軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謎のスゴ腕人形術師

「明日、お偉いさん同士の会食があるらしいぜ」

「このご時世で、会食パーティかよ」

オースティン首都、ウィンの政府食堂。

ここでは日々、贅沢の限りを知る貴族たちが『おもてなし』を受ける場所。

「新任参謀長官殿が、首相と会談するんだと。だから豪華な料理を用意しとけってさ」

「おいおい、もう食材なんて残ってないぞ」

政府食堂とは、すなわち『貴族』専用のレストランだ。

ここには国でも最高の腕を持つ料理人が集い、高級食材が集められている、本物のVIPしか来れない場所。

……そんな政府食堂ではあるのだが、戦争継続に伴い食料がひっ迫し、ロクな料理が作れないような状況に陥っていた。

「ぱっと見で豪華に見えればそれでいい。ローストビーフなんかどうだ」

「出せる訳ねぇだろ、乳牛すら殆どいねぇのに」

「彩り豊かな野菜サラダは」

「野菜はサバトから届いたシナシナの瓶詰だけ。ウィン周辺じゃ、小麦やジャガイモしか栽培してねえんだから」

「じゃあ、パンを装飾して並べるか」

「パンすら稀少だよ」

現在オースティンでは、食料不足が深刻化していた。

占領していたフラメールの都市からの嗜好品供給は止まっており、小麦やジャガイモ以外はほとんど手に入らないのだ。

「ソコを頼むよ料理長、明日は首相も出席するんだ」

「ない袖は振れねえよ」

当時のオースティン国民が主に食べていたのはジャガイモパンだ。

小麦だけでパンを作るのは贅沢とされ、味は落ちるがジャガイモを混ぜてかさましするのが一般的だった。

また近隣で取れる野草を齧り、僅かな缶詰を分け合って、飢えをしのいでいた。

「おい料理長。この小麦粉、精白してねぇぞ」

「そのまま使うんだ。その方がカサマシになるからな」

「貴族様が、ボソボソの黒パンを食う状況か」

食事は配給制になり、家庭に美味しいパンは出回らなくなり、混ぜ物だらけの粗悪なパンが溢れた。

川魚は取り尽くされ、山獣も狩り尽くされ、とうとう餓死者も出始めていた。

それが、戦争末期のオースティンの実情だった。

「こんな料理を出して、貴族様が怒りやしませんかね」

「だったら、もっとマシなもんを食べられるようにしてくれよ」

「そういや、ジャムやソースはフラメール品が残ってたな。それを出して誤魔化そう」

「今やパンにつけるジャムすら高級品かぁ」

今や首相が会食する場ですら、まともな料理が出せない状況。

オースティンはもう、最後の血の一滴まで振り絞って戦っていたのだ。

「流石にあんまりじゃないか。乳牛を1匹ばかり、屠殺する許可を……」

「ただでさえ少ないミルクの供給を、さらに減らすんですかい」

「そうだ、こないだ病死した乳牛がいるって聞いたけど。その肉はねぇのか」

「この馬鹿! 病死した牛を食ったら死ぬって習わなかったのか」

何とか肉料理を出す手段はないか。料理人たちは、素材が無いなりに必死で頭を絞った。

「国産ワインはまだ残ってるっけ」

「サバトのヴォック酒なら在庫がたっぷり」

「あんなの飲み物じゃねぇだろ」

料理は不味くとも、酒が旨ければ。少しでも豪華な、装飾を施せば。

料理人たちは首相会談に向けて、議論を交わし続けた。

悲惨な食糧状況の中、料理人もまた必死で戦っていたのだ。

「……あの、すみません」

「お?」

そんな感じに、料理人たちが意見を交わしていると。

ふと食堂の席に、白を基調にしたドレスの女性が姿を見せた。

「どうしました、お嬢様。あいにく、今は営業しておりませんで」

「はい、存じております」

それは小柄で無表情な、大人しそうな女性だった。

貴族に特有の、お高く留まった雰囲気はもってない。

おそらくは、庶民の少女だ。

「では、いったい何の御用で」

「自分は、明日の会食で『芸』でもさせていただく予定の者でして。この通り、許可も得ております」

「ほう?」

「少し、舞台の下見をさせていただきたく」

「ああ、なるほど」

料理人たちは、彼女の弁を聞いて納得した。

彼女が差し出してきた舞台確認許可の書類も、正式なモノだった。

「そうか、芸でゲストをもてなすのか」

「確かにいいアイデアかもしれない」

政府食堂には舞台があり、劇団が芸を披露することもできるのだ。

食料不足の現状、食事以外で満足度を上げるのは正解だ。

誰が企画したか知らないが、ナイスアイデアである。

「嬢ちゃん、どんな芸をするんだ? 楽器が必要なら、あらかじめ運んでおいてくれよ」

「自分の芸は、人形劇ですので大丈夫です」

「ほー、そいつはまた……」

少女は少し得意げな顔で、カバンから奇妙な顔の狐人形を取り出した。

それなりに使い込んでいる様で、年季を感じる。

ただ、それは正直に言って……。

「何というか、地味だな……」

「地味、でしょうか」

「あ、いや。ほら、ウチの舞台は広いからさ、手持ちサイズの人形は映えないかもなって」

