軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四十二話 『収集家』⑬

万年硬樹ベヒーモス――それは縦というよりも横に成長しており、突き出た枝や窪みから、屈んだ一体の巨大な猛獣をも連想させる姿を持った、巨大樹であった。

黒ずんだ葉は明らかに硬質であり、造り物のような不自然さがある。

黒い毛皮のようであった。

全長は、横に四十メートル以上ある。

「こんなものまで持ってたんですね……」

これは少し長引きそうだ。

あんなものを壊していてはキリがない。

収集家ごとぶっ飛ばしそうで不安だが、アベル球の準備をしておいた方がいいかもしれない。

多分、アムリタがあるから大丈夫だろう。

「フ、フフ……フハハハハ! まさに即席の要塞よ! さて、次は我から……」

『万年硬樹ベヒーモス』は、俺の放った巨鞭の一撃を受けて大きく窪み、全体が軋んだ。

金属質な硬質の葉がバラバラと全身から落ちていき、ベヒーモスが一瞬にして裸になり、奥に隠れていた収集家の姿が露になった。

「あれ、そこまで硬くない……」

「わ、我の、我のベヒーモス!?」

収集家はしばし呆然としていたが、続く四打目がベヒーモスの頭をかち割って更に撓らせ、再び上に持ち上がっていくのを見ると、これ以上残していても潰されるだけだと悟ったらしく、手を振って『万年硬樹ベヒーモス』を掻き消した。

血走った目で巨鞭を睨んだ後、声を張り上げて叫ぶ。

「『巨人王ハイラスの魔闘鎧』!」

巨人族というのは、数千年前に滅んだとされる種族である。

一応分類では人間であるが、その性質は魔獣に近い。

十メートル近い身体を持ち、神話の時代、土の神ガルージャの加護を受けて大暴れしたという。

ガルージャが討伐されて以降は加護を失って衰え、後ろ盾も失くした。

元々頭が悪く暴力的であった巨人族は主にノークスに敵視されており、ガルージャの死後、千年に渡って次々に滅ぼされていった。

その巨人最後の王がハイラスというのは、聞いたことがあった。

だが、俺が知っていることはせいぜいその程度だ。

十メートルどころか、二十メートル近くはあろうかという大きな鎧が、収集家の前に聳え立つ。

『巨人王ハイラスの魔闘鎧』――それはどうやら金属ではなく、純粋な精霊体の塊らしい。

やや半透明であり、虹色の光を放っている。

これまでの収集家の魔法具と比べても、圧倒的な神々しさを放っている。

俺はしばしその美しさに見とれ、ごくりと唾を呑む。

それから冷静に戻り、『巨人王ハイラスの魔闘鎧』を睨んだ。

「……本格的に、出し惜しみしなくなってきましたね。それ、相当の代物でしょう」

「さて、とりあえずは凌いだが、どうするか……」

収集家が呟いた瞬間、『巨人王ハイラスの魔闘鎧』の頭部に巨鞭が叩きつけられる。

縦に薄く罅が入り、鎧の両足が床に沈む。

「なっ!?」

即座に、三連打を叩きつける。

メリメリと床に埋もれ、『巨人王ハイラスの魔闘鎧』が砕け散った。

その余波を受け、収集家が弾き飛ばされる。

「あれ、こんなもんか」

煌びやかな、虹色の粉が舞う。

粉はやがて煙となり、宙に四散する。

精霊語の歌声が、囁くように響いた。

歌詞というよりはただの連続的な単語であったが、巨人族の繁栄をなぞっているようだった。

魔闘鎧の一部であった精霊達が、歌っているのだ。

内容はどうやら、巨人族達が、ガルージャの加護を受けて他種の人間や魔獣を圧倒し、勢力を強めていくものだった。

精霊語で『永久』『繁栄』『強大』、『勝利』『酒宴』……と、調子のいい言葉が続き、あちらこちらから響き渡る。

俺の知らない精霊語も混じっていた。

土の神、ガルージャの精霊語名だろうか?

明るい単語ばかりが続き、混ざり、反響する。だがそれを歌う精霊の声色は幼く、儚げであった。

内容に反して、どこか物悲しく思えるほどである。

「なんだ、何が起きておる!? なぜだ!? なぜなのだ!? なぜそうなる!?」

収集家は『巨人王ハイラスの魔闘鎧』の一部である精霊の塊の断片を抱え、大口を開けて吠えた。

口許の包帯が引き裂ける。

そしてその抱えている断片も、虹色の煙と寂しげな歌声へと変わり、その質量を減らしていった。

やがて小さくなった断片は収集家の大きな指の合間をすり抜けて落ちて行き、収集家の足元で数度跳ねた後に見えなくなる。

俺は収集家目掛けて、容赦なく八打目の鞭を振り下ろす。

「こ、このっ!」

収集家は右へと跳び、巨鞭を回避した。

神掛かった動きだった。

遅れて収集家が先程まで立っていた床の一列に巨大な蚯蚓腫れが生じ、瓦礫が飛び交った。

「か、回避……できたのか? フ、フハハハ! ようやく目が慣れて……」

収集家も避けられるとは思っていなかったらしい。

屈んだ姿勢で巨鞭が床を破壊した後を見て、わずかに口端を吊り上げた。

この巨大鞭連打を突破する光が見えた――そう思ったのだろう。

だが、九打目は躱せなかった。

もっとも、八打目を避けた時点で体勢を崩していたので当然である。

「うぐぉっ!」

続けて跳ね上がった収集家を十打目が叩き、落下と同時に十一打目が収集家の身体を貫く。

重ねて二連打をお見舞いする。巨鞭は収集家の身体を、『巨人王ハイラスの魔闘鎧』の欠片を砕き、蹂躙した。

塔の床に、いくつもの地割れが発生する。足元が不安定過ぎて、もう避けるどころでもないだろう。

弾き飛ばされた収集家が床に叩きつけられ、背の床に大きな罅が入る。収集家の背が、その罅に挟まった。

「負ける……? 馬鹿な……この我が、負けるのか……?」

床の罅に背を埋めて呆然と天井を仰ぐ収集家へと、俺は十三打目を放つ。

収集家は、ただ向かってくる鞭を見つめていた。

避けようとも、塞ごうともしない。ただただ顔を上げて、呆然と、振り回される勢いに引き延ばされる金属板を見上げる。

精霊達の歌の内容は、巨人族の繁栄から衰退へと移っていた。

『崩壊』『悲観』『滅び』『最後の王』

幼く物悲しい声が、数多にも重なって辺りを支配する。