軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

57 神獣の好物はオムレツです

大賢者いわく、ハクは雑食だから何でも食べるという。

「ではオムレツを食べさせましょう!」

ローラは食堂に向かう道すがら、腕に抱いたハクに、オムレツが如何に素晴らしい食べ物であるかを語って聞かせる。

「ローラさんは本当にオムレツが好きなのですわね」

「毎日同じものを食べてたら栄養が偏る」

シャーロットとアンナが呆れたように言ってくる。

そのあまりにも素人じみた意見に、ローラはやれやれと肩をすくめた。

「二人は何も分かっていませんねぇ」

卵は栄養たっぷりだし、中に入れる具を変えれば味のバリエーションも無限大だ。

この学園の食堂もその辺を分かっているらしく、オムレツの具は毎日変わっている。

ローラは一日一食は必ずオムレツを食べ、その味の変化を日記につけていた。

「けどローラちゃん。実際のところ、オムレツばかりは感心しないわよ。もっと野菜を食べないと」

大賢者までがオムレツに文句をつけてきた。

一体いつの間に世界は反オムレツ派で溢れかえってしまったのだろう、とローラの心は驚きで満たされた。

「いや、そんなギョッとした顔をしないでよ。文化的ギャップを感じるようなこと言った覚えはないんだけど?」

「だって学長先生。オムレツにはちゃんと野菜が入ってるじゃないですか。昨日はニラが入っていましたよ!」

「そうだけど、量が足りないわ。何でもバランスよく食べないと大きくなれないわよ」

大賢者は語ってから、ローラの頭をなでた。

大きくなれない。そのワードにローラは激しく反応する。

「……野菜を食べると大きくなれますか? 学長先生やお母さんみたいな、ナイスバディになれますか?」

「野菜だけでなく、お肉もお魚も卵も、何でも食べるのよ。そしたら大きくなれるわ」

「……分かりました! では今日はオムレツにサラダをつけましょう!」

別の料理を一品つけるなどオムレツに対する裏切りのような気もするが、しかしローラの成長のほうが大切だ。

オムレツには悪いが、別の料理に少し浮気させていただく。

「ちょ、ちょっと待ってくださいな! ローラさんは大きくなってはいけませんわ! 今の大きさが最も抱き枕として適しているのです!」

「そのとおり。ローラの成長は断固として阻止する」

シャーロットとアンナが意味不明なことを言い始めた。

「私は抱き枕じゃありません!」

「あら。口ではそんなことをおっしゃいますが、夜になればわたくしに抱っこして欲しそうな目をするではありませんか」

「うっ、それは……」

確かに、ローラはシャーロットに抱っこされて寝るのが好きだった。

そしてシャーロットはローラを抱っこして寝るのが好きである。

互いの利益が一致しており、大変良好な関係といえるだろう。

しかし、そのためにナイスバディを諦めなければならないとしたら……シャーロットとの夜の関係はここまで……いや、捨てきれるものではない。

シャーロットにムギュッと抱っこされる時間は、今やローラにとって欠かせない時間なのだ。

「……分かりました。私はもう……大きくなりません!」

ローラは悲痛な決意を秘めて宣言する。

するとシャーロットとアンナがガッツポーズをした。

「世界の平和が守られましたわ!」

「流石はローラの成長を止める会の会長。お見事」

そんな邪悪な会があったとは知らなかった。

「何をどうやっても、多少は背が伸びると思うんだけど」

大賢者が横で呟いていたが、シャーロットとアンナの耳には届いていないらしい。

二人は固く握手を交わし、勝利の余韻に浸っている。

そしてローラは、ちゃんと食べて大きくなろうと思い直した。

「ぴー」

「あ、ごめんなさい、ハク。お腹がすきましたよね。もうすぐ食堂ですよ」

「ぴぃ!」

食堂ではいつもどおり、オバチャンたちが仕事をしていた。

夏休みなので、いつもより人数が少ない。

しかし小規模とはいえ、こうして営業しているのがありがたい。

「オムレツとサラダを二つずつくださーい」

ローラがそう頼むと、オバチャンは「あいよ」と威勢のいい声を返してくれた。

だがローラが腕に抱いたハクを見て、「わっ」と後ずさる。

「ド、ドラゴンの赤ん坊!? なんだい、そんなものを校舎に持ち込んで。火とか吐かないだろうね!」

当然の反応だ。

何せ最強のモンスターと謳われるドラゴンである。

正確にはドラゴン型の神獣なのだが、食堂のオバチャンにそれを説明するのは困難を極める。

どうやってオバチャンを安心させようか、とローラが困っていると大賢者が横からフォローしてくれた。

「大丈夫よ。このドラゴンは大人しいから。私が保証するわ」

「学長先生がそう言うなら……ははあ、よく見ると愛嬌のある顔のドラゴンだねぇ」

「ぴー」

大賢者の言葉は、食堂のオバチャンにすら多大な影響力があった。

ハクは自分が話題の中心になっているのを知ってか知らずか、ローラの腕の中でリラックスしている。

そしてローラは無事、二人分のオムレツとサラダをゲットした。

シャーロットはハンバーグ。

アンナはカレーライス。

大賢者は山のような大盛りパスタである。

「ハク。オムレツは美味しいですか? 美味しいですよね?」

「ぴー」

ハクはテーブルの上に座り、器用に前脚で皿を押さえ、オムレツをもぐもぐ食べる。

その表情はとても幸せそうである。少なくともローラにはそう見えた。なにせオムレツを食べているのだから幸せに決まっているのだ。

「ローラちゃんもハクも、口の周りにケチャップが付いてるわよ」

「わたくしが舐めとって……もとい、拭き取って差し上げますわ」

シャーロットがナプキンでローラの口を拭いてくれた。

「……シャーロットに先を越されてしまった。仕方がないから私はハクの口を拭く」

「二人ともありがとうございます!」

「ぴー」

やがて全員が食べ終わり、そして今日一日、何をして遊ぼうかという相談を開始した。

相談には大賢者まで加わってきた。

これは素敵な一日になるぞ、とローラが胸を躍らせたのも束の間。

そこにエミリアがやって来て、空気に水を差した。

「ちょっと三人とも。遊ぶ相談もいいけど、夏休みの宿題は間に合うんでしょうね?」

「「「あ」」」

嫌なことを思い出したローラたち三人はガックリうなだれる。

大賢者は「あらまあ」と笑う。

とりあえず寮に戻って、自由研究ノートに『神獣の好物はオムレツです』と書くことにしよう。