軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十四話 魔獣被害⑦

俺が読んだ本では、ハーメルンについてこのように記述されていた。

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知性の薄い悪魔の中では、ハーメルンほど悪辣な性質を持つものはいない。

童の影か、黒い円の姿を取ることが多いとされている。

基本的に悪魔は魔獣の生態を操ることを得意とするが、中でもハーメルンはそれに特化している。

一番恐ろしいのは、魔獣を指揮し、霧を用いて冒険者達を奇襲することである。

悪魔を人間同士の戦争目的で使役することは、どの国でも暗黙の内に禁忌とされている。

それはハーメルンの存在によるところが大きい。

ハーメルンを用いれば、個人が国家に匹敵する戦力を、その土地に潜む魔獣を利用して容易に作り出すことができるからである。

アスピダ砦の襲撃は、そのことを全世界に広く知らしめた例である。

(引用:フォルク・フォークロア著作『悪魔と歴史』)

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童の影、円形の姿。

宙に浮かんで笑う悪魔の容姿は、本で見た記述と完全に一致している。

そして、認識阻害の結界の媒介である霧。

ハーメルンと考えて間違いない。

随分とレアな悪魔が出て来たものだ。

「撃てっ撃ちまくれ! あの不気味な奴を地に落としてやれ!」

ハーメルンに矢の嵐が飛ぶ。

ハーメルンは矢が当たった後、わざとらしく大きく舌を伸ばしたかと思うと、霧の中を渦を巻きながら大きく移動し、別の位置で再び元の円形にへと戻った。

「 হাসিহা-(キャハ) হাহা-(ハハ) হাহা-(ハハ) হাহা-(ハハ) 」

その後、口の中から矢の残骸を吐き出す。

「効いてないぞ、おい!」

「敵はたった一体だ! 怯むな、撃ち続けろ!」

いや、俺の予想だと、そろそろ来る。

俺はハーメルンはとりあえず無視し、周囲を見回していた。

霧に、大量の魔獣の影が浮かび上がった。

「ゲァッ!」「ゲア、ゲァッ!」

「グルァァァッ!」

「ブゴォ、ブゴオオオッ!」

霧から現れたのは、百近い数の魔獣の群れ。

完全に囲まれていた。

ホブゴブリン、オーク、ガルム。

中位クラス以上の魔獣がぞろりと揃っている。

それらの奥には、更に大きな魔獣の影が見える。

「グァァァァッ!」

赤い大熊や、毒々しい色の大鰐。

見覚えがないことを思えば、希少種か変異種だろう。

予想より遥かに多い。

いくらなんでも、規模が大きすぎる。

こんな人気の少ないところを、わざわざ待ち伏せしていたのか?

