軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

247 雪だるま博士です

「さあ、ローラさん。アンナさんを応援するのもいいですが、わたくしたちも戦いますわよ!」

剣戟の音が響き渡る中、シャーロットは腰に手を当て仁王立ちして叫んだ。

いつも声が大きい人だが、今は周りがうるさいので、なおのこと大きな声を出している。

「分かりましたシャーロットさん! もうちょっとアンナさんとお父さんを見ていたいですが、キリがないですからね! それで、どんな勝負をするんですか?」

「ふふふ。ローラさん、授業でエミリア先生に人形の動かし方を習ったのを覚えていますか?」

「覚えてますよ。なかなか使う機会がありませんけど」

それは、人形とか鎧とか人の形をした物に術式と魔力を込めて操る魔法のことだ。

『傀儡回しの魔法』という。

お手伝いさんとして使ったり、兵士の代わりにしたりするらしい。

大賢者は白い鎧にこの魔法をかけ、自宅の家事手伝いと警備を任せていた。

「今日はその傀儡回しの魔法で勝負ですわ」

「なるほど。それで何を操るんです?」

「ローラさん。周りをご覧なさい。雪が沢山あるでしょう。これで雪だるまなり雪像なり、好きなものを作って戦わせるのですわ。先に原型が無くなったほうが負けですわ」

「おお、それは楽しそうです!」

「お昼まで三時間ほどありますわ。それまでに雪で何かを作り、お昼ご飯を食べ、午後に戦いましょう」

「了解です。じゃあ私とシャーロットさんは別な場所で作ることにしませんか? 戦うまでお互い何を操るか分からないほうが楽しいと思います」

「それはいいアイデアですわ」

「じゃあ私は湖の反対側のほうで作りますね。ハク、レッツゴーです」

「ぴ!」

ローラはハクを連れて、飛び立った。

なお、ハクには自力で羽ばたいてもらっている。

町から町へと長距離移動するときはハクを頭の上に載せて飛ぶが、湖を横断するくらいなら、自分で飛んだほうが運動になっていいのだ。

なにせ以前、ハクは食べ過ぎと運動不足がたたって丸々と太り、マシュマロのような体型になった過去があるのだ。

もう二度と同じ過ちを繰り返してはならない……。

「到着です。さてさて、何を作りましょう」

「ぴー」

ローラが雪原に着地すると、ハクはローラの頭に着地した。

その瞬間、ローラはインスピレーションを得た。

「そうだ! 雪だるまの上に小さな雪だるまを乗せましょう。私とハクを再現するんです。ナイスアイデアだと思いませんか?」

「ぴー」

「そうでしょう、そうでしょう」

ローラはハクの鳴き声を肯定だと勝手に解釈し、深く満足した。

だが実際、二重雪だるまは斬新なアイデアだと思う。

それに雪玉を四つ作って重ねればいいだけだから、作るのも楽ちんだ。

「構造がシンプルな分、大きくするのに集中できます。質より量がテーマです」

ローラは早速、雪玉を転がしはじめた。

ちなみに、ここはミーレベルンの町がある場所とは対岸なので、周りに建物は何もない。

思う存分、雪玉をゴロゴロ転がせる。

「最低でも家よりも大きな雪玉にしちゃいますよ!」

ローラが気合いを入れて作業をしていると、ハクがぴょんと飛び降りて、自分も前足を使って小さな雪玉を作り出したではないか。

「ハクも手伝ってくれるんですか? じゃあハクは小さい雪だるまをお願いします。私が作った雪だるまの上に、ハクの雪だるまを載せましょう」

「ぴー!」

ハクは子猫ほどの大きさしかないので、作れる雪玉の大きさはたかが知れている。

しかし上に載せるだけなのだから、小さいほうがいいかもしれない。

似たような大きさの雪だるまを縦に並べたら、ただの団子にしか見えないだろうし。

「ごろごろごろ~~」

「ぴぴぴぴ~~」

ローラとハクは並んで雪玉を転がす。

なかなか大きくならないので、ローラはズルをすることにした。魔法で周辺の雪を集めながら進むのだ。これで雪玉が接地していない場所の雪を吸収することができる。

そうやって一時間ほど進むと、森に辿り着いた。

ローラの雪玉はすでに実家よりも大きくなっている。

これ以上転がすと、木をへし折りながら進まなくてはならない。環境破壊はよろしくないので、一つ目の雪玉はこの大きさで止めておこう。

「ハクも偉いですね。雪玉がスイカくらいの大きさに成長してますよ」

「ぴぃ」

ハクは自分が作った雪玉の上に登り、自慢げに翼を広げる。

