作品タイトル不明
123 王都に吸血鬼が出るらしいです
永遠の命。
いつの時代も、それを願う者は数多くいる。
しかし、見果てぬ夢だ。
神獣ですら寿命があるのだ。
かの大賢者も長生きをしているが、やはり無限に生きる訳ではない。
だが、それでも。
ずっと生きていたいという願いは止められない。
彼女(、、) にとって、それほど人生は楽しかった。
家族に囲まれた生活は幸せだった。
永遠にこのときが続けばいいのにと思っていた。
だから、不老不死の夢を、古代文明の遺跡に託した。
今よりも遙かに進んだ技術を持った文明だ。
彼らの作ったモンスターは今も猛威を振るっている。
冒険者たちがいくら殺しても、一向に数が減らない。
信じられない生命力。
そんなモンスターを作った古代文明の遺跡なら、永遠の命のヒントくらいはあるかもしれない。
いや、あるはずだ。
そんなつたない可能性にかけ、彼女はいくつもの遺跡を探索した。
やがて、とある遺跡の奥底で、遂に――。
※
お昼休み。
学園の食堂で、ローラはいつものように、シャーロットとアンナと一緒に座り、オムレツをモグモグ食べる。
ここしばらくラーメンに浮気していたが、やはりローラの原点はオムレツだ。
ラン亭は固定客をしっかり獲得したので、もうギルドの前で屋台営業しなくてもいいようになった。
だからローラたちの週末バイトも一段落だ。これからは客として応援していく。
「中に入れる具や、かけるソースで、味が無限に変わる。毎日食べても飽きません。ハクもそう思いますよね?」
「ぴー」
テーブルの上に座り同じくオムレツを食べていたハクも、嬉しそうに頷いてくれた。
神獣が認めた以上、『オムレツが素晴らしい』というのは、もう世界の真理と称して差し支えないはず。
なにせ、神獣は神。
神が言っているのだ。
逆らうことは許されない。
「というわけで、シャーロットさんとアンナさんも、明日からオムレツを食べましょう」
「たまにならいいですが、毎日は嫌ですわ」
「絶対に飽きる。ローラがどうして毎日オムレツばかり食べているのか理解に苦しむ」
「ええ……こんなに美味しいのに……それに毎日じゃないですって。週に一度くらいはオムレツを食べない日もあります!」
オムレツばかりだと栄養が偏って大きくなれないとアドバイスされることが多いので、禁オムレツ日を意識的に作っているのだ。
丸一日もオムレツを食べないでいると手が震えてくるが、大きくなるためには仕方ない。
「まあ、ローラさんのオムレツ依存症はもう治りそうもないのでいいとして。それよりも、ローラさんとアンナさん。あの噂をご存じですか?」
「あの噂……もしかして、吸血鬼の話ですか?」
ローラはそう答えてから、ケチャップたっぷりのオムレツを口に入れる。
「そう。吸血鬼が王都に出るのですわ!」
シャーロットは興奮した様子で言う。
「戦士学科でも噂になってた。夜に出歩くと、吸血鬼に襲われるとか」
「吸血鬼なんて、物語の世界にしかいないと思ってましたよ。実在したんですねぇ」
「是非とも夜に出歩いて、吸血鬼退治したいですわ!」
「でも、あくまで噂。何かの事件に尾ひれが付いただけだと思うけど」
「アンナさんはロマンがないですわ!」
「そうですよ。吸血鬼、会ってみたいです!」
「そうかな」
アンナは首をかしげる。
どうやら吸血鬼にロマンを感じないタイプの人間らしい。
それにしても、吸血鬼がこの王都に現われるなんて凄い。
人の血を吸う不老不死の化物。吸血鬼。
太陽光を浴びると弱ってしまうので、日中はどこか暗いところに隠れているという。
しかし夜になればほとんど無敵だ。
コウモリのような翼を生やして空を飛び、恐るべき怪力を誇り、バラバラになっても再生してしまう。
だが、本当に恐ろしいのは、吸血鬼に噛まれた者が吸血鬼になってしまうことだ。
