軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

103話

シルフからパワハラ呼び出しを受けた夜。

自分はシルフとチェスを1局指して、ボコボコに負けて帰りました。

まぁ初心者の自分が勝てる訳もないのですが、シルフ的にはご不満だったようで「次までにもう少し勉強し、腕を上げておくように」と言われました。

もしかして、ゴルスキィさんに密命がある度に呼び出されるのでしょうか。

「やることは前と同じだ。行ける所まで進んでくれ」

テントから退出する際、彼女は自分の耳元でそう囁きました。

「突撃の際、背後は気にするな。私が何とかしておく」

「それを、ゴルスキィさんにお伝えすればよろしいので?」

「いや、ゴルスキィには手紙で十分だ」

背後は気にするな、と来ましたか。

シルフの指揮能力の高さは、前回の賊の討伐戦で嫌というほど理解しています。

彼女がそう言うのであれば、きっとうまくやってくれるのでしょうけど。

「ヤバいと思ったら退きますからね。自分には大切な恩人の遺児がいるのです、貴女の駒として使い捨てられる気はありません」

「構わん。私も貴様やゴルスキィを失いたくない、勝勢が決したら適当なところで止まっていい」

「……ご命令、了解しました」

前回の戦いは、敵の規模も少なく防衛網に穴もありました。

しかし今回は、何層にもわたる堡塁に守られた鉄壁の要塞が相手です。

前と同じようにドンドン進んだら、いつか孤立して全滅してしまうでしょう。

シルフには悪いですが、言われずとも適当なところでゴルスキィさんに歯止めをかけるつもりです。

「行ける範囲で、進みます」

「ああ」

孤児で家族もいなかった以前とは違い、今は自分の帰りを待つ幼い子供が居るのです。

……たとえ部隊が全滅しようと、生きて帰らねばなりません。

「今日はやや曇り空だ。この暗さでは、昼間でも敵に気付かれにくいだろう。そう、天は我々に味方している!」

翌朝、いよいよ攻勢をかける直前に、ブレイク将軍は大声で全軍に訓示を行いました。

その内容は、突っ込みどころが多いものでした。

「ゴルスキィ小隊長殿。多少曇ったくらいで視界は悪くならんのでは?」

「悪くなるかもしれんだろう」

ブレイク将軍の演説の声は若干覇気のないものでした。

この時の彼は、まるで勉強していないままテストの日を迎えた受験生の様な、暗雲とした雰囲気を纏っていました。

「今からでも、攻勢を中止するよう進言して来てくださいよ。このままじゃ、無駄死にですぜ」

「かなり脱走兵も出ているんでしょう? 隣の部隊なんか、3人抜けてスカスカですよ」

「……落ち着け。まぁなんだ、吾らには話されていないだけで秘策は有るらしい」

「本当ですかぁ?」

まぁ確かに、秘策はあるのでしょう。それもブレイク将軍の策ではなく、サバト屈指の参謀シルフ・ノーヴァの練った秘策が。

気になるのは、昨晩ゴルスキィさんが密書を読んだ後にギョッとした顔になったことです。

一体、何が書かれていたんでしょうか。自分達は、どんな無茶に付き合わされるのでしょうか。

「さぁ、配置につくぞ」

「本当に、やるんですか……。あのルソヴェツ要塞に、物資も弾薬も不十分なまま突撃を」

「武器弾薬は1週間ほど持つ、その間に十分落とせる……そうだ」

「オースティンが侵攻してきても、10年は戦える設計って触れ込みじゃありませんでしたっけ」

「知らん、吾らが強いのだろう」

この砦は対オースティンを想定して建築されており、しっかり近代戦に対応しているそうです。

堡塁に銃だけ出せる窓がついていたり、榴弾を射出する砲台が有ったりと、聞いている限り苦戦しないわけがないのですが。

マシュデールでサバト軍は、小勢のオースティン敗残兵が守る要塞を陥落させるのに1週間かかりました。

武器も魔石もカツカツで、兵力も士気も心もとない我々がたった1週間で要塞を落とせるのでしょうか。

「……あれ? なんか友軍が離れていってません?」

「む?」

シルフ・ノーヴァの恐ろしさを知っている自分ですら不安だったのです。

他の兵士たちはどれだけ絶望していたかなど、想像に難くありません。

