作品タイトル不明
三十六話 『収集家』⑦
俺は収集家と顔を合わせながら、背後のメアを尻目で確認する。
アルタミアがふわりと飛んでメアの背を持ち、そのまま遠く背後まで飛んでいくのが見えた。
精霊体とは随分便利な身体のようで羨ましい。
「『破壊の杖』を出せ。どこに隠した? 女に持たせているというのなら、取り出すのを待ってやっても構わぬ。このままの貴様を倒してもいいが、それではあまりにも退屈だ。もしかしたら、我に一撃当てることができるかもしれんぞ」
「あ……いや、なくて結構です。なんていうか……ほら、大丈夫なんで。えっと……アレ、あんまり気軽に使える奴じゃないんですよ」
持っていないことを悟られまいと、俺は咄嗟にそう弁解した。
収集家が、一層顔を歪める。顔を覆う包帯に一気に皺が寄り、眼光が更なる怒りを孕む。
どうやら、馬鹿にされたと感じたようだ。
「べ、別になくてもどうにかなるとかじゃないんですけど……」
「そうか! ならば去ね!!」
収集家が、高々と持ち上げた『地響きの剣』を一気に振り下ろす。
収集家の目前を起点としたように、地割れが生じる。
床が轟音を上げて大きく割れ、その衝撃は進行方向のすべてを破壊しながら俺へとまっすぐ向かってくる。
俺は地面を削り飛ばしながら迫ってくる衝撃の位置を確認しながら、杖を俺のすぐ前へと向けて振るう。
「 মাটি(土よ) ড্রা হাত(竜を象れ) 」
床が割れ、その残骸が次々に宙へと浮かび上がっていく。
あっという間に、全長数十メートルの竜が現れる。
俺は巻き込まれないよう、距離を取るために走った。
竜が蜷局を巻き、『地響きの剣』の衝撃を受け止める。大きな砂嵐は起きたが、竜に傷は特についていないようだった。
「ば、馬鹿な……! なぜ、なぜ貴様の様なオーラの小さき者が、こんな大規模な魔術を展開できる!?」
竜の反対側から、収集家の声が聞こえてくる。
「よし、そのまま叩けぇっ!」
恐らく、収集家ならば、このくらいでは屁でもないだろう。
あまり気を遣っている余裕もないし、攻撃できそうなときは遠慮なく攻撃させてもらおう。
俺が竜から遠ざかりながら杖を下げると、竜は杖の軌道に続くように、頭から収集家へと飛び掛かっていた。
「ぐ……こ、この程度……! この剣の神髄を見せてくれるわ!」
収集家が、十字に剣を斬る。
十字の衝撃波が、眩い光を上げながら瓦礫の竜へと飛んでいく。
竜が頭部を丸め、腕を前に出してガードする。余波で辺りの床が剝がれたが、竜に特に変化はない。
背後に立っている俺まで特に衝撃も来なかった。
竜は即座に腕を開き、首を伸ばす。頭部が、収集家の立っていた床を破壊する。
やったかと思ったが、竜の頭の上に、剣の刃を下に向ける収集家の姿があった。
「フ、フフ……手温すぎたかと思ったが、この程度の縛りにしておいてよかったわい。図に乗るだけはあった、大したものだ。貴様が勘違いするのもよくわかる。だが、我には遠く及ばぬわ!」
収集家が、竜の頭に剣を突き立てる。
生じた衝撃波が、収集家を中心に発生する。
竜の頭部に剣が突き刺さって罅が入り、顎が床に大きくめり込んだ。
収集家の口許の包帯が動く。口端を吊り上げたのだろう。
俺は懐からラピデス・ソードの柄を取り出し、軽く左右に振ってから魔力を込める。
長い魔力の刃が現れた。
刃が出ると重くて手がしんどくなったので、宙に投げて浮かばせた。
「ハァッ!」
収集家の声が聞こえて来たので、俺は顔を上げる。
収集家は、迫ってくる瓦礫の竜の尾を衝撃で弾き飛ばしているところだった。
衝撃波に弾かれた竜の尾は、側部を床へと打ち付ける。
……思ったよりなんか、威力しょっぱいな。
最初は盾のつもりで出して、壊れなかったからそのまま様子見として突っ込ませただけなんだけど。
あれ、あんなもんなのか。
いや、多分、ここからだろう。
気を緩めてはいられない……だが、収集家の本気を見ておかねば、下手な攻撃に出ることができない。
もう少しこっちから様子見を行う必要がありそうだ。
「それっ、 যাওয়া(行け) 」
俺は収集家の、左肩辺りに照準を合わせて魔法陣を組み、ラピデス・ソードを射出した。
一直線にラピデス・ソードが飛んでいく。
「ぬおらぁっ!」
収集家の両手振りの一撃が、瓦礫の竜の尾先を破壊した。
それから収集家は俺を睨む。
「……さて、次は貴様だ。少々驚いたが、どうやらこれで手詰まり……むっ? うおおおっ!?」
収集家は竜の頭を蹴とばしながらラピデス・ソードから距離を取り、宙を十字に切る。
輝く風の衝撃波が生じ、ラピデス・ソードを襲う。
ラピデス・ソードはその衝撃波を貫通し、収集家の肩目掛けて飛んでいった。
「なっ! ク、クソッ!」
収集家が、剣を上げてガードする。
剣によってラピデス・ソードの軌道が逸れ、床に突き刺さる。
収集家は態勢を崩し、床に叩きつけられて転がった。
「な、なんだ今のは……。我が、力負けしたのか?」
「あれ……?」
ひょっとしてこれ、普通に力圧しで勝てる?
「あの……もう、いいですか?」
俺は試しに声を掛けてみる。
収集家は、床に崩れ落ちたまま、静止していた。
「あ、あり得ん……この我が、不意を突かれたとはいえ……地に両肘を突くなど……」
収集家が血走った目で、床に落としていた『地響きの剣』の剣へと腕を伸ばす。
『地響きの剣』の剣は、収集家の手に握られた途端に刃先に罅が入り、真っ二つにへし折れた。
「あっ……」
ルールは、あの『地響きの剣』だけで戦うというものだったはずだ。
あれが折れた以上、もう続行不可能なんじゃないだろうか。
折れた剣を手に持って戦うことはできるだろうが、さすがにあまりに無様すぎる。
「我のコレクションが、こんなにあっさりと、打ち砕かれるなど……。な、なんだその剣は。あり得ぬ、こんなことが……」
呆然としたように、床に這いつくばった姿勢のまま動かない。
顔をゆっくりと動かし、突き刺さったラピデス・ソードへと目を向け、収集家は目の色を変える。
「な、なんだ、この剣のオーラは? こんな宝具があるのならば、我が知らないはずが……」
俺がラピデスタトアを魔改造して造ったものだから、収集家が知らないのも無理はない。