「噛んだだけで仲間を増やせるなんて凄いですよ。あっという間に王都が乗っ取られちゃいます。早く倒さないと!」
「でも、そんな簡単に増えるなら、もうとっくの昔に世の中が、吸血鬼だらけになってると思うけど?」
アンナが、自分のサラダにフォークを刺しながら言う。
「それは……ほら、吸血鬼もライバルが増えると困るので、遠慮してるんですよ、きっと」
「なるほど。ところでローラ。口の周りにケチャップが付いてる。まるで血を吸ったみたい」
「まあ。吸血鬼の正体はローラさんだったのですね。これはお仕置きが必要ですわ」
「ひゃあ! 脇腹をくすぐらないでください!」
なんてことをしているうちに、お昼休みの残り時間がなくなってきた。
ローラたちは慌てて昼食を食べ、それぞれの教室に向かう。
そして午後の授業中、吸血鬼のことを考える。
吸血鬼は物語の世界では、おなじみの存在だ。
悪役として登場させやすい。
逆に、主人公がある日、吸血鬼になってしまったという物語もある。
だが、物語は物語だ。
吸血鬼が『実在』しているという証拠は今のところ、ない。
あくまで都市伝説。
きっと今回も、噂は噂でしかないのだろう。
それでも皆でわーわー騒ぐのが楽しい。
今夜は寮を抜け出して、街で吸血鬼探しだ。
ミサキも誘ってみよう。
そうやってローラは呑気に考えていたのだが――。
※
「皆、吸血鬼の噂は聞いてる? 職員会議で決まったんだけど、しばらくの間、生徒の夜間外出は禁止するから。夜の七時以降は学園の敷地から出ちゃ駄目よ」
午後の授業が終わった後、エミリアがそんなことを言い出した。
「エミリア先生。噂だけで外出禁止なんて酷いですよぉ。吸血鬼なんて、九歳の私でも本気にしてないのに……」
ローラが文句を言うと、他の生徒たちが頷く。
しかしシャーロットだけがギョッとした顔をする。
「え、ローラさん、吸血鬼を信じていませんの!? さっき食堂で語り合ったのに……わたくしは吸血鬼の実在を信じていますわ!」
どうやらこの人は本気だったらしい。
「いや、もちろん、噂だけじゃ外出禁止にはしないわよ。でも、実際に被害者が何人も出ているの。首に噛まれたような傷があって、全身の血を抜かれている人が、この半月で五人も」
エミリアは驚くべきことを言った。
ただの都市伝説だと思っていたのに、本当に被害者が出ていたとは。
「ええ!? じゃあ本当に吸血鬼が!」
「五人も……許しませんわ! 王都の平和を脅かす吸血鬼は、このシャーロット・ガザードが成敗して差し上げますわ!」
「どうかしらね。吸血鬼を模倣した犯罪って昔から多いし……それに、血を抜かれた人は吸血鬼になんかなっていないわよ。でも……五人も被害者が出ているのに犯人が見つからないなんて、ちょっと普通じゃないわ」
確かに、全身の血を抜くとなれば、かなり大変だ。
そんなことを五回もやっているのに、まだ捕まっていない。
ひょっとすると、今度ばかりは噂で済まないかもしれない。
「とにかく、そういうわけだから。夜は大人しくしていてね。特にローラさん、シャーロットさん。どうせまたアンナさんやミサキさんを誘って、吸血鬼探しとか企んでいたんでしょう?」
図星だった。
今夜は完全に出かけるつもりだった。
しかし、外出禁止なら仕方がない。
いつもエミリアには迷惑をかけているので、今回は言われたとおり、大人しくしようと誓うローラであった。
「吸血鬼探しの代わりに、図書室から吸血鬼物の小説を借りて読むことにします」
そう語ると、エミリアはとても満足そうな顔をした。
ところが、ローラのもくろみは失敗した。
吸血鬼騒ぎのせいで、図書室にあった吸血鬼関連の本は、全て貸し出し中になっていたのだ。
がっかりしたローラは、部屋に戻ってシャーロットの抱き枕になった。
ふて抱き枕である。