軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

260 シャーロットの修行

放課後。

シャーロットは一人、大賢者を探して校内を歩いていた。

大抵いつも仮眠室で寝ているのに、今日はいなかった。

まあ、そんなこともあるだろうと思って見て回ると、屋上でようやく見つけた。

「学長先生。お昼寝もせず、何をしていますの?」

「もう。私がいつも寝てばかりみたいなこと言わないでよ。まあ、確かに人よりは寝ているかもしれないけど……」

「軽く十倍くらい寝ていますわ」

「そんなことはないわよ♪」

大賢者は笑ってから、

「ちょっと考え事をしていたのよ。過去のこととか、未来のこととか」

そう言って、首から下げた懐中時計を指でなぞった。

アルピナのことを思い出しているのだろうか。

あの人はシャーロットから見ても、強烈な人だった。

どんな形にせよ、まさか大賢者と同等の強さを持つ者が現われるとは思っていなかった。

そしてパニッシャー。

あの未曾有の大災害とも呼べるモンスターとの戦いで、シャーロットは何もできなかった。

ただアンナと二人がかりでドラゴンを一匹倒しただけだ。

それですら本来は快挙なのだが、すぐそばで大賢者、アルピナ、ローラの活躍を見せつけられたのだ。

自分を褒める気にはなれない。

だが、ただ無力感を植え付けられるだけの戦いではなかった。

シャーロットは自分が弱いことなど、とっくの昔に知っている。

いつだって、どうしたら強くなれるかを探している。

あの戦いでシャーロットには一つ収穫があった。

「学長先生。わたくしに反射の魔法を教えてくださいまし」

「反射? あれはかなり難しいのよ。シャーロットちゃんが頑張り屋さんなのは知ってるけど、頑張ったからって習得できるようなものじゃないのよ」

「分かっていますわ。分かっていますが、今のわたくしにはあれが必要なのですわ!」

パニッシャーの魔力は、恐ろしいものだった。大賢者、アルピナ、ローラの三人を合わせたよりも大きかった。

しかし、三人は力を合わせて、パニッシャーが放った光線を反射していた。

自分よりも大きな魔力を反射する。相手の魔力を使って攻撃する。

それが可能になれば、自分より強い者に勝てる可能性が出てくる。

おそらく、シャーロットの魔力がローラを超えることはないだろう。

それは受け入れなければならない。

その上で勝つ方法を模索する。

反射の魔法は、一つの答えのように思えた。

「……なるほど。そういうことね。いいわよ。付き合ってあげる。けど、本気で覚えようと思ったら、この辺じゃ無理ね。周りに被害が出ちゃうし……シャーロットちゃんの命がいくつあっても足りないわ」

