軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

05 友達が欲しいです

「……ローラ・エドモンズ。九歳。特技は父に教わった剣です。槍も少しだけ母に教わりました。好きな食べ物はオムレツです」

魔法学科の新入生、三十九人。

その前に立ち自己紹介したローラはガチガチに緊張していた。

これが戦士学科ならまだマシだったのだろうが、ここは魔法学科。気分的には完全にアウェイ。

魔法使いの卵たちを前に、特技は剣と言い切るのは実に勇気がいる。

しかし事実だから仕方がない。

そして魔法のことは分からない。

過去に二度使用しただけだ。

あの変な装置は9999とふざけた数値を弾き出していたが、ローラの知ったことではない。

「あれが9999の子か……」

「あんな小さいのに、本当に凄いのか?」

「すぐに分かるさ。それに才能だけじゃ強くなれない」

「つっても9999だしなぁ」

あちこちからヒソヒソと声が聞こえる。

晒し者になった気分だ。

何とかして戦士学科に逃げ込めないものか。

「はい、皆。ローラさんの自己紹介が終わったところで、訓練場に移動するわよ。先生についてきて」

新入生三十九人。そこにローラを加えて丁度四十人が、廊下を一列になって、ゾロゾロと歩く。

訓練場は校舎の外にあった。

レンガの壁に囲まれており、生徒四十人と教師一人が入っても、窮屈には感じない。

天井はなく、青空がそのまま見える。

しかしローラは違和感を覚えた。

「……魔力で囲まれている?」

今までローラは、過去自分で使用した二回以外、魔法に触れたことがない。

しかし不思議と、この訓練場が魔力で作られた壁で覆われていることが分かってしまった。

「流石はローラさん。そのとおり。この訓練場はつねに防御結界でドーム状に覆われています。だから中で大爆発を起こしたりしても、周りに被害が及んだりしないから安心してね」

エミリアがそう語ると、生徒たちから「おお」と歓声が上がった。

防御結界とはそんなに凄いものなのだろうか、とローラは首を傾げる。

しかし、どうやら凄いのは防御結界ではなく、見破ったローラだったらしい。

「すげー! 一目見ただけで感じ取るなんて、どんな才能だよ」

「俺、全然分かんなかった」

「わ、私は少し違和感あったし! 時間をかければ防御結界だって見破れたし!」

「そりゃ時間かけりゃ俺だって……」

騒がしい。

というより照れくさい。

全員が年上なのに、尊敬の目差しを向けてくる。

これが剣技なら、今までの努力を認められたのだと誇らしい気持ちにもなれるが、今はなぜ褒められているのかすら分からない。

「はい、私語はそこまで。今日は皆の現時点での実力が見たいから。一人ずつ、的に向かって攻撃魔法を撃ってみて。炎でも雷でも何でもいいから。いい? 当てるのが課題。威力は無視していいから。じゃ、やりたい人から名前を名乗って順番にどうぞ」

エミリアはそう言ってから、パチンと指を鳴らした。

すると訓練場の奥に魔法陣が広がった。

何かが出てくる――とローラが予感した瞬間、魔法陣から炎が飛び出した。

その炎はうねり、人の形を作り、成人男性ほどの大きさとなった。

「おお……精霊の召喚だ……」

「先生、あんな若いのに……やっぱギルドレア冒険者学園の教師って凄いんだなぁ」

どうやらこれは凄い技のようだ。

だが、魔法の知識が皆無のローラには、全く伝わらない。

「あのぅ……精霊の召喚って何ですか?」

ローラは隣に立っていた少女に恐る恐る尋ねてみた。

彼女の年齢は十四歳くらい。この中では比較的若い。

金色の髪をグルグルと螺旋状にセットしていて、なにやら勝ち気な顔立ちをしている。

全員が規定の制服を着ているのに、彼女のだけ、なぜかフリルやレースが多い。

どうやら入学前に改造を済ませてきたらしい。

只者じゃない。

それでも歳の離れた者や、異性に話しかけるよりはまだ気楽だった。

「あらまあ。ローラさん、あなた凄い魔法適性を持っているのに、そんなことも知りませんの?」

「はい……その、私、本当は剣士志望で……魔法の勉強なんてしたことなかったから……」

ローラが正直に言うと、金髪の少女はムッとした顔になった。

まあ、気持ちは分かる。

ここにいる者は全員、一流の魔法使いを目指して来たはず。

そこに魔法に興味のない人間が混じっているのが許せないのだろう。

しかし、他にどう説明しろと言うのか。

ローラだってこんなことになるとは思っていなかった。

今朝までは期待で胸を膨らませていたのだ。

今は『やる気』の『や』の字もない。

「あら、そう! けれど勉強も練習もせず、才能だけでトップになれると思わないことね! 一年生のナンバーワンは……いえ、学園最強の魔法使いはこのシャーロット・ガザードですわ!」

「シャーロットさん、ですか。あの、気を悪くしたならごめんなさい。私はナンバーワンになれるとは思っていないので……どうぞご自由に」

「……ふん。張り合いがないですわ。ライバル意識を燃やして損してしまいましたわ」

シャーロットはローラに対する興味を失ったらしく、そっぽを向いた。

代わりに、別の男子生徒が親切に『精霊の召喚』の解説をしてくれた。

いわく、この世界には精霊という存在が充満しているらしい。

水も炎も雷も土も。光も闇も。ありとあらゆるものに精霊が宿っていて、その精霊に語りかけ、己の魔力を差し出すことにより奇跡を引き起こす。

それすなわち魔法。

そして高位の魔法使いは、精霊そのものを召喚し、自分の魔力を使って具現化し、使役することができる。

今、エミリアがやってみせたように。

「なるほど……召使いの凄いバージョンですね」

「まあ、そう言う解釈もありかな?」

教えてくれた男子生徒は微妙な顔をする。

どうもローラの解釈がお気に召さなかったようだ。

「私が召喚した炎の精霊が的よ。さっき威力は無視していいと言ったけど、思いっきりやって壊してもいいから。あと二十体は召喚できるわ」

「二十体、ですか……まあ、教師ならそのくらいできて当然ですわね」

そう言いながら、シャーロットは声を震わせていた。

きっと炎の精霊を二十体召喚するというのは凄いことで、シャーロットにはそれができない。だから悔しいのだろう。

と、予想は付くのだが、入学初日のくせに教師に負けて悔しがるとは、なかなか凄い神経をしている。

ローラはシャーロットに対し『変な人』と思ってしまった。

ところが、だ。

ふと自分に置き換えると、痛いほど気持ちが分かった。

予定通り戦士学科に入り、そこで教師に自分を遥かに超える剣技を見せつけられたりしたら。

悔しくて、その日は眠れないかもしれない。

(何だか急に、シャーロットさんのことが好きになってきた……!)

魔法学科に期待なんて一つもしていなかったが、彼女とは友達になれるかもしれない。

そう思ってニコニコしながらシャーロットを見つめてみた。

そして目が合う。

「……ふん!」

逸らされてしまった。

ローラは悲しくなり、肩を落とす。