軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十五話 ハイエルフの魔術師、デヴィン⑧

魔女の塔、ついに前人未到の第六階層まで到着した。

第六階層の内装は、白い石造りの壁と床が続いていた。

辺りには石像が並んでおり、神殿を思わせる厳かさだ。

オォォォォォォオオオオン、オォォォォォォオオオオン。

鐘の音なのか、化け物の鳴き声なのか判別のつかない、おぞましい音が不規則に通路の奥から響いて来る。

ついに頂上が近いことを、俺は強く再認識した。

どこで帰ろうどこで帰ろうと悩んでいる内に、ついにここまで来てしまった。

ここまでの流れでは、一階層上がるごとに、出てくる魔獣の上限がワンランク上がる。

四階層でC、五階層でBと来たのだ。順当に考えれば、A級の魔獣がここでは出没するはずだ。

因みに、サイクロプスは階段の通路の幅を通れなかったため、置いてきた。

心底ほっとした表情を浮かべながら、手を振って見送ってくれた。

サイクロプスが通れるように壁をぶち抜いて広い通路を作ろうとしたのだが、メアに止められたため諦めることにした。

「あのサイクロプス、大丈夫かな……」

俺は手土産にもらったサイクロプスの角を手に握りしめながら、そう零した。

これは、駄目元でジェスチャーで角を端っこだけでいいからもらえないか頼んでみたら、サイクロプスは一瞬真顔になった後、自らの頭から引き抜くようにして根本から丸々俺へと引き渡してくれた。

なんでも言ってみるものである。

ちょっと頭から血が出ていたので、魔術で回復しておいた。

魔獣と人間の間に、友情が芽生えた瞬間であった。

「…………つの」

メアが少し落ち着かない様子で自分の頭に手をやり、俺の持っているサイクロプスの角と見比べていた。

メアは俺の視線に気が付くと引き攣った笑みを浮かべながら、俺の手許から目を逸らす。

「そ、そう言えばアベル、どこまで登るんですか? もう、六階層まで来ちゃいましたけど……」

「アルタミアの塔は全八階層だからな。恐らくアルタミアが眠っているであろう八階層には下手に踏み込むわけにはいかないから……ここが楽に超えられたら、七階層まで覗いてみるかってところだな」

六階層でA級の魔獣が出没するというのならば、七階層では何を見せてくれるのか、さぞ楽しみだ。

変わった能力でも身に着けている、希少な魔獣だと嬉しいのだが。

狭い通路に、碧々と輝く大型の鎧が左右に三体ずつ、計六体飾られていた。

透き通る様な輝きを放つその碧さは、今まで俺が見てきたどんな魔金属にも当てはまらない。

鎧は、通路を監視しているかの様に内側を睨んでいる。

俺は思わず足を止め、ごくりと生唾を呑み込んだ。

「まさか、 幻の銅(オレイカルコス) ……?」

幻の銅(オレイカルコス) とは、数々の古代文献において出てくる、現在の魔術技術では再現不可能と言われた、作り方に関わる一切が不詳の伝説の魔金属である。

幻の銅(オレイカルコス) 製と思わしき魔法具は稀に世界各地の遺跡の中で発掘されるそうだが、ディンラート王国内ではただの一つも発見されていないとされている。

幻の銅(オレイカルコス) は圧倒的な頑丈さを誇ることで有名であるが、 幻の銅(オレイカルコス) の真価は、魔力を吸収し、魔術を無に帰すところにあるとされている。

幾万という種類のある魔金属の中の頂点に立つ、圧倒的性能を誇っている。

俺も前々から一目見たい、手にしてみたいと願っていたが、ラルクを経由してどうにか他国の王族を脅し、ぶん取るくらいの手しか思いつかず、半ば諦めかけていたのだが、まさかこんなところに鎧六つ分も保管されているとは思わなかった。

