軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

イングリッドのために

俺の跳躍からの斬撃を、 牛頭魔人(ミノタウルス) は右腕で防いだ。その腕は半ばまで切断され、骨が砕けて血があふれ出す。しかし痛みを感じないとばかりに反撃にでてきた。

屈んでフックを躱し、後方に跳んで膝蹴りをよける。立ち上がりながら 火炎弾(フレイム) を放つことで時間を作ると、体勢を整えて盾を投げつけ、前へと加速する。

イングリッドの魔法が、剣士二人と魔導士を襲う。しかし魔導士が 魔封盾(スクトゥム) を発動していてダメージを与えていない。それでも彼らがライティの加勢に加われない状況を作ってくれた。

凍王降臨(アイスキュロスファブレガス) を彼女が使わないのは、敵の魔導士の力量がわからないからだろう。下手に大魔法を使って、それを防がれると疲労で一気に不利になる。

牛頭魔人(ミノタウルス) へと、俺が投げた盾がぶつかり、相手は面食らった。俺はそれをフェイントに使って、奴の左側面へと移動している。

化け物が一瞬、俺を見失った。

俺の 火炎弾(フレイム) が、無防備なライティの左脇腹へ命中する。一瞬で肉が焦げ、血液が蒸発する威力の炎をうけて化け物が絶叫した。

「グボォオオオオオオオオオオ!」

牛頭魔人(ミノタウルス) が、苦しみのあまり両膝を浅瀬についた。

低くなった奴の首に剣を突き立て、 雷撃(トニトルス) をぶつける。

直撃した稲妻で、 牛頭魔人(ミノタウルス) の身体が空中へと弾け飛ぶと、一回、二回、三回転して頭から落下した。

黒焦げになった化け物の身体が、浅瀬に落ちて煙をあげる。

俺は、死体を蹴飛ばして勢いをつけると前に加速した。

フードの男が魔法を発動させたようだが、俺は全てをイングリッドに任せた。こういう時、必ず彼女は守ってくれる。

剣士二人へ集中する。

飛沫をあげて疾走する俺は、フードの男が放った 雷撃(トニトルス) を、イングリッドの 魔封盾(スクトゥム) が防いでくれたとわかった。

フードの男が驚いて声をあげた。

「魔法が効かない!?」

馬鹿!

うちのお姫様が魔法で防いでくれたんだよ!

剣士一人に突進し、斬撃を浴びせる動きをフェイントに使う。相手がそれを受けようとし、もう一人が俺に攻撃を浴びせようと右方向から接近してくる。

俺が右手で剣を持っているので正しい判断。

だが、俺は一人目へと 火炎弾(フレイム) を放ち、身体をひねる動きとステップで、右方向へと内から外へ払う一閃をみまった。

火炎弾は魔導士に防がれたが、斬撃は迫っていた男のがら空きの脇へと入って、あばらを粉砕して肺と心臓を破壊し、背骨を折って止まる。

剣を引き抜き後方へと滑るように移動しながら、フードの男が放った 火炎弾(フレイム) から逃れた。水飛沫が一瞬で蒸発して薄い霧が発生する。

二対二となり、フードの男が動揺した声で叫ぶ。

「待て! 話を聞け!」

「時間稼ぎしても無駄だ。上の連中が来るわけないだろ! 馬鹿! ライティが化け物にされているのはお前らの幼稚な計画書を読んで知ってたわ、カス!」

はっはっは! 絶望の表情! いいね!

お前らみたいなクズのその顔……俺は大好きだ!

俺は加速し、剣士が立ちはだかる。

敵の攻撃を剣で受け止めながら体勢を低くし、左肩から敵にぶつかって押し上げた。

吹っ飛んだ剣士が着地するより早く、俺の斬撃がその首を胴体から斬り離す。

フードの男へと突っ込む。

奴は魔法を放ったが、イングリッドが全て防いでくれた。

剣で奴の腹を突き刺す。

「ぐは……」

俺はそのまま、奴のフードを脱がす。

知らない顔だが、どこかで見たことがある気がした。

「名前は?」

「……」

「どこかで会ったか?」

「クソ溜めだろ?」

俺は微笑み、剣を抉って引き抜いた。腹にできた穴から血液と胃液がぼとぼととこぼれ、男は言葉にはできない激痛でのたうちまわりながら浅瀬を転がりまくった。

トドメはささない。

「エリオット! 強いな!」

「お前の魔法のおかげだ!」

二人で拳をぶつけあう。

だけど、転がる死体の中に、元の姿に戻って死んでいるライティを見た。

全身をひどく焼かれて爛れた死体は、顔がもう判別がつかない。

フードの男は、まだ苦しみもだえている。

「竜の魂を封印する部屋がこれじゃあな……奥の遺体は燃やして祈っておく。こいつらの遺体は滝つぼに捨てておく。また魂に寄せられて来た魔物が食って片付けてくれるだろ」

「ああ……わか――」

イングリッドが言葉を止めて、動きも止めた。

彼女は一点を見つめている。

「エリオット……なにかくる」

俺は彼女の隣に移動し、周囲を窺う。

揺れて……いる?

振動が徐々に激しくなる。

それは、地下からだとわかった。

イングリッドが何かに気付いたように、竜の魂を取り出す。

不気味な輝きを発していた。

「何だ?」

「呼んでる……封印されたくないから、何かを呼んでる」

「急ごう」

「……エリオット、これまでありがとう」

「なに?」

彼女は微笑むと、俺に「 風守護(シルフェ) 」と囁いた。

ストーン! と後ろに飛ばされて、十層の出入り口から階段へと転がった俺は、目の前で出入り口が閉じようとしている光景に怒鳴った。

「馬鹿野郎!」

俺は全力で走った!

