軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四十四話 『収集家』⑮

「まだ塔の中にこんな場所があったなんて……」

俺は首を回しながら呟き、クリスタル状の足場を軽く靴の先で蹴った。

俺は今、不気味に輝く、半透明色の巨大な円盤上のクリスタル塊の上に立ち、収集家と向かい合っていた。

円盤はとにかく大きく、直径1キロメートル程度はありそうだ。

円盤の淵から外は、どこまでも闇が広がっている。

遠くの方に、黒い光が幾つも渦を巻いていた。

この不気味な空間は、アルタミアが出て来た鏡の中の世界である。

鏡の中には様々な空間が広がっており、アルタミアの保管庫、第二保管庫、錬金工房、実験室、プライベートルームなどなど、様々な部屋に分かれているそうだ。

案外快適な生活を送っていたらしく、何よりである。

そしてこの空間は、アルタミアが空間魔法を続けている間に、偶発的に発生した場所だそうだ。

「ここは外部からは完全に隔絶された空間になってるから、いくら暴れてくれても問題ないわ。ただ、一つ問題があって……この下に、黒い光が渦巻いているでしょ? あれは、次元、空間の歪の集中点……私は、カオスと呼んでるわ。アレに触れたら、身体が極小単位の粒になって、それぞれ全く異なる空間の果てへと追放されるわよ。このクリスタルの上の範囲なら問題ないけど、場外に落ちたら、最悪引き寄せられてとんでもないことになるわよ」

アルタミアが宙に浮かびながら、俺へと説明してくれた。

俺は手に抱えている世界樹のオーテムが煩わしかったので、床に置いた。

この空間は通常の転移の魔術が使えないらしかったので、ラピデス・ソードと世界樹のオーテムを、念のため運んで持ってきたのだ。

「終わった頃に、また空間移動門を開いてくれるんですよね?」

「ええ。万が一にも巻き込まれたくないから、ちょっと時間を置くかもしれないけど……」

俺は小さく頷き、収集家へと向き直った。

アルタミアはくるりと回ると、背後にあった姿見の中へと吸い込まれるように姿を消した。

魔法陣が浮かび上がり、鏡が消失した。

因みにメアは外に置いてきている。

これで完全にメアとアルタミアに被害が及ぶ心配はない。

当然、塔に悪影響が出ることもない。

収集家はアルタミアが去ったのを見届けてから、大剣を右手に構えて、左右に振った。

剣の風を感じ、俺は髪の毛を押さえる。

「それは、両手持ちじゃあなかったんですか?」

収集家が大剣を振るうときは、必ず両腕で振っていた。

あんな馬鹿みたいにデカい剣だ。そうしなければ、収集家とてまともには扱えないのだろう。

片手で持つときは、咄嗟に他の魔法具を使用する羽目に陥った時だっただけのはずだ。

「『 打ち砕く右の王(コロムイシュケイダ・レイ) 』は、剣の国に、双子の王が生まれたときに作られたものだ。これは兄である、双剣王バロンダルのために作られたものだ。歴代最強の剣士と噂される男だ。この大剣を手にしたバロンダルの強さは、正に天下無敵であったとされる。たった一人で軍隊を相手取るその雄姿は、今もなお英雄譚として語り継がれるほどにな。だが、もう一本、宝剣は存在する」

収集家が空いた左手を振るう。

同じく、圧倒的な存在感を放つ、巨大な剣が現れる。

だが『 打ち砕く右の王(コロムイシュケイダ・レイ) 』が武骨な極厚の刃であるのに対し、こちらはあまりにも薄い。

収集家が縦に持ち変えれば、刃が消えたかと錯覚するほどだ。

「この剣の名を、『 斬り刻む左の王(マタルグラルダル・レイ) 』……『 打ち砕く右の王(コロムイシュケイダ・レイ) 』があらゆるものを叩き潰す剛剣であるのとは対称に、これはすべてを断ち斬ることに特化された、極薄の剣。されとて、決して脆いわけではない。そして決して扱い辛いだけの剣でもない。事実、双剣王バロンダルを斬ったのは、この極薄の剣を用いたもう一人の双剣王にして双子の弟、ベレルロイなのだからな」

収集家が得意げに話していた、剣の逸話を思い出す。

剣の国の王が生まれる前に造られたものだと言っていたが……どうやら、その王は双子だったらしい。

確かに、妙な名前だとは思っていた。あからさまに両手剣なのに、なぜ剣の名前に右と入っていたのか。

「だが我は! 最強と謳われるこの二人の剣士を、軽々と超える! そしてここに、我が世界の理を越えた超越者たることを証明しようぞ!」

収集家が、それぞれに大剣を握る左右の腕を持ち上げ、背を屈める。

片方しか扱えなかったのは、老いた身体だったから、ということだろう。

「行くぞアベル!」

収集家が意気揚々と吠える。

俺は足元の世界樹のオーテムへと杖を振るう。

「 পুতুল(人形よ) দখল(踊れ) 」

世界樹のオーテムに魔力の光が灯り、俺の前へと躍り出た。

これで保険は掛けた。

もし接近されても、世界樹のオーテムがガードしてくれるはずだ。

俺は懐からラピデス・ソードの柄を取り出し、収集家へと投げた。

「 যাওয়া(行け) 」

ラピデス・ソードが一直線に収集家へと飛んでいく。

それと同時に、姿勢を低くしたままの収集家が駆けだした。

ラピデス・ソードが、収集家の肩を狙って速度を上げる。

収集家が大剣を下から掬い上げる様に放ち、ラピデス・ソードを跳ね上げた。

弾かれたラピデス・ソードは即座に軌道を変えて収集家へと斬り掛かる。

収集家がいくら弾こうとも、ラピデス・ソードは纏わりつく。

「速い上に、なんとしつこい! なぜ我が剣の斬撃をこれだけ受けて、傷一つつかぬのだ!?」

収集家が両手の大剣を用いて、ラピデス・ソードの斬撃を防ぐ。

収集家の大剣が長すぎるため、クリスタル状の地面に何度も刃が突き立てられる。

クリスタルが砕け散り、あちらこちらに鋭利な斬り口ができていく。

「ちぃっ!」

収集家がラピデス・ソードの衝撃に負けて隙を作りそうになったため、宙返りして即座に距離を取りつつ、着地と同時に左右の剣を振るってラピデス・ソードの追撃の猛攻を凌ぐ。

「……もうちょっと速さが欲しいな。対応動作も、詰めが甘いか。今で充分だと思ってたけど……フェイントとかも、混ぜてった方がいいのかな」

俺は唇に指を当てながら収集家とラピデス・ソードの戦いを眺めて、あれこれと思案していた。

収集家が横目で俺を睨んでいたが、すぐに余裕がなくなったのか、ラピデス・ソードへと意識を戻していた。