軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

99 強くなりたいです

「ローラさん、大丈夫ですか? 怪我はありませんか!?」

「あ……大丈夫です。アンナさんが掴んでくれたので……」

地面に丸太ごと降ろされたローラは、心配そうに詰め寄ってくるシャーロットにボンヤリした答えを返す。

「ぴー」

ハクがほっぺをペチペチ叩いてきた。

しっかりしろということだろうか。

「ハク。ローラは疲れてるから、今は休ませてあげて」

そう言ってアンナはハクを持ち上げ、自分の胸に抱く。

「ぴぃ」

ハクは「なるほど」という顔で頷き、大人しくアンナの腕に収まった。

それからしばらく、その場所を動かずに休憩することにした。

魔力を使い果たしたローラは飛ぶことができないし、それどころか魔法全般を使うことができない。

とてつもなく気だるくて、丸太に縛られていなかったとしても歩く気にならない。

幸いにもタイムリミットまでは時間がある。

他の生徒たちが追いついてくる気配もない。

文字通りお荷物になったローラを無理に連れて行くより、回復を待った方が、この先を考えると最善であるとシャーロットとアンナが判断したのだ。

ローラは二人の判断に任せることにした。

魔力の枯渇が倦怠感となっているので、頭が回らないというのもある。

だがそれ以上に、完膚無きまで敗北した悔しさが、思考力を奪っていた。

最初の光球が飛んできてから撃墜されるまで、ほんの数秒の攻防だった。

その数秒をローラは何度も頭の中で思い返す。

どこかで別の選択肢を取っていれば、勝てないまでも撃墜される結末を避けられたのではないか。

その可能性を探すが、結論は何度やっても『撃墜は不可避』だ。

なにせ大賢者には圧倒的な余裕があった。

ほとんど遊ばれていたと言ってもいい。

ローラが何をやろうと、指先一つで潰されてしまうという予感しかしない。

あの技を出せていたら勝てたとか、こう立ち回っていたら勝てたとか、そんなわだかまりの残らない完膚無き敗北。

正直、何億回やっても自分が勝てるビジョンが思い浮かばない。

しかし、それでも。

いや、だからこそ。

闘争心が次から次へと湧き上がってくる。

勝ちたいのだ。負けたくないのだ。

その想いから逃げられない。

(シャーロットさんも、こんな気持ちだったのかな……?)

勝てない相手に挑むというのがどんなことなのか知らなかった。

今まで真剣に想像したこともなかった。

泣きたいほど悔しくて、諦めてしまいたいほど壁が大きくて、次にどうしていいのか分からなくて、立ち止まって今の場所に満足すれば楽になると分かっていて――ああ、それでも挑みたいのだ。

