軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十七話 リヴ・フォーグ⑦

「いや、凄いじゃないか兄ちゃん! 一人で、あのリヴ・フォーグを捕まえちまうとはな! はっはっは、兄ちゃんだけでよかったかもしれんなこれだと」

オーゲンが豪快に笑う。

褒められるのは好きだが、こうまで直接的に言われるとどうにも照れくさい。

ネログリフやオーゲンは正面からストレートに相手を褒められるタイプらしい。

きっと心根が真っ直ぐなのだろう。

気恥ずかしいが、悪い気はしない。

「本当、私もびっくりしました! まさか、リヴ・フォーグの結界の攻撃感知の応答速度を上回る速度で両断していたなんて! こんな方法でリヴ・フォーグを仕留めた人、今まで聞いたこともありませんでした! さすがアベルさんです! ……あの武器、そんなに速くに射出できるのですか?」

ソフィアがぐいぐいとあれこれ尋ねてくる。

「い、いえ、そんな……多分、あのリヴ・フォーグだけトロかったんですよ」

「いや、兄ちゃんは凄い。もしも兄ちゃんがウチの教団に正式に入ってくれたら、凄い助かるんだけどな……」

オーゲンが溜め息交じりに言い、太い首を竦めた。

「何かそんなに、困っていることでもあるんですか?」

「ああ、リーヴァイ国の方も、四大神官様のお蔭で大分統一は進んではいるし、紛争もかなり落ち着いたんだが……まだ新リーヴァイ派へ刃向かう団体が、少なくなくてな。新リーヴァイ派の中にも、国内の変化に乗じて要領よく利益を貪って貧困層を絞めつけている、困った輩も混じっていやがる。とと、他国の人間にぺらぺら喋ることじゃなかったな、忘れてくれ。兄ちゃんと話してると、つい口が緩んじまうもんでな」

うっかり口が滑ってしまうとは、思ったより俺は信頼されているようだ。

こっちとしても、それはありがたい。

しかしここまで手放しに褒めてもらえるのは嬉しい。

マーレン族の集落では周囲から問題児扱いされていたし、街に出てみれば功績を上げる度に絡まれるし……ここまで素直に褒めてくれたのは、彼らが初めてな気がする。

とりあえずオーゲンは信じてもよさそうだ。

というより、マリアスとの一件のせいで必要以上にリーヴァイ教自体を警戒し過ぎてしまっていたのかもしれない。

「アベル……ちょっと、気緩んでません?」

メアが横から小さな声で耳打ちして来る。

「大丈夫、大丈夫……」

俺は苦笑いしながら、小声でそう返した。

「あ、オーゲンさん。俺その、ちょっとリーヴァイ教の活動に興味が……」

細い手が俺の背後からすっと伸び、俺の口許を素早く塞いだ。

振り返れば、顔を蒼くして首を振っているメアの姿があった。

「い、いや……ちょっと気になっただけだから。普段からこういった人助けをやってるのかなと」

「だ、ダメです! それ多分、引き返せなくなる奴ですから! メアなんだか、すごく嫌な予感がするんですけど!」

……まぁ、確かに、不用意に口にしない方がいいことだったかもしれない。

またソフィアに暴走されても困る。

俺は不思議そうに俺とメアの様子を窺うオーゲンに愛想笑いを返して誤魔化した。

カムラが段差を飛び越えて川近くへと降り立ち、木に張り付いたリヴ・フォーグを丁寧に剥がし始めた。

「あの、潰して大丈夫でした? その、フォーグから臓器ぶら下がってますけど……」

「ま、まぁ多少は劣化するかもしれんが、さして問題にはならねぇだろう。ただ、すぐに回収して魔術保護しとかねぇと」

カムラはそう言ってリヴ・フォーグに付着した木片や土を指で掃い、魔法陣の描かれた小瓶の中へと詰めた。

加えて地面に落ちていた内臓的なものも回収した後に小瓶に蓋をしていた。

「だいたいそのフォーグ一体で、何人くらいが助かるものなんですか?」

「え? あ、ああ……う~む、俺は詳しかねぇんだが……五人、くらいかな。つっても潰れちまってるのが痛ぇし、特定の数人だけを治療するってわけにもいかねぇからな。重病者の病状を和らげるのに使うのが主になるんじゃねぇか。出来栄えにも寄るし、俺もあんまし詳しかねぇんだけど」

