軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三十話 錬金術師団⑫

「集まっていただき、ありがとーございます。此度は、あーし、リノア・リベルトの率いる、錬金術師団副隊の開発した新種の作物、オーテム瓜のお披露目をするため領主様にこの場を設けさせていただきました」

リノアが代表として前に出て、声を張り上げる。

リノアの挨拶に対し、領民達の反応はあまりよくはなさそうだった。

「副隊って……錬金術師団のお荷物を纏めて隔離しておくための隊じゃないのか?」

前列にいた小太りの男が、隣の男に確認するように言う。

「内情は知らないから何とも言えないが、団長であるはずのイカロス様の姿もないし……やっぱりなんか変だな」

副隊が邪魔者を隔離するための隊、というのは恐らく本当のことだろう。

ただしそれは『イカロスから見て邪魔者』を集める隊、という意味になるが。

リノア一派に成功の見込みの薄かった雲寄せの魔術を投げていたことからも、それは明らかである。

騒めきはどんどんと大きくなっていき、リノアの挨拶もどの程度まで聞こえているのか怪しいものとなった。

「――以上で、あーしからの挨拶を終えます」

リノアは途中から半ばヤケクソ君に言葉を続け、挨拶を終えた頃には苛立ちと不機嫌を表情に露わにしていた。

「おいイカロス様はどこだ! おい!」

「本当に、その作物は成果があるんだろうな! 結果が出るまでに時間が掛かると思っての大法螺だったら、ただじゃおかないぞ!」

リノアは再び一礼し、歩いて他の魔術師達の位置まで下がってくる。

「リノアさん、お疲れさまでした……」

「……それじゃあ予定通り、後はお願い」

ぐったりと疲れ顔のリノアに代わり、オーテム型鉢を抱えながら前に出る。

オーテムを地面に置く。

「これから見ていただくオーテム瓜は、環境さえ整っていれば、たったの一時間で実をつけるにまで至ります! 少々難点はありますが、とりあえず現状の危機を凌ぐには充分でしょう」

そう言った瞬間、さっきまで煩かった領民達の群れの一部が静まり返った。

その後ぼそぼそと噂話をするかのように、隣り合う者同士達で話を始める。

大声で文句を訴えていた者達も空気が変わったことに気付き、周囲の人に何があったのか、説明を求めていた。

恐らく、俺の言葉が聞こえていなかったのだろう。

「……今、なんて言っていた?」

「い、一時間で実をつけるって」

「一週間の間違いじゃないのか? そういう植物の話なら聞いたことがある。実が小さすぎて、実用性がないらしいが……」

少し静かにはなったが、それはほんのひとときだった。

すぐにまた声は大きくなっていき、内容も過激なものへと変わっていく。

「ふ、ふざけるな! そんな作物、あるわけないだろうが!」

「ですから、ないから作っていたのであって……」

「あの白髪、噂の魔術師じゃないか! 作ったって、お前が来てから数日じゃないか!」

「ほら、見てくださいよ俺の目の下! 隈作ってまで時間を惜しんで……」

「馬鹿にすんじゃねぞ!」

思わず反論してみたが、まるで効果がない。

向こうの数が多すぎて対処しきれない。

具体的に言い返そうと思った頃には、次の暴言が飛んでくる。

ラルクへの仕打ちでわかってたことだが、ここの住人あんまり行儀がいいとは言えないな。

不安な環境の中に閉じ込められていたのだから、ストレスが溜まっているのかもしれないが。

「やっぱりリングスさんの言っていた通りだ! 急にナルガルン討伐だの魔獣の間引きだのといい報告が増えていたのは、あのガキを担ぎ上げて俺達の不満を抑えつけるためのデマだったんだ! 今回の件も含めて、何か裏があるんだ!」

リングス……?

