軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

234 肩こりと腰痛に効きます

坑道を出ると、丁度そこにシャーロットの父アーサーがやってきた。

「急にコタツから出られるようになったのです。私だけでなく、町の者たちも。大賢者殿たちが何かしたのですか?」

「ええ、そうよ。詳しい話は王宮に帰ってからするけど……とりあえず、もうコタツは無害。そこら辺にあるコタツは、普通のテーブルとして使えばいいわ」

「おお……やはり大賢者殿は頼りになります。何とお礼を言ってよいのか……」

「礼なんていいわよ。今回、一番頑張ったのは子供たちだし」

「ほう……シャーロット。そしてローラくん、アンナくん。ありがとう。どうやら私は、君たちに大変な恩ができたらしい」

アーサーは真摯な声で言う。

これだけの事件の解決に子供が活躍したと言われたら、普通は冗談だと思うだろう。

しかしアーサーは、ローラたちが子供だからといって軽んじる様子はない。

シャーロットは彼の娘だからその力を知っていて当然だが、ローラとアンナは今日会ったばかりだ。

きっとアーサーが一流の魔法使いだからこそ、ローラたちの力を見抜けるのだろう。

「いやぁ、そんな恩だなんて……親友の実家のピンチです。お手伝いするのは当然ですよ」

ローラは照れくさくなって、頭をかいた。

「そう。特に私は、ガザード家に孤児院の借金を肩代わりしてもらった恩がある。あの借金はまだ返せないけど……少しずつ恩返ししていきます」

「そうか。アンナくんが孤児院の子だったか。お金のことは気にしなくてもいい。余裕があるとき、返したくなったら返しなさい」

「……ありがとうございます」

アンナは礼を言う。

「いや。今日ありがとうを言うべきなのは私のほうなのだ。本当にありがとう」

アーサーも礼を言う。

「……どういたしまして」

アンナも照れくさいらしく、ポリポリ頬をかく。

「ぴー」

「ハクくんもありがとう」

「ぴぃ」

名前を呼ばれたハクは満足そうに鳴く。もっとも今回、ハクはコタツに取り込まれたままだったので、特に活躍はしていなかった。

「さあ。王宮に行って、陛下に報告よ。マザーコタツの運命は、ある意味、陛下が握っているんだから」

大賢者がそう言うと、事情を知らないアーサーは「マザーコタツ?」と不思議そうに呟く。

それを見てローラ、シャーロット、アンナは顔を見合わせ、くすりと笑い合う。

ローラのアイデアとは、コタツに新たな役目を与えるということだった。

コタツは古代文明が冬眠のために作り上げたもの。

だが現代は冬眠が必要なほど寒くはない。

もっともそれは、あくまでファルレオン王国の冬の話。

北の地方にいけば、コタツの力を必要としている国があるかもしれない。

もちろん冬の間中、寝ているというのは大げさだ。

死人が出るほどの強烈な寒波が来たときなどに活躍してもらう。

それとコタツに包まれて眠ると、肩こりや腰痛が治るとマザーコタツが言っていた。

ならば、そういった症状に苦しんでいる人を包み込み、治るまで温めてあげるのもよい。

つまりマザーコタツに世界中を旅してもらい、活躍できる場所を自分で探してもらうのだ。

「この計画には二つ問題点があります。まずマザーコタツさんが嫌だったら成立しません。そしてもう一つ。いきなり空からマザーコタツさんが降りてきたら、大パニックになってしまうということです」

ローラは執務室で、女王陛下とアーサーに説明する。

「ふむふむ。確かに、得体の知れない物体が飛んできたら、誰でも驚くじゃろうな。しかもマザーコタツは家ほどもあるのじゃろう? 役立つかとかそういう以前の問題じゃ。下手をすると戦闘になるかもしれん」

女王陛下が冷静な意見を言う。

それに対し、大賢者が対処法を述べた。

「だから陛下には紹介状を書いて欲しいのよ。この物体はマザーコタツという古代文明の遺物です。人間に危害は及ぼしません。それどころか優れた暖房器具になり、肩こりと腰痛も治せます……みたいな紹介状を、エメリーン・グレダ・ファルレオンの名で書いて持たせれば、現地の人も話くらいは聞いてくれるでしょ」

