軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三十二話 『収集家』③

「見よ! これはなかなか手に入れるのに苦労したわい! クゥドル神を召喚した神官が持っていたとされる魔導書、大神宝典である! フハハハ! なぜかディンラート王国ではなく、土神信仰のガルシャード王国の連中が隠し持っておったのだがな。まったくもって、胡散臭い奴らよ。奪ってから次から次へと刺客が来て、邪魔臭くて仕方なかったわ。もっとも、我に傷一つ付けられる者はおらんかったがな!」

俺は収集家と向かい合って座り込み、収集家の集めたらしい宝具とやらを見せてもらっていた。

収集家が意気揚々と、分厚い魔導書を掲げる。

「お、大神宝典!? 本物なんですか、それ? クゥドル教会がずっと探し求めてた奴なんじゃ……! な、何が書いてあったんですか?」

「我の幅広い知識を持ってしてもさっぱりであったわい。辛うじて、これがクゥドル教の儀式に関する書物であることがわかったが、それ以上は何もわからぬ。内容が複雑な上に婉曲で、何よりも古すぎる。あの時代の奴らは、なんでも勿体ぶって恰好つけたがるから困るわ。だが、偽物ではなかろう。ここまで手の込んだ贋作があるとは思えぬわ!」

さすが伝説の冒険者と呼ばれるだけのことはある。

持っている宝具の一つ一つが、それを廻って国間の戦争さえ起きかねないようなものばかりである。

「お願いします! よ、読ませてください! 俺、そういうの読み解くの、結構自信ありますよ!」

「馬鹿者が! 我が宝具は、貴様のような者に軽々しく預けられるような、チャチなものではない!」

駄目か……。

俺が心底がっかりしていると、収集家が「ハン!」と鼻で笑った。

「仕方あるまい。我が適当なページを開いてみせてやろう。絶対に触るではないぞ! 手垢が付くからな! もしも唾でも飛ばしてみよ。その瞬間に貴様の身体が二つに分かれると思え!」

収集家が大神宝典を俺へと見せつける様に持ちながら、パラパラと捲る。

「い、いいんですか!? あ! と、止めて! 今のその、大量の教徒の絵が描かれてたところで止めて!」

「……む? 貴様、何かわかるのか?」

「いえ、この文字の並びが、俺が走り書きするときに使うアレイ文字に似てて……。挿絵が具体的なんで、内容も掴みやすいかなと……コレ、中身はほとんど人工精霊に関するものみたいですね。ただ規模が大きすぎるのと、意味があるのかないのかわからない妙な儀式の作法が挟まれてるせいで、何がしたいのか全然わかんないですけど」

なぜ大昔のクゥドル教徒が人工精霊の製造方法を記した書物なんかをありがたがっていたのかはさっぱりわからないが、かなり高度な術式が用いられている。

眺めているだけで、興奮のあまり鼻血が出そうだ。

持って帰りたい。持って帰って調べ尽した後、よく目立つところにこれ見よがしに飾りたい。

「ほう! ほう! 人工精霊! 確かに、そう考えれば、腑に落ちる部分も出てくるか。貴様、凡俗なオーラの割には、かなり魔術の知識とセンスがあるようだな。ここまで登ってこれただけのことはあるわい!」

「いえいえ、俺なんてまだまだですよ。……それより、オーラってなんなんですか?」

「我が勝手にそう呼んでいるに過ぎぬが、長き時を生きて来た我には、物や人間の、世界に対する影響力が見えるのだ。偉大なモノとは、例外なく、他者の生き方に対し、何らかの影響を及ぼす。その影響を与えたという事実が、本人の立ち振る舞いをも決定づける。多くの猛者共を目にしてきた我には、どう隠そうとも、それが色でも見るかのように、感覚でわかる。それが『オーラ』である」

……な、なるほど?

