軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

炎の支配者

広場から離れた水中都市の往来で、サーシャとラオスが向かい合っていた。

「破滅の魔女ってなぁ、噂によれば、なんでも破壊する魔眼を持ってるんだってな」

両拳に聖なる炎を纏わせ、ラオスが言う。

「ふーん。知ってるのね。それがどうかしたのかしら?」

サーシャが微笑する。

「なに、俺も聖炎の破壊騎士って呼ばれててなぁ。ぶち壊すのは得意な方なんだ。ちょっくら、力比べをしてみてぇと思ってよ」

「そ。あなたって炎属性の魔法が得意みたいだけど、湖を蒸発させられるのかしら?」

ラオスが舌打ちし、忌々しそうな表情を浮かべる。

「アノスには張り合う気にもなれないんでしょ。それで? わたしなら勝てそうだと思ったから力比べをしたい? 器が知れるわ」

「魔族ってなぁ、どいつもこいつも挑発がうめぇもんだな」

「ねえ。一つだけ教えてあげるわ」

にっこりと笑い、サーシャは言った。

「あなたが度を超して短気なだけよ」

「うるっせえっ!!」

ラオスの拳から、< 聖炎(サイファ) >が発せられる。

サーシャは軽く手を振り、反魔法でそれを容易く弾き飛ばした。

「はっ。やるじゃねぇの。じゃ、次は半分ぐれぇの力でいってやろうかっ!!」

ラオスは両拳を重ね合わせるようにして、そこに魔法陣を展開する。

「< 大覇聖炎(サイフィオ) >!!」

聖なる炎が八つに割れ、四方八方からサーシャに襲いかかる。

だが、彼女はその急所を見抜き、八つの炎の共通する根本に反魔法をぶつけた。

魔力の元を断たれ、サーシャの目前まで迫っていた< 大覇聖炎(サイフィオ) >はあっさりと鎮火される。

「早く全力で来なさいよ。もったいぶるほど、強くもないんだから、力を出す前に死ぬわよ、お馬鹿さん」

ラオスがぎりっと奥歯を噛む。

「……なんでわかった……?」

「あなたが強くもないってこと?」

「ふざけてんじゃねえっ! ぶっ殺すぞっ! 俺が< 大覇聖炎(サイフィオ) >で結界を作ろうとしたのがなんでわかったのかって訊いてんだっ!?」

サーシャは目を細める。

「それを敵に聞くのが、本当にお馬鹿さんだわ」

「んだとぉ……!?」

「あなたが言っているのは、< 聖八炎結界(ザガード) >のことでしょ?」

ラオスの顔色が変わる。

「……なんで知ってやがる? 一度も見せてねえぞ」

はあ、とサーシャはため息をついた。

「少しは頭を使いなさいよ。古い魔法はぜんぶアノスに教えてもらったわ。防げるようになるのは苦労したけど、あなたが相手だと楽でいいわね」

「抜かせぇっ!!」

吐き捨てるように言い、ラオスが地面を蹴った。

そのまま一直線にサーシャへ突撃していく。

「だったらよぉ、これでどうだぁっ!!」

ラオスが全身に炎の鎧を纏う。< 聖炎鎧(デストア) >の魔法だ。防御魔法だと見せかけ、そのまま相手を組み敷くことで、魔を封じる結界をなす。捕まえられた魔族は、その力の大半を封じられてしまう。

しかし、サーシャは後退することなく、逆に前へ出た。

「はっ! 飛んで火にいる夏の虫じゃねえのっ!!」

ラオスは両腕を大きく広げ、サーシャにつかみかかる。

「< 魔炎(グレスデ) >」

サーシャの手の平に黒炎が出現し、刃と化してラオスの鳩尾を貫いた。

「がっ……」

「ぜんぶ教えてもらったって言ったでしょ、お馬鹿さん。< 聖炎鎧(デストア) >を結界化するには、その纏った炎で相手を組み敷かないといけない。虚を突けば通じるかもしれないけどね。知ってたら、隙だらけなだけだわ」

サーシャが黒炎に魔力を込めると、ゴオォォォォッとラオスの体が炎上した。

たまらず、彼は後ろへ飛び退く。

「ちぃっ……!!」

反魔法を全力で込め、ラオスは< 魔炎(グレスデ) >を振り払う。

すぐにサーシャへ反撃しようとして、はっとした表情を浮かべる。

「探し物はこれかしら?」

サーシャの手に勇者学院の校章があった。

さっき接近した隙に奪っていたのだ。

「聖水はこの湖から湧き出しているんだから、蒸発させても完全になくならないことぐらい知ってるわ。使うならさっさと使えばいいのに、余裕ぶって手を抜いてるから、そういうことになるのよ」

