軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二十一話 ハイエルフの魔術師、デヴィン⑭

アポカリプスが宙を泳ぎ、身体を縦に回転させる。

風が吹き荒れ、豆の樹が大きく揺れる。

階段の上に乗っていてよかった。メアは必死にしがみついて堪えているが、俺なら吹き飛ばされていただろう。

アポカリプスが頭の方を傾かせ、目のない巨大な顔を俺へと向けた。

よく見てみれば、アポカリプスの身体中に刻まれている魔法陣の一部が、目のような形をしているといえないこともない。

「一難去って、また一難ってレベルじゃないな……。アルタミアは、限度を知らないのかよ」

アポカリプスの全長は、軽く数百メートルはありそうだ。

よくこんな巨大な化け物を塔の中に隠していたものである。

アポカリプスが大きく息を吸う。

その瞬間、アポカリプスの身体中に刻まれた魔法陣が光る。

アポカリプスの魔力が、どんどん高まっていくのを感じる。

間違いなく、何かが来る。

「 কাঠ(木よ) বাহু হাত(腕を象れ) 」

俺は豆の樹へと杖を向ける。

豆の樹の一部が急成長して絡み合い、一本の大きな腕を象った。

俺は握り拳を作り、天に掲げる。

「俺の手に来い!」

木で作った巨大な手の中に、大きな蒼い槍が握られた。

そう、俺がリーヴァイ神よりじきじきにいただいた、神話最強の武器、リーヴァイの槍である。

もしかしたら紛い物なのかもしれないが、それなりの威力を持っていることは間違いない。

なにせ、所有者であった自称リーヴァイ本人様の手首をぶっ刺して弾き飛ばした実績を誇っている。

俺は豆の樹で作った手に握られた槍へと杖を向けて、魔力を流し込む。

槍の全体を眩い光が覆っていく。

遠慮なく思いっきり魔力を詰め込んだ後、俺は杖を真上に聳えるアポカリプスへと向けた。

「いっけぇ!」

樹の腕に投げられたリーヴァイの槍は垂直に飛び立った。

アポカリプスの腹部を、光の束が貫いた。

アポカリプスの全身の魔法陣や術式が際限なく輝いていく。辺りが真っ白になった。

真っ白な世界の中で、アポカリプスの身体の輪郭だけがぼうっと浮かんでいた。

光の束に身体を垂直に貫かれたアポカリプスは、やがてその巨体の別の部分からも光の束を射出した。

アポカリプスの中に入った魔力のエネルギーが溢れ出し、体表を破壊したようだった。

光の束はどんどんと数が増えていき、やがてアポカリプスの姿さえも見えなくなった。

光が晴れたとき、辺りにアポカリプスのものと思わしき石の残骸が転がっており、砂が舞っていた。

豆の樹は、一定の高さから上が綺麗に消し飛んでいる。

地面には大きな穴がいくつも空いている。アポカリプスから零れた光の束による被害なのだろう。

「……やっぱりこの槍、本物かもしれないな」

アポカリプスは単体で国一つ相手取るような魔獣である。

アレを一撃で消し飛ばせるのならば、リーヴァイの槍も本物だと考えてよさそうだ。

アベル球が拡散するのに比べ、リーヴァイの槍は一点集中で威力を高めているようだ。

瞬間威力ではアベル球よりも勝るだろう。

魔力を込めてぶん投げるだけで済むため、複雑な魔法陣による緻密な調整が必要とされるアベル球に比べて意識を集中させる必要もない。

悔しいが、実用性はリーヴァイの槍の方が上かもしれない。

……あれ、前にリーヴァイと撃ち合いしたとき、俺、勝ったよな?

「そういえばあの槍、リーヴァイが投げる前よりも光ってたような……」

まぁ、どうでもいいことだ。

これで目標は達成し終わった。

この七階層は、豆の樹を登らせて退却を困難にしたところを、アポカリプスで仕留めるためのものだったのだろう。

これ以上、何かがあるとは思えない。

何に使えるかわからないが、手土産にアポカリプスの残骸を拾い、あの馬鹿エルフをとっちめてラルク経由で王族へと突き出し、不穏な言葉について説明させよう。

あのエルフが言っていたことがもしも本当ならば、大変なことになる。

「……お、終わったんですかね?」

メアが目を擦りながら、何度も宙を見返していた。

「ああ、あの魔獣はもう、消し飛んだはずだ。槍のお陰だろうけど……ハハ、なんか、伝説ほどじゃなかった気がするな、アポカリプスも」

過去に幾度となくアポカリプスの討伐作戦が持ち上がり、不仲な国が手を組んで討伐に当たったこともあったそうだが、そのすべては失敗に終わったとされている。

万の魔術師が三日三晩魔術を撃ち続けても落ちなかったのだとか。

槍の一撃で消え去った辺り、到底そんな印象は受けなかったが。

ただ、アルタミアはどうやら、噂以上にとんでもない相手のようだ。

ここまで結界をメチャメチャにしてしまったが、本当に大丈夫だろうか。

ペットがアポカリプスならば、本人はそれ以上だろう。

魔獣と違い、知恵もある。

塔の低階層をアベル球でぶち抜いたせいで、封印が緩んでいなければいいのだが……。

「…………アベル、上」

「え? ま、まさか、まだアポカリプスが生きて……!」

俺は空を見上げる。

空に、大きな亀裂が入っていた。亀裂はどんどん広がっていき、それと共に、この第七階層自体が萎みつつあるようであった。

「…………あ」

魔力を込めたリーヴァイの槍が、アポカリプス越しに結界を貫通したのだろう。

さすがリーヴァイの槍。神話最強の武器と呼ばれるだけのことはある。

本人は大したことがなかったが。

当然だが、第七階層の上は、アルタミアの封印されている第八階層である。

正直、俺はもう疲れた。

アポカリプスの圧倒的な大きさに気圧されたというのもあるし、デヴィンにメアを人質に取られたせいで気が気ではなかった。

そして何より、精神的だけではなく、肉体的にも疲れた。

結局この第七階層まで階段を登り続けることになった上に、第七階層でも階段を登り続けることになったのだから。

その上、この馬鹿エルフを領主ラルクに引き渡すという大仕事も残っている。

「か、帰っちゃまずいかな……。来週じゃ、駄目か? 一旦パルガス村に帰って休みたいんだけど……」

「……まずいんじゃないですか。多分、明日にはもうアルタミア、別の所に行ってますよこれ」

俺は諦めて、階段が崩れた先へと杖を向けた。

呪文を唱えると、ぱらぱらと土が浮上して階段を形作っていき、やがて空の大穴へと繋がる。