地味と言われて、少女は結構ショックを受けた顔をした。

しょんぼりとうつむいた少女を見て、料理人たちは慌ててフォローした。

「い、いえ。確かに一見すると地味かもしれませんね」

「ま、まぁなんだ。大丈夫、きっとウケるさ」

「大丈夫! 嬢ちゃん可愛らしいし、きっと拍手喝采だぜ」

「はい。自分ではかなり自信のある芸なので、ウケると思ってるのですが」

せっかく来てくれた芸人さんを、貶めてどうする。

人形劇だって、中身が良ければきっと盛り上がるに違いない。

そもそも、今の情勢で劇団員を確保するだけでも大変だったはずだ。

へそを曲げられて、困るのは料理人たちである。

「明日は、自分も頑張って場を盛り上げます。どうかよろしくお願いします」

「よっしゃ、任せろ。俺達もなるべく、良いもんを出せるよう頑張るからよ」

「ありがとうございます。では、少し舞台を拝見させていただきますね」

「ああ、好きに見てくれ」

そう言って彼女は、舞台に上がった。

そして舞台の広さや高さ、床の軋みなど入念にチェックを始めた。

一流の芸人は、その舞台によって演目の動作を細かく微調整するという。

この娘は几帳面な芸人さんなんだな、と料理人たちは思った。

「少し、リハーサルもさせていただきます。どうかお気になさらず」

「おう、良いぞ」

やがて少女は、一通り舞台を見て回った後。

得意げな顔で舞台の中央に立ち、人形を構えた。

料理人たちは彼女のことを気にせず、明日のメニューについての話し合いを続けるつもりだった。

「これは人の手が届かぬ、深く昏い森奥での物語────」

しかし少女が、リハーサルと称し芸を始めると。

料理人たちは、会議をするどころではなくなってしまった。

「動物たちはリズムに合わせて、冒険へ旅立ちました。そぉれ、 動物(アニマル) 舞踊(ロンド) !」

「うわっ、何だアレ!!」

「すげぇ!?」

その演目はつつましい前口上から始まる、動物たちの人形劇だった。

内容自体はありきたりだが、その表現力がすさまじい。

彼女の操る人形の動きは、まるで意志を持っているかのように滑らかだ。

「いつもより多めに行進しております」

「嘘だろ……」

彼女は糸を付けた人形をリズミカルに躍らせ、行進させた。

たった十本の指だけで、どうやってあそこまで精緻な動きを表現できているのか理解できない。

コミカルで、躍動的で、ドラマチックなその人形劇は、いつしか料理人たちの目をくぎ付けにしていた。

それはまさに、一つの人形芸の『極地』と言えた。

「ひかーりを「はなーつ」はーなーつー、わが「そーこーくー」そこくー」

「一人で輪唱してる……!?」

「あんな芸、見たことねぇぞ!」

芸はそれだけにとどまらず。どうやっているのか、少女はたった一人で輪唱を始めてしまい。

その歌に合わせて、動物たちがミュージカルのように小気味よく踊り続けた。

そしてようやく、料理人たちは気付いた。

この少女は、オースティンでも指折りの芸達者だったのだ。

それもそのはず、この少女は幼少期から人形劇を研鑽し続けた本物の『芸人』だった。

子どものころから暇さえあれば人形を弄り、操り続けてきた。

その腕は、あのフラメールの俳優『アルノマ』が、好敵手と認めるほどだった。

「そっか、ハンパな芸人なら政府食堂に呼ばれねぇわな」

「あれだけの芸を見せられちゃ、黙っちゃいられねぇ」

「食堂の主役は食事だ、芸じゃねぇんだってトコを示さねえと」

その圧倒的な芸人としての力量に、料理人たちは感嘆し。

そして、同時に対抗心を燃やした。

「白小麦は使えねぇが、ジャムを練り込んだ生地にしてパンの味付けに工夫すれば」

「オーブンの火加減を細かく調整して、究極の焼きたてパンを……」

「ちょっと野外に出て、新鮮な野草を集めて来るぜ。サラダくらいは、旨いものを出してえ」

まだ年若い少女が、あんなに素晴らしい芸を見せるのだ。

政府食堂の料理人として、彼女に会の主役を譲りたくはない。

「あの娘のお陰で、火がついちまった」

「若い奴の情熱ってのは、すげぇな」

こうして、芸人の少女と料理人たちは出会った。

お互い、職業も目指す先も違うけれど。

明日の会食をより良いものにしようという、『目的』は共通していた。

「さあ、明日の本番に向けて気合入れるぞ」

「よっしゃ! あの娘に負けんなよ、みんな!」

「オオー!!」

その、気合が入りまくった料理人たちの掛け声を。

芸人の少女は、不思議そうに眺めていた。

そして、翌日。

いよいよ会食の、本番の日。

「どうも、この度新たに参謀長官の立場を拝命しました『イリス・ヴァロウ』少佐です。以後、お見知りおきを」

昨日、舞台で芸の練習をしていた少女が、たくさんの護衛と共に入場してきた。

「どうぞ、イリス様。おかけください」

「ありがとうございます」

お前がVIPかよ!!

その場に居た料理人の胸中は、一つであった。