軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

十一話 魔獣被害④

翌日、俺とメアは早速私兵団による魔獣の間引きに参戦させてもらうこととなった。

私兵団の面々に続き、二人並んで歩く。

今回の魔獣の間引きの参戦人数は、全体で五十一人だった。

一隊十七人の三つの隊に分かれ、各隊は前日に定められたルートで領地を見回りに動く。

今回の魔獣の間引きの予定はこうだ。

見回りの道中に魔獣を討伐、または避けながら動き、三隊は山沿いの崖壁前で合流する。

合流したらその場で情報を交換し合い、各隊の戦力を考慮して帰還ルートを定める、という流れである。

「つまり、今回は魔獣の討伐よりも調査が主なわけですか?」

俺が尋ねると、ユーリスが頷く。

因みに彼女、ユーリスは第一部隊の隊長である。

「ええ、そうです。魔法具で魔獣を早期発見し、安全第一で動くよう、他部隊の隊長にも命令していますから。無論、討伐するに越したことはありませんが、調査がメインであり、深追いは厳禁です」

……戦力が足りないから、下手に大怪我してほしくないってことか。

ナルガルン戦で負傷者が大勢出ているらしいし、その上、冒険者支援所が機能してないからなぁ。

ユーリスも、ナルガルン戦での傷が癒えていないのに無茶をして今回の魔獣の間引きに参戦したと、私兵団の隊員が話しているのを聞いた。

ユーリスがいないと私兵団全体の士気が低下するので、身体を引き摺ってでも出てこざるを得なかったのだそうだ。

冒険者支援所を今更動かしても、領主に反感持ってるあの領民達じゃ、素直に従ってくれるとは思えない。

領主も十分な報酬を与えられるほど余裕がないだろうし、どうしても冒険者と私兵団の待遇と比較されてしまうだろうから、下手に動かしたら余計な反感をくらうことまで考えられる。

私兵団の報酬は、領主の言っていた通り元流れ者達への生活支援の意味合いが強い。

同条件で新たに領民から兵を募る余裕はないだろうし、実質的な活動が同じでは、差を付ければ不満が募るのは避けられないだろう。

おまけに、協力を強要できるほど人望もない。

「そういえば、馬は使わないんですね」

ナルガルン戦では馬を用いていた、と聞かされていた。

俺は乗馬の経験はないから徒歩の方がありがたいのだが。

「……ナルガルンと対峙した馬が脅えてしまい、ほとんど使いものにならなくなってしまったのです。回復には、もう少し時間を要するかと。しかし魔獣の間引きも、先延ばしできる問題ではありませんから」

だろうな。

ラルクも言っていた通り、今はどれだけ魔獣がいるのか把握できていない状態だ。

ナルガルンがいなくなったことで、ファージ領周辺の魔獣がどう動くのかにも変化が出てくるだろう。

「もっとも、馬が必要不可欠となるナルガルン戦のような立ち回りを必要とするような戦いになることはないでしょうが……馬がなければ、魔獣に囲まれれば、死ぬしかありません。それを防ぐためにも、安全第一でしっかりと遠くまで確認する必要があります」

今回は魔獣の数と動きの把握に徹して、他の兵や馬が回復してから本格的な魔獣の間引きに移るということか。

そのときに馬使うとしたら、俺……参加できないな。

「あ……と、そういえば、ナルガルンの首と胴体の回収は?」

「申し訳ございません。運搬には時間が掛かることが予想されるため、今回の魔獣の間引きにより、領周辺の魔獣状況を把握した後に作業へ移るということになりました。問題がなければ、明日の昼までには、村の内部へすべて運び込める手筈ですのでご安心を」