「で、では!」

「まあ、落ち着きなさい。あれを使いましょう。あれなら何度死んでも大丈夫でしょ?」

シャーロットは最初、大賢者の言葉の意味が分からなかった。

だが、すぐに納得する。

ああ確かに、 夢の世界(、、、、) でなら、どうなろうと現実に影響はない。

「早速、今夜からお願いしますわ」

「ええ。私も楽しみにしているわ」

シャーロットの誕生日まで、あと十七回しか特訓の機会はない。

あまりにも少なすぎる。

それでも絶対に習得してみせる。

そして誕生日パーティーが終わったあと――。

そして夜。

シャーロットは大賢者から借りてきたマジックアイテムを頭の下に置いて寝ることにした。

「あれ? それって『クラウド夢枕』ですよね。誰とどんな夢を見るつもりなんですか?」

ローラは当然の疑問を口にする。

「それは秘密ですわ。夢の中で秘密の特訓をするのですわ」

「えー、そんなこと言わないで教えてくださいよ」

「親しき仲にも秘密ありですわ」

「むぅ……まあいいです。どうせ誕生日に向けての特訓なんでしょうから。当日になれば何をしていたか分かるというものです」

「そうですわ。そのときになってからのお楽しみですわ」

そしてシャーロットは目を閉じる。

寝付きはいいほうなので、すぐに夢の世界へと入り込めた。

大賢者から借りてきたこのクラウド夢枕は、クラウド夢枕を使っている者同士で同じ夢を見ることができるという不思議な道具だ。

たんに同じ夢を見るというだけなら、クラウド夢枕以外にも、そういう魔法を使うという手がある。

しかしクラウド夢枕には、夢の設定を細かく決めることができるという利点があった。

「……あの真っ暗な空間ですわ」

シャーロットは枕が作り出す夢の世界で目を覚ました。

夢なのに目覚めるというのも妙な話だが、とにかく目覚めたのだ。

そこは上も下も右も左も、全てが真っ暗な何もない場所。

以前もここに来たことがある。

「シャーロット様。ようこそいらっしゃいました。毎度おなじみ、クラウド夢世界の管理者です」

聞きやすく美しい声がどこからともなく聞こえてくる。

「お久しぶりですわ。学長先生も夢の世界にいますの?」

「はい。カルロッテ様は何時間も前からお待ちです。ちなみに今回の夢は、死んだらその場で復活します。いちいち現実に意識が帰ったりはしません」

「つまり実質、夢の中では死なないということですの?」

「はい。ただし痛覚はそのままなので、首をはねられたり心臓を貫かれたりしたら痛いですよ。現実なら即死するような傷の痛みを味わうことになるので、精神が壊れないよう、気をつけてください」

それは気をつけてどうにかなるものなのだろうか。

だがシャーロットは、ド根性を出すことに関しては誰にも負ける気がしない。

根性があれば何とかなるはずだ。

「それでは、カルロッテ様のところに転送します。よろしいですね?」

「ええ、お願い致しますわ」

答えた瞬間、景色が切り替わった。

そこは学校の教室だった。

シャーロットは自分の席に座っていた。

さっきまで着ぐるみパジャマだったのに、制服に替わっている。

しかし他の生徒はいない。

静まりかえったシャーロット一人だけの教室だ。

と、不意に。

扉が開いて、大賢者が入ってきた。

「はぁい、みんな~~。学長先生の特別授業の時間よ~~」

などと言って教壇に立つ大賢者。

「それじゃあ、まず点呼を取ります。シャーロット・ガザードさん」

「……はい」

とりあえずノリに付き合ってやることにし、返事をする。

「はい、全員いるわね。遅刻した子がいなくて優秀なクラスだわ」

「学長先生! わたくししかいないのですから当然ですわ!」

「うふふ。ごめんごめん。でも今から『反射魔法の授業』をやるんだし、ここは教室だから、形式は大切でしょう?」

「そういうものですの?」

「あと。私って教壇に立たないじゃない? だから点呼取ってみたかったのよね」

「はぁ……まあ、いいですわ。それでしたら形だけでなく、しっかり授業をしてくださいまし」

「もちろんよ。ただ、その前に。最後の確認よ。ローラちゃんでもなく、エミリアでもなく、この私に教えを請うってことは、甘々なのじゃなくて、厳しいのを望んでいるのよね?」