「もう一つ作りますよ。スタート地点まで戻ります!」

「ぴー」

さっきの場所まで飛んで戻り、また雪玉をゴロゴロ。

また森の手前まで転がしていく。

「よし。これで材料は揃いました。うーん……最初に作った雪玉のほうが若干大きいですね。新しいほうを上にしましょう。えいっ!」

家よりも大きな雪玉だ。

それも、ふわふわした軽いものではなく、魔法の力でガチガチに圧縮した塊だ。

本来なら十歳の女の子が動かせる物ではない。

だがローラは強化魔法で己の筋力を強化し、雪玉をひょいと持ち上げ、ぴょんとジャンプ。

雪玉を二つ重ね、巨大雪だるまにしてしまう。

「よーし! これなら少なくとも大きさではシャーロットさんに負けませんよ」

「ぴー」

「ハクも一人で雪だるまを作り終えたんですか? 上手ですねー」

「ぴぃ」

ローラの作った物に比べるまでもなく、ハクが作った雪だるまは小さい。

それでもハクはローラの手助けなしで雪だるまを完成させたのだ。

まだ一歳にもなっていないのに、素晴らしい知能だ。

ローラがハクくらいの歳の頃は、雪だるまなんて作れなかった。記憶はないが、オギャーオギャーと泣くばかりだったはず。

それに比べたら、ハクは天才児といえる。

「ハク。将来は博士になれるかもしれませんよ」

「ぴぃ?」

何のことやら分からないという顔で、ハクは首を傾げた。

まだ将来のことを考えるのは早すぎるだろうか。

しかし、こんなに上手に雪だるまを作れたのだ。きっと立派な雪だるま博士になれるだろう。

もっとも、雪だるま博士というのはローラが今適当に思いついた博士なので、まずは雪だるま学とは何なのかを決めないと、雪だるま博士にはなれないかもしれない。

道のりは思ったよりも険しそうだ。

「人生は厳しいのですねぇ」

「ぴー?」

ローラはハクを再び頭の上に載せ、完成した雪だるまを見上げながら、雪だるまについて真剣に考えてみた。

「こうして一応、形にはなりましたが……ちょっと普通過ぎますね……ただ大きいだけというのは志が低い気がします。もっと装飾性がないと」

「ぴーぴー」

ローラがアゴに手を当て「むむむ」と悩んでいると、ハクが前足をバタバタと動かして遊びはじめた。

「あっ、そうだ! 腕がたりないです。腕がないとシャーロットさんとの勝負で不利ですね。でも雪で腕を作るのは大変です……」

悩んだ末、ローラは森の木を二本へし折って、雪だるまに刺して腕に見立てることにした。

さっき環境破壊の心配したばかりでこの行動は我ながら酷いと思ったが、これも雪だるま学の発展のためだ。多少の犠牲はやむを得ない。

「針葉樹なのでトゲトゲしてて強そうです!」

「ぴ!」

「ハクの作った雪だるまには小さな枝をつけておきましょう」

「ぴー♪」

「格好良くなりました。でも……まだ何か足りないですねぇ。顔をつけてみましょうか」

ローラはその辺にあった岩を殴ったり蹴ったりして丸く削り取り、目の部分にはめ込んだ。

ついでに小石でハクの小型雪だるまにも顔を描く。

「わーい、顔っぽいです。あとは二つの雪だるまを重ねれば――」

ローラはハクの作った小さい雪だるまを持って、飛行魔法で高度を上げていく。

ハクも自分で羽ばたいて追いかけてきた。

そして。

「合体!」

大型雪だるまの上に小型雪だるまを乗っける。

これで当初の予定どおりの雪だるまが完成した。

いや、顔と腕がついているから、予定よりも優れているともいえる。

「やりましたね、ハク」

「ぴー」

「この調子で頑張れば、本当に雪だるま博士になれるかも?」

「ぴー?」

「ああ、でも私たちは冒険者になるんでした。雪だるま博士のことは忘れましょう……」

「ぴぃ!」

こうして湖畔の雪原で花開きかけた『雪だるま学』という新しい学問は、ローラの将来の職業選択という問題によって、早々に幕を閉じた。

しかし、雪が降る限り、雪だるまは不滅だ。

いつかきっと、誰かがローラの跡を継いで雪だるま学を復活させてくれるに違いない……。

「あ。そろそろお昼です。お腹が減りました。家に帰ってご飯にしましょう」

「ぴー」

お昼ご飯に気を取られたローラとハクは、すぃすぃーと飛んで家路についた。

そしてドラゴンの肉が入ったシチューを食べているうちに、すっかり雪だるま学のことを忘れてしまった。

発案者であるローラの頭から消えたことにより、雪だるま学は世界から完全に消滅してしまったのである。