わかったような、わからなかったような……。

要するに、過去の経験から培った経験で、相手が今までにどのような功績を打ち立てて来たかが経験的にわかる、ということか。

俺も色々とやってきた自信はあったのだが、まだまだだったようだ。

世界は広い。俺って結構強いんじゃないだろうかと思っていたのだが、収集家のような伝説クラスの人物から見れば、まだまだひょっこということなのだろう。

人間だけでなく、物のオーラまで見える辺りが、さすがは名前の通り収集家といったところか。

感覚的に人や物の価値がわかるようになれば、さぞ便利なことだろう。

「お、大神宝典……?」

アルタミアも、大神宝典と聞いてそうっと近づいて来る。

収集家を警戒していたらしいが、興味には勝てなかったらしい。

さすが教会から封印を依頼された魔物を興味本位で私物化しようとして塔に引きこもる羽目になった人は違う。

「教会関係者の間じゃ、人工精霊なんてタブーの筆頭のはずなのに……そんな……」

アルタミアが俺の背中の方から、そうっと収集家の手にしている宝典を見つめる。

「だからこそ回りくどく書いてあるのであろう。我でさえわからんかったのだ。当時と言えども、凡人共にはまったく理解できんかったであろう。人工精霊の創造術を、精霊の召喚術と偽った例は、歴史を紐解けばいくらでもあるわい。胡散臭い話ではあるが、クゥドル教徒が精霊創造の研究をしておったとしても、大しておかしな話ではない」

「元々、人工精霊の創造は確固たるイメージが大切ですからね。悪魔召喚と偽って、他の人を媒介に人工精霊の創造を行った事件もあったそうですし。関連魔術の大半が禁魔術扱いされている上に、人工精霊の文献もほとんど閲覧禁止指定にされているか焼き払われたかのどっちかですから、あんまり詳しいことは自分も知りませんけど、複数集団から生まれる固定されたイメージがあるという意味では、元々宗教という形態が人工精霊の創造に合っていたのかもしれませんね」

「なかなか興味深いところを突くではないか、面白い。まぁ、これが本当に人工精霊の創造なのか、単なる儀式に過ぎないのか、他の意味を持った行為であるのかは、わからんがな」

俺、収集家、アルタミアの三人で、大神宝典トークで盛り上がっていた。

もっとも、アルタミアは収集家への警戒が抜けていないのか、俺を挟んで会話をしている形ではあったが。

収集家もアルタミアも、今まで俺があって来た魔術師よりも遥かに魔術の知識が深い。

ちょっと踏み込んだことを言っても、退かずに素直に感心してくれるのが心地よい。

これほど熱心に魔術の話ができたのは産まれて初めてかもしれない。

魔女の塔まで来てよかった。

「ですから……ほら、この魔法陣。ここの術式をバレスライ展開すれば、オールベラス魔導師の十三魔法陣と共通の部分が出てくるじゃないですか? だから、これと根本は一緒なんですよ。それを軸に考えて行けば……ほら、ここに出た余剰な術式が、こっちの魔法陣の余剰な術式と打ち消し合うじゃないですか? 残った部分で差別で差別化を考えていくと、この役割が仮定できるじゃないですか。それを前提に進めて行けば……」

「それはちょっと早計よ。答えありきで進めてない?」

「この魔法陣と同じ型のものならば、我の持っている神話時代の石板で見たものがあるのだが……どれ、少し待っておれ」

「ほ、本当ですか! さすが収集家さん!」

「フハハハハ! まさか、この我をさん付けで呼ぶ者が現れるとは思わなんだ!」

ふと視線を感じて振り返ると、荷物を抱えたメアが、寂しそうな表情でじっと俺の背中を見つめていた。

……会話に入れなくて、ずっと機会を窺っていたのだろう。

な、なんだか申し訳ない……。

メアは俺と目が合うと、安堵した様に息を漏らし、そうっと近寄って来た。

「な、なんだか難しい話してますね……。えへへ……メア、ぜんぜんわかんないです……」

そう俺へと声を掛けて来たメアを、収集家が長い腕を振って妨げた。

「わからんのなら引っ込んでおれ! 我が今、話をしておるのだろうが! 邪魔をするでないわ、石無しが!」

収集家が目を見開き、メアへと怒鳴りつけた。