作品タイトル不明
十五話 魔獣被害⑧
魔獣の数が多すぎる。
この中から私兵団を避けながら確実に魔獣だけを狙うには、手段が限られてくる。
手っ取り早く指揮官であるハーメルンを潰したいところだが、まずは安全が確保できるまでは魔獣狙いで動くしかない。
となると、一体一体狙い撃ちして潰していくしかない。
「 হন(運べ) 」
俺の呪文に答え、腕の中に世界樹のオーテムが現れる。
俺は両腕でぶん投げ、宙を舞う世界樹のオーテムに杖を向ける。
「 পুতুল(人形よ) দখল(踊れ) 」
世界樹のオーテムが杖から出た光を受ける。
ここからが本番だ。
ちょっとばかり集中力を要する。
俺は自分の周囲を覆うように、十三の魔法陣を展開する。
増やそうと思えば十倍くらいいけそうだが、一発一発に絶対に私兵団を巻き込まないという精度を保証できるのはこの規模が限界だ。
世界樹のオーテムが光り、更に十三の魔法陣が展開される。
世界樹のオーテムには、俺の行動に反応して魔術を扱う術式を組み込んである。
世界樹のオーテムを起動したとき、内部に組み込まれている術式の一部を発動したのだ。
これにより世界樹のオーテムは、俺の魔術から現象の目標座標、魔力の位相をずらしてほぼ同時に再発動することが可能となる。
無論こっちはこっちで制御がかなり複雑だが、今の状況なら高精度の魔術の同時発動数を倍に引き上げることができる。
これは二重詠唱と呼ばれる技術で、一昔前のマーレン族の奥義であったそうだ。
相手の隙を突いたり、挟み撃ちしたりするのによく使われていたと、族長の書庫の書物には書かれていた。
制御が難しいため、どちらかというと陽動目的に用いられることの方が多かったらしい。
詳しい記述は残っていなかったため、俺が独自に蘇らせたものだ。
「 বায়ু(風よ) বর্শা হাত(槍を象れ) 」
俺が呪文を唱えると、世界樹のオーテムの口ががくがくと動き、俺の声を真似て復唱する。
「 বায়ু(風よ) বর্শা হাত(槍を象れ) 」
総数二十六の魔法陣から白い線が飛び交い、魔獣を貫いていく。
魔獣を貫いた風の槍はそのまま地面に突き刺さり、砂飛沫を撒き上げる。
「ギャァァァッ!」
「グォオオオッ!」
あちらこちらから魔獣の悲鳴が上がる。
「何だ、どうなってるんだぁ!?」
「今は何も考えるな! 一体でも多く魔獣を斬れぇっ!」
私兵団の人達も頑張ってくれているようだ。
今のところ、誰それがやられたという話は聞かない。
魔獣は皆、怯んでいるようだった。
『 আমি(我を) দেবতা(神と) প্রশংসা(崇めよ) 』
アシュラ5000が、動きの止まった魔獣を容赦なく刈り取って行く。
六つ腕が魔獣を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返しながら突進する。
まるでその姿は敵陣営を蹂躙する猛将のようであった。
あの後を続き、私兵団の連中が雄叫びを上げながら走る。
「どうにかなりそうだな……」
魔獣達の攻撃が止まった。
これでようやく、ハーメルンへの攻撃へ移れる。
『…………』
ハーメルンは、ぐるぐると回りながら空へと浮上していた。
暢気に笑っていた口を閉ざし、凄い勢いで遠ざかって行く。
「 বায়ু(風よ) বহন(運べ) 」
杖を振り上げる。
風が巻き起こり、ハーメルンの身体を搦め取る。
『 ওহ?(ア?) 』
魔力を帯びた風は、ハーメルンに纏わりついたまま急降下を始める。
どんどんと俺の許まで落ちてきた。
『 ওহহহহহহহ!?(アアアアアアッ!?) 』
「 শিখা(炎よ) এই হাত(球を象れ) 」
落ちてくるハーメルンへ杖を向けたまま、俺は魔法陣を六つ展開する。
合計六の炎の球が生まれ、一つずつハーメルンへと直撃した。
一撃当たるごとにハーメルンの身体から黒い靄が剥がれ、宙に消えて行く。
悪魔を構成している精霊が擦り減っているのだ。
六つ目が当たったとき、ハーメルンの一つ目玉が左右に裂けた。
悪魔の悲鳴が森に響く。
「 পুতুল(人形よ) পান(吸え) 」
俺は世界樹のオーテムに杖を向ける。
世界樹のオーテムの口が大きく開かれた。
ハーメルンがその中へと呑み込まれていく。
口の中から、黒い腕のようなものが数本伸びてくる。
恐らく口から逃れようとしているのだろう。
世界樹オーテムの口が無慈悲に閉じ、伸ばされた腕が噛み千切られた。
主を失った腕は、空気に混じるようにして消えて行った。
しばらくは世界樹オーテムの中で何かが暴れるように揺れていたが、じきに大人しくなった。
ハーメルンが消えると、魔獣達は何かを察したように散り散りになって逃げて行った。
アシュラ5000を先頭に、私兵団の連中が逃げる魔獣達を追いかけて行く。
「怯むなっ! 俺達には神がついているぞぉおおおっ!」
「うおおおおおおっ!」
……多分、恐怖と混乱のせいで過度の興奮状態にあるのだろう。
怪我をして残された隊員達が、冷めた目でその背を見つめていた。
「はぁ、はぁ……やっぱり、アベルはさすがですね」
メアが矢を握りながら、近くの木を背に座り込む。
メアも矢を連続で撃っていたせいで、かなり腕が疲労しているようだ。
それより、精神的な疲れの方が大きいのかもしれないが。
「アベルがあれだけ魔術を撃たなきゃいけなかったなんて……とんでもない悪魔ですね。そんなに頑丈だったんですか?」
「ん? いや、丁度いい感じに弱らせたくて、その調整に」
「えっ」
俺は世界樹のオーテムを抱き上げ、頭を撫でる。
「希少悪魔だぞ、倒すなんて勿体ない。ハーメルンはまだわかっていないことも多いし、研究のし甲斐がある。数を撃ったのは、本体を消滅させず、かついい感じに精霊を剥がして弱らせたかったからだ」
「弱点っぽいの割れてませんでしたか!?」
「そんなことはない。ハーメルン自体は本来、不定形の悪魔だし」
「悲鳴上げてましたよね!? メア、聞いちゃいましたよ!?」
餌は適当に俺の魔力をやっておいたら大丈夫だろう。
あまり力をつけられて制御できなくなっても嫌なので、細かく調整しながらにはなるが。
世界樹のオーテムに陣取られていてはこっちが困る。
他の入れ物……適当な瓶にでも押し込んでおこう。
俺は世界樹のオーテムを撫でながら、どんな名前を付けようかと考えていた。