「そ、そう……」

結構量あるんだけど……果たして、明日中に全部運び込めるのだろうか。

やっぱりこれ、伝えておいた方がいいよな。

「あの、実は、言いそびれていたっていうか、タイミングを逃していたっていうか……」

「む? どうしましたか?」

「あ……いや、やっぱり、後でいいです」

第二部隊が通るルートに、ナルガルンの亡骸があるし……その後に説明しよう。

口で言っても上手く伝わらない気がする。

メアは、遠視の魔法具だという筒を持って、嬉しそうに辺りを見回していた。

領主の前で興味を示したら、その場で即座に一つ譲ってくれたのだ。

「アベル、アベル! これ、凄く遠くまで綺麗に見えますよ! アベルもちょっと見ますか?」

「……メア、無理してついて来なくてもよかったんだぞ。今回は魔獣の動向を探るのが主目的とはいえ、万が一ってことがないわけじゃないんだし」

「メ、メアだって戦えますもん! ほら、アベルに作ってもらったシューティングワイバーンだってありますし!」

メアが身体を捻り、背負っている鶯色の弓を見せてくる。

……確かに上達してるとは思うんだけど、素人に毛が生えたようなものだからなぁ。

いざとなったら乗り物代わりにアシュラ5000を転移させて逃がすから、魔獣に囲まれるようなことはまずないと思うが。

「い、一度留守番したら、次からメア、ずっと置いてけぼりになっちゃいそうですし……。少しでもメア、アベルの役に立ちたくて」

メアは俯き、魔法具を持つ手を下に垂らす。

……気持ちは嬉しいんだけど、どれくらい危険なのかも見当がついていない状態だからな。

どうにもメアは、いつも余計な考えを抱え込んでいるように見える。

「……メア、やっぱりいらない子ですか?」

「い、いや、そこまでは言うつもりはないけど……」

「フンッ、ガキの馴れ合いで出てくるとは、俺達私兵団も舐められたものだな」

隣を歩いていた別の私兵団の男が、馬鹿にしたようにそう言った。

ユーリスが足を止め、男を睨む。

「クラーク、言葉を慎め。この方達は、ファージ領の英雄だぞ」

男の名前はクラークというらしい。

クラークは金髪の若い男だった。恐らく、二十歳前半程度だろう。

「隊長殿、先ほどから下手に出過ぎでは? 偶然、魔術の副作用で瀕死だったナルガルンを仕留めたと、それだけのことでしょう。本当だったら全部、俺達の功績だったのに……」

クラークは眉間に皺を寄せながら言い、それから俺を睨む。

「タイミングがよくて幸いだったな。俺達も、お前の強運に期待しておこう。ただし、領主様から持て囃されたからと、図に乗らないことだ。そこの女共々、出しゃばってくれるなよ」

「あん?」

さすがに少しイラッと来た。

確かに首の数は言いそびれたし、謙遜して適当に理由付けもしたが、こうも露骨に敵意を向けられると腹が立つ。

「クラーク!」

ユーリスが怒鳴る。

クラークは溜め息を吐き、俺へと向き直る。

わざとらしい笑みを浮かべながら、仰々しい動作で頭を下げる。

「言葉が過ぎ、失礼しました。たった一人でナルガルンを倒したと宣う、ファージ領の英雄様様」

その下げられた後頭部へ、ユーリスの裏拳が入った。

「ぐっ!? な、何をするんですか! だいたい、普通に考えたらわかるでしょう! あんなの、三人ぽっちでどうにかなるわけないじゃないですか! 死にかけだなんて言ってますけど、そもそも、すでに死んでたのかもしれませんよ?」

「アベル殿が運んできた、ナルガルンの首の切り口を見たか? 綺麗なものだったぞ。お前がそこまで言うからには、一太刀で首を落とす自信があるのだろうな」

「し、しかし……しかし……」

「もういい、黙れ。周囲を見てみろ、任務前にこれ以上士気を下げてくれるな」

クラークが周りを見ると、他の隊員達はそっと目を逸らした。

クラークが俺に声を掛けてきてから、第一部隊は気まずい空気が流れていた。

出発前にはあった、意気揚々とした雰囲気がすっかり損なわれている。

クラークは「うう……」と唸り声を漏らし、黙った。

その様子を見て、多少は溜飲が下がった。

今度機会があったら、ナルガルンの首を魔力で動かして、クラークの周囲を這いずり回らせてやろう。

「……ど、どうせ、すぐに化けの皮が剥がれる」

クラークが最後にそう捨て台詞を残してから、隊は再出発となった。