軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聖女と騎士

騎士団本部の建物を調査する役目を誰がするかなど、俺とアブダルの部屋に四人で集まって打ち合わせをおこなっていると、宿の支配人がドアを叩いてこう告げた。

「すんません。騎士団の方がそちらに用があると」

来た……。

「パトレア、イングリッド、こいつがエリオットだからな」

俺がアブダルをさして言うと、女性陣が失笑し、アブダルが歯をみせて威嚇しつつ席を立つ。そしてドアを開けて、騎士団の方という男を招いた。

騎士だと格好でわかる。

鎖帷子の上に外衣をまとい、 鉄製鎧(メイル) を装備している。腰には長剣だ。歳は……五十歳以上は間違いないだろう。六十? よくわからない。

彼は、俺たちを眺めながら言う。

「北方騎士団の騎士チャールズ・アルキメトスだ。エリオット、決闘を申し込む」

アルキメトス?

俺は思わず問うていた。

「あの、ノアのご家族で?」

彼は激昂し、抜剣する。

「貴様がエリオットか!? 我が子の名を呼び捨てにしおって!」

子? あれ? じゃぁ海上で倒したアルキメトスは?

パトレアが、チャールズ卿の前にすっと立ち、アロセルの印をきった。すると騎士はハっとして、剣を鞘へとおさめて深呼吸をする。

「アロセル教団の聖女パトレア・グランキアルと申します。チャールズ卿、彼は逃げも隠れもしませんでしょうから、決闘の理由を話してくださいますか?」

「……私の子、ノアをこの男はグラードバッハで惨殺したのです。それも、ノアが悪の力を使い、同級生たちまでも殺害したなどと大嘘を広め……魔法学院からの資料と学長からそうと聞きましたが、親切な教員たちが真実を教えてくれたのです。全てはこの男が、ノア殺害を正当化しようとついた嘘であることを! それを老いで耄碌した学長は信じてしまっているとも!」

彼はそこで、はぁはぁと肩で息をすると、俺たちが飲んでいた卓上の水さしへと手を伸ばし、「頂く」と言って杯に注いで口をつけた。

俺は、あの時の教員たちを思い出して、とんでもないクソ教師たちだと脳内で罵る。

パトレアはそこで、俺を見る。

「エリオット、こうして旅を一緒にして参りましたが、彼の訴えが本当であるなら失望しました。どうなのです?」

お! お前……裏切るのか?

イングリッドが口を開く。

「チャールズ卿のご子息は、ノアどのおひとり?」

「正確には、勘当したクズ、嫁にいった娘、そしてようやく跡取りとして授かったノア……それも恐るべき才能を秘めた天才だった……我がアルキメトス家の将来は約束されたと思った……それを……それをこの男が!」

……頭がおかしい集団に加わっていたのは、勘当されたお兄さんだったのか……で、お兄さんがいなくなって、お姉さんはお嫁にいって、跡取りが生まれた! て喜んで甘やかしてチヤホヤして自意識過剰勘違い主人公気質のノアができあがったと……。

イングリッドが、俺とチャールズ卿を交互に眺めて言う。

「実は先日、貴方が勘当したというご子息と会ったかもしれない。わたしはレオニック・アルキメトスと名乗った男に拉致されて、竜王復活に協力しろと脅されていたんだ」

「レオニッィィィイイイイイイイイックゥウウウウウ! あいつはまだそんな子供みたいなことをほざいておったのかぁあああああ!」

チャールズ卿が興奮して叫ぶ。

「いや……わたしへの謝罪という意味でエリオットの件もチャラに――」

「あの馬鹿息子がぁああああああ! 二度と我が家の門はくぐらせんぞぉお!」

「いや、彼は死んで――」

「現れたら千切っては投げ! 千切っては投げ! 細切れにしてやって成敗してくるわぁああああああああ!」

うるさいおっさんだ……。

見ると、彼の配下らしい男たちが部屋の外でおろおろとしていた。

アブダルに目配せをすると、彼が彼らを招き入れる。

「どぞどぞ……」

「すまない」

「失礼する」

「水、いかが?」

「感謝する」

彼らが端っこでごちょごちょとやっている最中、チャールズ卿は冷静を取り戻そうと深呼吸をしていた。

「我がアルキメトス家から、レオニックの奴が邪な道へとそれた時、それはもう嘆いた……跡取りが、頭のおかしい集団に洗脳されてしまったと嘆いた……そして懸命に 主神(アロセル) に祈り、妻と妾と励んでようやくノアを授かったというのに! こいつに殺されたのだ!」

