もちょっと行き詰ったから、錬金術師団の部下と、冒険者支援所の方にそれぞれ、素材と書物集めの依頼を出してみようと思う。しばらく何もできないから……ちょっと身体を休めてから、ここに行ってみようと思ってな」

俺は大神宝典を取り出し、パラパラと捲った。

「このページ……実は魔法陣に見せかけた、地図みたいなんだよ。ほら、術式をこの表に則って変換すれば、大陸の形状になる。暗号みたいなものだな。確かに、慣れれば普通の地図よりわかりやすい」

「め、めっちゃ書き込みされてる……収集家さんどころか、クゥドル教団が怒ってきますよ……」

「他の文章がはっきりとは解読できてないから何があるのかはわからないんだが、この地図、ちょうどディンラート王国の最東の海岸を示してるみたいなんだ。クゥドル教に所縁のある何かが隠されてるみたいなんだが、妙に勿体ぶった書き方でな。大神宝典に匹敵する品があるんじゃないかと俺は睨んでいる」

「最東って、結構近いっていうか……ファージ領内ですよね? 魔女の塔……元魔女の塔付近ですか?」

「あそこに近いな。そこより、もうちょっとだけ遠目になるが」

宝典の示す座標が、たまたますぐ傍にあるのだ。

今の俺には時間の猶予があるし……ちょっと出かけてみるとしよう。

とはいっても、大神宝典は云千年前のものである。

何か埋まっていたとしても、とっくの昔に掘り返された後なのかもしれないが……確かに俺もちょっと、引きこもり過ぎて気が滅入りつつある。

気分転換にはちょうどいいだろう。