軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十四話 ハイエルフの魔術師、デヴィン⑦

魔女の塔の五階層は、洞窟のようであった。

あちらこちらを、薄い青色の結晶石が覆っている。

これまでの階層に劣らず、なかなか幻想的な雰囲気であった。

ここ五階層からは危険度B級の魔獣が出てくるようになるという。

俺はA級魔獣のナルガルンでも対処できたので必要以上に怯えるつもりはないが、魔女の塔の五階層を訪れた大抵の冒険者は、数を頼りに魔獣へ挑むか、魔獣から逃げ回りながら魔鉱石の採掘を行っていたかのどちらかであったようだ。

そして、六階層へと続く階段を登った冒険者は、パルガス村の記録の中には一人として存在しなかった。

この階層に現れる主な魔獣は、サイクプロスである。

身長三メートル近い、一つ目の巨人である。頭の中央から角が生えている。

剛腕であり、言語は有しないものの、非常に頭がいい。

だが生活スタイルは蛮族そのものであり、生物であれば、人であれ虫であれ、なんでも喰らう。

凶悪な見かけに加えて、結晶石を切り出して作ったらしいメイスを用いた凄まじい攻撃。

この迫力から逃げ回りながら魔鉱石の採掘を行っていたなど、昔の冒険者はなかなかに肝が据わっていたらしい。

よほど実入りがよかったのだろうか。

俺もこの階層の魔鉱石を色々と調べたいところだが、残念ながら色々と手に入れても、持ち運べる量には限りがある。

どうせならば、A級魔獣がうじゃうじゃいるであろう、六階層、七階層で色々と回収したいものだ。

四階層で手に入れたゴールデン・ドラゴンヘッドも、泣く泣く見逃してやったところである。

メアが不安そうに俺を見上げる。

「アベルゥ……それ、大丈夫ですか? 降りてきません? メア、凄く不安です」

「大丈夫大丈夫。メアも乗るか?」

「う、う~ん……いくらアベルの誘いでも、それでは……ちょ、ちょっと考えさせてください」

俺は今、サイクプロスの肩に乗って五階層を移動している。

五階層に足を踏み入れたところで襲い掛かってきたため、土の腕で押さえつけて完封したところ、武器を捨てて降伏を示してきたため、足として使っている。

さすがサイクプロス、評判通り頭がいいらしい。

サイクプロスに乗っていれば、他のサイクプロスも襲い掛かってこない。

不思議そうにこっちを見た後、目が合うと何かを察した様にそそくさと離れていく。

記念に一本くらい角をもらっていこうと考えていたのだが、刃向かってくるサイクプロスがいないため、手頃な角が見つからない。

こっちから仕掛けて角を奪うのも、なんだか強盗のようで気が引ける。

今乗っているサイクプロスに頼んだら、先っちょくらいならくれるだろうか。

サイクプロスに乗りながら、他の魔獣を探す。

体表と体液が透明であり、臓器が見えているクリアフォーグの姿が窺えた。

通常種のフォーグと大きさは変わらないが、動きが速く、強力な消化液を吐き出すため、C級上位として恐れられている魔獣である。

遠くに目を向ければ、瑠璃色に輝く透明色の甲羅を背負った大亀がいる。

あれは……クリスタルタートルか?

脚力が強く、足で地面を蹴った後に自慢の甲羅に引きこもり、外敵を轢き潰すことを得意としているという。

危険度はC級上位であるが、硬い防御を突破するのが困難であるため、討伐の難度は一段階跳ね上がるとされている。

そんなことを考えながらクリスタルタートルを眺めていると、不意にクリスタルタートルが甲羅の中へと引きこもった。

見覚えのある光の束が曲がり角の先から放たれ、クリスタルタートルへと直撃する。

クリスタルタートルの甲羅が跳ね上げられる。空中に浮かんだ甲羅に亀裂が入り、壁に激突したと同時に砕け散って、断末魔の悲鳴が上がった。

「フ……フフ……追いついたようだね」

透き通るような美声が、光線の放たれた元から聞こえる。

だがその声に、以前聞いた優雅さは薄れていた。

角の先から、五階層であったオッドアイのハイエルフが姿を現した。

顔色は悪く、腹部を手で押さえている。

「う、嘘だろ……?」

エルフのまさかの復活に、俺は素直に驚いた。

「驚いたかい? この法衣は、特別製でね。空の神、シルフェイム様より神託を授かったハイエルフの司祭が、大神殿より生涯借り受けることのできるものなのさ。ちょっと魔力を込めれば、ローブに込められた魔法陣が展開し、ありとあらゆる衝撃を抑え込む」

「あれだけ完敗しておいて、まだ俺を追いかけてくる気力があったのか……」

勿論世界樹オーテムの蹴りを受けて無事だったことに驚いたわけではない。

そもそも防ごうとして、盛大に失敗しているところはしっかりと目にしたばかりである。

俺が驚いているのは、エルフのこの底なしの精神力に対してだ。

普通、あれだけ大口を叩いてからあれだけ綺麗に負ければ、二度と相手の視界に入らない様に身を潜めるものだろうと思っていたのだが、どうやらこのエルフに限っては違ったらしい。

本当に俺の靴でも舐めに来たのだろうか。

エルフの左目の瞼が、神経質にぴくぴくと震える。

「ハイエルフの司祭の中で最も優れた魔術師だとシルフェイム様から太鼓判を押されたこの私が、こんなところで敗北を期すわけにはいかない……。このままでは我が祖先、同胞、そしてシルフェイム様に申し訳が立たない。確かに、侮っていたことは認めよう! マーレン族、今一度、この私と勝負しろ! もう遊びは抜きだ! 魔術と魔術の、純粋な戦いで、我ら天の民の、尊厳を賭して……」

「 বায়ু(土よ) প্রাচী হাত(壁を象れ) 」

土の壁がせり上がり、俺とエルフの間に土の壁がせり上がった。

間の隔たりが伸びていく中、エルフが呆然とした表情を浮かべているのが見えたが、ふと我に返ったように、美形の表情を鬼の形相に変えて壁へと飛び掛かってくる。

完全に道が封鎖されてから、ドンドンと反対側から激しく壁を叩く音が聞こえてくる。

「さて、行くか」

「……もうちょっと相手してあげてもいいんじゃないですか? なんか一人で盛り上がってましたよ?」

「ああいう種族の誇りとか、俺ちょっとよくわからないし。普通に面倒臭いわあの人」

既に勝敗はついている。

色々と馬鹿にするようなことを言われたが、四階層での戦いを通し、すべてあのエルフへとブーメランとなって突き刺さったので、俺はもう満足である。

これ以上はもう、面倒臭い。あんまり関わっていて楽しい相手でもない。

向こうも何か魔術を使ったのか、壁が光り、崩れ始めた。

また俺も魔力を送って形を整えた後、重ねて魔力を送って強固にしておいた。

「これでいいか。さっさと六階層まで案内してくれ」

俺が言うと、サイクプロスは小さく頷き、別の道へと歩み始めた。