軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

とある集落の話5(sideジゼル)

数日の内、ジゼルの思惑通り、マーレン族の集落からアベル捜索隊が結成された。

カルコ家を退け、強固となった族長の権力を以てしても、ついに 香煙葉(ピィープ) 運動を鎮めることはできなかったのである。

日々人数が増えて行く 香煙葉(ピィープ) 常用者によるデモ活動はどんどん過激になっていき、狩りと儀式のストライキさえ噂されている程であった。

族長は予想外の事態に集落内での対立へと発展することを危惧し、早急に手を打たざるを得なくなってしまったのだ。

ただ集落の掟により、王族からの要請や集落の危機に関わること以外で、集落から出ることは禁じられていた。

族長が掟違反を先導することは規律の乱れへと繋がる。

そのため族長は今件の名目を、掟を破った者を連れ戻すことで集落の繋がりを強め、それと同時により掟の重要性を再認識するためと定めた。

実際、アベルは集落ですでに重要人物扱いされており、影響力も強い。

そんな者の掟破りを、野放しにはしておけない、そういう建前である。

族長は、決して 香煙葉(ピィープ) のためではないと、深く周囲へ念押した。

誰もその建前を特に気には留めていなかったが、 香煙葉(ピィープ) が 香煙葉(ピィープ) がと言うと族長がその度注意するため、上辺だけは皆アベルの身を案じ、 香煙葉(ピィープ) という言葉を発した者を皆で詰るというなんとも微妙な空気が流れつつあった。

アベルは集落の重要人物とはいえ、引き籠りがちで顔見知りもそれほど多くはない。

集落の大半にとっては、超優良 香煙葉(ピィープ) 製造マシーンという扱いであった。

「なんとしても、 香煙葉(ピィープ) ……じゃなく、集落を出たアベルを連れ戻すぞぉお!」

「「「おおおおー!!」」」

……アベル捜索隊員は、なぜか 香煙葉(ピィープ) 常用者が大半であった。

メンバーは十七人である。大人は男が十人女が三人の計十三人、成人の儀を迎えていない子供枠は四人である。

大人は全員 香煙葉(ピィープ) 常用者であった。

最重要責任者に押し上げられたアベルの父ゼレルートを筆頭に、どこぞの家の家長も数人紛れ込んでいる。

家長が長らく家を空けてしまうと残された家族は大変になりそうなものだが、近親婚の多いマーレン族では親戚筋の繋がりが強く、その辺りは上手くカバーできていた。

アベル捜索隊員の子供枠の四人はジゼル、シビィ、フィロ、リルである。

リルは、マーレン族の集落において代々占術を行って災害の回避や族長による取り決めの補佐を行う、リーフェル家の末裔である。

リルは物凄いインドア派であり物凄く嫌がっていたが、リーフェル家の占術は必ずや捜索に役立つはずだと背を押され、半ば無理矢理連れて行かれることとなった。

リルはまだ十三歳であり、リーフェル家としての力はそこまで強くはなかった。

しかし当主を集落から離すわけにもいかず、丁度いい位置にいたという理由で貧乏くじを引く羽目になってしまったのだ。

ジゼルは集まった面子を見て、シムの魔導書を抱き締め、嬉しそうに微笑んでいた。

「……兄様と会ったら、今まで寂しかった分、たくさん、たくさんお話しないと……。兄様は少し気が弱いところがありますから、私が怒っていないということをまず最初に伝えて、それからゆっくりと誤解を解かないといけませんね。それから、それから、それからそれから……ああ、一日でも早く、兄様のお顔が見たい……」

ジゼルは目を閉じ、最愛の兄との再会を瞼の裏に描き、頬を赤らめていた。

なんというか、これ以上悪化すると何をしでかすかわからない危うさを抱えていることは誰の目から見ても明らかであった。

シビィはアベルがなるべく早く見つかることを先祖の霊へと深く祈った。

「都会ねぇ……なーんか、恥掻きそうで嫌ねぇ。首飾りとかコートとか、派手なのを選んでごてにごてに着飾って行った方がいいのかしら?」

アベル捜索隊員の大人枠の一人が、ぽつりとそう零した。

それに対し、横にいた男が鼻で笑う。

「変に凝った方が恥を掻くぞ。我がミルド家に残る文献では、むしろ集落の外では簡素な服が好まれており、男はほとんど全裸の者が大半であると読んだことがある。毎日何かの儀式の如く着飾るのが普通など、都会のイメージの一人歩きに過ぎん。田舎者の発想だな」

「それ海人種のシーマじゃないの? ノークスはきっとそんな恰好しないわよ。ちょっと私、急いで装飾品を親戚からいくらか借りてこようかしら」

まるで団体旅行にでも行くかの様なノリであった。

早くもアベル捜索隊員の中に大きな意識の差が生まれ始めており、このことが後に本当にしょうもない諍いを生んで大幅なタイムロスを引き起こすのだが、今のジゼルがそれを知る由はなかった。

「…………」

フィロは全員のまとまりのない様を眺めながら、疲れ果てたように溜め息を吐いた。

昨夜、彼女の祖父である族長が『皆にはすまないが、ワシも行く』と言い始め、止めるのに親戚筋の人間一同で集まっての説得に掛かったのだ。

族長は大分前から自分も行くものだと自分の中で完全に決めて掛かっていたようで、止めるのにかなり苦労した。

フィロは空を見上げてから、そっとジゼルへと目をやった。

アベルが連れ戻されれば、十中八九、すぐにでもジゼルとの結婚式が行われることであろう。

そのことに上手く消化しきれない感情を抱え、首を振って頭から消し去ろうとした。

すぐにでも会いたいけれど、その反面、ジゼルには見つかってほしくない、複雑な心境であった。

それから一時間と経たない内に、アベル捜索隊は、アベルが向かったと予想されるロマーヌの街へと向かって出発した。

「兄様もきっと、ジゼルのことを恋しく思ってくださっているはずです! そうに違いありません!」

ある者は恋慕を、

「……う、うん、そうだね」

ある者は不安を、

「やっぱりこれ、目立ちすぎるかしら……」

ある者は都会コンプレックスを、

「………………」

あるモノは 邪(よこしま) を胸に抱き、外の世界への旅路に出たのであった。

……因みに、過激なデモ活動を扇動し、ありもしないストライキの噂を流していたのは、またもやカルコ家の家長ノーマンであった。

これ幸いと族長家の足を引っ張って失態を誘発させ、無理矢理カルコ家をねじ入れる隙を作って今度こそ権力を手にしようと儚い幻想を抱いていたのだ。

ファザコンであるノズウェルも、さすがにノーマンの今件の悪足掻き……もとい、最後っ屁には呆れて果てて嘆いていた。

ノーマンは、彼の頭が冷えるまでしばらく集落の離れにある洞穴にて閉じ込められることとなった。