カムラは額に人差し指を置き、思案している様子でそう口にした。

製法も難しいのだろう。

しかし、伝説の万能薬とはいえ、そのくらいのものか……。

悪魔の呪いにでも何にでも対応できると考えれば、凄いことではあるのだが……あのリーヴァイ教徒達の様子を見ていたら、もっととんでもないアイテムなのかと期待し過ぎてしまったかもしれない。

やはり、病源を断たねば意味はないだろう。

リヴグラスの力で時間を稼いでいる間に、どうにか病魔の悪魔を操っている精霊使いを引っ張り出して、叩かなければならない。

ネログリフにも相談し、本腰を入れて主犯を捜してもらう必要がある。

「ま、とっとと戻っちまおうぜ。しし、ネログリフ様も驚くだろうよ。こんな早くにアベ……俺達が帰ってきたって知ったらよ」

カムラが言いながら、リヴ・フォーグの入った小瓶を懐に仕舞おうとした。

「ちょっと試したいことがあるんですけど、貸してもらっていいですか?」

カムラはちらりとオーゲンに目配せした後、表情を緩めて笑った。

「ああ、いいぜ。何をやるつもりかはしんねぇが……」

カムラは遠回りして崖を上がり、俺へと小瓶を手渡してくれた。

俺は小瓶を隣にいるメアへと渡し、杖を振った。

「 হন(運べ) 」

浮かべた魔法陣の中央に、世界樹のオーテムが浮かび上がる。

呼び出された世界樹のオーテムは、一度ひとりでにガタリと揺れた。

世界樹のオーテムには今、ハーメルンが入っているのである。

改めてメアから小瓶を受け取り、中に入るリヴ・フォーグの腹をぐいぐいと押し、黄緑色の細長い管へと触れる。

魔力と密接な関わりのある、魔臓と呼ばれる臓器である。

中へ魔力を流して、反射して戻ってきた魔力からリヴ・フォーグの魔力特性を探る。

条件を変えて魔力を流し、情報が出揃ったところで魔法陣を組んで世界樹オーテムへと指示を出す。

世界樹オーテムの目に光が灯り、跳ねながら移動を始めた。

あの反応は、世界樹のオーテムが無事に対象を見つけたことを意味する。

「よしっ! 成功しましたよ!」

「あの、アベルさん? 何を……?」

ソフィアが怖々と尋ねてきた。

「オーテムに、リヴ・フォーグの魔力特性を記録させました! これで転移魔法の痕跡を追っていたときよりも高精度、広範囲に探すことができます!」

もっといえば、世界樹のオーテムの中に押し込まれているハーメルンの力で、特定の魔力を持つ魔獣を引き付けることだってできるはずだ。

ハーメルンがどこまでできるのかは俺にはわからないが、使い方次第で何かの足しにはなるだろう。

「……え?」

「あの反応からするに、もう三体は感知しているはずです! 五体くらい捕まえることができれば、かなりパルガス村の状態もよくなるんじゃないでしょうか。上手く行ったら、八体くらい狙えるかもしれません! 他の教徒の方にも協力を要請して本格的な捜査に当たれば、あっという間に村の病気を完治させることができるはずです!」

俺はまた三人が口々に褒めてくれるものだと思い、自信満々に説明した。

だがソフィアは顔を真っ青にし、窒息しかけの金魚のように口をぱくぱくと開閉しているばかりで、なかなか言葉を紡がなかった。

「あれ……?」

「そ、そそ、それ困る……」

ソフィアが蚊の鳴くような小さな声で、そう洩らした。

「な、何かまずかったですか?」

「アベルよ、ほら……えっと……今もこうして、苦しんでいる人がいるんだから、まずはこれを持って帰らないか!」

カムラが額に汗を浮かべながらそう説得してきた。

「移動に数日掛かりますし……今ここで半日くらい伸びても別に……。あ、あの、ひょっとして宗教的にマズかったり……」

どうにもソフィアとカムラの様子がおかしい。

リヴ・フォーグは神聖視されている節があるようだし、乱獲はやっぱりまずいんだろうか。

「落ち着け、ソフィア、カムラ。悪いな、兄ちゃん。こいつら、リヴ・フォーグが複数取れるかもしれないと聞いて、ちょっと驚いちまっただけだ。兄ちゃんが本気で言っているのなら、俺達も勿論協力するぞ。なぁ、お前らもそうだよな?」

オーゲンがぽんぽんとソフィアとカムラの肩を叩き、声を上げて笑う。

「ま、さすがにそう上手く行くとは思わんが……兄ちゃんが言うのなら、試す価値はあるだろう」

オーゲンの許可が下りたところで、世界樹オーテムの後を追って五人で移動を始めた。