軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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銀水学院パブロヘタラは銀の海を飛んでいた。

<絡繰淵盤>をミリティア世界に界間転移させたことにより、傀儡皇ベズや災人イザークは退いた。

残った絡繰神もその戦力ではどうにもならぬと思ったか、深追いしてくることはなかった。

そうして、銀水学院パブロヘタラはミリティア世界までやってきた。

レイの視界には淡く輝く銀泡が見えている。

「やはり、奴らの狙いはこれだったようだな」

パブロヘタラ宮殿へ俺は降下していく。

頭上からは界間転移させた<絡繰淵盤>がゆっくりと降りてきている。

「それは、どういうことか?」

バルツァロンドが問う。

答えたのはレイだ。

「このパブロヘタラを作ったのが正帝ヴラドだ。恐らく、彼が隠してきた秘密が、そこに残されているはず」

「それで、第一魔王アムルは<絡繰淵盤>を奪うように傀儡皇や災人に命じましたのね」

ミサが言う。

「オットルルーは疑問があります」

事務的な口調で彼女は訊いてきた。

「今、パブロヘタラを作ったのは正帝ヴラドだと言われました。ですが、この学院同盟は隠者エルミデが作ったものです」

「最初のパブロヘタラはな」

俺がそう言葉を向けると、オットルルーは言い直した。

「それは……はい。正確には、このパブロヘタラ宮殿は、銀水世界リステリアの住民の追憶により、生み出されたものです」

「つまり、それが間違いだったのだ。恐らくはな」

「……間違い……というのは?」

「答えはこの<絡繰淵盤>にある」

浮遊させた<絡繰淵盤>をパブロヘタラ宮殿に降ろす。ゆっくりと、それはイザークが空けた穴を通り、最下層の元にあった位置に収まった。

俺たちはその上に着地する。

「一万四〇〇〇年前――僕は狩猟貴族に成りすました人物を追って、パブロヘタラ宮殿を訪れた。そこにあった<淵>は、この<絡繰淵盤>ではなく、絡繰り仕掛けの水槽だった」

レイは魔法陣を描き、そこにかつて見た水槽の映像を映し出した。

「< 絡繰(からくり) の 淵槽(えんそう) >と呼ばれていた」

「……オットルルーは追憶されたパブロヘタラ宮殿の誕生から存在しますが、こちらは見覚えがありません」

「この水槽が、銀水世界リステリアの<淵>、<追憶の廃淵>が生み出したものではないからだろうな」

俺の言葉に、レイはうなずく。

「だけど、その水槽は<淵>ではあった。絡繰神を生み出したよ。そのネジ巻きと同じものを使った魔法でね」

レイはオットルルーが手にしている大きなネジ巻きを指さした。

「だとすれば、そやつは銀水世界リステリアの者ということになるはずだが……」

言いながら、バルツァロンドは疑問に頭を悩ませている。

「一方で、<淵>は銀水世界のものではなかった。銀水世界のものではない<淵>を、銀水世界の魔法で操作できるものか?」

可能性は薄いだろう。答えは単純だ。

「オットルルー。お前の使うネジ巻きの魔法は、銀水世界の魔法ではない」

「え……?」

虚を衝かれたといった風に、オットルルーは目を丸くした。

「俺は本物の隠者エルミデと会ったことがある。そのネジ巻きの魔法は、あの世界には存在しなかった」

「では、なぜオットルルーが使えるのですか?」

「恐らく、この<絡繰淵盤>と同じことがお前の身にも起きている。以前お前は、<追憶の廃淵>により、以前とは少し違う体で蘇ったと言った。新しい体にはパブロヘタラを救うための力が備わっていた、と」