「っせえっ! だったらよ、お望み通り、本気を見せてやろうじゃねえのっ!」

ラオスが目の前に聖炎の魔法陣を描く。

その中心から炎が激しく立ち上ると、内部に剣の影が見えた。

「正義を示せっ、ガリュフォードッ!」

ラオスの言葉と同時に、立ち上っていた炎が聖剣の中に吸い込まれる。

緋色に煌めく剣がそこにあった。

「どうよ? 八八本の聖剣の内、もっとも熱く、燃え盛る聖剣。太陽を生み出したとさえ言われる、この 聖炎熾剣(せいえんしけん) ガリュフォードの魔力はよ?」

「お馬鹿さん」

サーシャは言う。

「どんなにすごい魔力だって、使い手が台無しにしたんじゃなんの意味もないわ」

「はっ! なんだなんだ? ビビッてんのか?」

サーシャははあ、とため息をつく。

「あなたが馬鹿だから宝の持ち腐れだって言ってるのが、わからないのかしら?」

サーシャが< 魔炎(グレスデ) >を発射する。

「効かねえなぁっ!」

聖炎熾剣ガリュフォードが炎を纏ったかと思うと、それを一瞬にしてかき消した。

「ったく、さっきからウゼぇことばかり言ってんじゃねえ。戦いってのはなぁ、ただぶっ飛ばせばそれでいいんだよぉっ!!」

< 聖炎鎧(デストア) >を纏い、ガリュフォードを振りかぶりながら、ラオスは猛然と突っ込んでくる。

「おらあぁっ!!」

ラオスが聖剣を振り下ろす。サーシャは< 飛行(フレス) >で飛び退くも、周囲に荒れ狂う聖炎が撒き散らされ、辺り一帯は火の海と化す。

サーシャの逃げ場を塞ぐように炎の壁が出来ていた。

「取り返したぜ」

ラオスは勇者学院の校章を手にしていた。

「こいつをわざわざ奪ったってことは、魔法結界を使われたくないってことだよな?」

サーシャがきゅっと唇を引き結ぶと、ラオスは言った。

「はっ、図星かよ。どうだぁ? 馬鹿にしていた相手に、見透かされる気分はよぉ?」

ラオスは校章を握り、魔力を込める。

足元から聖水が噴出し、無数の水の玉が浮かんだ。

「封じろ、ガリュフォード」

聖水で作られた水の玉が、ガリュフォードの聖炎を纏う。

それらがサーシャの周囲に漂い、魔法陣を作り出した。

それは魔族の力を封じる、強力な魔法結界と化す。

「どうよ? < 聖熾炎結界(バーディスド) >の味はよ? まだ魔力が出せるか? 動けるか? できねえだろ?」

ラオスはサーシャにガリュフォードの切っ先を向ける。

「生意気な口を二度と叩けねえよう、派手にぶっ壊してやんよぉぉっ!!」

彼は地面を蹴る。次の瞬間、口から血を吐き、その場に膝を折った。

ガリュフォードがドスン、と地面にめり込む。

「……か……ふ…………な……なんだっ……てんだ…………?」

「一度奪われた魔法具が無事に返ってくると思ったの?」

ラオスは自らの校章に視線をやる。

魔眼でより深淵を覗けば、魔力の波長が変化しているのがわかっただろう。

「その校章と< 毒呪汚染(ディエヌ) >の魔法を融合しておいたわ」

ラオスは体を起こそうと、足を踏ん張る。

だが、まるで体に力が入らない様子だ。

「知ってると思うけど、< 毒呪汚染(ディエヌ) >は魔力に潜ませる毒よ。それを取り込んだ人の根源を蝕み、体を蝕み、体内の魔力器官をボロボロにする。あなたが校章を使ったことで、< 毒呪汚染(ディエヌ) >は聖水を汚染したの。そんな状態で聖水の魔力を使えば一緒に毒まで吸収して、そうなるのは当然ね」

