軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦いを終えて、戦いに備える

シャーロットが住宅地の一部を吹っ飛ばした事件は、あっという間にリエージュ内に広まり、リズ王国の王宮にまで届いた。ただ、彼女の名前は一切でておらず、化け物が街を破壊した事件とされている。

俺は満身創痍で、イングリッドがいなければしばらく復帰はできなかったのではないかと思ったほどだ。戦っていた時はわからなかったが、全身の打撲は数えるのが嫌になるくらいで、よく動けたなとイングリッドに驚かれたほどだった。

彼女は空腹を満たすと、俺の全身の怪我を一日がかりで治してくれた。

ギルドのエマが協力をしてくれるというので、ライティをグーリットへ護衛をつけて送り出すことになったのだが、しっかりと金をとられた……。これは経費として、准教授……いや、ヴィンセント卿に払ってもらう。

五万リーグもかかったんだから……。

ラムズフェールと彼の仲間で受けてくれることになっている。

俺はライティの出発を明日に控えた一月一日の今日……正月かよ。まったく実感がないまま日にちが過ぎていた……。

どうりで街が賑やかだと思った。

とにかく、市街地が破壊された事件から二日後、ライティの出発の前日である今日は、イングリッドには休んでもらい、俺だけでギルドへと向かう。

ライティから情報収集をさせてもらう約束なのだ。

応じてくれたライティに、ワインを勧めて対面につく。ギルドの歓談席には他にも傭兵たちがいたが、俺たちには近づいてこない。

エマがそのあたり、差配をしてくれている。

ライティは市街地での事件に責任を感じていて、目の下には濃い隈ができていた。

「お前がシャーロットに再び声をかけられたのは、どうしてだ? 例の事件が解決したと皆が思っていた後、彼女が訪ねてきたその理由だ」

「……竜の魂を手に入れたいから手伝えと言われた。下に降りる方法を探れと」

「彼女は竜の魂の存在を知っていたんだな?」

「というよりも、 聖なる騎士団(サンクトゥエクェス) に属している人は知っている。ただ、彼女は真面目な騎士ではなくて、自分の望みのためにそれを使おうとしていた」

「彼女の望みは?」

「リズ王国のエドワード王子の心を射止めること」

脳内お花畑ここに極まる……呆れたいが、そのために大勢を殺したんだ、あいつは。

「新年あけての舞踏会に出るために、なんとしても彼女は竜の魂を手に入れたいと言って、早く入る方法を探せと……でなければ、俺があの組織に協力していたことを明るみに出すと言った……」

脅されていたと。

「竜の魂に、彼女が望むようなことが可能なのか? そんな力があるのか?」

「それは……俺にもわからない。そういう神学系のことは詳しくなくて……ただ、騎士団ではテンペストを蘇らせる計画があるのは事実です……魂がどうして他のことに役立つのかなんてわからないけど」

ここはイングリッドに尋ねるしかないか……。

「わかった。とにかくそれで竜の魂を入手しようとしたが、神殿に入る方法は見つからず、あの日を迎えた?」

「ああ、その通りです……それから、魔物が下にいると伝えたら、彼女は戦いに備えて血を持っていくといい、発掘の手伝いをしろと無職になっていた奴隷商の人たちに声をかけて……」