こくりとオットルルーは首肯した。

かつて、<追憶の廃淵>とつながったオットルルーは、それを<絡繰淵盤>という権能に変化させることができたと説明した。

「その力は銀水世界の住人が願ったものではない。混ざったのだ」

「混ざった……?」

「混ぜられた、といった方が正しいか」

羽(う) 化(か) 世(せ) 界(かい) オルドローブの主神フレイネアは<追憶の廃淵>を用いて、元首シューザを蘇らせようとした。

だが、彼女らの追憶は、ミリティア世界にいた我が父セリスの追憶と混ざり、結果、シューザのものは服と喋り方ぐらいしか残らなかった。

だが、この身には確かに元首シューザへの追憶が混ざっていた。

「絡繰世界の正帝ヴラド、そいつが裁定神オットルルーと絡繰神への追憶を混ぜ、今のお前を生み出したのだ」

「……しかし、それは<追憶の廃淵>を操ること、なにより人々の追憶を自由に操作しなければなし得ることではないとオットルルーは考えます」

「できたのだろうな。そうでなければ説明がつかぬ」

俺がそう口にすると、続けてレイが言った。

「<絡繰淵盤>は、<追憶の廃淵>と<絡繰の淵槽>が混ぜられて作られたってことか」

「ですけど、あくまでまだ推測でしょう。どうやって確かめますの?」

ミサが聞く。

「絡繰世界の住人ならば、この<絡繰淵盤>を自在に操る方法もわかるだろう。ならば、リステリアの住人が最期に願った本当の追憶を蘇らせることもできるはずだ」

「絡繰世界の住人といっても、今この場には……」

バルツァロンドがオットルルーに視線を向けた。

「残念ですが、オットルルーにはその知識がありません」

「君のネジ巻きの魔法は、<絡繰淵盤>を操ることができる。後はやり方を見つけるだけだ」

「しかし、兄上。いったいどうやって見つけるのだ?」

バルツァロンドが問う。

「それは……」

「一つ、気になっていることがあってな」

俺がそう口にすると、皆がこちらを向いた。

「レイの前世、レブラハルドが見た絡繰神は、他者の首を奪い、その者の姿や力を複製する。どこかで覚えがないか?」

ミサとレイがはっとした。

「セリス様の首を奪い、成りすました……」

「グラハム……!」

俺はうなずき、言葉を続けた。

「グラハムは、ツェイロンの血族に目をつけ、その力を手に入れた。それが出来たのは、元々奴自身の根源に類似した力が備わっていたからではないか?」

ツェイロンの血族は、首無しで、他者の首から知恵や魔力、姿を奪う。絡繰神も、ほぼ同じ特性を有している。

「確かに似ている……」

「グラハムは世界の外――銀水聖海があることの可能性、そしてエクエスを作るという可能性に気がついていた」

俺はオットルルーの瞳を見つめた。

その神眼の奥には、歯車がある。

「エクエスの歯車、<絡繰の淵槽>にあった歯車、そしてオットルルーの瞳にある歯車、これらは恐らく絡繰世界の産物だ」

「グラハムは…いや、グラハムの前世は絡繰神だったってことかい?」

半ば信じられないといった風にレイがそう問うた。

「まずはそれを確かめる」

俺は魔法陣を描く。

すると、胸部に穴の空いた絡繰神が現れた。

「<絡繰淵盤>から生み出された絡繰神だ。根源を滅ぼし、体だけ残しておいた」

正帝ヴラドは、別世界にいながらも、この<絡繰淵盤>を操作することができるようだ。

調べられるとまずいと思ったか、この一体を奪った後、絡繰神を生み出そうとしてはいない。

もう遅いがな。

「もっとも、こいつが協力してくれるかはわからぬがな」

胸に魔法陣を描き、俺はそこに手を突っ込んだ。

自らの根源に指を伸ばし、その中にある虚無をつかむ。

ゆっくりと、その虚無の根源を引き抜き、絡繰神の体に移した。

すると、絡繰神から強い魔力が発せられた。

その体がぐにゃりと溶けて、水銀に変わる。それは形を変えていき、再び人型を象った。

勇者グラハムの姿へと。

「――ふぅん、絡繰世界か。たぶん、それで正解だ。正帝は目的があって、僕をミリティア世界に送りこんだんだろうね」

軽薄な笑みを浮かべ、かつてとなんら変わらない薄っぺらい口調で奴は言った。

「たとえば、アノス。君を滅ぼせ、とか」

「手を貸せ」

率直に俺は言った。

こいつのことだ。今ここで敵に回ったとしてもなんら不思議はない。

グラハムは数秒間、俺を見返し、静かに目を伏せた。

「じゃ、貸しておこうか」

そう言って、グラハムはオットルルーのもとまで歩いていき、彼女のネジ巻きに手をつけた。

「この絡繰神の体に、絡繰魔法の使い方が残っていたよ。貸してくれるかい?」

オットルルーは一瞬こちらを向く。俺がうなずいてやれば、彼女はネジ巻きから手を離した。

グラハムは<絡繰淵盤>に魔法陣を描く。

そして、その中心の鍵穴へ、ネジ巻きを差し入れた。

ぎぃ、ぎぃ、ぎぃ、と三度回す。

「< 絡繰淵槽水銀創造(ラジナ・ノウズ・リエスト) >」

<絡繰淵盤>から銀の粒子が立ち上る。それが、一つ一つ結びついていき、やがて人型の水銀になった。

更にぐにゃりと水銀は変形して、ある人物を創り出す。

長い金髪の青年――隠者エルミデだ。

「久しぶりですね、ノア」

俺に向かって、彼は言った。

「エルミデ。なにがあった?」

「お話ししましょう。銀水世界リステリアの最期を。歪められてしまった、僕たちの本当の追憶……そして、奴らがひた隠しにしている絡繰世界の追憶を――」

そうして、隠者エルミデは語り始めた。