軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とある集落の話8(sideジゼル)

アベルがパルガス村をリーヴァイの魔の手から守っていた頃、ロマーヌの街の冒険者支援所へと三人のマーレン族が訪れていた。

アベルの妹ジゼル、舎弟兼友人のシビィ、そして集落の占術師の末裔リルである。

本当はここに族長の孫娘であるフィロが加わるのだが、以前冒険者支援所で強引なナンパに遭ったのがトラウマとなり、今日は宿の中で寝込んでいる。

――とにかく人馴れすると同時に、集落の外での常識を身につけねば話にならない。

最初は強引に兄の情報を集めようとしていたジゼルも、度重なるトラブルに心をへし折られ、ようやくその結論へと達していた。

というのは先日、マーレン族の大人勢が 香煙葉(ピィープ) を室内で焚いたせいで、ようやく馴染みかけていた色々とこちらの事情を気遣ってくれていた優しい宿屋を追い出された上に衛兵が出てくる大騒動へと発展したのである。

ロマーヌの街は常習性のある薬物の持ち込みに非常に敏感であった。

アベル捜索隊は総出で丸一日の取り調べを受けた後、 香煙葉(ピィープ) をすべて取り上げられた上でようやく解放された。

これを機に 香煙葉(ピィープ) 中毒者であったマーレン族のゴルゾフが、一日中「帰りたい」とべそを掻くようになり、移った先の宿で「うるさい」と叩き出されて再び新しい宿屋を探さねばならないという結果に終わった。

村外の情報収集と金策を兼ねて、ジゼルが魔導書シムに出してもらった答えが冒険者活動である。

ジゼル一行が冒険者活動を始めてかれこれ一週間が経っていた。

ジゼルは十代では異例の速さで準D級冒険者にまで昇級し、シビィもE級冒険者にまで上がっていた。

パーティーメンバー四人共、このまま続けていればまだまだ上がれるだろうと受付の人からも太鼓判を押されている。

今日は街から離れたところに出没したC級下位の魔獣グレート・フォーグを討伐し、報酬金の徴収と部位の換金を目的に冒険者支援所へと訪れていた。

「……すいませんシビィさん、少し疲れたので、換金に並んでおいてもらっていいですか?」

ジゼルは額を手で押さえながら、シビィへとそう頼んだ。

グレート・フォーグの周辺には 魔獣災害(モンスターパニック) によって異常増殖した逆さフォーグの幼体の群れがあり、ジゼルはその対処のために魔力を大幅に消耗させられていた。

ただの幼体と笑うことなかれ、逆さフォーグは幼体の方が大きく、圧倒的に力強い魔獣なのだ。

分厚い体表と大きな口を持ち高速で地面を這い回る逆さフォーグに対し、ジゼルはオーテムを三体並べての魔術の乱れ撃ちでどうにか対処に成功した。

「ジゼルちゃん今日凄かったもんね。じゃあ俺が行ってくるから、そっちで座って待っといてよ」

「ありがとうございます……」

ジゼルがふぅと息を吐き、手に抱えていた魔導書シムを置き、その隣に座る。

リルが今回の報告書をシビィへと手渡す。

「じゃあシビィさん、こっちもお願いします」

「え……リルちゃんも来ないの? フィロさんもいないから、俺、一人で行ってくるの?」

「あたし、ジゼルお姉ちゃんに付き添わなきゃならないもん。お姉ちゃん綺麗だから、また一人でいたら変な人が寄ってくるし……」

リルがジゼルのすぐ隣に座り、ぴったりと彼女と肩をくっ付ける。

「あー……そっかぁ、そうだよなぁ……うん、じゃあ行ってくるよ」

シビィがやや項垂れながら、荷物を手に受付へと並ぶ。

シビィが嫌がっていた理由は、要するにマーレン族特有の対外的な不慣れさのためである。

人混みで列に並ぶ、受付で言葉を交わす、どれもマーレン族にとっては大仕事である。

今までは四人行動であったため集団として動くことで負担が大幅に軽減されていたが、今回はシビィの単独である。

シビィは広大な砂漠にたった一人打ち捨てられたかのような寂寥感を胸に、重い足取りで受付への順番を待っていた。

「ひょっとしてその包みの中って、噂になっていたグレート・フォーグですか?」

シビィが列に並んでいる最中、他の女冒険者から声を掛けられた。

赤髪を肩に掛からない程度の短めに切りそろえた、睫毛の長い活発そうな印象の少女であった。

「え? ま、まぁ、そうだけど……」

「凄い! 私と歳もそう違わないみたいなのに、グレート・フォーグを狩ったなんて! あの、最近ここに通い始めた、白髪赤目の四人組の人ですよね?」

「いや、ははは……え、なに? そんなに有名になってるの?」

「有名ですよ! 美形揃いで実力派の新鋭冒険者だって! 知らないのは本人ばかりって奴ですね!」

「び、美形? 俺が? い、いやぁ……そんな。グレート・フォーグだって、大したことありませんよ。それよりも、周りにいた逆さフォーグの群れの対処の方が大変なくらいで……。ま、一発大きいのぶち込んでやったら火を見たスィーフみたいに逃げて行きましたけど」