まだ本物の 幻の銅(オレイカルコス) と決まったわけではないが、この輝きは、文献で読んだ 幻の銅(オレイカルコス) のそれと相違ないように思える。

さすが伝説の錬金術師、アルタミアである。

幻の銅(オレイカルコス) さえも造り出していたとは。

「でもこれ、どうやって持ち運ぼうかな……。とりあえず、持ち帰るのは帰り道にするとして……ああでも、置いて行って他の奴に取られても事だし……!」

「……前人未踏って言ってましたし、さすがに上に上がって帰ってくるまでには誰も来ないんじゃないですか?」

「さっきのストーカーエルフが後をつけてくるかもしれない」

「ス、ストーカーエルフ……」

俺の命名にちょっと思うところがあったのか、メアが不憫そうに背後を振り返った。

とにかく、 幻の銅(オレイカルコス) の解析だけでも進めてみねば。

俺が手をわきわきしながら近づくと、大鎧が腰から剣を引き抜き、大きく腕を上げて剣を構えた。

「ちっ……動くのかよ」

一体に続き、他の五体も剣を引き抜き始める。

どうやらただの鎧ではなく、魔術が掛けられていたらしい。

オレイカルコスナイトとでも言ったところか。

俺は後ろに跳びながら、ラピデスソードの柄を手に取った。

そのまま素早く魔力を込める。ラピデスソードの柄から、大気中の成分と魔力を織り交ぜて生成した刃が伸びていく。

「 যাওয়া(行け) 」

俺はオレイカルコスナイト目掛けて、ラピデスソードを放つ。

オレイカルコスナイトは剣でラピデスソードを防ごうとしたが、その瞬間ラピデスソードがくるりと回って剣をすり抜け、鎧の肩から先を斬り飛ばした。

そのまま続いて頭、逆の肩を斬り飛ばし、胸部へと鋭い突きを放って鎧を貫き、そのまま真下に斬り進んで大きな切れ目を入れた。

一体目のオレイカルコスナイトがバラバラになり、地に崩れる。

「おお! 結構堅そうじゃん、アレ!」

思ったよりも、切断するのに時間が掛かった。

アレをベースにすれば、いいゴーレムが造れそうだ。

続けて俺に斬り掛かってくるオレイカルコスナイトの攻撃をラピデスソードが弾き、斬り返して上体を斬り飛ばす。

ラピデスソードは斬り飛ばされた上体目掛けて三度の刺突を放ち、オレイカルコスナイトをバラバラに崩す。

続けて俺は、オレイカルコスナイトへと杖を振るう。

「 শিখা(炎よ) এই হাত(球を象れ) 」

俺は魔力を若干強めに込めて、火の玉を放った。

オレイカルコスナイトの断片へと直撃し、床から豪炎の柱が上がる。

オレイカルコスナイトの断片が、豪炎の柱の柱の中で変形し、床へと広がっていく。

「なんだ、このくらいで溶けるのか。もうちょい持ってほしかったな……」

俺の後ろに回り込んでいたオレイカルコスナイトが斬り掛かってくるが、当然の様にラピデスソードが鎧兜を斬り飛ばし、続けて身体をバラバラにしていく。

「 বায়ু(土に) হয়ে(なれ) 」

石製の床が砕け、ボロボロと崩れ、変色していく。

辺りの床が、どんどん灰色の土へと変わっていく。

「 বায়ু(土よ) বক্স হাত(箱を象れ) 」

灰色の土は箱を象りながら、溶けて崩れるオレイカルコスナイトの残骸を包み込む。

「 বরফ(冷気よ) ধ্বংসান(吹き荒れよ) 」

杖先から出た冷気の風が、灰色土の箱を包み込む。

十秒後、即席の箱が崩れ、中から立方体を象り碧々と輝く 幻の銅(オレイカルコス) が現れた。

それを見た他のオレイカルコスナイトが動きを止め、俺に背を向けて逃走を始めた。

「逃がすな!」

俺が指を向けると、ラピデスソードが飛んでオレイカルコスナイトの脚鎧を斬り飛ばし、続けて身体をバラバラにする。

火柱を叩き込んだ後、土の棺に収め、立方体に加工する。

あっという間に六つの 幻の銅(オレイカルコス) の立方体が並んだ。

「これで綺麗になったな」

「……狩りっていうより、ただの採掘ですね、もう」

メアが恐々と、立方体に加工されたオレイカルコスナイトだったものを指で突つく。

「ん? 俺は最初からそのつもりだったぞ」