人類史上最強の魔法使い、大賢者カルロッテ・ギルドレア。

ローラ・エドモンズは今日、生まれて初めて『敵』というものを意識した。

きっと自分の人生は、あの人を倒すために費やされるのだろうと確信した。

「そろそろ、出発しましょうか」

撃墜されてから三時間ほどが経ったとき。

ローラは自ら休憩の終わりを進言した。

「……もう少し休んだら? 時間はまだまだある」

「そうですわ。ローラさんは魔力が完全に空になったのですよ? 丸一日寝込んでいたいほどの疲労感のはずですわ」

「いえ……今は、休んでいる方が辛いんです。何でもいいから、何かをしていないと……そんな気分です」

そう言ってローラは丸太を浮かび上がらせる。

もう魔力が戻ったよ、というアピールだ。

実際、無理をしているわけではない。

悔しさを煮詰めたせいか、撃墜された直後のダルさはもうなかった。

「なるほど……分かりましたわ。行きましょう。空からはもう無理なので、地道に歩いて山頂を目指しますわよ」

シャーロットはローラの想いを悟ったらしい。

そのことに触れず、今後の方針だけを述べたのがその証拠だとローラは感じた。

アンナも黙って頷く。

ハクはよく分かっていないという顔で、キョロキョロ見回していた。

山を登るにつれ、敵と遭遇する頻度が高くなっていく。

それはホーンライガーやミノタウロスの群れだったり、巨大精霊だったりと様々だ。

手足を使わず魔法だけで行動することを覚えたローラにとって、それらを倒すのは楽勝だった。

シャーロットとアンナも、丸太を担ぐ必要がないので身軽に対処できる。

だがそれでも、次から次へと現れる敵により、ローラたちの歩みは遅くなっていた。

もうすっかり夕暮れだというのに、まだ半分ほどしか登れていない気がする。

そして目の前には、氷の精霊や土の精霊が行く手を阻むようにズラリと並んでいる。

いや、前方だけでなく右にも左にも、更にいつの間にか後ろにも回り込まれていた。

さっき出てきた城のような大きさの奴とは違い、成人男性より一回り大きいくらいだ。

しかし数が凄い。合計で二百体を超えているだろう。

これを突破しないと、進むことも休憩することもできない。

「氷の精霊ならハクの炎で溶かせるんじゃないですか!? ハク、ちょっとやってみてください!」

「ぴぃ!」

ハクは気合いの入った鳴き声と共に、ローラの頭の上から炎を吐いた。

かつては魚をこんがり焼くのが精一杯だったハクの火力だが、今や教室の端から端まで届くような勢いの炎を吐くことができる。

その炎は氷の精霊たちに命中。

しかし溶けなかった。

周りの草木は燃え上がっているので、温度が低いというわけではない。

単純に、大賢者が召喚した氷の精霊が尋常ならざる保冷力なのだ。

「こんなときのための強化魔法です!」

ローラは自分の魔力をハクに流し、火力を底上げした。

すると炎は幅も長さも数倍になり、氷の精霊を見る見る溶かしていく。

「ハクを劇的に強化した砲台。名付けてハクゲキ砲です!」

「ぴー」

氷の精霊は一気に半分程度に減ってしまった。

余波で山火事が発生してしまったが、これはあとで消火すれば大丈夫だろう。

山火事のおかげか、残っている氷の精霊の動きが鈍った。

アンナはその群れの中に飛び込み、次々と斬り伏せていく。

本来は両手で扱うべき巨大な剣を、たくみな剣技と筋力強化魔法で操っている。

一見すると剣の重さに振り回されているようにも見える動きだが、狙ったところへ的確に刃を滑り込ませていた。

これなら、余った左手で二刀流ができるかもしれない。

「アンナさん。私の剣、使ってみますか!?」

「使ってみる」

「分かりました! 発射!」

ローラは手足を縛られているので剣を投げることはできない。

しかし腰にぶら下げた剣に飛行魔法をかけることにより、鞘から発射することに成功した。

剣は見事、アンナの眼前に突き刺さる。

アンナはそれを拾い上げ、くるくるとコマのように回転し、二つの剣で敵を斬りまくる。

あっという間に氷の精霊を全滅させ、次は土の精霊に襲いかかった。

「おー、格好いいです!」

「アンナさんには負けられませんわ!」

シャーロットも気合いを入れ、土の精霊へと走って行く。

しかし彼女は、攻撃魔法を使ってはならないというハンデを負っている。

さっきミノタウロスやホーンライガーと戦ったときは、筋力強化魔法でその辺の岩をぶん投げて戦っていた。

今回は何をするのだろうとローラが見ていると、シャーロットは妙な形の防御結界を広げた。

普通、防御結界というものは、自分の周りを球状に包むものだ。

だがシャーロットが作ったのは円錐。それもかなりの鋭角。

そんな防御結界の切っ先を土の精霊に向け、シャーロットは飛行魔法で加速する。

まるでランスを構えて突撃する騎兵のようだ。

もっともシャーロットの防御結界は、ランスより巨大で、騎兵より速い。

音速を超え、衝撃波で木の葉や枝を吹き飛ばし、土の精霊を複数まとめて貫通する。

回転のアンナと、直線のシャーロット。

二人は競うように精霊を蹂躙し、瞬く間に戦いを終わらせてしまった。

「おおー、凄いです……って、私の活躍がない!?」

自分が精霊を一体も倒していないと気が付き、ローラは愕然とする。

「うふふ、こういうのは早い者勝ちですわぁ」

シャーロットは自慢げに言いながら、魔法で雨を降らせてハクが起こした山火事を消す。

「ローラ、剣を貸してくれてありがとう。鞘に入れておく」

「これはご丁寧に……それはそれとして、ちょっとくらい私の分を残してくれてもいいじゃないですか!」

「ボンヤリしているのがいけないのですわ」

「むぅ……じゃあ次は私が全部倒しちゃいますよーだ」

今更モンスターや精霊を何体倒しても、大して修行になるとも思えない。

だが、何かしないと駄目だという焦燥感だけがつのる。

手足が自由なら、その辺を意味もなく走り回りたいくらいだ。

ローラがそうやって焦っていると、今度は巨人が現れた。

冒険者学園の寮は三階建てだが、それと同じくらいの大きさだ。そして目は一つだけ。

冒険者ギルドによってBマイナスに認定されている、サイクロプスというモンスターだ。

シャーロットとアンナに先んじるため、ローラは即座に動いた。

丁度ついさっき思いついた技があるので、サイクロプスには実験台になってもらおう。

まずは次元倉庫を開き、近くに転がっている大岩を〝向こう側の空間〟に送る。

そしてもう一度、次元倉庫を開けて、大岩を呼び戻す。

その際、元の場所に戻すのではなく、サイクロプスの目に向けて『発射』する。

ローラの身長よりも大きな岩が、風を切り裂いて一直線に飛ぶ。

大岩はサイクロプスの目を潰し、そのまま頭蓋骨を貫通して島の外まで行ってしまった。

「やった、成功です!」

地面を揺らして倒れるサイクロプスを見ながら、ローラは喜ぶ。

ガッツポーズをしたいところだが、縛られ動けないので、声だけで我慢だ。

「ローラさん、今のは何ですの!?」

「次元倉庫にしまった物を出すとき、見える範囲なら好きな場所を選べるので、それを応用して見たんですよ。高速で撃ち出すイメージをしてみたら、上手くいきました」

「でも、岩を飛ばすだけなら飛行魔法でもいいんじゃないの?」

「それはそうですが、次元倉庫から撃ち出すと不意打ちに使えます。なにせいきなり出てきますからね」

「それは確かに。今は正面から撃ったけど、敵の背後から発射したらえげつない」

「そうなのです!」

その辺に墜ちている物を弾丸として利用できるから、弾切れの心配がない。

逆にあらかじめ次元倉庫に弾を入れておけば、連射が可能だ。

槍などを発射すれば強いだろう。

「ローラさんがまた強く……わたくしも早く次元倉庫を使えるようにならないと差が開く一方ですわ!」

シャーロットは「ぐぬぬ」と呻いて拳を握りしめた。

今のローラは、彼女の気持ちがとてもよく分かる。

ローラもまた、大賢者に大して「ぐぬぬ」と思っているからだ。