-Elliott-

出入り口の上部が下へと降りていて、俺は自分の腰の位置まで下がってしまった壁の隙間へと無我夢中で飛び込む。

地面を転がり、浅瀬へとダイブしてから起き上がると、竜の魂を抱きしめていたイングリッドと目があった。

彼女が叫ぶ。

「どうして!? お前まで死んでしまうぞ!」

「馬鹿! お前をおいて逃げるか! クソ女!」

「クソ!? わたしはクソじゃない!」

俺は駆け寄り、彼女を抱きしめる。

「祈れ! 封印に集中しろ! 何が来ても! 俺が倒す!」

「エリオットぉ……」

涙を溢した彼女を、励ます気持ちで強く抱きしめる。

イングリッドが、俺の首筋に鼻先で触れた。

彼女が、細い声をはく。

「エリオット、守って」

「任せろ!」

封印の祈りが再開し、出入り口の扉が閉まり始めた。

だが、浅瀬の波紋をいくつもつくり、やがてそれは左右に揺れる波となった。

出入り口の反対、まだ苦しみもだえているフードの男の向こう、多くの若者の遺体が放置されている壁のあたりから、不気味な音が聞こえ始めた。

除夜の鐘を連想する。

壁が、揺れ始める。壁を覆う水の流れが激しく乱れた。

壁が崩れ、それが姿を見せる。

見たくなかった姿だ!

竜……。

竜だ!

黒い鱗が不気味な光沢を放ち、蝙蝠のような翼が生えた巨躯は圧巻だ。そして金色の瞳は興奮で強く輝き、強靭な顎は全てを噛み砕くかのようである。

地下深くにいた竜が、テンペストに呼ばれて現れた……。

こいつはこいつで、名のある竜のように思う。

立っているだけだが、呼吸が乱れる。膝をついてしまいたい願望に心が折れそうだ。

それでも俺は歯をくいしばった。

俺を信じて、全てを預けてくれている腕の中の温もりが、俺に前を向かせてくれる。

『人間、我と戦うつもりか?』

竜は息を吐いて喉を鳴らしただけだが、頭の中に直接、やつの言葉が届く。

「俺は彼女を守る。お前が敵となるなら戦う」

『我はクリスタロス……テンペストに仕える四大竜の一翼であるが、それでも戦うか?』

「知らねぇよ、お前なんか」

実際、知らない。

そういう神学や伝説系の本はあまり読んでない!

まて……待てまて、ここは会話を引き延ばして時間を稼ぐ。

せっかくあいつが話しかけてきたんだ。

「ただ、それは現在において、俺たち人間があんたを語り継いでないからだろう」

『なるほど。しばらく隠れていると、もう忘れられているわけか……それはそうと、会話をして時間稼ぎをしようなどと卑怯な奴だ、こらしめてやろう』

ばれてた!

くそ!

頭ん中を読むってことは、攻撃も防御もお見通しってことかよ! やりづらい!

『ははは! そういうことだ! 参る!』

俺はイングリッドを守る為に前に出る。

彼女は竜の魂を抱えて、うずくまったまま動かない。

剣をかまえ、竜を前に震える脚を懸命に動かした。

竜が口を開く。

躱――駄目だ! イングリッドにあたる!

俺は苦手な水の魔法を使う。

「水の乙女たちの囁きを前に、 我(わ) の願いを唱える。 水幕(アクア) 」

浅瀬の水が壁のように俺を守り、竜の口から発射される炎を遮った。しかし水の壁はたちまち沸騰し、蒸発を始める。

発動させ続けないと駄目だ!

「……の願いを唱える。 水幕(アクア) 」

壁を再生するも、竜はまだ炎を吐き続けた。

反撃しねぇと!

『反撃だと? 馬鹿者』

前脚が振るわれ、巨大なかぎ爪に剣をぶつけて防いだが、ものすごい力で体勢が乱れた。右腕はしびれ、脚はふんばりがきかない。さらに最悪なのは、剣が折れてしまったことだ!

それでもやるしかない!

逃げるわけにはいかない!

絶対に! 彼女と生きてここを出る!

俺はイングリッドの戦法を真似た。

自分と彼女を 防御魔法(ディフェンシォ) で守り、残った力で発動できる最大の魔法を唱える。

「智神ガリアンヌの恩恵、魂の根源、闇の中の息吹……」

『させぬよ、馬鹿者』

火炎が俺たちを襲った。

真っ赤な炎が目の前の 水幕(アクア) にぶつかることで恐ろしいほどの熱風が生まれる。そして沸騰する飛沫が俺の顔を襲い、あちこちが熱いが集中を保った。

「―― 刻(とき) の中に潜む王! 明けの明星(ルキフェル) !」

ドン! という衝撃の後、熱風にさらされ、炎に巻き込まれる。 防御魔法(ディフェンシォ) がかろうじて俺たちを包んでくれているが、俺のマントも 革鎧(レザーアーマー) も焼けただれ、顔はもう感覚がなくなり、視力を完全に失った。

俺の魔法が成功したのかどうかもわからない。

炎をまだ浴びていることだけを、飛ばされそうな熱風を浴びていることで理解はしていた。

俺は、最後の力を振り絞って、 防御魔法(ディフェンシォ) を後ろにいるはずのイングリッドにかける。

頼む!

お願いだ!

防いでくれ!

イングリッドを守らせてくれ!

俺にかかっていた 防御魔法(ディフェンシォ) が消えた。

直後、一瞬で灼熱の炎に包まれたのがわかる。

それでも俺は、イングリッドを守らせてくれと祈った。