軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十三歳②

久々に狩りに付き添わせてくださいと言うと、父は大喜びしていた。

「まったく、今更調子のいい奴め。まぁ、よい。これからは魔術同様、狩りにも励むのだ」

口調は尊大ではあるが、声が弾んでいた。

わかりやすい人だ。

ジゼルの泣き落としと俺の結界のコンボにより俺の更生を諦めたかのように見えていた父ではあったが、この様子を見るにまだ心は折れていなかったらしい。

因みに今回の狩りの件は、ジゼルには黙っている。

ジゼルは今、母の買い出しに付き合って集落の広場へと行っている。

俺が狩りに行くと知ったら、私も行きたいと大暴れすること間違いない。

その点については父と話し合ってあれこれ意見は出たのだが、結局事後承諾でいいじゃんということに落ち着いた。

俺の前世ではこれを、臭いものに蓋をすると呼ぶ。

後のことは怖いが、なるようになるだろう。

父は物置から弓を取り出し、埃を払う。

弦を軽く指で弾いてから外し、新しいものを取りつけてから俺へと渡す。

どうやら弦が古くなっていたらしい。

それも当然か。

最後に俺が弓を持ったのは、もう数年ほど前になる。

「アベルよ。この弓は、お前が生まれた日に、将来必要になるであろうと思って俺が作ったものなのだ」

よほど俺に狩りの道を歩んでほしいらしく、父は念を押すようにそう言った。

俺もそう言われれば、ちょっと罪悪感が湧く。

やっぱりこの人は、今世の俺の父なんだよな。

これからは心を入れ替え、弓術や武術にも励もう。

前世も俺は魔術一辺倒で失敗したのだ。

せっかくの二度目の人生だ。前世の反省点を活かそう。

それに今の俺は、妹のジゼルにも殴り負ける。

実際殴り合ったことはないが、筋力値のステータス的に明らかである。

それはさすがに情けない。兄としての威厳がヤバイ。

魔術狂は返上し、これからは真っ当に生きよう。

俺は何度目になるかわからない決心をしたのだった。

今回の狩りは父の知人の家族、アーディー家と合同で行う。

筋肉質で髭面の男、ガリア・アーディー。

それからその息子、シビィ・アーディー。

シビィは気の弱そうな小太りの男で、俺の一つ下の十二歳である。

俺からしてみれば、どちらも儀式のときに何度か顔を合わせた程度の面識である。

「今日は久々に、アベルも狩りに出てくれるそうだ。アベルにはあまり狩りの経験がなくブランクもあるためかなり足を引っ張るかもしれんが、面倒を見てやってくれ」

そう言って父は、ガリアへとぺこぺこと頭を下げる。

改まってそう言われると、なんだか本当に申し訳ないように感じる。

なんせ、今の俺は筋力4である。

さっきオーテムを的にして久々に矢を射ってみたのだが、もう全然、びっくりするほど当たらない。

幼少からオーテムを作り続けてきたので、手先はかなり器用な自信があるのだが、圧倒的に筋力が足りない。

筋力がなければ飛距離はおろか、矢を真っ直ぐに飛ばすことさえできない。

「ご迷惑をお掛けすることとは思いますが、ご指導のほど、よろしくお願いいたします」

俺も父に並び、ガリアに頭を下げる。

「はっは、こうして見れば、しっかりした子じゃないか! いつもゼレが頭を抱えているから、もっとロクデなしかと思っていたが、俺の若い頃よりずっとまともだな!」

ガリアは笑いながら言い、自らの頬髭を撫でる。

それからシビィへと目を向ける。

「……へんっ、どうして俺がこんなのと」

シビィはそう言って小さく舌打ちする。

ぽちゃっとした野暮ったい一重瞼のいかにも気の弱そうな奴だと思っていたが、言ってくれるじゃないか。

今すぐ両拳で頭をぐりぐりしてやりたい念に駆られるが、今の自分の立ち場を考えてぐっと堪える。

シビィなぞ、ただのちょっと生意気な十二歳の子供だ。

これくらい笑って見逃してやればいい。

実際俺はかなり足を引っ張るだろうし、シビィとしては面白くないのだろう。

……それに筋力で大幅に負けていることが予想されるため、下手にこちらから喧嘩を吹っ掛けない方がいい。

頭をぐりぐりしようとしたら、地の上に叩き伏せられる危険がある。

「な、なんだよ、文句、あるのかよ」

シビィは言いながらも、俺と目が合うと顔を逸らす。

ああ、これは虚勢か。

外見のせいで気弱に見られがちだから、強めに出る癖がついているのかもしれない。

「いえ、シビィも、よろしくお願いします」

俺はそう言い、すっと手を出して握手を求める。

シビィは殴られると思ったのか、俺が手を出すとぴくりと神経質に肩を揺らした。

握手だと気付くと顔を赤くして顔を強張らせ、ぷいっと横を向いた。

俺はわざと表情を見せつけながら苦笑してやり、それから手を引いた。

シビィは俺の顔を見てぎっと歯を喰いしばる。

うむ、いい顔だ。

転生の差を舐めるなよ坊や。

「こら、シビィ! そんな態度はないだろ! ……ったく、悪いな、アベル」

ガリアがぽりぽりと頭を掻きながら、俺へと謝る。

よし、勝った。精神的に勝った。

俺はこう見えて負けず嫌いなのだ。

父、俺、ガリア、シビィの四人で集落を出て、森へと進んでいく。

「アベルよ。わかっておるだろうが、魔術は使うでないぞ。これは弓術や体力を鍛えるためのものでもあるのだ」

俺は弓術を鍛える意味はあまりないのだが、ここは変に喰い下がらずにおこう。

ガリアの前だと、父の顔を潰すことにも繋がる。

それに体力は鍛えておきたい。

「ええ、わかっていますよ、父様。だからほら、杖は置いてきたじゃないですか」

「いいな。いつも言っておるが、弓術は、我らがマーレン族の誇りなのだ」

そういえば族長様が言っておられたのですが、本来マーレン族は魔術で狩りを行うことを誇りとしていたそうですよ父様!

魔術の使えないものが弓を使っていたのですが、大きな戦争が終わったのを皮切りにどんどんとその比率が変動していって、その数が逆転したのはここ数十年の話なんですって!

族長様の前では絶対に弓術が誇りだなんてこと言わないでくださいね! 怒られちゃいますよ!

なんてことは口が裂けても言えない。

ちょっと言ってみたい気持ちはあるが、絶対に言えない。