軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四話

「ようやく見えてきたな」

馬車から外を眺めると、遠くに建物が並んでいるのが目に着いた。

建物の前に麦畑らしきものが広がっていたが、雑草は生え放題で、肝心な麦は干からびて萎れているようだった。

「……結構まずいんじゃないのか、アレ」

閉鎖されている領地で、作物全滅は本当に滅びかねないと思うんだけど……。

あれが全部ではないのだろうが、だんだん不安になってくる。

思ったよりヤバイところに来てしまったのではなかろうか。

正直、このままUターンして見なかったことにするのも選択肢として考えておいた方が良さそうな気がしてきた。

領民を刺激しないよう馬車の速度を落としてもらい、ゆっくりと村へ近づいていく。

左右が畑……というより、雑草天国塗れになっている道を進む。

「これ……魔草の類だな」

先っぽが、緑のツクシのような形状になっている草が多い。

花枯らしと呼ばれる魔草に似ている。

同じ性質の草だとすれば、周囲の植物の魔力を奪い、我が物とする性質を持つ。

因みに得た魔力ですぐに大量の胞子を作って飛ばしてしまうため、花枯らし本体にはほとんど栄養はない。

なかなか厄介で強力な雑草だと、本で読んだことがある。

「そ、そこの者、何者だ! どこから、どうやってこちらに来た!」

前方から声が聞こえ、二人の女がこちらへと走ってきた。

声を掛けてきたのは、先を走っている短髪の女のようだ。

片足を引き摺りながらも、物凄い速さでこちらに向かってくる。

片手には、木製の模擬剣を手にしていた。

「ちょっとユーリス! 足、怪我してるんだから無茶しないで……」

俺は馬車から降り、ユーリスと呼ばれていた女へと頭を下げる。

「アベルと申します。訳あって、しばらくこちらの領地で暮らさせていただけないかと……」

「そっ、そんなことを聞いているのではない! いただろう? あの、三つ首の大竜が! なぜ、平然とここに……」

「倒しました」

「ふっ、ふざけるな! そんなわけがあるまい! 正直に吐け! 悪いが、戯れに付き合っているような余裕は、こちらにはない!」

俺はクイっと後ろを指差す。

少し遅れてアシュラ5000が走ってくる。

身体に縄を括りつけ、ナルガルンの三本の首を引き摺っている。

「…………」

ユーリスは黙って目を擦り、息を呑んで姿勢を正し、模擬剣を地面へと投げた。

「お、王都の使者でしたか、これはとんだ失礼を! 兵の方々はどちらに……」

「いえ、ちょっと実家と拗れてしまったので、しばらくこちらで匿ってもらえないかなと」

「…………」

ユーリスから情報収集しておきたかったこともあり、そこからはメアと共に馬車を降り、ユーリスに並んで歩くことにした。

因みにナルガルンの首を村中に引き回すと、何かの拍子に建物を潰しかねないので、村の外に置いてきている。

「……先ほどは、失礼致しました。私はユーリス、そちらの女はマヤです。共に領主様に仕え、日頃は魔獣の間引き等、領地の治安維持を務めています」

マヤと呼ばれた三つ編みの女は少し照れたように笑いながら手を振る。

ユーリスに比べて大分軽そうだ。

しかし……最初に出くわしたのが、まともにラルクの手先だったとは。

下準備が整うまで、ラルクに会うつもりはなかったんだけどな。

最初はむしろ、ラルクに反感を持っている人間と会いたかった。

「色々とお聞きしたいことはあるのですが……ひとまず、領主様に挨拶をしていただいてよろしいでしょうか? 領主様も、ナルガルンには頭を悩ませておりまして……さぞお喜びになることでしょう」

凄いナチュラルに領主のところに誘導された。

的確にこっちが避けたい部分を突いてくる。

「え……あ、ああ、うん。色々と忙しいでしょうし、別にそんな……」

「いえいえ、とんでもない! 領地の危機を救ってくださった方に礼を述べる以上に、大事な用事などございません! 遠慮なさらずに」

どうあっても引き合わせるつもりらしい。

ここはもう、巡り合わせが悪かったと諦めるしかないか。

下手に避ければむしろ尾を引くだろう。

それにいくら悪徳領主とはいえ、領地の恩人に妙なことはしない……と、思いたい。

「しかし、どうやってあのナルガルンを……その、本当に倒したのですか? あのナルガルンは……」

「生体魔術が仕掛けられていましたね。しかし、大分粗い作りの魔法陣で、発動すれば発動するほど本体に大きな負担を掛ける作りとなっていました。自分がトドメを刺したときは、ほとんど瀕死でした」

「……確かに、トドメを刺したときは瀕死でしたね」

「なるほど……あのとき、青首を落とした時点で大分弱っていたのか。無駄では、なかったのだな」

ユーリスは少し嬉しそうに言い、安堵の息を吐く。

「とと、すいません。私達が死力を尽くして敵わなかった相手を、たった三人で仕留めているとしたら、さすがに立場がないと思ってしまったもので……」

討伐を試みたことはあったようだ。

口振りから察するに、さっきまで態度に出してはいなかったが、大分気にしていたようだった。

悪徳領主とはいえ、貴族に仕えている身だ。

いや、むしろ、ラルクが悪徳領主だからこそ、立場を失くすような真似はまずいのだろう。

上手く顔を立てられたようでよかった。

俺も釣られて愛想笑いを浮かべたところで、メアがツンツンと控え気味に俺の肩を突く。

「どうした?」

「……あの首の束、見られたらどうするんですか?」

「……あっ」

首が切れたら身体能力が落ちるとはいえ、二十本近い首がゴロゴロしているのを見たら、一本や二本落ちたところでさして変わらないことは明らかだろう。

思いっ切り上げてから叩き落とす形になってしまう。

「何の話を……?」

「い、いえ、なんでもありません」

あの首……本当にどうしよう。

「そうですか? そういえば、御者の方は純ノークスのようですが……貴方方は、どこの国の出で?」

「ディンラート王国内ですよ。掟の厳しい田舎なもので、あまり集落から出ない人が多いそうですが」

「そうでしたか、失礼致しました」

やはり一目見てマーレン族とわかる人は、あまりいないようだ。

とうに滅んだことになっているみたいなので、それも当然か。

ドゥーム族はマーレン族に比べれば有名なはずだが、メアは額の魔力結晶がないのでわかり難いのかもしれない。

標準的な容姿を持ち、数も最も多いノークスは、特に種族の違いに疎い節がある。

さっきの質問も、どの種族か、というよりはどこの国出身か、ということを知りたかったようだ。

実際、出身国がこの国であることを明かしたら、すぐにその話題を取り下げた。

何か他国を意識しなければならないことでもあったのだろうか。

駄目領主に加えてナルガルンによる領地の封鎖、魔草による作物への被害。

おまけに他にも悩みの種を抱えていそうに見えて仕方がない。

よくもそこまで厄介ごとを抱えたものだ。

……この領地、やっぱり地雷だったんじゃなかろうか。