「ふーむ。それでマザーコタツが実際に有用なところを見せてやれば、信用を勝ち取れるというわけか。じゃが、実際にそのマザーコタツと話してからじゃ。人となりが分らぬ物体の紹介状など書けん。まして、ローラが言ったように、本人が嫌がるかも知れぬしのう」

「ええ。それは当然だわ。アーサーさんもそれでいいかしら?」

「無論です。そもそも私は、コタツから作業員たちを解放してもらっただけで満足ですから。コタツの処遇に関して、何か言える立場ではありません」

というわけで方針が決まった。

早速、王宮の庭に次元倉庫の門を開き、マザーコタツを呼び寄せる。

「おお! 巨大なテーブルと布団! これがマザーコタツか……大迫力じゃな」

女王陛下は目を丸くしてマザーコタツを見上げる。

「私たちが取り込まれていたコタツの親玉がこれか……こんなものが炭鉱の下に眠っていたとは……世の中、何が起きるか本当に分らないものだ」

アーサーはしみじみと呟く。

「太陽の下で見ると、より大きく見えますわぁ」

「これが喋ってるとかシュール」

シャーロットとアンナも、改めて感想を述べた。

「ここはどこだ……我は真っ暗な空間に閉じ込められていたはず……ん? お前たちは先ほどの人間……そうか、ようやく我を破壊してくれるのだな」

「いや。どうしても、どうしても破壊して欲しいというならそうなるかもしれませんが……その前に私の提案を聞いてくれませんか? きっとお互いのためになると思うんです」

そしてローラはマザーコタツに、先ほど女王陛下たちに語ったのと同じ説明をした。

説明している最中、もし断られたらどうしようと、ローラは気が気でなかった。

「……春まで冬眠させず、寒波のときだけ? 肩こりと腰痛の治療に専念……我にそんなことができるのか?」

マザーコタツは自信がなさそうだ。

だが、頭ごなしに否定はしてこない。

少なくとも興味は持っているらしい。

「それをこれから練習するんです。私たちを実験台に……そうだ、まずは女王陛下で試してみましょう」

「わ、妾でか!? 大丈夫なのか……?」

「だって陛下、コタツに興味津々じゃないですか。それに働き者ですから、肩こりしてそうですし」

「うむ。確かに慢性的な肩こりじゃ。しかし……本当に大丈夫なのか?」

女王陛下はローラたちや大賢者、それからマザーコタツを見回す。

決して気の小さい人ではないのだが、やはり古代文明の遺物の実験台になるのは気が引けるようだ。

「大丈夫、大丈夫。マザーコタツはもう人間を冬眠させようなんて思ってないでしょ。ね?」

「うむ。もはや人類は冬眠を必要としてないことは理解している。お前たちが望むのであれば、自分の意思で脱出可能なよう、調整する努力をしよう」

「ほら。マザーコタツもそう言ってるし」

「うーむ……分かった。実際、コタツには興味がある。妾を包み込むがよい!」

「心得た」

女王陛下が意を決したように叫ぶと、マザーコタツの布団の中から、普通サイズのコタツが飛び出してきた。

それは女王陛下の前にすぃーっと降り立つ。

「入ればよいのか? 入ってよいのか?」

「陛下。往生際が悪いですわ」

「勇気を出してシュッと」

シャーロットとアンナに急かされた女王陛下は、恐る恐るといった様子で、つま先からコタツに入っていく。

そして脚がすっぽり収まると、コタツの上に顎を載せ、とろーんとした顔になる。

「これは……例えようのない心地よさなのじゃぁ……脱出不可能なのじゃぁ……」

「あれれ? 抜け出せないんですか? マザーコタツ。調整が甘いんじゃないですか?」

ローラが尋ねると、

「そう言われても……我は今、精神操作の魔法をカットしている。そのコタツはただ温かいだけだ」

マザーコタツは断言した。

嘘を言っているようには聞こえない。

どういうことなのだろうかと、ローラも女王陛下と同じコタツに脚を入れてみた。

「ふぇぇ、相変わらず気持ちいいです。でも……確かに気持ちいいだけですね。絶対に抜け出せないような、あの心を支配される感じはしません」

