軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

現れたのは

翌日――

勇者学院アルクランイスカ大講堂前。

ドアを開けると、中から話し声が聞こえてきた。

「……ああ、ジェルガカノンは今日休みらしいぜ。まあ、ゼシアはいつものことだが」

「魔王学院の連中に手ひどくやられてたもんな。ラオスなんか、毒が抜けきらなくて、魔法医院に入院することになったらしい」

「ハイネはもっとひどいってよ。聖痕が体中にできてるから、回復魔法の効果がないらしい。聖水を使ってるから死ぬことはないらしいが、ありゃ死んだ方がマシだったかもしれん」

「レドリアーノは無事じゃなかったか?」

「そうなんだが、様子を見に行った奴の話じゃ、どうも心の方がな。部屋にこもったまま、出てこないらしい」

「心配だな……」

「そうね。まさか魔族があんな化け物揃いだなんて――」

「おい」

勇者学院の生徒が一斉にこちらを振り向く。

俺の前を塞ぐように集まっていた生徒たちが、道を空けるようにさっと左右にバラけた。心なしか、全員脅えているように見える。

空いた道を通り、俺は魔王学院側の席へ歩いていった。

「どっかの誰かさんが、やりすぎたんじゃないかしら?」

サーシャが言う。

隣でミーシャが小首をかしげた。

「ふむ。お前がそれを言うのか?」

ミーシャはこくこくとうなずく。

サーシャが痛いところを突かれたといった表情を浮かべていた。

「……あははー、皆さんすごかったですよね。あたしはなんか、なにもしない内に、気がついたら、対抗試験が終わってましたー」

エレオノールが出ていった後、ジェルガカノンはすぐに降参した。

恐らく彼女がそうするように伝えたのだろう。

「でも、怪我がなくてよかったよ」

レイが笑顔でミサに言う。

彼女は顔を赤らめ、「はい」と口にした。

「そういえば」

席に座り、レイに言う。

「一意剣を使いこなしたようだな」

「どうかな? まだまだ力を引き出せる気もするんだけどね」

更に高みを目指すとは、この男らしいことだ。

「なにか思い出したか?」

「前世のことかい? 相変わらず、なんにも覚えていないよ」

「ふむ。聖剣まで使ったのだから、てっきり思い出したのかと思っていたが」

通常、魔族に聖剣は使えない。もっとも、聖剣の力をゆうに超える魔力があれば、俺のように力で屈服させることもできるが、対抗試験のときのレイは正しいやり方で聖剣に所有者として認めさせた。

二千年前、魔族最強の剣士として名を馳せたシン・レグリアとて、今のレイぐらいの実力のときに、それが可能だったかどうか。彼は新しい時代で、また新しい剣を始めると言っていた。だとすれば、それが叶ったのかもしれぬな。

