軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十三話 ハイエルフの魔術師、デヴィン⑥

「制限時間は、一時間でいいかな。時間内に、君はオーテムを、私はストーンサーヴァントを用いて狩りを行い、多くのドラゴンヘッドを倒した方の勝ちだ。さっき取り逃がしたゴールデン・ドラゴンヘッドは……君達が狩れたら、特別に百体分にしてあげてもいいいよ。他にもハンデは必要かな?」

「ああ、問題ないぞ」

この馬鹿エルフには、灸を据えてやらねばならない。

さっきのストーンサーヴァントやらと俺の世界樹オーテムなら、性能差で遥かに世界樹オーテムの方が勝っている。

このエルフはまだまだ隠し玉を持っていそうだが、ルールをきっちりと設けたこの勝負に限っていえば、負ける要素ははっきり言って皆無である。

このプライドの塊の様なエルフが勝負に負けたからといってむざむざ人の靴の裏を舐めるとは考えられないが、鼻を叩き折ることはできる。

条件など、別にどうでもよかったのだ。

別にどのような約束をしようが、相手が守ってくれるとはとても思えなかった。

「あの俺の埋めた石、引き抜かなくていいのか」

俺はエルフの石人形、ストーンサーヴァントやらを指差して言った。

「アレは、どうやら調子が悪いようだからね」

エルフは言うなり、懐から術式の施された小石を取り出した。

それを投げ、宙に向けて杖を振るう。

「 পাথর(石よ) আমি(我に) দাস(仕えよ) 」

小石はどんどんと大きくなり、地面に着地する頃には、先ほど俺の世界樹オーテムで地面に叩き埋めた石人形と同じ姿になった。

「……なるほど、持ち運び自在の手下ってわけか」

「では始めようか。せいぜい、勝負の一時間が寿命にならないよう足掻きたまえ」

エルフの言葉と同時に、石人形が遠くのドラゴンヘッド目掛けて走り出す。

俺はじっとその様子を眺めていた。

石人形がドラゴンヘッドの群れへと突撃して散らし、逃げ惑うドラゴンヘッドの内二体に標的を定め直して追いかける。

「はは! 見ろ! もう二体狩ってしまうぞ! なんだ、私のストーンサーヴァントに恐れをなして、何もできないか? 大きいのは、口と態度だけだったようだね」

俺は石人形の追っているドラゴンヘッドへと、杖を向けた。

一直線に世界樹オーテムが飛ぶように駆け抜け、あっという間に石人形を追い抜いた。

「…………ん?」

エルフが目を疑うように、ごしごしと手の甲で擦る。

そんなことをしても目前の光景が変わるはずもなく、次にエルフが目を空けたときには、世界樹オーテムがドラゴンヘッドを蹴飛ばすところであった。

「アグゥ!」

悲鳴を上げるドラゴンヘッドの腹部へと勢いよく蹴りを放ち、続けて二体目のドラゴンヘッドをぶん殴ってふっ飛ばした。

標的を奪われてどうしたらいいかわからず固まっているストーンサーヴァントを尻目に、他のドラゴンヘッドを追いかけていく。

見る見る内に、エルフの顔が青くなっている。

俺はエルフを睨みつけ、鼻で笑ってやった。

「大きいのは、態度と口だけだったらしいな」

エルフがわなわなと唇を震わせながら、俺を睨みつける。

「メア、ちょっと散歩に行こう。一時間暇だからな」

「何かすることがあるんですか?」

「ドラゴンヘッドのフンを探してくる。踏んだらどんな感触なのか確かめてみたい」

俺はわざと大きな声で言った。

無論、負けたら俺の靴を舐めるという約束になっている、エルフへ圧を掛けるためである。

「ア、アベル……あの人、ちょっと可哀そうになってきました」

エルフに先ほどまでの余裕はなく、「こんなはずはない……」と力なく呟きながら、食い入るように世界樹オーテムと石人形の狩りの様を見ていた。

「う……うう、うぐ……」

エルフが歯噛みしながら、ゆっくり、ゆっくりと俺の方を睨む。

俺がどんな顔で自分を見ているのか、想像するのも屈辱だといった様子であった。

エルフの目には、薄っすらと涙が溜まっていた。

よっぽど負け慣れていなかったのだろう。

俺がエルフの泣き顔をぼうっと観察していると、彼も自分の目に涙が浮かんでいたことに気が付いたらしく、顔を赤くしながらばっと顔を下に向けた。

ニ十分ほどが経ったところで、既に狩ったドラゴンヘッドの数には大差が開いていた。

世界樹のオーテムは見つけたドラゴンヘッドを即座に叩き潰しにかかるが、石人形の走る速度は、ドラゴンヘッドと大差ない。

追い掛け回して、相手の体力が落ちてくるのを待っているような状況である。

おまけに、一体狩れば、群れの他のドラゴンヘッドは逃してしまう。はっきりと勝負になっていなかった。

俺は木を背に寝そべり、メアに足をマッサージしてもらいながら世界樹のオーテムの善戦っぷりを眺めていたが、エルフは唇を血が出るほど噛み締め、ブツブツと独り言を零しながら必死に見守っていた。

目が常にガン開きである。乾かないのだろうか。

途中から俺は世界樹のオーテムから目を離し、エルフが必死に石人形を応援する様を、やや同情気味に見守っていた。

三十分が経った時点で、世界樹のオーテムの狩ったドラゴンヘッドは六十体、石人形の狩ったドラゴンヘッドは五体となっていた。

石人形が時間を掛けて追い詰めていたはずのドラゴンヘッドが、他のドラゴンヘッドを囮にして姿を晦まして逃げたときなど、エルフは地面を叩きながら石人形の性能を罵っていた。

