軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三十二話 そして伝説へ①

ロマーヌの街襲撃事件から二日後、俺とメアは冒険者支援所の休憩室で新聞を広げていた。

記事に載っているのは勿論、あの魔術師マーグスのこと、それから我らが英雄ガストン様のことが大半であった。

マーグス・マグルノア。

ゾロモニアの杖を用い、平和なロマーヌの街を襲撃した魔術師の本名らしい。

領主の調べにより、犯罪者揃いのクゥドル教過激派魔術結社『アモール』の幹部を務めていた経歴を持つことがわかった。

『アモール』はクゥドル経典に独自の奇抜な解釈を持ち込み、クゥドル神を呼び起こして世界を支配しようと目論んでいるとの噂があり、複数国から危険視されている組織である。

これによりマーグスが当初想定されていたよりもずっと危険な魔術師だったことが判明し、マーグス討伐に対する報酬金額が定め難いこと、それから討伐者であるガストンの寛大な姿勢により、報酬金の引き渡しはしばし延期という状態になっている。

ゾロモニアの杖に関しても意図的に詳細が伏せられていることが多く、王都に送った伝令が返ってくるまでは報酬を渡すことが難しいらしい。

マーグスに関しても他の都市、もしくは国に護送し、そのときにまた謝礼金が発生するであろうということだった。

更にいえば、どうやらマーグスはロマーヌの他にも小さな村から大きな都市、様々なところで石化の呪いを振り撒いていたようだ。

ロマーヌ襲撃事件の同日、ロマーヌの街にポーグ(伝書の運搬用に調教された鳥)がやってきて、注意喚起の手紙が届けられたという。

石化の呪いが簡易のものであったため、術者であるマーグスが身体にダメージを負ったことによって、被害を受けていた他の村や街で石化していたものの呪いも解けることだろう。

それらを救ったという扱いになれば、英雄ガストンの名は、近い内に飛躍的にに広まっていくことになるだろう。

それに付随し、他の都市からも謝礼金は発生する可能性が高い。

領主がその影響力を意識したためか、ガストンは異例の勢いで昇級し、準A級冒険者へと大出世を果たした。

A、準A級冒険者は国内でも両手で数えきれる程しかいないという。

更にはこの調子で功績を積み上げて行けば、冒険者支援所の制度設立以来たった三人しかいない、伝説級冒険者として認定されるのも時間の問題だろうとまで書かれていた。

……ただ俺からして見たら、報酬金額が跳ね上がるのはいいが、一部でもいいからとっとと払ってほしい。

上がるだけ上がって何かの拍子に弾け飛びそうな気しかしない。

俺は新聞を畳み、メアの鞄へと入れた。

「そろそろ出るか。換金に来たガストンと鉢合わせしたら、しばらく人がごった返して動けなくなるし……」

「ですね……」

午前の内に適当な魔獣を仕留めて森の死角に集め、ゴードン兄弟にガストンを案内させて引き渡したところだ。

今日のノルマはもう終わった。

本音を言うと、前日の杖事件の報酬金が近い内にたんまりと入るはずなので、もう金儲けからは離れ、しばらくは魔術の研究に集中したい。

ゼシュムの浮遊要塞の残骸を加工できる職人を探したり、マギフォン(仮)の理論開発に本格的に着手したり、ホムンクルスの材料を買い漁ったり、魔術への条例規制の薄い田舎へ引っ越す準備を進めたい。

ただ、ガストンがそれを許してはくれなかった。

早く例の魔術師から俺の功績を受け取って来いだとか、そろそろ例の魔術師と俺を引き合わせろだとか、時に恐喝混じりに、時に懇願めいた調子で頼み込んでくる。

昨日ゴードン兄弟を経由してグランド・ボアを引き渡したときには、わざわざ後で俺のところに来て「あんなデカイだけの 豚(ボア) は俺様に相応しくないと、例の魔術師へ伝えておけ!」と怒鳴り込んできた。

