軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31 シャーロットVSアンナ

ローラ・エドモンズは決勝からのみ参加するという、極端なシード枠。

そのせいで本来二回あるべき準決勝は、たった一つだけだった。

アンナは準決勝まで勝ち上がった。

そしてぶつかった相手は当然、シャーロットである。

お互い、相手を数秒で倒してきた。

よってトーナメントは驚くほど素早く進んでいる。

そしてどちらも本気を一切出していない。

特にシャーロットは、光の矢をぶつけたり、突風で相手を場外にしたりと、基礎的な魔法だけで戦っている。

しかし、山ごもりまでして身につけた技が、そんな単純であるはずがない。

そもそも、闘技場に現われたとき空を飛んでいた。

あれを試合でやられたら、文字通り手も足も出ない。

「考えてみたら、アンナさんと戦うのは初めてですわね」

リングの上で顔を合わせたシャーロットは、相変わらず余裕の笑み。

せめてこれを崩してやりたい。

「それはシャーロットがいつも一人で修行してるから」

「なるほど確かに。ではいい機会なので、一流剣士の太刀筋というものを見せてくださいな。今日戦った他の剣士は、歯ごたえがなさすぎました」

「私は歯ごたえありすぎて、歯が折れるかも」

「まあ、それは楽しみですわ」

試合開始を告げるタイコが叩かれた。

アンナはシャーロットの出方を待つ――ような真似はしない。

そもそも魔法使い相手に戦士が距離を取るのは不利だ。

その身体能力にものをいわせて距離を詰め、攻めて攻めて攻めまくって、魔法発動の暇を与えない。

それが対魔法使いの基本だと授業でも習った。

だが、今のシャーロットには通じない。

「意外と速いのですわね。驚きましたわ。本当はカウンターを決めて一瞬で終わらせようとしたのですが」

剣を素手で止められた。それも片手で。

おそらく防御魔法で手の平を覆い、筋力強化魔法で斬撃の重さを受け止めたのだ。

だが、二つの魔法を発動するのは集中力を使うはず。

アンナは試合開始と同時に突っ込んだのだ。

集中する暇など与えたつもりはない。

いや、むしろ剣筋を見切られたというのがショックだ。

今までは教師とローラ以外、誰もついてくることができなかったのに。

「アンナさん。戦いの最中に呆けていてはいけませんわよ?」

「っ!?」

シャーロットは空いている手を、こちらの腹に添えた。

アンナは反射的に、とぼしい魔力を筋力強化魔法から防御魔法へと切り替え、腹を守る。

それを待っていたかのように、爆発。

内臓がひっくり返るような衝撃で後方に吹っ飛ばされる。

前後左右も分からなくなりそうな状況の中、それでもアンナは辛うじて剣を放さなかった。

そして地面――と思われる方向――に刃を突き立て、何とか止まる。

足を降ろすと、そこはリングの端だった。

あとわずかで場外。

ギリギリ助かったと冷や汗をかく。

が、どうやらあまり助かったとは言いがたいようだ。

口の奥から熱いものが込み上げてくる。

その場にうずくまり、ゴボッと血を吐いた。

「流石はアンナさん。今のでリングアウトだと思っていましたが、本当にお強いのですね。どうします? 続けますか?」

シャーロットは試合開始から一歩も動かずにアンナを圧倒している。

この時点で実力差はいやというほど分かった。

しかし、まだ手足は動く。

勝負は最後まで分からない。

「……一つ質問。あなたは闘技場に来るとき空を飛んできた。なのに試合中に飛ばないのはなぜ? 舐めてるの?」

「はい。舐めています。だって飛ばなくても勝てますから」

びっくりするほど正直に言われてしまった。

もっとも彼女にはこちらを舐める資格がある。それだけの実力がある。

その自信につけ込めば、あるいは。

「ああ、しかし、これ以上試合を長引かせないでください。わたくしはローラさんと戦わねばならないのですから。今から少し攻撃を強くいたしましょう。アンナさんはそれでも続行の意志を崩しませんか? 続けるというのであれば、もう数秒だけ付き合ってあげますが」

シャーロットは笑う。

嘲笑ではなく、むしろ慈悲深い微笑みだった。

そして歌った。

歌うように詠唱した。

「雷の精霊よ。我が魔力を捧げる。契約のもと顕現せよ――」

バチッと弾ける音がして、リングの上に青白い光が走った。

稲妻がシャーロットの体から伸びている。

それは眩く輝き、闘技場の上空で人の形を形成し、こちらを見下ろした。

雷の精霊である。

客席から響めきがあがる。

学外からきた人たちの中には腰を抜かしている人もいるかもしれない。

なにせデカイ。

闘技場全てを覆い尽くすほどの大きさだ。

かつてエミリアがローラと戦ったときに召喚したものより、なお大きいかもしれない。

「返答や如何に?」

最後通告だと言わんばかりにシャーロットは小首を傾げて問いかけてきた。

「……降参」

自分は対戦相手に気遣われている。

その事実を突きつけられて、心がポキリと折れた。

はなから勝負として成立していなかったのだ。

この半月、シャーロットは何をやっていたのだ。

修行や特訓なんて生やさしいことでこの域には到らないはずだ。

「不思議なことは何もありませんわよ、アンナさん」

こちらの心を見透かすようにシャーロットは語った。

「このシャーロット・ガザードとあなたたちでは、努力という言葉の定義が違うだけですわ。半月努力をした。そう、わたくしは努力をしたのです。それ以外は何にもしていない。ただそれだけのことです」