軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十六話 魔獣被害⑨

「生きてる……はは、あの数の魔獣を相手して、俺達生きてるぞぉっ!」

「よかった、これでようやく、心置きなくアッシムへ帰れる……」

私兵団の人達は互いの無事を喜び合っていた。

今回の戦いで死傷者は出なかった。

魔獣の多くは逃げてしまったそうだが、それでもかなりの数が狩れた。

魔獣の間引きは大成功といったところだろう。

大分数を減らすことができたし、魔獣の生態異常の原因を狩ることもできた。

俺も大きな獲物が手に入ったので満足だ。

「負傷者は並んでくださーい。順に簡単に手当てしますから」

俺は近くの石に座り、私兵団の人達へと声を掛けた。

魔獣の死骸に囲まれてへたり込んでいた人達が起き上がる。

大男が手に持っていた斧を置き、代わりに倒れていた女を抱えて俺のところへと走ってきた。

他の人達もそれに続く。

大男は俺の前に座り、抱えていた女を丁寧に置く。

緩やかにウェーブの掛かった、長い金髪の女だった。

倒れていた場所を見れば、剣が落ちていた。剣士らしい。

彼女はどうやら、魔獣に腹を爪で裂かれたようだ。

幸い傷は内臓には達していない。

苦しそうにはしているが、意識はある。

「頼んで、大丈夫なのか?」

大男の言葉に俺は頷く。

メアからヒョットルを渡してもらい、中の水を傷口に掛ける。

魔法陣を浮かべて呪文を唱え、水に菌や土を洗い流してもらう。

「う、うう……」

傷口に触れた水の感触にに驚いてか、女が呻き声を上げる。

続いて血小板を固めて止血し、腹部の治癒能力を高める。

生命力を直接付加し、ついでに痛み止めの魔術も掛けておいた。

「あ、あれ……もう、動ける? 全然痛くない……」

女が身体を起こすと、様子を見守っていた私兵団の人達から「おおっ」と歓声が上がった。

「とはいえ、あまり派手に動かさない方がいいですよ。回復力よりも、身体に負担が掛からないことを優先しましたから」

「は、はいっ、ありがとうございます!」

地面に手をついて起き上がり、俺に頭を下げる。

「薬草も何も使わずに、魔術だけで止血と痛め止めまでできるのか! お前さん、魔術ならなんでもできるんだな!」

大男が嬉しそうに俺の背を叩く。

「き、基本だけですけどね」

「いや、俺も正直な、少し疑ってたんだ! ナルガルンをそんな、単身で倒せるわけがねぇって! だがさっきの魔術を見て確信した。確かに、ナルガルンがちょっと弱ってりゃ、上手く不意を突ければお前さんなら仕留めちまってもおかしくねぇ!」

「へへへ……いやぁ、ちょっとタイミング良かっただけですよ」

俺が照れ笑いしていると、その後ろで声を潜めて話している二人組がいた。

「……ダンテは、第一部隊だったな」

「例の首塚を見てないからあんなことを言えるんだ」

二人組は俺と目が合うと、慌てふためきながら凍り付いた笑みを浮かべ、カクカクとした動きで離れて行った。

……なんだか、不要な誤解を招いているような気がする。

その後も移動に支障が出そうな者の治療を続けた。

列が消化してから顔を上げると、クラークがいた。

髪や鎧は魔獣の粘液や泥に塗れている。

おまけに大王フォーグの口臭が移ったのか、鼻を摘まみたくなるほどに溝臭い。

眉は力なく垂れさがっており、目線はバツが悪そうに地へと向けている。

整った顔も、こうして見れば不甲斐なく感じる。

クラークは大王フォーグの舌に搦め取られていた。

俺が助けはしたが、その際に地に身体を打ち付けていた。

どこか骨に違和感があるのかもしれない。

立場からして俺に治療を頼みたくはなかっただろうが、それを理由に避けて帰り道で使いものにならなければ、それこそ笑い者というものだろう。

早速、数々の嫌味を言われた恨みを返せるときが来た。

まぁ俺は大人だから、そんな直接ぐちぐちと言うつもりはない。

たっぷりと余裕を持った態度で接してやろう。

それをどう受け取るかは本人の心次第というものだ。

「ああ、クラークさん、どこに怪我をしたんですか? それともフォーグの体臭の方でしょうか? ある程度は抑えられますけど、ここじゃあ素材不足ですし、完全に消せるのは村に戻ってからになりますね。あー、しばらくはそのままでいてもらわないと……」