「アビゲイルはどうしてあそこにいた?」

「彼に関してはわかりません……」

「イングリッドの妹の血、どうやって保管していたんだ? お前の話だと、彼女が今の化け物になったのは、あの事件が解決した後だ。拷問で抜いたのか?」

「……」

「言え。知ってるはずだ」

「……彼女が 黒皮狩人(ハンター) に攻撃された時、傷ついたのは右肩から腰までをざっくりと斧で……内臓の損傷も大きくて……ネレスはエルフの血と内臓を……」

俺は、共同墓地で見たエルフの死体を思い出す。

腹を裂かれていた。

「今のシャーロットには、エルフの肉と血が使われている。そうだな?」

「他にも、蝙蝠や……豚――」

「エルフの肉体を使ったのはどこに使った? 知ってるだろ?」

「……たしか、あばらの内側の修復……右の肺と心臓と……」

「もういい……腹と顔、どっちがいい?」

「え?」

「腹と顔、どっちがいい?」

「……腹」

俺は殴打をライティの腹部に打ち込む。

「うげ! げぇ……」

身体をくの字に曲げて椅子から転げおちたライティが、胃液を吐きながら俺を見上げた。

「准教授に感謝しろ。これで許してやる……俺がイングリッドだったら、お前は苦しんで死ぬことになっていたぞ」

「……うぅ……ううう」

涙を流す男に背を向けて離れた。

ギルドから出る前に、エマに感謝を伝える。

「ありがとう」

「手伝いができて光栄だよ、クリムゾンディブロ……まだ化け物を追うのか?」

「イングリッドの為にも、一部でもいい……取り戻したい」

「……居場所、わからないんだろ?」

「居場所はわからないけど、舞踏会に必ず来る……綺麗に着飾ってな」

「本当に?」

「間違いない」

俺は確信している。

-Elliott-

宿に帰ると、支配人が俺を呼び止めた。

「エマの紹介とはいえ、困るんだ。今日、治安部隊の連中が来た。都市国家連邦から二人、来ていないかと訊かれた。帳簿も誤魔化したほうを見せて帰ってもらったが……」

「わかった。今夜のうちに出るよ」

「すまねぇ……水筒はいっぱいにしておく。それと焼き石もつけるし軽食も作っておく」

「悪い……湯、もらえないか?」

「それなら浴場を使え。従業員用の個室を使っていい。お代はいい。エマにも詫びをいれておく。本当にすまない」

「いや、迷惑をかけているのはこっちだ」

おそらく、あの事故の日のことだろう。生き残りの目撃情報を集めて、人とエルフの二人組ということで捜しているに違いない。

ギルドに世話になるのも駄目だ。

舞踏会は明後日……野宿するしかないか。

部屋へと入ると、イングリッドが寝ていた。見れば室内に湯桶とタオルがあり、俺のために用意をしてくれていたようだ。

従業員用の個室を使う誘惑にかられたが、ぬるくなっていても彼女が用意してくれた湯をつかうことにした。

服を脱ぎ、下着姿になって濡らしたタオルで身体を隅々までふく。

はやく風呂つきの家が欲しいなぁ……。

荷物から着替えの下着を出して、イングリッドが寝ていることを再度、確認してから全裸になり素早く着替えた。

ケチって同室にすると、こういう時に気をつかう。

残ったぬるい湯で、下着を洗って室内に干したところで、ベッドから「うーん」と声がした。

「起きたか?」

「寝てた……湯、使ったか?」

「ありがとう。使わせてもらった」

「おう」

イングリッドは起き上がらず、だるそうにベッドの上で転がる。

まる一日、俺の怪我を治すために力を使ってくれた反動のようで、今朝からずっとこうだ。

そんな彼女に申し訳ないが、今夜にはここを出ないといけない……。

「イングリッド、すまないが今夜にはここを出ないといけない。宿に治安部隊の兵士が来たらしい。支配人が追い払ってくれたがいつまでもは無理だ。迷惑をかけられない」

「……わたしたちは見られていたからなぁ……しかたない」

「まだ休んでいていいぞ」

「おう」

ベッドの上で両手を広げた彼女は、そのまま口を開く。

「エリオット、ライティとの話、どうだった?」

「ああ……ちゃんとできたぞ」

「娘は、どうして竜の魂を持ちだした? 組織に渡しているわけでもないようだ……彼はなにか言っていたか?」

「この国の王子の気をひきたいらしい」

「どういうことだ?」

舞踏会のことや、そこでシャーロットが王子を自分のものにしようとしていることなどを伝えると、イングリッドは難しい顔をする。

「竜の魂……怖さをわかっていないな」

「どういうことだ?」

「ちゃんと話してないな……竜の魂はもちろん、魂だ。石像になっているテンペストの肉体と、魂をそろえることで彼女はひとつの存在として確立できる。どちらが重要というわけではなく、どちらも重要だ……だが、持ち運びできるという意味では魂のほうがよかったわけだ」

イングリッドはそこで、上半身だけを起こして俺を見る。

手招きするので、俺は彼女のベッドに腰かけた。

「お前たちも、魂を信じてるな?」

「一応は……」

「わたしたちもだ……魂はどんな形もしていない無形のものだと思っているよな?」

「……ああ、形なんてないと思うが?」

「だよな? ふつうはそう思う。でも、違う……これは竜の場合は、という意味になるが、竜の魂とは彼らの性質を具現化した結晶で、宝石で、すさまじい力を秘めている。その結晶を持てば、あのように肉体はいくらでも再生できるだろうし、魔法を連発しても疲れないだろう……おそらく強力な催眠でも王子にかけるつもりなんだろうな」

「その力を使うことで、どう危険だ?」

「竜にとりこまれる。魂を吸われるとも言うが……自分を失う」

「つまり?」

「完全に操られるってことだ」

俺は乗っ取られるという意味かと思った。

「身体を乗っ取られるという意味か?」

「それだ。その言葉がわかりやすい。魂は本来の肉体へ戻ろうとするので、ずっとというわけではないが、悲惨だぞ……抜けられたら確実に死ぬことになる」

「まぁ……あいつはもともと死者だ。関係ないと思っているんだろうな」

イングリッドが手招きする。

なんだ?

彼女は、ここに座れというように自分の隣をバシバシと叩いた。

俺は身体を洗った時に裸足になっていたので、そのままベッドへとあがって彼女の横へ座り、脚をなげだす格好で並ぶ。

「それで、どうやって探す?」

「いや、彼女は来る。王宮の舞踏会が明後日、開かれる。そこに必ず来る」

「……どうやって潜入する?」

「……」

「考えなしか」

彼女は苦笑したが、眼差しは優しい。

彼女がベッドの左、俺が右に座っていた。

イングリッドが、右手を俺の左手に重ねた。

ドキリとする。

「どうした? 発情期か?」

冗談めかして言った俺に、彼女は「馬鹿か」と笑うと続けた。

「エリオットのぬくもりを覚えておこうと思う……脈も……筋肉の質も……ちょっとじっとしていてくれ……」

「ああ……」

「お前が傷ついた時、お前の肉体の情報に詳しければ治癒が早い」

「そういうことか……先に言ってくれ」

彼女は瞼を閉じて微笑んでいる。

かわいらしい横顔だと思って、見つめていた。