軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

八話

とりあえず……四大神官ネログリフは、こちらに敵意は抱いていなさそうだ。

単に、まだこっちの身の上を知らないから、ということなのかもしれないが。

「あの……この村がどうなっているのかを聞いても」

「それはですな……」

「その前に、貴方方が何の用でこの村へと立ち寄ったのかを聞かせてもらえませんか?」

ネログリフが村の現状を説明してくれるよりも先に、横にいたダボダボ服の少女が口を挟んできた。

「クロエよ、そう突っかかるように言わんでも……。申し訳ございませんな、どうかお気を悪くなさらずに。クロエは少々、警戒心の強いところがありまして。しかし、性根は優しい子なのです。ワシは昔、リーヴァラス国の小さな村にある、孤児院を兼ねていた教会堂の司祭だったのですが、そのときからクロエは……」

「やめてくださいネログリフ様」

ちょ、ちょっとあの娘、怒ってない?

声が淡々としてるし表情の変化も薄いので何とも言えないが……というよりは、そのせいで余計にそう感じるだけなのかもしれないが。

「い、いえいえ、気にしていませんので……。こちらこそ、自己紹介が遅れてすいません」

なんかこの爺さん、本当にやり辛い。

え? マリアスと同じ、四大神官だよな?

その割にはなんか、恐ろしく無防備なんだけど……。

逆にクロエと呼ばれていた少女の方が気が張り詰めているような気がする。

まるでこっちの瞬き一つ逃すまいとしているかのように、じっと俺とメアを観察している。

「俺はアベルと言います。こっちはメア、馬車にいるのが街で雇った御者のエリアさんです。それでその、俺達は……」

……どう言ったものか、少し悩む。

本音を言うと、多少強引にでも、状況を聞いた上で何と言うのか判断したかった。

領主の使者だと明かしてしまっていいものなのやら。

「……実はその、故郷のしきたりが嫌になって、逃げて来たもの同士でして。親戚が後を追いかけて来てたみたいなんで、少し辺境の方に逃げようってことになったんです」

「そうでしたか。それは、お辛い旅であったでしょう」

よ、よし、通った。

嘘は言っていない。

ただ、もう少しシンプルに旅の道中、でもよかったか。

ここがディンラート王国のあまりに端の端だから、何か理由付けが必要かと思い、やや言い訳臭くなってしまった感がある。

「……ラッセル村の方には寄りましたか?」

クロエが少し間を開けてから尋ねてきた。

ラッセル村、というのはラルクのいた方の村のことである。

や、やっぱりこれ、疑われてるんじゃ……。

「い、いえ……その……実は……」

「そうそう、パルガス村がどうなっているか、という話でしたな。話を途切れさせてしまいました」

何事もなかったかのように、ネログリフがさっきの話を突っ込んできた。

た、助かった。

まさか向こう側から助け船が入るとは思わなかった。 ありがとう爺さん。

ネログリフよりもクロエの方が鋭そうだ。

どちらかというと彼女を注意しておくべきかもしれない。

「…………」

クロエはやや不服そうにネログリフを見ていたが、すぐに俺とメアへと視線を戻した。

「実はこの村には、病魔が蔓延しておりましてな。たまたま布教に来ていた教徒が、病魔の元凶が村外れの森にいる悪魔だと知って、この村の領主であるラルク男爵へと助けを求めるために使者や文を送ったのですが、まるで返事がなく……」

……ん?

なんだか、どこかで聞いたことのある話なような……。

「教徒は村人共に山脈を越えてリーヴァラス国へと戻り、国境近くにいたワシへと助けを求めに来たのです。ワシはすぐさまパルガス村へと行き、悪魔を退治しました。しかしすでに村人の大半が病に冒されており、ワシが連れてきた教徒と看護の手伝いを行っているのです」

こ、これ、そっくりそのままマリアスと同じ手なんじゃ。

っていうか既に教徒が居座っている当たり、大分まずいんじゃなかろうか。

さっきの様子を見るに、十人や二十人なんて可愛い数じゃないぞ。

「どうしました? お連れ様の顔色が優れないようですが」

クロエが間髪入れずに突っ込んで来る。

メアがびくりと肩を震わせる。

「メメ、メアは別に、何でもないです……本当になんでもないです……」

まずい、俺がどうにか凌ごうとしても、メアの方からボロが出かねない。

「しかしラルク男爵の方からは、一向に何の便りもなく……。リーヴァラス国では邪教が蔓延し、そのため長らく内での争いを続けておりました。他国であまりいい印象を持たれていないことはわかっております。ですから使者を送るのであれば村の者に付いてきていただきたいのですが……病人が多く、先行した使者が帰って来ていない今では、それも難しいというのが現状です」

ネログリフが哀しげに言う。

……俺としてもリーヴァイ教はあまり信用できないので、ネログリフには悪いが否定しがたい。

と、とりあえず、状況を整理しなければ。

そもそもこの人、本当に四大神官なのか?

本物ならリーヴァイの召喚紋を身体のどこかに浮かべることができるはずだが、さすがに見せてくださいと直接頼むわけにもいかない。

こういうタイプはこういうタイプで扱いにくい。

掴みどころがないというか、ありすぎてどこを掴んだらいいのかわからないというか……。

「悪魔はもういないので、これ以上新しい病人は出ないはずですが……万が一、ということもあります。それでなるべく村の者にも、外出を控えてもらっておるのです。旅人方も、あまり長居しない方がよろしいかと」

……なんだか俺が想定していたよりも、ずっとややこしい事態に陥っているような気がする。

リーヴァイ教の思惑に絡んで、ハインとラルクの不仲が無駄に事態を拗らせているのではないだろうか。

できることならハインに話を聞きに行きたいのだが……リーヴァイ教が村を陣取っている今、それも難しいかもしれない。

「自分は治療魔術は得意なので、何かお役に立てるかもしれません。その……パルガス村の村長さんに、会わせてもらえませんか?」

「おお、それはなんともありがたい! ……そうですな。ずっと立ち話も、なんだと思っておったのです。ハイル村長のお屋敷へと向かいましょう。治療魔術を手伝っていただくという件についても、ハイル村長のお屋敷と教会堂を見てもらってから、話を進めるべきでしょう」

あれ……あっさり会わせてくれるのか。

な、なんだかそれはそれで肩透かしな気も……。