大賢者は微笑みながら問いかけてきた。

それを見てシャーロットは、怖い、と思った。

いつもの彼女は本当に優しくてノンビリした人だが、こと『戦い』『強さ』などが絡むと、急に別人のような顔が見えてくる。

いつもと同じような微笑みなのに、どこか違う。

妥協を許さない厳しさが見え隠れする。

逆にエミリアは普段は厳しいが、いざとなれば甘さが出る。

まっとうな授業を受けるならエミリアだが、シャーロットが欲しているのはまともなものではない。

「……ええ。もちろんですわ。学長先生。遠慮など微塵もいりませんわ!」

「結構。ま、シャーロットちゃん相手に愚問だったわね。それじゃ、始めるわよ。今からあなたに攻撃魔法を撃つわ。反射しなさい」

刹那、大賢者の指先が輝き、シャーロットの右肩を光の矢が貫いた。

「っ!」

シャーロットは痛みで呻き、肩を押さえる。

だが、すでに傷は塞がっていた。

なんと大賢者は、攻撃すると同時に回復魔法も放っていたのだ。

「あら、どうしたのシャーロットちゃん。全然反応できてないじゃない。今から撃つって宣告してあげたんだから、反射できなくても反応くらいはしてね」

大賢者は微笑んだまま淡々と言う。

口でコツを説明するようなこともせず、いきなり実践。

言葉で聞いて頭で理解したつもりになるより、肌で感じて体で覚えろという思想。

そうでなければ真剣勝負の場で使い物にならない――ああ、シャーロットにもよく分かる。

とはいえ、撃つと言ってから一秒もせずに撃つとは恐ろしい。

こちらの心の準備などお構いなし。

……いや。違う。

大賢者はまず、シャーロットの覚悟を問いただしたのだ。

それに頷いた時点で、授業は始まっていたのだ。

そこから更に「撃つ」と言ってくれたのだから、甘すぎるほど甘い。

なのにシャーロットは何もできなかった。

まだ厳しくするに値しないと言われているような気がした。

「悔しいかしらシャーロットちゃん。悔しかったら頑張ってね」

「心を抉られるようですわ……」

「だって厳しくしてって言われたから。手加減してあげるのがシャーロットちゃん的に一番堪えるでしょう?」

「まさかそういう厳しさで来るとは思いませんでしたわ!」

また大賢者の指が光る。

今度こそ反射してみせようと、シャーロットは魔力障壁を張る。

が、光の矢はそれを素通りして太ももを貫通した。

「くぅ……」

「今度は見えてたみたいだけど、そう簡単にはいかないわよね。反復練習は全ての基本。しばらく続けるわよ」

「望むところですわ!」

そうして一時間ほど続けると、シャーロットは立ち上がれないほど疲弊してしまった。

傷は撃たれたそばから直っている。

しかし連続した激痛で、気力がすり減ってしまったのだ。

「いったん休憩よ、シャーロットちゃん」

「い、いいえ……まだやれますわ……」

すり減りながらも、それでもシャーロットは立ち上がろうともがく。

「いいから休みなさい。座学にしましょう。反射の魔法とはなんなのか」

結局、口頭でそれを説明するんかい! とシャーロットはツッコミをいれたくなったが、大人しく聞くことにした。

「効果としては単純。敵が撃ってきた魔法を反射して、可能なら敵に当てる。これが成功すれば敵の魔力で敵を攻撃することが可能ね。最小の労力で最大の効果。けれど、これがとても難しい。なぜかしら?」

「……大きな魔力を反射するには、それ相応に大きな魔力が必要だから……ですの?」

「うーん、違うわね。確かにパニッシャーの光線を反射するのには、とんでもなく魔力を必要としたわ。でも、反射するのに必要な魔力は、光線の三割以下だった。そして私がさっきまで撃っていた光の矢に込められた魔力なんて微々たるもの。あれの三割くらい、シャーロットちゃんなら余裕で出せるわ」

「つまり、わたくしにできないのは技術的な問題というわけですね?」

「そう。ではどんな技術が必要なのか。それは相手が撃ってきた魔法を正確に見極めること。どんな属性なのか。拡散型なのか集中型なのか。まっすぐ飛ぶだけなのか、追尾式なのか。込められた魔力の量は? 波長は? そういったものを全て把握して、逆位相の魔力をぶつけてやる。これが反射の魔法よ」

「……そんな細かい分析を一瞬で行いますの?」

「ええ。とはいえ撃たれてからじゃ間に合わないから、撃たれる前に。相手が魔力を集中して、魔法を放とうとしている段階でおおよそを読み取れるようにならなきゃ駄目。こればっかりは、何度も繰り返して練習するしかないわね。シャーロットちゃん、教えてないのに、さっきから私の魔力の流れを目で追っていたでしょう?」