そんな絶望的な状況で、我々シルフ中隊が配置されたのは、

「なぁゴルスキィ小隊長。配置の時点で、なんか孤立していません?」

「……案ずるな」

まるで1中隊だけハブられているかのような、孤立した配置でした。

シルフ中隊の配置だけ、左右にぽっかりと空白地点が出来てしまっています。

「シルフ大尉からの命令だ。人数をカサ増しして見せるため木を組み立てろ、だそうだ」

「……木、ですか?」

「デコイだ。我々が孤立していない風に見せるため、木に軍服を着せて戦場に立たせろとの命令だ」

「俺らの参謀殿はアホですか」

次にシルフは、自分たちに木材を組んで軍服を着せろと命じました。

それもしゃがみこんで、銃を構えてる感じにしろとの事です。

「……こんなもんでどうでしょう」

「おお。良いな、皆トウリの真似をしろ」

最初は苦心しましたが、三角錐になるよう木を組んで、上からコートで包むといい感じでした。

三角座りして銃を構えているように見えなくもないです。

「これが、秘策ですか?」

「ああ」

「もう駄目だ」

木材は大小が不揃いで、器用に固定しないとデコイ人形はすぐ崩れました。

縄を上手く使って、接続部を縛るのが大事でした。

「オースちゃんがかつてなく真剣な顔してる」

「好きなのか、こう言うの?」

「銃で敵を撃つよりかは、好きですね」

我々は手がかじかむ中、数時間かけて四苦八苦の末に人形を組み上げました。

自分で言うのも何ですが、自分の組み立てた人形はかなりのクオリティな気がします。

手品の小道具作りで培った技術が、こんなところで役に立つとは。

「ふぅん。まぁ、悪くはないだろう、この辺にしておくか」

「ああ、そうですかい。シルフ参謀大尉ちゃんは、山盛りのお人形に囲まれて満足だってさ!」

「そうだな。ぶきっちょな部下が私のため、寒い中で頑張って組み立ててくれた人形だ。まぁ、満足したということにしておいてやろう」

シルフは組みあがったそのデコイを確認したあと、台車やソリに乗せて運ぶように命じました。

雪が積もった道の上、重たい木組みの人形を引いて自分達は進みました。

白い布で人形を隠しつつ、敵の眼を盗みながら、第1堡塁の前へと。

「一応、デコイの設置は終わりました」

「ご苦労」

そこから更に数時間かけ、我々は敵から隠れながらデコイを設置する事に成功しました。

かなり遠めではあるので、恐らく敵からは本物の兵士に見えなくもない……でしょう。

「攻勢開始は、いつですか」

「ブレイク将軍殿の、砲撃開始の合図と同時だ」

シルフは我々が堡塁の前に着くと、「後は任せた」と言って砲兵陣地に引っ込みました。

曰く、これ以上前線に行くと危ないからだそうです。

「なぁ。俺達は今から、攻勢をかける訳だろ?」

「ああ」

「じゃあデコイを設置する意味無くね?」

デコイ人形は、彼女の指示で自分達の左右の空白地帯に設置されました。

これで、ぱっと見我々は孤立していないように見えるそうです。

「せっかく人形を置いたところで、俺らだけ突っ込むことになるんだから結局孤立してね?」

「そうですね」

「あの木の人形、遠めならギリギリ兵士に見えなくもないが、近くに来られるとすぐバレるぞ」

「やっぱり、あんなガキを指揮官にしたのが間違いじゃねぇの?」

正直、それは自分も思いました。

デコイ? は有効に使えるなら強い戦術ですが、こんな場所に設置しても何も生まないような気がします。

「父親のネームバリューだけで、成り上がった娘なんてこんなもんよ」

「付き合わされる兵士の身にもなれというもんだ」

兵士達は、シルフの事をとことん馬鹿にしている様子でした。

現状、彼女を高く評価しているのはブレイク将軍など軍の上層階級だけでした。

下級兵士からすれば、訳の分からない無茶を吹っかけてくる無能上司にしか見えないようです。

「あー。こんな馬鹿の思い付きに付き合って、死にたくねぇよ……」

ただでさえ士気は低いのに、シルフ中隊の兵士はますます堕落していました。

このやる気の無さでは、いかにシルフが凄い策を講じても勝てないんじゃないでしょうか。