「……俺が、悪かった。移動中の様子を見ていると、どうしても信じられなかったのだ。いや、信じたくなかったのかもしれない。自分達が手も足も出なかった魔獣を、あっさりと倒せた人間がいたなんてよ」

クラークは静かにそう言い、頭を下げた。

……なんか俺、凄い小さい奴になってないか。

「あ……はい、お気になさらず。えっと、とりあえず減臭措置だけ」

「村に戻るまではこのままでいさせてくれ、少し頭を冷やしたい。腕も具合は悪いが、この調子だと帰り道に魔獣との戦いで人手不足に陥ることはないだろう」

「いえ、でも……」

「……俺にも意地がある。これ以上、恥を重ねさせないでくれ」

「…………」

クラークはとぼとぼと歩き、俺から離れて行った。

背中が酷く小さく見えた。

よくよく考えてみたら、あの人普通にまともだったような気がする。

俺は自分の小ささを噛みしめながら、そっと杖を降ろした。

隊員達が休んでいる間、各部隊長が詳しい状況を話し合い、帰還ルートを決定していた。

「逃げた魔獣の行方は気になる。危ない奴もいたはずだ。今回通らなかったルートより、そちらの捜索を優先した方がいいのではないかと私は考えているのだが」

「俺が聞いた限り、逃げたのは山奥へ入って行ったのが多いようだ。あちらは下手に手を出さん方がいいだろう。今は兵達も疲れているし、遠回りになるルートは避けた方がいい」

ユーリスと第二部隊長であるコーカスが話している横で、第三部隊長マヤがうんうんと頷いて相槌を打っている。

三人とも仲がよさそうだ。

なんとなく、普段からああいう感じなんだろうなというのが想像できる。

「うーん、山はもういいんじゃないかな。今日が最後だって人も多いから……なるべく危険なことはさせたくないし……」

「確かに彼らの心情を考えると、これ以上は酷だな……。魔獣達も、あの脅えようを見るに、こちら側へ降りてくることもないか……」

マヤとユーリスが、私兵団の人達について話し合っていた。

私兵団の中に、近い内に私兵団を抜けて出身地へ一度戻りたいと言っている者が多いようだ。

私兵団の構成員の中には、元流れ者の冒険者が大半だと聞いている。

長々とナルガルンのせいで辺境地に縛られていたのだ。

帰りたいと思うのも当然だろう。

最後の大仕事も終えたし、今回の見回りで安全なルートも確認できた、といったところか。

……数少ないラルク側の人間だから、できればもう少し残っていてほしいような気もするんだけどな。

勿論帰りたい気持ちはわかるが、ラルクは元々いた領民から反感を買っても、流れ者の生活を保障してくれていたのだ。

領地を持ち直すには今が正念場だろうし、もうちょっと力を貸してあげてほしい。

冒険者支援所も機能していない今、一気にごっそりと出て行かれるとこの先不便も増えるだろう。

とりあえず私兵団は少数を残して解散し、冒険者支援所を復活させた方がいいんじゃなかろうか。

封鎖もなくなったわけだし、外部からの人間も来るはずだ。

私兵団の連中が他の街に宣伝してくれれば、ファージ領を訪れる冒険者も現れる。

人手不足も少しは解消されるだろう。

でもわざわざ他の領地ではなく、ド田舎のファージ領へ来てくれる冒険者がいるかどうかが……。

何か、冒険者寄せになるセールスポイントがあったらいいんだけどな。

案がないこともないのだが、実用化には魔術師の人手が必要だ。

それに怖いのは、戦闘要員の帰省だけではない。

今の状況だと、元からいる領民達が、後先考えず怒りに任せてファージ領を出て行くことも十分に考えられる。

魔獣騒ぎにはだいたいケリがついたわけだし、そっちの方も整えて行かないと、この先どうなるかわかったものじゃあない。

そのためには領民達の不満をなくすための、ファージ領の改革が必要だ。

具体的には干ばつや魔草問題の解決、それから制御できない我が儘組織である錬金術師団の解体か。