いずれにしても、末恐ろしい男だ。

「レイさんの前世って、アノス様のお知り合いなんですか?」

「それ、初耳だわ。どうりで馬鹿みたいに魔剣が使えるわけね。二千年前の魔族って、全員あなたたちみたいな化け物なのかしら?」

ミサとサーシャが興味深そうな視線を向けてくる。

「さて、まだわからぬ。だから、どうというわけでもないしな」

「そうだね」

俺たちに話す気がないと悟り、不服そうな顔をするサーシャ。

「……なによ、男同士でこそこそ秘密作って……」

「あはは……まあ、アノス様がおっしゃりたくないんでしたら、仕方ありませんよね……」

そう言ったミサだったが、少し不安そうな面持ちだ。

そんな彼女にレイは笑いかけた。

「変わらないよ」

「え?」

「なにを思い出しても、僕は僕だからね」

「あ……そ、そうですか……」

「違ったかい?」

「……いえ……その………………嬉しいです……」

蚊が鳴くような声で言い、ミサは恥ずかしげに俯いた。

それを横目に見ながら、ため息混じりにサーシャが言う。

「もう。こないだから、あんまり教室でイチャイチャしないでよね」

「えっ、あ、いえ、別に、そういうわけじゃっ……! あ、あれっ? そ、そんなことしてませんよね……?」

慌てふためくミサだったが、レイはまるで動じず笑顔で言った。

「羨ましいなら君もするといいんじゃないかな? わたしの魔王様とね」

「なっ……え……ぁ…………!!」

サーシャがちらりと俺を覗うように見た後、キッとレイを睨んだ。

「ちょっとレイッ、表へ出なさいっ! 一回話をつけるわ」

サーシャが立ち上がる。

「そろそろ授業が始まるけど?」

「問題ないわ。一分で終わらせるもの」

「へえ。君とやるのも面白そうだよね」

そう口にして、レイも立ち上がった。

睨みを利かせるサーシャに対して、レイは涼しげに笑っている。

「喧嘩してる?」

二人の間にひょっこり顔を出し、ミーシャが言う。

「別にこんなの喧嘩ってほどのことじゃ……」

「ちょっと力試しをするだけだよね」

「そ、そうよ。せっかく地獄みたいな自習っていうか、自習みたいな地獄を乗り越えてきたのに、あの雑魚勇者ども、弱すぎるんだもの。もうちょっと本気を出せないとつまらないわ」

「君が相手なら一意剣の本当の力も見せられそうだしね」

「あ、それ、気になってたんだけど、あの魔剣っていったいどうなってるの? あなた、聖なる魔力を使ってなかった?」

「簡単に言えば、やろうと思えばできるんだよ」

「はぁっ? もうちょっと真面目に説明しなさいよ」

ふふっ、とミーシャが笑う。

二人は彼女の方を見た。

「仲良し」

サーシャがきょとんとしたように目を丸くする。

「君の妹の一人勝ちみたいだね」

「……もう」

毒気を抜かれたように、二人はまた席についた。

ちょうど授業開始の鐘が鳴る。

しばらくして、メノウが大講堂に入ってきた。

その後すぐ一人の教師がやってきて、メノウと一緒に教壇に上がる。

ミーシャが目を丸くしてそれを見つめた。

「昨日は白熱した対抗試験だった。勇者学院、魔王学院、両校の生徒とも、各々の課題を見つけたことだろう。今後とも、共に手を携え切磋琢磨していこう。では、今日も学院交流を始める」

ディエゴ・カノン・イジェイシカ。

根源を滅ぼしたはずの彼が、確かにそこにいた。

ミーシャが驚いたのも無理はないだろう。

外見だけを似せた、別人ではないのだ。

俺がこの手で確かに滅ぼしたディエゴとまったく同じ魔力の波長、同じ根源を持っている。

勇者カノンは七つの根源を持っていた。だから、その六つを滅ぼしても、一つさえ残っていれば再生することができる。

だが、ディエゴの根源は一つだ。

それとも、七人に分かれた今も、根源が一つさえ残っていれば再生するのか?

いや、仮にそうだとしても、奴の根源はカノンのものとは思えぬ。

根源を七つにする魔法をカノン以外に使ったのだとしても、根源を何度も滅ぼされる苦痛に、奴は耐えられまい。

たとえ蘇ったとしても、まともな精神をたもっていられるとは考えがたい。

「ああ、そうだ。授業を始める前に連絡事項だ。ジェルガカノンだが、全員昨日の対抗試験の疲労で今日は欠席となる。復帰の時期は追って連絡しよう」

全員?

「一つ、いいか?」

俺が手を挙げると、ディエゴがこちらに視線をやった。

「どうした?」

確かに同じ根源だ。だが、なんだ? なにかがおかしい。

同じ根源だというのに、まるで別人のような反応だ。

昨日、あれだけのことをされておいて、そんな素振りをまったく見せぬとはな。

芝居なら大したものだが、そうとも思えぬ。

「昨日の対抗試験、エレオノールは無傷だったようだが、どうした?」

俺がディエゴに尋ねると、彼は即答した。

「彼女も疲労だ。ジェルガカノンへ回復魔法を使いすぎたようだな。それほど深刻というわけではないが、授業に出ても頭に入らないだろう。大事をとって休むとのことだ」

確かに、< 根源光滅爆(ガヴエル) >を停止するのは並大抵のことではないがな。

しかし、今日の放課後会う約束をしていたのだ。疲労程度で休むとは思えぬ。

「では、授業始める。今日は、聖なる魔法具についてだ。魔王学院の諸君は覚えもないだろうが――」

やれやれ、なかなかどうして、勇者学院では、想像以上に厄介な事が起きているようだな。