そう思った直後、

「砲撃だ。攻勢が始まったぞ、気合を入れろ!」

「うーす」

「吾らも、シルフ中隊の砲撃が終わった同時に前進する! 突撃準備!」

遠く、中央のブレイク将軍の陣地で砲撃音が鳴り響き。

それに合わせ、各陣地で魔法の砲撃が火を噴きました。

「砲兵ども、頑張ってくれよ。お前の狙いが、俺たちの命を左右するんだからな────」

「む。む!?」

無論、我々の後方の魔法砲撃部隊も、しっかり火を噴きました。

この砲撃で少しでも堡塁を損傷出来れば、それが制圧の良い足掛かりになります。

その損傷具合を見て、どこに突撃するか決めるのです。

「────はい?」

……という、手筈だったのですが。

その砲撃は、さっき設置したばかりのデコイ人形を吹き飛ばしていました。

「さあ砲撃は終わった! 前進せよ! 敵堡塁の門を目掛け、一心不乱に走り抜け」

「いや、敵の堡塁無傷なんですけど。砲撃、かすりもしていないんですけど」

「自分の作ったデコイ人形が!」

味方の呆けた声が、戦場に響きました。

自分達が丹精込めて丁寧に作ったデコイ人形達は、味方の砲撃で見る影もなく吹っ飛んでいきました。

結構ショックでした。

「いや、その、うちらの参謀大尉はちょっとアレだな」

「馬鹿という言葉でも生ぬるい」

「……」

まもなく自分は、唖然と言葉を失いました。

何故、味方は左右のデコイ陣地を吹き飛ばしたのか。

吹き飛ばすなら何故、わざわざ組み立てさせたのか。

そんな疑問を感じるより早く、戦場に起きた異常事態に気が付いたからです。

「……ゴルスキィさん、前進しましょう。一番槍ですよ」

「お、おお。シルフの奴、やりおったのか」

「やってくれたみたいですね」

彼女は裏で、一体どんな小細工をしていたのか。

我々シルフ中隊の正面、その堡塁の強固な扉が、大きく開け放たれていたのです。

「見ろ、扉が開いているぞ」

「の、乗り込め! この勝機を逃すな」

シルフ中隊の大半は状況をよく理解していないまま、その開け放たれた扉に向かって走りました。

これは千載一遇のチャンスです。

もしこのまま堡塁の中に侵入できれば、守兵の大半を挟み撃ちに出来るのです。

「堡塁へは撃たんでいい、門を通り過ぎるまで走り抜け!」

「り、了解」

背後からシルフの叫びが聞こえてきました。

……その言葉を聞いて、シルフがやったことの想像はついてきました。

「これ、向こうに内通者がいるな。シルフめ、やりおる」

「いつの間に内通者なんて仕込んだのでしょうか?」

どんな手を使ったのかは知りませんが、シルフは戦う前に既に敵の中に手駒を送り込んでいた様です。

こんな搦手も持っていたんですね、彼女。

「堡塁、突破に成功。周囲を確保しろ」

「8、9小隊は堡塁の門を確保せよ! 1から7番隊は前進し、第2堡塁を襲撃せよ」

自分達は開け放たれた門を悠々と通過し、そのまま更に前進するよう命じられました。

2つ目の堡塁は、1㎞ほど先にあります。たった1個中隊で1㎞も孤立して前進するのは、少し躊躇われますが……。

「砲兵が援護する、臆せず突っ込め!」

何故か自分の勘は、行けると言っていました。

この感覚は前の戦いのときと同じ。誰かによりゲームメイクされ、その掌の中で正答を「選ばされている」感覚。

「全力疾走だ。案ずるな、次の堡塁の攻略は容易い────」

ゴルスキィさんは吠えるように、自分達を鼓舞して走りました。

自分はそんな勇猛な上官の後押しを得て、どこまでも走り続けました。

シルフの策は、酷く単純でした。

敵に内通させたのではなく、味方から内通者を送り込んでいたのです。

「シルフ様は、労働者議会に味方しようとしている」

その内通者となったのは、プーツゥ砦を守っていた少尉でした。

実は彼は以前から労働者議会のシンパになっていて、政府軍に属していながらも「労働者議会の方が正しいんじゃないか」とずっと胸に思いを募らせていたそうです。

そんな時に、ブレイク将軍から大義の無い略奪命令を受け、その挙句に殺されかけました。

それで彼は、完全に軍に愛想を尽かしていたのです。

