軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

<銀界魔装>

深層十二界。牙獣世界ドゥーダウス。

そこは漆黒に塗り潰されていた。

暗闇ではない。灰だ。真っ黒な灰が牙獣世界のありとあらゆるものを浸食し、壊滅させている。

深き滅びの魔法、< 極獄界滅壊陣魔砲(エギルズ・グロア・アウヴスハーデ) >、銀水聖海広しといえども、これの使い手は二人といまい。

第一魔王、壊滅の暴君アムル――彼は上空から大地に立つ俺にじっと視線を注いでいる。

燃えるような赤黒き瞳は、かつてと同じく、底知れぬ憎悪を秘めている。

だが、違う。

転生前、ともに過ごしたアムルは、こんな風に俺を見ることはなかったのだ。

「なぜだ? アムル」

再び、俺は問うた。

彼は大魔王ジニア・シーヴァヘルドの命を奪い、その深淵魔法< 深魔(アギド) >を奪った。

そんなことをせずとも、アムルがその気になれば、大魔王を継承することは容易かったはずだ。

大魔王ジニアを、そして銀水聖海の魔王たちを手にかける理由などない。

「この海の平穏を壊滅する」

アムルは答えた。

ギラリと光ったその魔眼には、憎悪の炎が灯っている。

これまで彼が宿していた数多の憎悪、それらを集めてなお余りあるほどの強い憎しみがそこにあるように思えた。

「なんのためにだ?」

俺は問う。

「それが許せなくなった」

短く言い捨て、アムルは頭上に腕を上げた。

「< 銀界魔装(ゾッドアーグ) >」

銀の粒子がそこに集い、真円を描く。

初めて見る。しかし、その魔力の波長はある魔法に酷似していた。

銀滅魔法< 銀界魔弾(ゾネイド) >に――

「< 極獄界滅壊陣魔砲(エギルズ・グロア・アウヴスハーデ) >」

七重螺旋を描いた終末の火が、魔法陣を構築する。その中心から怒涛の如く、黒炎が撃ち放たれた。

終わりの黒炎は、< 銀界魔装(ゾッドアーグ) >をくぐると、銀の粒子を纏う。それは< 銀界魔弾(ゾネイド) >と同じく銀滅魔法の輝きを宿している。

すなわち、通常魔法が銀滅魔法に深化したのだ。

深層十二界が一つ、牙獣世界ドゥーダウスを黒き灰に変えた< 極獄界滅壊陣魔砲(エギルズ・グロア・アウヴスハーデ) >。それが撃ち放たれたのは、転生世界ミリティアの方角だった。