そもそもハーメルン自体にはそこまでの知性はないはずだ。

私兵団がここを通ることを知っていたとしか思えない。

この集合地点をピンポイントに狙い、それどころかすべての部隊が到着するのを待っていたのだ。

それはなぜか。

私兵団を壊滅状態に追い込むことが目的だとしか思えない。

進行ルートに弱い魔獣を配置し、私兵団の油断を誘っていた可能性まである。

事前に魔獣の間引き計画、総動員数を把握していなければ、こんな真似はできない。

間違いなく、ハーメルンを使役している精霊使いがいる。

そしてそれがここまで露骨であるということは、自分の存在が私兵団の面子に露見してもいいと考えているということだ。

つまり、それは、一人も帰す気がないということ。

崖壁沿いであり、面が少ないここで魔獣を引き連れて囲んだことからも、それは明らかだ。

「 হাসিহা-(キャハ) হাহা-(ハハ) হাহা-(ハハ) হাহা-(ハハ) 」

俺の考えを肯定するかのように、ハーメルンが無邪気さと残酷さの籠った笑い声を上げる。

「やっぱり、誰かに狙われてたのか……」

疑問は残るが、そう考えれば、これでもかというくらい災厄続きだったことの説明もつく。

人為的に引き起こされたものだった可能性が高い。

そうなると、かなり容疑者は絞れるが……今、そんなことを考えている余裕はない。

「なんで、なんでこんなことに! ここにくるまで、まったく魔獣の気配なんてなかったのに!」

「無理だ! に、逃げるぞ!」

「ほ、包囲の薄いところはないのか! 破って逃げるぞ」

「馬もないのにか! できるわけないだろ、馬鹿!」

「ならどうしろというのだ!」

完全に隊員達はパニック状態になっていた。

俺もこんな数の魔獣、生まれてぶっちぎりで初めてだ。

俺は自分で乗っていたアシュラ5000を蹴っ飛ばし、背後に着地した。

「行け、アシュラ5000!」

アシュラ5000は六本の腕を振り乱しながら、一直線に突っ切って行った。

噛みついてきたガルムの顎を粉砕し、ホブゴブリンを腕で巻き込みながら片っ端から踏み潰す。

敵の真ん中に突っ込むと、腕を伸ばしながら高速で回転した。

高速で回りながらも、的確に近寄ってきた魔物を掴んで回転に巻き込み、ミンチにしている。

魔獣の群れを大蹂躙し、包囲網に特大の穴を開けた。

血と魔獣の残骸が辺りに飛び散る。

『 আমি(我を) দেবতা(神と) প্রশংসা(崇めよ) 』

ついでに、アシュラ5000から思念を飛ばさせてみた。

魔獣達がアシュラ5000へと強く敵意を向ける。

魔獣の中には、薄っすらとながら精霊語を理解できるものも多い。

アシュラ5000の尊大な言葉は、いい感じに敵愾心を煽ってくれるはずだ。

「なんだあれは!」

「……天使?」

「どっちかというと悪魔じゃ……」

「違うっ! あの神々しさは神だ! 間違いない!」

「お、俺、助かるのか?」

「……あれ、ナルガルンを倒した奴が乗ってた乗り物じゃないのか?」

恐怖で狼狽えていた隊員達が、勝機を見て冷静さを取り戻しつつあった。

ユーリスは顔面蒼白で立ち竦んでいたが、周りの隊員達を見て、自らの頬を叩き、表情を引き締める。

「総員、あの木偶人形に続け! いいな、逃げても、追いつかれて殺されるだけだ! 木偶人形を援護しろ!」

……いや、退いててくれた方がありがたいんだけど。

「神に続くぞ!」

「うおおおおおっ!」

「俺はこの戦いが終わったら、ファージ領を出て妻の許に帰ると決めてるんだ! 子供も生まれてるはずなんだ! こんなところではまだ死ねないぞぉっ!」

まだパニック状態が抜けきっていない興奮状態の隊員達は、何ら疑うことなくユーリスの指示に従い、雄叫びを上げながらアシュラ5000を追いかけて行った。

崇められたお蔭か、なんだか普段より生き生きしているような気がする。

生前の悲願を果たせて本オーテムも満足だろう。

「うわぁあぁぁっ!」

後方から悲鳴が上がる。

魔獣の長い舌で絡めとられた隊員が悲鳴を上げていた。

「ヴェェェェエェッ!」

青緑の粘膜質の皮膚を持つ魔獣、大王フォーグだ。

通常のフォーグが大型犬サイズなのに比べ、大王フォーグは象並の身体を持つ。

舌の射程は、最大で十メートル以上にもなる。

「 বাতাস(風よ) ফলক(刃を象れ) 」

俺が杖を向けると、風が大きな刃となって直進する。

長い舌を切断し、同時に大王フォーグの身体を上下に分かつ。

背後に佇んでいた他の魔獣をも切断し、地面に大きな傷跡を残して土煙を上げた。

「あぐうっ!」

舌から解放された隊員が放り出され、俺の近くに腹這いになって落ちてきた。

クラークだった。

クラークは土と粘液だらけになっていた。

口をぱくぱくさせながら俺を見上げる。

……たまたまだけど、一応借りは返せたな。

次から突っかかってくることもないだろう。

「……この調子だと、ハーメルンを優先してる余裕はないな」

大王フォーグのように、遠距離攻撃を持つ魔獣も存在する。

ハーメルンを優先していれば、魔獣による被害者が増える一方だろう。

魔術で一網打尽にするにしても、これだけ隊員達が散っている今、どうしても巻き添えにしてしまう。

「魔獣を削りながら、隙を見てハーメルンを無力化するのが一番被害を抑えられるか」

俺はぐるぐると渦を巻きながら宙を舞う、ハーメルンを睨む。

「 হাসিহা-(キャハ) হাহা-(ハハ) হাহা-(ハハ) হাহা-(ハハ) 」

ハーメルンは、興味深げに大きな一つ目を俺へと向けていた。