「なぁ、もうよくないか? 俺、そろそろ先に進みたいんだけど。別に靴舐めなくていいし、むしろ気持ち悪いだけだし」

そろそろ、この階層にいるドラゴンヘッドも数が尽きてきたのではなかろうか。

もう六十体も残っているかどうか怪しいし、これ以上は不毛なだけだ。

「…………」

エルフは何も答えなかった。

ただ肩を震わせ、居心地悪そうに身を潜めただけで、こっちを見ることもしなかった。

あんなに饒舌だった最初の頃が懐かしい。

「……あっ!」

エルフが嬉しそうに声を上げた。

石人形の目前に、ゴールデンを含む五体のドラゴンヘッドの群れがあった。

先ほど取り逃がしたゴールデン・ドラゴンヘッドだろう。

「ゴ、ゴールデンは百体分だったな! そうだな!」

エルフが目を見開き、俺へと叫ぶ。

「いや、それ、俺だけのハンデだったんじゃ……」

「いっ、いけ! 奴を取れ! 殺せ! 絶対に逃がすな!」

エルフは聞こえていないのか、わざと聞こうとしていないのか、声を荒げて必死に石人形を応援する。

石人形は一直線にゴールデン・ドラゴンヘッドを含む、ドラゴンヘッドの群れへと向かっていく。

ドラゴンヘッドの群れは動かず、その場に留まっていた。

「いいぞ! いけ! いけぇ!」

石人形がゴールデン・ドラゴンヘッドに飛び掛かったのとほとんど同時に、近くの草むらからニ十体近くのドラゴンヘッドが飛び出してきた。

「あっ」

ゴールデン・ドラゴンヘッドは、通常種よりも頭がいい。

同胞を追い掛け回す傍迷惑なオーテムと石人形に腹を立て、一計を案じたようであった。

ドラゴンヘッドは石人形を囲み、一斉に炎を吐く。

高熱に燻された石人形目掛けて、次々にドラゴンヘッドが喰らいつく。

身動きが取れなくなったところへ、ゴールデン・ドラゴンヘッドの見事なタックルが決まった。

石人形は軽く宙に吹っ飛んだ後、地面へと肩から落ちた。

その後も慣性に従って地上を抉りながらしばし進み、それからピクリとも動かなくなった。

石人形が動かなくなったのと同時に、エルフがその場に崩れ落ちた。

「ま、魔獣が……魔獣が、魔獣の分際で……。あ、あんな、卑怯な……」

俺の方を見るのも怖いらしく、顔を頑なに俺の方に向けない。

俺は歩み寄り、ぽんと肩を叩いた。

「その……ドンマイ」

「う、うぉぷ、オヴェッ!」

エルフは口に手を当て、吐瀉物を吐き出した。

見下していた相手に完敗を期したという事実を、ハイエルフとしての誇りが認められず、ストレスとして胃に落ちてきたのだろう。

匂いが移っても嫌だったので、俺はそっとその場から退いた。

ドラゴンヘッド達が顔を合わせて喉を鳴らし、勝利を分かち合っているところへと、世界樹のオーテムが現れた。

一斉に逃げ始めたドラゴンヘッドを次々に蹴散らし、ゴールデン・ドラゴンヘッドの尾を掴み、地面へと叩きつけて気絶させた。我が作品ながら、鮮やかな動きであった。

そのままゴールデン・ドラゴンヘッドを担ぎ、意気揚々と戻って来る。

顔を伏せていたエルフが、自身のボロボロになった石人形へと目を向けた後、ゴールデン・ドラゴンヘッドを担いで戻ってくる世界樹のオーテムへと視線を移した。

エルフは右目の碧眼を細め、左の真っ赤な目を見開く。

杖を構え、世界樹のオーテムへと先端を向ける。

自棄になったのか、このままでは腹の虫が治まらないのか、衝動的なものなのか。

何もせずに負けを認めて去るのは、彼のプライドが許さなかったのかもしれない。

