軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

二十五話

イーベル・バウンから作ったアシュラ5000は、森の街寄りの方に埋めておくことにした。

下手に連れ帰れば大騒ぎになるし、俺が討伐したということはあまり知られたくはない。

俺がでっかい黒いオーテムを連れていたら、調査隊のアレンなら一目見てあのときの化け物だとわかってしまうだろう。

色とサイズだけではなく、御丁寧に顔まで似せてしまったのだから。

それに街に置いても保管の場所に困る。

この木の魔力なら、転移の魔術にも対応させられるので街の近くにあれば問題ない。

この距離感なら、街か森にいるときはすぐに呼び寄せられるはずだ。

俺は魔術で森に大穴を入れ、アシュラ5000を操って地下へとダイブさせる。

それからまた土を動かして穴を埋めさせ、魔術で土を強固にしておいた。

これで部外者が掘り出すこともまずないだろう。

「また呼び出すからな。そのときには、俺を助けてくれよ」

俺は目を瞑り、しゅっしゅっと腕で十字を切る。

「……まさかあの悪魔も、ボコボコにされた挙句改造されて地中に埋められるとは思ってなかったでしょうね」

メアは変色した地面を眺めながらそうと零した。

「さて、次はこいつがいくらで換金できるかだな。またイーベル・バウン討伐のレポートを頼むぞ、メア」

「任せてください! この前ウェゲナーさんの著作を読んでから、もう腕がうずうずしていて……」

ついにメアの中でウェゲナーがさん付けになったか。

……その内地の底まで沈みそうな気がするが、余計な口は挟まないでおこう。

俺はイーベル・バウンの根を水の魔術で洗って土を落とし、五つほどに切り分ける。

魔力解析で魔力の溜まっている部位を残して後は土に埋め、メアへと渡す。

メアは受け取ったイーベル・バウンの根を布に包んで仕舞い込む。

「……でも、これもガストンに渡しちゃうんですか。メア、もういいんじゃないかなって思うんですけど。いつかきっとバレますし、長くは続きませんよ」

う~ん……俺としては数年経ったらマーレン族の集落へ帰るつもりだから、そこまで長くは続けないし、どうにか持つと思うんだけどな。

帰るときに、貴族間との厄介ごとを集落に持っていく羽目になるのは絶対ごめんだし……。

ゴードン兄弟というガストンが余計なことをするのを防ぐための抑止力も得たし、破綻直前まではどうにか続けて行きたい。

金が溜まったら店でも構えてみるという選択肢もあるわけだし。

アシュラ5000を埋めてからはロマーヌの街へと戻った。

途中で休憩を挟んだり、足を吊りかけたりしながらもどうにか帰還する。

ロマーヌの街は、出発したときに比べて雰囲気が少し物々しかった。

街を出て行く人が妙に多いし、皆一様に表情が暗い。

通りかかった二人の男の話が聞こえてきたのだが、領主の私兵がボロボロで帰ってきたらしいと噂していた。

すでに悪魔のことが広まりつつあるようだった。勘のいい奴なら全容を掴み始めているだろう。

早くイーベル・バウンの根をガストン経由で冒険者支援所に渡し、街の皆を安心させてやらないとな。

……その前に、ちょっと休憩させてもらうが。

北門近くにある噴水の縁に腰を掛け、息を整えながら脹脛を擦る。

「アベル、大丈夫ですか? なんか、その、足が変な振動を起こしてますけど……」

「……ああ、大丈夫だ」

メアはズボンの裾を捲り上げた俺の素足を眺めた後、ゆっくりと手を近づけ、ぺたぺたと触れる。

それから袋を漁り、薬漬けにされたイッサ草の束を取り出す。

イッサ草は薬草の一種で、筋肉疲労を癒す効果がある。

湿布のようなものだ。俺の旅のお供である。

メアは丁寧に俺の足へと巻いていく。

右足に巻いてからは、左足へと巻いてくれる。

「ひゅう……ちょっとだけ和らいできた気がする。悪いな、メア」

「いえいえ! 少しでもアベルの助けになれてると思ったら、メア、すっごく幸せですから」

メアはにっこりと笑いながら言う。

「お、おう……」

そこまで言ってくれるのは嬉しいのだが、なんだか底の知れない不安を感じる。

なんというか、メアが十年後二十年後に幸せになってるビジョンがまるで見えない。

ロクでもない男に引っ掛かってそうな気がしてならない。

しかし、今日は好奇心のままに奥へ奥へと進んでしまったため、帰りが地獄だった。

プライドも何もかも投げ出してメアに背負ってもらおうかと割と本気で考えてしまった。

歩きすぎたせいかもう、変な頭痛とかもする。

おのれ、イーベル・バウンめ。

「アベル、脹脛だけで大丈夫ですか? 太股とかにも……」

「ああ、そっちに巻くのもいいかも……いや、さすがにここではちょっとな。宿に戻ってから自分で巻いておくよ」

「自分で……そ、そうですか……」

そこでがっかりされても……。

「あ! そ、そうです! じじ、実はメア、『キメラの尾』の店主さんに脹脛マッサージの方法を教えてもらったんですよ! 宿に戻ったらやってあげますね!」

メアが急に立ち上がり、少し大きめの声で言う。

急になんだと思って顔を見上げると、メアは表情を固めたまま、不安そうにじっと俺の目を見ている。

こ、これ断っちゃ駄目な奴だ。

「あ、ああ、うん。じゃあ後で頼もっかな……」

「は、はい! 任せてください! ぜ、絶対筋肉痛なんて一撃ですから! 絶対に!」

メアが捲し立てるように言った後、ほっとしたように安堵の息を吐く。

しかし脹脛のマッサージなんて、いつどの流れでそんな話になったんだ。

思えば最近、メアはよくあの魔女帽の店主のことを話題に出すような気がする。

俺の知らないところで親交を深める機会でもあったのだろうとは思うが、まさかあの店主、本気でメアの角を狙い始めたのではないだろうか。

メアの頭から角がなくなったら、真っ先に『キメラの尾』に乗り込むことにしよう。

メアが俺のズボンの裾を元に戻す。

……別にそれくらい俺がやるんだけどな。ちょっと恥ずかしいし。

さて、と。

宿に戻るより先に、ガストンを捜してみるか。

少数ながら街から逃げて行く人もいるみたいだし、とっとと知らせてやりたい。

ガストンがなかなか見つからなかったときのことも考えて、ガストンが倒したらしいという噂を撒いてみるのもいいかもしれない。

立ち上がったとき、ちょっとふらついた。

メアが大慌てで俺の腰に手を当て、身体を支える。

「も、もうちょっとゆっくり休んだ方がいいんじゃないんですか?」

「……あの、さ、今日の帰り道で思ったんだけど」

俺が喋り始めると、メアは口は閉じる。

「ひょっとして俺って、最近体力かなりつき始めてないか? ほら、結構出歩いているし……今日に至っては、かなりの距離を出歩いてたというか……。なぁ、そう思わないか?」

俺が興奮気味に話すと、メアから露骨に目を逸らされた。

「そ、そ、そうかもしれませんね……。メアも、そんな気がします」

そんなにわかりやすく反応しなくたって……。

あ、ああ、うん……。