俺をビシっと指差したチャールズ卿……。

俺は、彼が気の毒になってきた……。

「貴方は騎士団において、どういう役職なのですか?」

パトレアの問いに、チャールズ卿が咳払いをする。

「政務卿である。我がアルキメトス家は、代々、総長閣下を政務でお支えする家で、家格もギュダール家に継いで高いのだ! その家の跡取りをこの男がぁあああああああ!」

「閣下、落ちついてください」

「閣下、ひとまず冷静に」

部下たちに止められたチャールズ卿は、俺に噛みつかんばかりの形相だ。

パトレアが厳かに、口を開く。

「このエリオットなる者、貴方のご子息を害した悪人かもしれませんが、同時に恐ろしく強い傭兵です。クリムゾンディブロの名はご存知でしょう?」

「それでも男には、騎士には、やらねばならん時があるのだぁ!」

「チャールズ卿、しかし貴方に万が一のことがあっては、誰が総長閣下をお支えなさるの? 家はどうするのです?」

「……」

「騎士団を使って、彼が入国をしたら報せるようにとギルドに手配したのは貴方ですね?」

「左様」

チャールズ卿が頷く。

パトレアが俺をチラチラと見ながら、話を続けた。

「この男を罰するか否か、裁判にかけてはいかがです? 騎士団本部にて取り調べ、余罪がないかを明らかとしたうえで、総長閣下のご許可を得て堂々と裁けばよろしいでしょう。決闘などという私刑は高貴な騎士たる貴方にふさわしくありませぬし、万が一、怪我でもしたら大変です。ここは、冷静な対応を求めます」

パトレアの考えがわかった。

騎士団本部に、潜り込もうというわけね?

頭の回転が早い……。

チャールズ卿の部下が、パトレアに目配せで感謝を伝えていた。

いい部下をもってるな……子育てに失敗したみたいだが、上役としてはいい人なのかもしれない……。

「わかった。では、エリオット! おぬしを連行する!」

チャールズ卿は、胸をそらして言い放ったのである……。

捕まってやるか……。

-Elliott-

騎士団本部は城といえる。

白亜の巨大な城で、行政と騎士団の運営部門がここに集まっているものと思えた。そして、俺は地下牢へと入れられる……。

「武器を回収して、また来ます」

アブダルがこっそりと言って、チャールズ卿と部下たちに従い地下から出ていく。

パトレアやイングリッド、アブダルはチャールズ卿の聞き取り調査に協力するといって、この城の政務卿執務室に呼ばれているようだ。

アブダルは元北方騎士団ということで、城の内部に詳しいみたいで、押収したものを保管する場所も把握しているという。

総長がこの城にはいる。

抜け出して、一気に決めてやる!

ともかく、今はその時のために休んでおこう。

冷たい牢獄の壁に背をあて、これが冬でなくて良かったと思いながら目を閉じた。

それにしても、あのおっさんはある意味、気の毒だと思う。

長男はおかしな新興宗教みたいなものにかぶれて、次男はこじれたクソガキだった。

最悪なのは、クソガキをグラードバッハの学院に入れたことだ……あそこの教員は、学長には申し訳ないけど、教育者としては底辺だろう。研究者としてはよかったのかもしれないが難しいところだ……。

それからしばらく、浅い眠りにつく。

どれくらい時間がたったのかはわからないが、アブダルの声で目覚めた。イングリッドもいて、見張りの兵たちは彼女によって倒されたものと思う。

「エリオット、総長の在席が確認できたぞ。執務室にいる」

「アブダル、助かるよ……今、何時だ?」

「午後九時過ぎ……開ける」

イングリッドが、俺の装備を抱えている。

六つの牢獄のひとつから通路へと出ると、他の牢獄に入っていた罪人から声をかけられた。

「おい、出してくれ」

「悪いな……罪人はちゃんと裁かれてくれ」

俺はその場で、素早く装備を身につける。

鎖帷子、上着、胸当て、腹当て、脛当て、腰帯……革ベルトに 魔剣(イングリッド) を留めて、マントを着る。右の脛当てにナイフを隠した。

「よし、行こう。アブダル、総長の部屋まで案内してくれ」

「了解。城の二階だ。行こう」

俺たちは地下牢を出て、一階へと出る。

広間を正面に見ながら、すぐに脇の通路へと入り、使用人たちが使う細い階段で二階へとあがる。

「パトレアは?」

俺の問いに、イングリッドが笑いながら言った。

「チャールズ卿たちの注意をひいてくれている。城の騎士たちを集めて、説教をしていたぞ。皆、彼女の説教を聞きたいと聖堂のほうに行った。それに、援軍派遣の編制で主力は訓練場だそうだ。だから城の中、ガラガラだ」

「美人聖女による説教会……人気でそうだ」

パトレア、ありがとう!

彼女が作ってくれた時間を無題にしない!

俺たちは、目的の部屋へと急いだ。