「すっごい! えっと……あなたって、リーダーの、C級確実って言われてる人ですよね!」

「C級? えっと……ああ、多分、そうじゃないかな。まぁこれくらい、俺の集落なら普通だったけどね。別にそんな言われても、あっそうなんだって感じで。まぁリルちゃんとジゼルちゃんがちょっと疲れちゃってて、リーダーとして俺がここは報告に出てる、みたいな?」

「頼られてるんですね! あの、なんてお呼びしたら……」

シビィがでれでれしながら他の冒険者と話をしている最中、ジゼルは座りながら考えていた。

ロマーヌの街で思わぬタイムロスを取られてはしまったが、今日で当面の活動資金分は目標以上の額を確保することができるはずである。

ジゼルは既に、自分達が来る以前に白髪赤目の冒険者がロマーヌの街に滞在していたという情報を手にしていた。

ただ、王都の闘技場へと観戦に行ったっきり戻ってこなくなった、とも。

明日からはこの街を出て、王都へ向かいながら途中の街で情報収集を行うべきだ。

そう結論付けていた。

「ぐぎゅー……ジゼルお姉ちゃんの肩、気持ちいいです」

リルがジゼルの身体へと頭を摺り寄せる。

最初は旅の同行を嫌がっていたリルではあるが、最近ではすっかりジゼルに懐いていた。

もっとも、集落の外界に放り出されて身内での繋がりを強めようとすることは、ある意味マーレン族としては至極順当なことではあったが。

「リルちゃん……実は私、そろそろこの街をでるべきではないかと思ってるんです」

「ジゼルお姉ちゃんが行くんだったら、あたしもどこだって付き合いますよ!」

「ありがとうございます。賛同者が事前にいてくれる方が、他の人も納得させやすいですから。後は父様達をどう説得するかですね……」

大人達を説得するのが最大の壁である。

大人達は頑固な上に保身がちで、その上集落の習慣が頑なに身体に染みついており、そのギャップにジゼル達以上に苦しんでいる。

ようやくここでの暮らしにギリギリ慣れてきた彼らは、再び生活環境が崩れることを恐らく良しとはしない。

とりあえずここで子供勢四人の意見を完全に統一させておく必要があった。

ジゼルがリルに今後のことを相談していると、行きとは違ってどこか弾み足のシビィが戻ってきた。

「ジゼルちゃん、換金終わったよ!」

足だけではなく声も弾み調子である。

「シビィさん。実は明日にでも兄様を追って、この街を出ようと……」

「実は来週辺りに、他のパーティーと合同で動かないって誘われちゃって! いい狩り場知ってるんだって! 温厚な悪魔が居着いてて、珍しい魔獣が出る割にはそう危険じゃないって! あの、できれば、それまでに俺にオーテムの修行をちょっとつけてほしいんだけど……!」

ジゼルが言い出しかけた提案は、シビィの早口なパーティー合同狩りの説明で遮られた。

まさかの展開にジゼルは開いた口が閉まらなかった。

「どう? どうかな? いいよね? だって俺ら、そういうの苦手だし……冒険者間の繋がり、みたいなの? そういうのないと、ほとんど情報も回ってこないんだって! それでこの合同狩りで親睦を深めといたら、ほら、アベルさんの情報もいっぱい入ってきますって!」

「あ、あたし嫌です! 他の人とパーティー組むなんて……シビィさんだって、あんまりこの街の人と話すの好きじゃないんでしょ? そう言ってましたよね! ねぇ、ジゼルお姉ちゃん?」

リルがむっとした表情で、シビィの説明した計画へと反対意見を出す。

「好きじゃないから、やっぱりこういう機会に挑戦していかないと! ほら、ジゼルさん! アベルさんの情報だってきますよ! アベルさんの情報!」

「シビィさんことさらにそこばっかり強調してるけど、完全にそれでジゼルお姉ちゃん釣ろうとしてますよね!?」

「いや、俺は事実を言ってるだけで……!」

「それに、もうこの街出るんですもんねー! ジゼルお姉ちゃん? 後一週間なんてあり得ませんよね? ベー! シビィさんのベー!」

「えええっ!? お、お願いします! もう約束しちゃったんです! 断るなら俺の代わりにリルちゃんが断ってきて!」

「やーですよそんなの!」

「駄目ならせめて俺と一緒に断って!」

「それもやーです!」

「最悪横に立ってるだけでもいいですから! 俺を一人にしないで!」

終わりの見えないシビィとリルのどこまでも不毛な言い争いの最中、唐突にシビィがジゼルの方へと向いた。

かなり切羽詰まった表情をしていた。

「ジ、ジゼルちゃん、お願いします! あと一週間! お願いします! 俺を嘘吐きにしないでください! どうせそれに、 アベル捜索隊大人勢(宿に籠ってる連中) が、絶対に認めませんよ! あと一日でこの街を出るなんて! ただでさえマハラルさんが家族の幻覚が見え始めてきたって言い出してて大変な状態なのに!」

ジゼルはくらりと眩暈がして前のめりに倒れそうになり、その身体をリルとシビィが慌てて支えた。

「ジゼルお姉ちゃん!? 大丈夫ですか! あー! もう、シビィさんが変なこと言うから! あー!」

(これ……私一人で来た方が、絶対よかったんじゃ……)

リルがシビィへと怒る声を聞きながら、ジゼルは一周回ってどこか冷めた調子で秘かにそう考えていた