「サバト政府軍の中にも、戦争を嫌う人間は多い。どうか、労働者議会に帰順させてほしい」

そんな彼にシルフは接近し、こう囁きました。

今の政府に守るべき価値はない。君の不満も考えも、至極もっともである。

私も彼らに賛同している、隙を見て投降したいからどうか君が橋渡し役になってくれと。

少尉はそんなシルフの頼みを受け、先行して単身で要塞に乗り込みました。

そこで労働者議会に対する恭順の意を伝え、内通を約束していたのです。

使者となったその少尉は、心から労働者議会の理想を信じ、尊敬していました。

だからこそ、その内通工作には説得力があったのです。

「ブレイク将軍はどうしようもないが、シルフ中隊は労働者議会の味方だ。戦闘開始と同時に左右の政府軍陣地を砲撃し、その証拠を示す」

「どうか信じて貰えたなら、シルフ中隊を匿ってほしい」

シルフは降伏の条件として、戦闘開始と同時に「サバト政府軍の隣接陣地を砲撃し、誠意と証拠を見せる」と要塞の司令官に伝えていました。

少尉を通じて攻勢開始の予定日時をあらかじめ伝え、そして攻撃開始と同時にシルフ中隊は自らの左右の部隊────デコイの陣地を、砲撃で吹き飛ばしたのです。

「ほら、シルフ殿の寝返りは確かだったでしょう」

「今から彼女の部隊は、堡塁に向かって逃げてくる手筈です。どうか、迎え入れて下さい」

それを見た敵は、シルフ中隊の裏切りを信じてしまいました。

敵の指揮官はシルフ・ノーヴァが同志であると信じ、彼女を保護すべく堡塁の門を開けてしまったのです。

そこからは、一方的でした。

シルフ中隊が確保した門から、サバト政府軍が一斉に堡塁内部に侵攻を始めました。

堡塁に籠っている兵士は、背後から急に銃撃され大混乱に陥ります。

結果、敵兵は前後から挟み撃ちに遭い、なすすべなく壊滅していきました。

「あそこ、あの位置はまだ配置が薄そうです。ゴルスキィさん」

「任せておけ」

2層目の塹壕攻略は、思ったよりあっさりでした。

敵側も万全の備えとはいかなかったようで、最初の堡塁にはしっかり兵士を用意していましたが、第2堡塁の全域に兵士を待機させるほど余裕はなかったのです。

防衛戦力が薄い場所は、放たれる銃声の数ですぐ分かります。

自分が守りの薄い場所を見つけると、ゴルスキィさんが凄まじい勢いで単身突っ込んで制圧してしまいました。

おかげで大きな被害も無く第2堡塁の突破に成功し、自分達は爆薬で大きな穴をあけ通過拠点を作り出しました。

「……敵は大混乱だな。ああ、味方がなだれ込んでくる」

「まだ第3の堡塁があるみたいですが」

「第2堡塁ですら穴だらけなんだ、誰も守っておらんだろ」

行けるところまでいけ、とはシルフの弁です。

なので自分達の仕事は此処までとし、第2堡塁の通過拠点の維持に努めました。

これ以上の前進は、流石にリスキーだからです。自分達が無理に攻めずとも、既に勝勢は決していましたし。

「素晴らしい働きだ、戦友。ここは任せるぞ!」

「ええ、ご苦労様です」

30分もすれば応援が到着し、自分達が確保した通過拠点から内部に味方兵が戦果を求めて侵攻していきました。

朝までの士気の低さはどこへやら、勝ち戦となれば兵士達も意気揚々と切り込んでいきました。

「酷いもんだ。鉄壁のルソヴェツ要塞が、穴だらけのバケツみたいになってら」

「……結局、何で門が開いたんだろうな」

「敵がうっかり間違ったんじゃねぇの?」

昼を過ぎる頃になると、自分たち以外にも多くの味方が通過拠点を作っていました。

こうなると四方八方から侵入してくるサバト軍に、労働者議会側は対応できる筈もありません。

逃げる者、投降する者、特攻する者などに分かれて敵は壊滅してしまいました。

「……ああ。終わりだな」

「終わり、ですか」

戦闘が終了したのは、その日の夕方でした。

3層目の堡塁が攻略され、丸裸となった司令部で敵の指揮官の自決した遺体が発見されたのです。

残存する敵戦力は、もう残っていません。

「あのルソヴェツ要塞が、たった1日で落ちちまった」

こうして我々サバト政府軍は、1週間どころかたったの1日で、難攻不落と謡われたルソヴェツ要塞を手中に収めてしまったのでした。