「なんとなく、そうしたほうが上手くいくと思ったのですわ」

「あなたのやったことは正解よ。あとは上手にできるようになるだけ」

「なかなか難しいですわ……冬休みに一度だけ成功しましたのに……」

「あら? マグレとはいえ凄いじゃないの」

大賢者は目を丸くして感心した。

「ローラさんが投げた雪玉を反射しましたわ。やはり、わたくしは天才なのですわ!」

「雪玉を反射? それは変ね。飛行魔法で雪玉を飛ばしてるなら、それに干渉して反射することもできるけど、ただ投げただけでしょ。原理的に反射できないわよ」

「そ、そうは言っても、現に反射したのですわ!」

「何かの間違いじゃないの? シャーロットちゃんのおでこに当たって跳ね返ったとか……」

「違いますわ! ちゃんと体に触れずに反射したのですわ!」

大賢者がなかなか信じてくれないのでシャーロットは涙目になって訴えた。

すると大賢者は「うーん」と顎に手を当てて唸る。

「シャーロットちゃんの変なオリジナル魔法、何て名前だったかしら? 次元倉庫を半端に開いて空間を歪ませて攻撃をそらすあれ」

「変とか言わないでくださいな! ゴージャス・シャーロットによる華麗なるディメンション・バリヤー! 略してディメンション・バリヤーですわ!」

「略しても長いわね……で、そのディなんとかバリアー、無意識のうちに使ってなかった?」

「そんなことはありませんわ……よ?」

シャーロットは断言してやるつもりだったのに、言っている途中で声が小さくなってしまった。

「自信なさげねぇ」

なにせディメンション・バリヤーは、シャーロットの必殺技だ。

空間ごと歪めることにより、原理上、どんな攻撃でもそらすことができる。

ディメンション・バリヤーを突破するには、同じく空間に干渉する魔法を使う必要があるという強力な防御技なのだ。

防御なので実際は必殺できないのだが、格好いいので必殺技と呼んでいる。

とにかくお気に入りの技だった。

よってシャーロットはこの技を練習しまくっている。

戦闘中、どこから不意打ちが来ても発動できるように。

だから飛んできた雪玉をそらすため、無意識のうちにディメンション・バリヤーを使ってしまったというのも考えられる。

しかし、だ。

「ディメンション・バリヤーはあくまで攻撃をそらすだけですわ。反射はできませんわ」

「それは普通のディメなんとかん・バリヤーの話でしょう? でも、そのときシャーロットちゃんは『反射したい反射したい』と強く念じていたはずだわ。想いは魔法に作用するから。もしかしたら、それでいつもより空間を歪めて、そらすのではなく反射しちゃったんじゃないかしら?」

「ディメンション・バリヤーで反射……そんなことがありえるのですか……?」

「さあ……そもそもディメンション・バリヤーそれ自体が偶発的に生まれた魔法だし。そういうこともあるかもしれないわ。シャーロットちゃん、意外性だけならローラちゃんに匹敵するし」

「このわたくしがローラさんに匹敵……? ふふふ……やはりシャーロット・ガザードは天才と言うことですわね!」

「あら、元気になったわね。そう、あなたは天才よ。魔法適性値なんて目安よ。さて、練習を再開しましょうか」

シャーロットは立ち上がる。

もう痛みによる疲労は消え去っていた。

大賢者の攻撃は相変わらず直撃してくる。

ついには心臓を貫かれて死んでしまった。

が、その場で復活。

「どんと来いですわ!」

「……痛くないのシャーロットちゃん?」

「痛いですわ。死ぬかと思いましたわ! しかし立ち止まってなどいられないのですわ!」

「若いわねぇ。あなたに付き合っていれば、その元気を分けてもらえそうだわ。行くわよ!」

こうしてシャーロットと大賢者の修行は、朝になるまで続けられた。

目を覚ましたとき、シャーロットはとてつもない疲労感に襲われた。

そのまま二度寝したかったが、ローラに無理矢理、制服を着せられ、教室まで引きずって行かれてしまった。

「こらぁぁっ、シャーロットさぁぁんっ! 起きなさぁぁぁい! 私の授業がそんなに退屈だって言うのっ!」

授業中、エミリアの怒鳴り声が聞こえてくるが、夜に大賢者の授業を受けたのだ。昼くらいは休ませて欲しいものである。