作品タイトル不明
三十三話 『収集家』④
メアはオロオロと俺の方を見るが、収集家が目に一層力を込めてメアを睨みつける。
メアは目に涙を浮かべながらもどうにか堪えて、その場から黙って下がった。
「ハッ! 興が削がれるわ! 無知蒙昧の凡夫めが、我らの話に首を突っ込むなど!」
収集家が大きく鼻を鳴らして怒鳴りつける。
「ちょ、ちょっと、そこまで言わなくても……!」
俺が立ち上がって難色を示すと、収集家が顔の包帯に皺を寄せる。
「はぁ……アベルよ、貴様の付き人だと言うから、我が情けを掛けてやって、この程度で済ませてやっているのだぞ?」
収集家はそこまで言うと、再びメアを睨む。
「我の話を邪魔して命があるのだから、またとない幸運に感謝することだな、この石無しが!」
「きゃぁっ!」
収集家の圧に気圧されたメアが、その場でひっくり返った。
メアの荷物袋が地面に落ちて紐が解け、食糧やら予備の杖が零れ落ちる。
「お、おい! 大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい……パン、落としちゃって……落とした分は、メアが食べますから……。だ、大丈夫です、メアのことは気にしないでください。しばらく、大人しくしてます……ごめんなさい……」
そう言ってメアは、ちらりと収集家の方を見る。
収集家の機嫌を損ねてはいけないと、俺に訴えかけているようであった。
確かに……収集家は、これまでにあって来た魔術師や魔物とは、明らかに一線を画す。
俺にオーラとやらはわからないが、それでも収集家からは、不穏で強大な圧を感じる。
「おいどうしたアベル! 石板は出してやるから、さっきの続きを聞かせよ。なかなかに興味深かったぞ。この我が、他人の話を聞くために時間を割いてやるなど、そうないことであるぞ。光栄に思うがいい。早う戻らんか!」
収集家の目に、剣呑な光が差す。
どこか、俺を脅しているようでもあった。
収集家は今は友好的に接してきてはいるが、俺やアルタミアを同格と認めたわけでは、一切ないようだった。
はっきりと、こっちを見下している。
そして、それもまた当然のことなのかもしれないという貫録を持っていた。
「…………」
収集家の機嫌を損ねるのは、確かにまずいが……このまま、メアを馬鹿にされたままあっさりと迎合するというのも、あまりいい気分ではない。
「どうしたアベル? 言いたいことがあるのなら、言ってみるがいい……む?」
収集家が、不意にメアへと目線を移した。
よくよく目線を追ってみれば、メアではなくて荷物袋から零れ出た、俺がメアに作ってやった弓や、オーテムなんかに目を向けているようであった。
つまらなそうに目を細めてから、ハンッと鼻を鳴らす。
「遠目から見ただけでもわかるわ。まったくオーラを感じぬ。カス……つまらぬものばかり使っているのだな。貴様の知識を上手く使えば、もっと上の地位を目指すこともできるだろうに。破壊の杖もあるのだろう?」
噂通り、収集家が性格に難があるというのは確かなようだった。
しかし腹が立たないわけではないが、大神宝典を見せられたばかりとあっては、何も言い返せない。
相手との格が、開きすぎている。
だが、このまま言われっぱなしでいるというのは、ちょっと許容できそうにない。
何か、メアと俺の溜飲がちょっとでも下げられて、かつ収集家の機嫌をあまり損ねないことがあればいいのだが。
「そうだアベルよ。我が宝具の中にも、一応取ってある、程度のものが幾つかあってな……。捨てる代わりに、何か貴様にくれてやっても構わんぞ? とは言っても、売れば豪邸の一軒や二軒は建つだろうが……お? おお?」
収集家は途中で言葉を途切れさせ、メアへと近づく。
メアがびくっと身を震わせて、助けを求める様に俺の方を見る。
収集家は途中で立ち止まる。
目線の先には、世界樹のオーテムがあった。
「こ、これは素晴らしい……。オーラは特に感じぬし、素材の状態もあまりいいとは言えぬが……いや、これは面白いぞ。マーレン族の秘宝という奴か? フン、フフン……ほう、ほうほう……」
収集家が世界樹のオーテムを手に取り、舐め回す様にそれを見る。
「いい、いいではないか! なかなか気に入ったぞ!」
収集家が世界樹のオーテムを大丁寧に抱えながら、俺へと乱暴に叫んだ。
どうやら収集家は、世界樹のオーテムへと関心を示したようだった。
あれは俺が集落の暮らしの中で学んだことを詰め込んだ、いわば一つの集大成である。
収集家の眼鏡に叶ったのは嬉しいが、ちょっとあれは渡せそうにない。
「あの、それはちょっと渡せないと言いますか……」
「案ずるでない、相応の品は用意してやろう。ああ、さっき、我の宝具から適当なものを恵んでやると言ったな? トレードと行こうではないか。なかなかに我は、これが気に入った。こちらから出す品には、期待していいぞ。決して損はさせん。この収集家の名に掛けて、貴様が喜んでこの木偶人形を手放したくなる品を用意してみせようではないか! 無論、見た上で納得できないというのならば、断ってもらって結構! まずそんなことはあり得んがな!」
「お、俺が、世界樹オーテムを手放したくなるような品を……!?」
俺は世界樹のオーテムだけは絶対に手放す気はない。
気はないが、それでも、収集家がどんな宝具を見せてくれるのかにはちょっと興味がある。
聞くだけならタダだろう。それに収集家も、断ってもいいと言ってくれている。
収集家は俺の返事を肯定と捉えたらしく、機嫌良さげに顔を覆い隠す包帯に皺を寄せ、腕を大きく振った。
収集家の辺りに、金ぴかの時計やら振り子やら天秤やら、何かの魔法具と思わしきものがゴチャゴチャと現れて散らばった。
収集家は腕を振り、真っ赤な金の装飾が施された大きな椅子を出現させ、そこに座った。
「さて、交渉と行こうではないか。フハハハ! 最近力づくばかりだったが、こういう趣向もたまには悪くない。暴力で押さえつけるか、財力で押さえつけるかの差でしかないがな! まぁ、貴様とは、今後も仲良くしてやっても悪くはなかろう」
どっさりと椅子に左肘を乗せて体重を預け、顔を天井へと向けてカカカと笑う。