「……魔法具と魔法を融合できる……なんて、聞いてねえぞ…………」

「馬鹿ね。ネクロンの秘術は、他の魔族にだって基礎しか伝えてないわ。人間のあなたが知っていることがすべてだと思ったの?」

ラオスは地面を這いずり、ガリュフォードに手を伸ばす。

「ふーん。まだがんばるのかしら?」

「……う、るせえ……聖水が毒に汚染されてたって、効果を失ったわけじゃねえだろうが。その証拠にちゃんと< 聖熾炎結界(バーディスド) >が発動してる。そいつは、ここ百年で開発された魔法だからな。あの転生者も、おめぇも破り方を知りようがねぇ。つまり、おめぇだって、動けねえはずだ」

ラオスの体を聖なる光がまとわりつく。

回復魔法だ。

「そんでもって、< 四属結界封(デ・イジェリア) >の中にいる限り、俺たちは何度でも復活する。ちったぁがんばったが、どのみちてめぇに勝ち目はねえよ」

< 毒呪汚染(ディエヌ) >によるダメージと、< 四属結界封(デ・イジェリア) >による回復、僅かに回復の方が勝ったか、ラオスの手が聖剣の柄に届いた。

彼は聖剣を杖にしてゆっくりと身を起こした。

「大体、動けねえんじゃ破り方を知ってたってどうしようもねえがな」

「おあいにくさま。 魔眼(め) が見えるだけで十分だわ」

サーシャの魔眼に魔法陣が浮かぶ。

彼女が一瞥すると、その瞬間、立ち上った炎も、聖炎を纏った水の玉の結界も、ガラスが割れるように砕け散り、消え去った。

「破滅の魔女の由来、知らないのかしら?」

「……んなはずは、ねぇ……。<破滅の魔眼>で魔法を壊せるなんて……聞いてねえぞ……」

「だから、言ったでしょ。お馬鹿さん。あなたが知らないことは世の中には沢山あるのよ」

サーシャがその 魔眼(め) でラオスを一瞥すると、彼は途端に血を吐いた。

「がっ……な……なん、だ…………」

「これだけ近くで見れば、< 四属結界封(デ・イジェリア) >の魔法だって、滅ぼせるわ」

<破滅の魔眼>は究極の反魔法だ。

エウゴ・ラ・ラヴィアズの時間停止魔法にさえ抗うその魔眼の力を使いこなせれば、ラオスに働く< 四属結界封(デ・イジェリア) >の効果を打ち消すことぐらいわけはないだろう。

当然、解毒の魔法も彼女が見ている限りは作用しない。

「……がはぁ……ぁ、ぁ……ちきしょう、毒なんて、きたねぇ、真似を……」

「どの口が言うのかしら? あなたの同胞が、リーベストにしたこと、もう忘れたの?」

サーシャが魔眼を向けている限り、ラオスは回復することなく、< 毒呪汚染(ディエヌ) >で刻一刻と弱っていく。

「……俺は、やってねぇ…………あれは、ハイネの、野郎が……」

「呆れたわ。自分がどこに属しているのかぐらい考えて戦いなさい」

「ぐっ……あぁ……るっせえなっ……やってねえもんは、やってねえ……知らねえよ……がっ、がはぁっ……」

ラオスは血を吐き、その場にうずくまる。

「だったら、あなたの罪を教えてあげるわ。覚えてるでしょ? 魔法図書館であなたが言ったこと」

冷たい視線をサーシャは向け、怒りを込めて淡々と言った。

「わたしの魔王にぞんざいな口を利いて、ただですませると思ったの?」

「……っざけんな、んだよ……それぐらいで……」

<破滅の魔眼>に魔力をこめ、サーシャは冷たく微笑する。

「万死に値するわ」

< 四属結界封(デ・イジェリア) >の効果がますます減衰し、ラオスの全身に黒い斑点が浮かび始める。< 毒呪汚染(ディエヌ) >に冒されているのだ。

「……く、ぁ……がはぁっ……くそったれ、覚えて……やがれよ……次に会ったらぁ……」

「次?」

ふふっとサーシャが笑う。

「どこまでもお馬鹿さんね。あなた、まだ次があると思っているの? その毒が全身に回ったら、二度と魔法なんて使えない体になるわよ」

「……な……………………」

「しょうがないわよね。おたくの学院長も言ってたけど、対抗試験じゃ、たまにそういう事故も起きるもの。お互い正々堂々戦ったんだから、恨みっこなしだわ」

絶望を表情に張りつけ、ラオスは力なく言葉をこぼす。

「…………ま……待、て…………」

サーシャは<破滅の魔眼>を彼に向け、微笑した。

「ええ、待ってあげるわ。あなたがそこでのたうち回る様子、目を逸らさずに見ててあげる。ゆっくりと弱っていき、毒が全身に回るまで、ずっと」