ああ、あの例の宣教師か。

叫んでいる男の周辺に目をやれば、慌てふためくリングスの姿があった。

「あ……いや、わわ、私はそこまでは……」

「どうしてですか! ここまではっきりしたなら、突き付けてやった方がいいじゃないですか!」

「お、落ち着いてください! 何の話なのか、さっぱりです! ほら……ね? しー、しー!」

リングスは媚びるような笑みを浮かべつつ、人差し指を唇の前に立てて必死に取り巻き達を諭している。

汗を垂らしながらパチパチとわざとらしくウィンクをして合図を送っていた。

胡散臭いとは思っていたが、やっぱり領主の悪口まで広めていたようだ。

ラルクも今のやり取りは聞き逃せなかったらしく、リングスの方面を睨んでいる。

領民のメンタルケアや水の配給など、領地の安定にも一役買っていたから布教活動を認めていたのに、裏で領主を貶めようと動いていたとなれば、大問題である。

今のが事実ならば、追放処分も生温いだろう。

俺はオーテム瓜の種を取り出し、オーテム型鉢の上に撒く。

これ以上は、暴動が起きかねない。

とっとと成果を目で見えるように示すことにしよう。

嘘だなんだと言っても、実際に目の前ですくすくとオーテム瓜が育てば認めざるをえなくなる。

「 হত্তয়া(育て) 」

俺が杖を向けると、オーテム型鉢のぽっかり空いた頭の部分から、どんどんと蔓が伸びていく

鉢を出て地面の上に垂れ、新たな葉ができ、それが目に見えて膨らんでいく。

今度こそ、領民達が一斉に黙った。

ある者は口を開けたまま、ある者は怒りで振りかざした腕を上げた姿勢で固まっている。

目の錯覚が、夢か幻か。

目の前で起こった光景が信じられない、認められないといったふうで、言葉を完全に失っている。

「と……こんなふうに、魔力で成長を促進させれば、あっという間に大きくなります」

沈黙に包まれていた広場には、思ったより俺の声がしっかりと通った。

まるで自分の声が大きくなったかのような錯覚さえ覚えたほどだ。

俺が言い終えると同時に、オーテム瓜の花が咲き始める。

「「「うおおおおおおおおっ!!」」」

絶叫とも取れるまでに大きな歓声が、領地に響き渡った。

叫び声が上がっている内にも、どんどんとオーテム瓜は成長を続けていく。

大きくなった花が、花弁を広げて周囲の草を喰らい始める。

「こんな調子で、自ら栄養補給と害虫駆除を行うこともできます」

「すげーぞ、なんだあの作物は!」

「作物と呼んでいいのか!?」

「世の常識が変わるぞあんなものが出たら!」

一転して賞賛の嵐である。

色々問題点がないこともないのだが、興奮状態にある領民達はその辺りには意識が向かないようである。

ベストな感じで事が進んだ。

「なんだこの馬鹿みたいに喧しい騒ぎはあーっ!!」

歓声を掻き消す怒声が、領民達の後ろから響いてくる。

領民達がその声に驚き、慌ただしく通り道を開ける。

その中央を、つかつかと壮年の男が歩いてくる。

イカロスである。

イカロスは顔を真っ赤にして青筋を立てており、激怒しているのは間違いなかった。

今まで自分に対し、下手寄りに振る舞って来ていたはずのラルクからの明らかな攻撃に、不快感を覚えているようだった。

ラルクがイカロスの動きを縛るため、わけのわからない仕事を押し付けていた、ということはもうお見通しのようだった。

自分に隠れて領民を集めていたと聞き、何らかの形で自分に害をなそうとしているのだと、勘付いたのだろう。

イカロスの後ろには、錬金術師団のイカロス派の魔術師達が続いてくる。

そうして、俺の傍まで真っ直ぐに歩いてくる。

いいだろう、この場で決着をつけたいのはこっちも同じだ。

「 শিখা(炎よ) 」

俺は杖を振り、オーテム瓜を焼き払う。

俺の行動に、領民達に動揺が走る。

「アベル……?」

メアが不安そうに声を掛けてきた。

「大丈夫だ。今はまだ、イカロスにオーテム瓜を見せるわけにはいかない」

イカロスを完全に落とすためには、手順を間違えるわけにはいかない。

老獪なこの男のことだ、正面から攻めても屁理屈をつけてひっくり返されかねない。

ならば先にイカロスからの攻撃を待ち、こっちが状況を変えてそれをひっくり返す、魔術でねじ伏せるのにはそれが一番手っ取り早い。

さすがのイカロスも、この大衆の前で言っていることを二転三転させては、権威も何もあったものではなくなるだろう。

「領主殿ぉ……今回の件、きっちりと説明していただきましょうか?」

イカロスが言えば、後ろについて歩いている魔術師が、手にした書類をひらひらと見せつけてくる。

あれがラルクがでっち上げてイカロスに渡した、仕事に関する書類なのだろう。

「この集まりが、一体なんなのか。随分と楽しそうだが、お祭りでもするのですかな? だとしたら、長年領地のために尽くしてきた俺を姑息な手段で疎外しようとするなんて、水臭いとは思いませんかな? 領主殿よぉ?」

わざとらしく領民を見回してから、領主を睨む。

瞳孔が開き、鼻が膨らんでいた。

完全にキレているようだ。

離れていても、怒気が伝わってくる。

イカロスはよく怒ったパフォーマンスをして会話のペースを取るとジャガーが言っていたが、これは恐らく素だろう。

「おや、おやおや、おやぁ……アベル殿ではないか、んん? また顔を合わせることになりましたなぁ?」

イカロスは背を屈めて首を曲げ、俺の顔を見開いた目で覗き込み、威圧して来る。

俺は無言のままイカロスの顔面を睨み返す。

領地の癌であるイカロスさえ仕留めれば、領地改革の達成へと大きく近づく。

長年好き勝手やっていたらしいが、イカロスにはそろそろ舞台から降りてもらおう。