なんかもう、面倒臭くなってきた。

「……そろそろこっそり夜逃げしようかな」

俺が言うと、冗談だと思ったのか、メアが苦笑した。

正直、半分くらい本気である。

席を立つと、メアが休憩所の奥へと目を向けた。

「あ! アベル、マイゼンがいますよ」

「せっかくだから、ちょっと声を掛けてから行くか」

「……でもなんだか、変な空気ですよ」

メアに言われて振り返ると、マイゼンが四人用机に座っているのが見えた。

例のドロドロカップル、リーシャとティーダに加え、一人の短髪の男がいた。

最近意気投合した男をパーティーに迎え入れるため、今度顔合わせを行うと言っていた。

恐らくあの男がパーティーの新入りで、今日は本当に加入させるかどうかを全員で話し合って決めているところなのだろう。

「真剣な話をしているみたいだし、今は止めておくか……ん?」

あの新入りの顔、どこかで見た覚えがある。

確か数日前、冒険者支援所で恋人連れでイチャつきながら歩いていたような……と、そこまで考えたとき、脳裏に記憶がフラッシュバックした。

短髪男とあのカップルの片割れの女、リーシャが施設の中で朝っぱらからキスをしている光景だ。

「…………」

……あれ、例の間男じゃね?

マイゼン以外の三人は無言のまま俯き、沈痛な表情を浮かべていた。

マイゼンもさすがに気付いてしまったらしく、顔を真っ青にして狼狽えている。

マイゼンは餌を求める稚魚のように不規則に口を開閉しているが、しかし何も言葉を紡ぐことはない。完全にパニックになっているようだった。

名前くらい、前以て知らせとこうぜマイゼンよ……。

奇跡的な確率で奇跡的な地雷を踏み抜きやがった。

「マ、マイゼン、私達のことを嵌めたのね!」

リーシャが机を叩き、立ち上がる。

最初こそ何言ってんだこいつ的な空気が漂っていたものの、今の状況に耐えかねそのストレスの矛先を誰かに向けたかったのか、ティーダがそれに便乗だ。

「こっ、こんな! こんな当てつけみたいなことしなくていいだろうが! なんだ、俺を馬鹿にしてるのか、おいマイゼン! 聞いてんのか!」

「い、いや、僕は……僕は……」

「ねぇ、何がしたかったの!? 本気で何がしたかったの!? 返答次第ではさすがに怒るわよ!?」

「ちが……!」

「ちょっと、一旦落ち着きましょう。俺がマイゼンさんと会ったのは、本当に偶然です。……それに悪いのは、俺ですから……何か言いたいのなら、俺に……」

「お前はそんなこと言える立場ですらないだろうが! 今すぐ斬り殺してやろうか!」

ティーダが鞘に手を伸ばすと、マイゼンが慌てて飛び掛かって手を止める。

その背に向かってリーシャが執拗に肘打ちを繰り出し、マイゼンが呻き声を上げる。間男が助けに入り、リーシャの手を押さえた。

「落ち着いて! 皆さん、一旦落ち着いて!」

「お前に言われると余計にムカつくんだよぉ! むしろ人の女取っといて、何ひとり落ち着いてんだテメェ! 自分は蚊帳の外みたいな顔しやがって! お前が元凶だろうが!」

「わ、悪かったとは思っていますが、でもリーシャさんから……だってまさか、恋人持ちだって!」

「意味わかんない! なんで私のせいにしようとするの? 本当に意味わかんない! サイテー!」

醜い争いが始まった。

他の休憩していた冒険者達が騒ぎを聞きつけて遠巻きに見物し、囃し立て始める始末。

「いいぞいいぞ! やっちまえやっちまえ!」

「剣を抜けぇ、男だろうが! 舐められて悔しくないのか!」

一瞬、マイゼンと目が合った。

俺は助けに入ろうかどうかを考え、俺のできることなど何もないという結論に至ったため、その場を去ることにした。

「……行こう、メア」

「で、でも、でもマイゼンが……」

「あいつも、こんなところを見られていたくはないだろう。次会ったときは、何も聞かないでやってくれ。そしてもしもあいつのパーティーが不幸な行き違いで解散するようなことがあって、マイゼンが困っているようであったら、そのときは俺達のパーティーに誘ってやろう」

「…………はい」

俺とメアが冒険者支援所の休憩所のエリアを出て、出入り口へと向かったとき……丁度、甲高い歓声が聞こえてきたところだった。

遅かった。ガストンが来てしまったようだ。

こうなれば、しばらくは出入り口が使えない。

俺は痴話喧嘩真っ最中の休憩所で待つか、ガストン信者の歓声溢れる受付前で待つかを天秤に掛け、後者を選ぶことにした。

マイゼンよ、強く生きてくれ。