「そうだろう。我は約束は守る」

「ならば、妾はどうしてここから出られないのじゃぁ?」

「うーん……単純に気持ちよくて出たくないだけですね。かく言う私も出たくないです」

ローラも女王陛下と同じように、コタツに顎を載せてまったりする。

「むむ……ローラよ。たとえ魔法でなくとも、出られないのでは同じではないか……妾には仕事が沢山あるのじゃぁ……」

「そう思うでしょう? しかし魔法でないなら気力の問題です。このままだと一生オムレツを食べられないとイメージすれば……えいや!」

コタツかオムレツか。

その二択を強烈に自分に突きつけることにより、ローラはコタツからスポンッと脱出してみせた。

「ローラさんがコタツから自力で生還しましたわ!」

「鉱山で襲ってきたコタツは気力を振り絞っても無理だった。あのときのコタツとは全然違うということ」

「ですです。さあ、女王陛下も頑張って脱出しましょう」

「そう言われても……はあ、気持ちいいのじゃぁ」

女王陛下はまったりした顔のまま、動こうとしない。

ローラにとってのオムレツ。それに匹敵するものが女王陛下にもあればいいのだが。

「陛下がこのままでは、この国の行政が止まってしまう……ああ、コタツを発掘してしまった私の責任だ!」

アーサーは頭を抱えてうなだれてしまう。

妙な形のヒゲの割に、肝っ玉が小さい。

どうやらシャーロットは母親の血を色濃く引いているようだ。

「アーサーさん。落ち込むことはないわよ。魔法がかかってないなら、引っ張れば抜けるでしょ。よっこいしょっと」

「ぬおっ、コタツから出てしまったのじゃ。もうちょっと入っていたかったのじゃ……」

大賢者に引っ張られた女王陛下は、驚くほどあっさりコタツから救出された。

これでコタツが安全な物体になったと証明できたが、ちょっと拍子抜けだ。

「それで陛下。肩こりは治った感じ?」

「うーむ……治ったような、そうでないような。もともと、さほど酷い肩こりではなかったからのぅ」

女王陛下は腕を回しながら、要領を得ない回答をした。

どうやら肩こり治療のサンプルとしては、不適切な人材のようだ。

「ならばお父様の番ですわ!」

「わ、私か!?」

「ええ。お父様は最近、肩こりが酷いのでしょう? それが治ればコタツの有用性を証明できますわ」

「……分かった。コタツは私が管理する鉱山から出てきたもの。その将来にかかわることなら、協力しないわけにはいかない。とうっ!」

アーサーは気合いの声とともにコタツに潜り込んだ。

「ああ……相変わらず素晴らしい心地よさだ……」

「お父様。もっと肩まで入るのですわ」

「こうか……?」

「それでこそ、お父様ですわ! しかし、お父様だけを実験台にはいたしません……わたくしもご一緒しますわ!」

シャーロットもコタツに肩まで潜り込む。

そして親子そろって「ああ~~」と幸せそうな声を上げる。

「これって、どのくらい待てば肩こりが治るんですか?」

ローラはガザード家の親子を眺めながら、マザーコタツに質問した。

「そうだな。慢性的な肩こりや腰痛を完治させるなら、それこそ春まで入っていて欲しい。が、瞬間的に改善するだけなら、三時間程度でいいだろう」

「へえ。意外と早いですね。じゃあ三時間後に結果を見に来ましょう」

「三時間で済むなら妾もコタツに入るぞ。己の身で体験してこそ、自信を持って紹介状を書けるというものじゃ」

女王陛下もコタツにもぞもぞ潜り込んだ。

すると。

「それなら私も入るわ。ファルレオン王国の女王に加えて、大賢者の紹介状まであれば、コタツの信用度はぐーんと上がるってものよ」

「学長先生はたんにお昼寝したいだけなんじゃ」

というアンナのツッコミを無視して、大賢者もコタツに入る。

そして目を閉じ、瞬時にお昼寝モードだ。

何というスピード。

すぴー、すぴー、と寝息が聞こえる。

ローラもかなり寝付きはいいほうだが、大賢者には適わない。