銀水聖海。

ミーシャとサーシャは銀城世界の王虎メイティレンと、傀儡世界の元首パリントンを警戒するように身構える。

その体は完全に元の姿を取り戻し、根源からは以前のように強大な魔力が供給されていた。

そうして、メイティレンとパリントンは目を開く。

「彼女らはあなたたちにとっても敵だろう」

ミーシャとサーシャ、魔王列車の方を指さし、希輝星デュエルニーガが言う。

「手を貸してくれるのなら、あなたたちの願望を叶えると約束しよう」

メイティレンの大きな目が、ぎょろりとデュエルニーガに向けられる。

「ファリスじゃ。あれを 妾(わらわ) のものにし、我が世界バランディアスを復興する」

「……愛を取り戻す」

狂気を孕んだ瞳で、パリントンは言った。

「姉様の愛を。今度こそ」

妄執に駆られたように、ギリリと奴は奥歯を噛みしめる。

「愚かで、醜く、なんの正義もない願望。この銀水聖海に生きる誰一人として、それに価値を感じる者はいない」

二人の願いを聞き、デュエルニーガはそう評す。

苛立ちを覚えたように、パリントンとメイティレンは彼女を睨めつけた。

「けれど」

デュエルニーガは言った。

「だからこそ、叶えよう。そのガラクタの願望を、希輝星デュエルニーガは求めている」

「ふんっ!」

と、笑い飛ばし、パリントンは前に出る。

「物好きな、主神じゃ!」

同じく銀水を斬り裂くようにして、王虎メイティレンが飛ぶ。

パリントンは巨大な縫い針、獅子縫針ベズエズを投擲する。

メイティレンの前足の爪は銀に輝く。

「下がって」

ミーシャはそう言いながら、<創造の神眼>を光らせる。

パリントンの縫い針とメイティレンの爪が、冷たい氷に覆われた瞬間、サーシャが<終滅の神眼>で追撃した。

黒陽が放たれ、 銀爪(ぎんそう) と獅子縫針ベズエズが灼かれていく。

「ぬぅっ」

「小賢しい小娘めっ……!!」

サーシャの視線から逃れようと、パリントンとメイティレンは左右に散開した。

その時――

「< 銀界魔装(ゾッドアーグ) >」

デュエルニーガの指先が、銀の真円を生み出していた。

「< 混沌赤流星(アルガ・デロム) >」

描かれた魔法陣から放出されたのは混沌に満ちた赤い流星。それは銀の粒子を纏い、勢いよく撃ち出された。

その銀滅魔法が狙ったのはミーシャでも、サーシャでも、魔王列車でもない。

転生世界ミリティアだ――

傀儡皇ベズの手が魔法陣の中心に差し入れられる。そこから、取り出されたのは、大きく、真っ赤な印鑑だ。

一つだけではない。

ベズは両手の指に合計八本の印鑑を挟んでいる。

「 呪々印章(じゅじゅいんしょう) ガベェガ」

押印された操り人形が破壊されれば、そのダメージを強制的に術者へ返す。傀儡皇ベズの権能の一つである。

呪々印章ガベェガが宙に放り投げられる。伸びた<黒糸>が巻きつく。三体の絡繰神に向かって、ガベェガが突っ込んでいく。

「この傀儡皇の前で、操り人形を使うかね?」

縦横無尽に動く<黒糸>が、絡繰神を包囲するように追い詰めていき、そして呪々印章ガベェガが押印される。

禍々しい呪いの印が、その三体の絡繰神に浮かび上がった。

「<黒糸>・<魔刃>」

直後、<黒糸>に吊られた魔剣や魔槍が絡繰神の全身に突き刺さる。

ガラスが割れるように絡繰神が砕け、消滅していく。

すると、その場所に禍々しい印が浮かび上がる。不気味な音を立てながら、術者に傷を返す呪いが発動した。

しかし、ベズはそのことにはさして関心を持たず、あさっての方角に体を向けた。

「< 銀界魔装(ゾッドアーグ) >」

その指先は第一魔王アムル、希輝星デュエルニーガと同じく、銀の真円を描く。

「< 傀儡操裏大界魔弾(バゼド・アグラ・ネヴィウス) >」

出現したのは黒い糸。四方八方より出現したそれがみるみる絡まり、毛糸の束のように巨大な球体を形成した。

ベズの指先から打ち出された糸の魔弾は、銀の粒子を纏いながら、勢いよくパブロヘタラの外へ向かった。

それは黒穹を超えて、聖剣世界の外側にある銀の海を斬り裂いていく。

レイとミサがはっとしたように、振り返った。

転生世界ミリティアの方角である。

転生世界ミリティア領海。

その銀泡めがけて、銀滅魔法が三方向から唸りを上げて突っ込んだ。

< 傀儡操裏大界魔弾(バゼド・アグラ・ネヴィウス) >。

< 混沌赤流星(アルガ・デロム) >。

< 極獄界滅壊陣魔砲(エギルズ・グロア・アウヴスハーデ) >。

いずれの深層大魔法も、一発でミリティア世界を滅ぼし尽くすほどの威力を誇る。それが三発同時だ。まともに当たったならば、塵一つとて残らぬだろう。

そう、まともに当たったならば――

銀滅魔法がミリティア世界に突っ込んで、十数秒が経過したが、銀泡は健在だ。

空も大地も海も、草木の一本とて傷をつけられてはいない。

二律僭主の影が、< 掌握魔手(レイオン) >にて三つの深層大魔法を受け止めていた。

アムルが銀滅魔法を放ったあの瞬間、俺は< 背反影体(ダヴエル) >と< 転移(ガトム) >を使い、魔王学院デルゾゲードの影があった場所まで界間転移したのだ。

そうして、< 背反影体(ダヴエル) >を使い、二律僭主の影を作り出した。

二律僭主の影は< 掌握魔手(レイオン) >にて受け止めた深層大魔法を、遠くの海域に投げ返し、三つを衝突させて、相殺した。

「…………」

ミッドヘイズから、遙か彼方に向けて、俺は言った。

「お前とは戦いたくなかったがな」