とにかく、オーテムに八つ当たりしようという魂胆であることには間違いなかった。

「あっ、おい!」

二つの魔法陣が重なる様に浮かび、その中央をエルフの杖が貫く。

「 পরীরাজা(妖精王の) তীর(矢) 」

直後に現れた光の直線が、延長線上を焼き払う。

高密度な魔法の光線が、世界樹のオーテムへと当たった。

かの様に、エルフには見えたかもしれない。

「み、認めない! こんな勝負、私は認めないぞ! 見よ! こんな、我が魔術の矢の一撃で沈むような玩具に、戦いの中で何の意味があろ……」

世界樹のオーテムは魔法の光線の周りをぐるりと回って上側に移動し、光線の上を伝ってエルフへと突進した。

エルフの顔が驚愕に染まる。

慌てて杖を構え直そうとしたとき、既にオーテムはエルフの目の前へと飛び出していた。

オーテムがエルフの鳩尾に頭突きを叩き込もうとしたとき、間を遮るように魔法陣が展開された。

エルフが何かをしたようには見えなかったが……何か、オートで発動する魔法具があったようだ。

あの無駄に大層なローブにカラクリがあるのかもしれない。

魔法陣に触れた瞬間、オーテムの動きが宙で固まった。

エルフは荒げていた息を整え、引き攣った顔で、歪な笑みを浮かべた。

「フ、フフ……残念だったね。この法衣は、我が 天空の国(アルフヘイム) の国宝なのさ。装備者自身の魔力を用いて、外部からの衝撃を遮断する。君達ノークスの穢れた手では、この私に触れることもでき……」

一時停止していたオーテムが魔法陣を突き破り、エルフの腹部へと頭突きを放ち、そのまま数メートルほど滑空した。

「ぶふっ!」

エルフの口から、微妙に吐瀉物の混じった血が飛び出す。

派手に転がり、坂道で身体を大きく跳ね上げる。肩から地面へと身体を叩きつけた後、俺を睨んでぱくぱくと口を動かしていた。

「わ、私が、こんな……こんな……。あ、あり得ぬ……私は……」

さすがにもう、追ってくる余力も、逆恨みする気力もないだろう。

しかし、滅多に地上に降りてこないはずのハイエルフが、なぜこんなところをうろついていたのか。

俺はエルフを一瞥した後、次の階段の方へと向かうことにした。

メアもしばし気の毒そうにエルフを見た後、俺の方へとついてきた。

「あの人には、何もしないんですね。メア、本気で靴舐めさせるのかと思っちゃいましたよ」

あまり長々と関わっていたい相手でもない。

力量差は頭に叩き込めたので、俺としても満足だ。これ以上手出しをするつもりはない。

俺は基本的には平和主義者なのだ。

「……次の階層に行くんですか? 足、大丈夫です?」

「ああ、メアのおかげで、ちょっと回復したわ。それにここ、珍しい魔獣が多いみたいだからな。先の道が気になって来たわ」

魔女の塔は、一階層上がるごとに、出現する魔獣の危険度がワンランクほど上昇すると言われている。

一階層ならF級、二階層ならE級、三階層ならD級、四階層ならC級、五階層ならB級……と、いったふうに。

六階層に行ったという報告例は未だないそうだが、順当に考えれば、六階層にはA級の魔獣がいるはずだ。

いい研究素材がごろごろしていることだろう。口ばっかりのハイエルフと戯れている場合ではない。

「それに帰るときは、壁に穴を開けて階段を作ればいいだけだからな。わざわざ歩き回る必要はないだろう。いや、スロープにすればもっと楽か……?」

メアが両手で顔を覆い、肩を落とした。