軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

38 ヤケクソです

ローラの故郷は『ミーレベルン』という名前の町だ。

人口は二千人ほどで、これといった特産品はない。

ただ町のすぐとなりにあるミーレベルン湖がのどかで美しく、魚も豊富だから、観光業と漁業でそこそこ儲けている。

ミーレベルンへ行く馬車は、学園が手配してくれた。

ローラたち三人は無口な御者に馬車を任せて、荷台でお菓子を食べたり、おしゃべりしたりと快適に過ごしていた。

とはいえローラは実のところ、故郷に近づくにつれ緊張を高めていた。

なにせ父の頑固さはよーく知っている。

可能ならば言葉による説得で穏便に済ませたいのだが……おそらく無理だろう。

きっと戦いになる。

比喩ではなく、本物の戦闘だ。

しかし、それに勝利して父を黙らせたところで、それは説得に成功したと言えるのだろうか。

自分が魔法学科に通うことを、喜んでくれとは言わない。せめて納得してもらいたい。

そう切実に思うローラだった。

「ローラさん。そんな青い顔をしなさいでくださいな。大丈夫、わたくしたちが一緒ですわ」

「そう。きっと何とかなる。ローラは魔法学科に転籍になったけど、剣をやめたわけじゃない。ローラが剣と魔法を両立できるって、お父さんも分かってくれるはず」

シャーロットとアンナが左右から抱きしめてくれた。

それだけでローラは随分と心が安らぐのを感じた。

この二人は、自分たちにはまるで関係ない問題のために、貴重な夏休みを潰してローラに同行してくれたのだ。

嬉しくて涙が出るくらいありがたい。

この二人と一緒に過ごすためにも、退学なんて絶対に御免だ。

「二人とも、ありがとうございます。そうですよね、私、ちゃんと剣の修行も続けていますから。お父さんはきっと分かってくれます!」

ローラはさっきからずっと抱きかかえている剣に力を込める。

実家から持ってきた剣は、校内トーナメントの決勝戦で融けてしまった。

だからこれは、冒険者ギルド直営の武器屋で買った、安物の 両手持ち剣(ツーハンデッドソード) にすぎない。

しかし今のローラが強化魔法を使えば、どんななまくらの剣でも名剣に化ける。

それになにより、手元に剣があるということ自体が安心感を生んでいた。

「ところで、ローラの故郷までどのくらいかかるの?」

アンナが質問してきた。

「馬車だと、王都から丸一日くらいです。今朝出発したので、今夜は途中の村で一泊して、明日の朝に着く予定です。順調に行けば、ですけど」

「あら。トラブルが起きる可能性がありますの?」

シャーロットが不敵に笑いながら呟く。

「そりゃあ、いくら街道を通っているとはいえ、モンスターと遭遇する可能性はゼロじゃないので」

街道沿いは冒険者の手によって、集中的にモンスター狩りが行なわれている。

よって、街道でモンスターに襲われる確率は、道に迷って野垂れ死ぬ確率よりずっと低くなっている。

だが今ローラが言ったように、ゼロではなかった。

数年に一度くらい、不幸な商人や旅人がゴブリンなどに出くわし、荷物を捨てて逃げ出すという事件が起きている。

だから町から町へ移動する馬車の御者は、町中だけで仕事をしている御者と違い、戦闘の心得がある。

冒険者が副業で御者をやっているか、あるいは御者が副業で冒険者をやっているというパターンがほとんどだ。

学園が手配してくれたこの無口な御者は、Cランク冒険者らしい。つまりギルドレア冒険者学園卒業に相当する強さということだ。

冒険者はS~Gランクまであるが、Sランクは別格の存在だ。Aランクでも尊敬の眼差しで見られる。

Bランクで一流と呼ばれ、Cランクは中堅といったところ。

Cランク程度の実力があれば、街道の旅には十分な戦力といえるだろう。

もっとも――。

「いざとなれば、わたくしたちがドカンとやってしまえばいい話ですわ」

シャーロットは澄まし顔で語る。

アンナもこくりと頷いて同意した。

「まあ……仮にモンスターが出てきたとしても、このメンバーにとってはトラブルのうちに入りませんね」

御者には悪いが、ローラとシャーロットはCランクの冒険者など楽勝で勝てる。アンナも互角以上に戦えるだろう。

単純に戦闘力だけで考えれば、三人とも今すぐ学園を卒業してもいいのだ。

もちろん、学園では様々な知識を教えてくれるし、何より教師たちが強者揃いだから、教わることはまだまだ多い。

特に学長である大賢者。彼女の技はローラですら真似できないのだ。

大人たちから技術と知識を盗んで、もっともっと強くなりたい――。

そんな戦闘狂みたいな三人が、ケンカ上等でローラの父のところに殴り込むのだから、きっと凄惨なことが起きるに違いない。

それを思うとローラは、我が事ながら憂鬱になってきた。

きっと明日、自分は今の慎ましい気持ちを忘れ、父ブルーノに斬りかかったり魔法をぶっ放しているのだろうなぁ、と容易に想像がつく。

まあ、今から心配しても仕方がない――そう気持ちを切り替え、ローラは友人たちとの会話を楽しむことにした。

有り体にいうと、ヤケクソになったのだ。