軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一意剣シグシェスタ

一日みっちりと有意義な自習を行い、その放課後――

俺はレイをつれて、デルゾゲードの地下ダンジョンにある宝物庫を訪れていた。

ずらりと並べられた魔剣や魔法具の数々を見て、レイは驚いたようにこちらを振り返った。

「これ、ぜんぶアノスのかい?」

「二千年前に集めたものだ」

「へえ。君が暴虐の魔王だっていう話、だんだん本当な気がしてきたね」

魔剣に視線を配りながら、気もそぞろにレイは言う。

この男にとっては、二千年前の魔王のことよりも、今目の前にある魔剣の方がよほど大事なのだろう。

「好きなものを選べ」

レイは置いてある魔剣を一つずつ物色していく。

どれも神話の時代の逸品だが、イニーティオほど彼に相応しいかと問われれば、なかなかそうは言い切れない。

イニーティオは確かに優れた魔剣だが、実はそれほど強力といったわけではない。魔法術式を斬り裂く魔剣とはいえ、問答無用で魔法を打ち消すことができるわけではない。自らの技量で魔法を斬らなければならないのだ。

たとえば、剣で対処しきれぬほど大量の魔法を撃ち込まれれば、そのすべてを斬ることはできない。ミサが使ったときは、魔法術式が複雑化した< 魔氷魔炎相克波(ジェ・グレイド) >を斬ることができなかった。

魔法術式を冗長化して魔法を放てば、やはりそれだけ魔法を斬るのが困難になる。

それに反魔法や魔法障壁を斬り裂くことはできるが、魔剣自体の斬れ味は平凡だ。その威力は使い手に大きく依存している。

だが、常人ならざる剣の技量を持つレイが使えば、攻撃魔法も防御魔法もすべて斬り伏せる恐るべき魔剣と化す。魔剣大会でレイが対戦相手の魔剣を悉く斬ってのけたのも、彼の技があってこそだ。

剣以外の魔法がさほど得意ではないレイにとっても、相手の魔法を剣で無効化できるイニーティオはかなり相性が良かった。

「ん……?」

レイは宝物庫に片隅に置かれた一振りの剣に目を止めた。

「抜いてみてもいいかい?」

「ああ」

彼は鞘から魔剣を抜き放つ。

白銀に輝く剣身は、目を奪われるほど美しい。

「いいね」

ふむ。それに目をつけるか。

なかなかどうして、奇妙な縁だな。

「 一意剣(いちいけん) シグシェスタ。なかなか厄介な魔剣だぞ」

俺は< 創造建築(アイビス) >の魔法を使い、レイの目の前に試し斬り用の石像を用意してやる。

「斬ってみろ」

レイは一歩前に出る。

目にも止まらぬ速度でシグシェスタを上段から振り下ろした。

「……ふっ……!!」

頭から両断するかの如く、剣身が石像を通った。

だが、石像は斬れていない。まったくの無傷だった。

「へえ」

面白い、といった風にレイは微笑んだ。

「シグシェスタの剣身は思うがままに変化する魔を秘めている。この思うがままに、というのが曲者でな。一意専心、すなわちそのことだけに心を集中しなければ、なにも斬れぬなまくらだ」

微かな雑念でもあれば、一意剣は真価を発揮しない。心技体、そして魔、すべてが一つのことに集中して初めて、シグシェスタは思うがままの魔剣と化す。だが、言うは易しというやつだ。

一意専心など、そうそう成せる技ではない。ましてや、戦いの最中、そのことだけに集中していては、真っ先に死ぬことになるだろう。なにせ相手の攻撃に備えただけで、一意専心が成立しないのだからな。

「アノスは使えるのかい?」

「使えなくはないが、俺の場合は力尽くで言うことを聞かせているだけだ。本当の意味でシグシェスタを使いこなせたのは、俺が知る限り一人だけだ」

「そんな人がいるんなら、是非手合わせしてみたいけどね。その人が使っていた魔剣がここにあるってことは、もうアノスが?」

フッと俺は笑った。

「いいや、転生すると言っていたからな。元々この魔剣は俺がくれてやったものだから、律儀にここへ返しておいたんだろう」

シグシェスタは二千年前、俺の片腕だったシンが好んで使っていた魔剣だ。

「お前なら、その剣を使いこなせるかもな」

「どうして?」

「お前はそいつによく似ている」

すると、レイは爽やかに微笑んだ。

「その人が転生したのが、僕だってことかな?」

「まだわからぬ。お前こそ、なにか自覚はあるか?」

一意剣を突き出し、精神を集中するようにしてレイは考える。

「なんとなく、この時代以外にいたような気はしているけどね。記憶はないんだ」

そうだろうな。

「その剣を使いこなせれば、少しは思い出せるかもしれぬぞ」

「そうなんだ?」

「一意剣は思うがままに変化する剣だ。かつての所有者の念がそこに込められている。同じ根源の持ち主ならその念に同調することがあるかもしれない」

あるいは、それを見越して、シンがここに一意剣を残していったのかもしれない。

転生後の自分がいつかそれを手にするように。

「まあ、前世がわかったところで、なにがどうなるわけでもない。思い出す必要も別段ないとは思うが」

「そうだね。でも、とりあえず、この魔剣にするよ」

「他は見なくてもいいのか?」

「これが気に入ったからね」

魔剣に惹かれたのだろう。

しかし、一番厄介な魔剣を選ぶところが、やはりシンに似ているな。

「では戻るか」

俺たちは宝物庫を後にした。

地上に戻ってくると、レイと別れ、俺はその足でアノス・ファンユニオンのユニオン塔へ向かった。

中に入り、階段を上っていく。

メルヘイスと話す約束をしているのだ。

二階に差し掛かったところで、聞き覚えのある声が響いた。

「それじゃ、アノス様応援歌合唱曲第三番の歌詞なんだけど、なにか意見のある人は挙手ー」

「はいっ! やっぱり、今回はアノス様がよく言う台詞にちなんだ感じにした方がいいと思うっ!」

「よく言う台詞ってなんだっけ?」

「あれあれ、ほら、たとえば大魔剣教練で言ってた、『山脈を両断したぐらいで、俺の頭が割れるとでも思ったか』的なやつ」

「ああ、いい。それ、絶対いいよぉっ」

「あれだよね? 山脈を両断したら、普通は頭ぐらいは割れるけど、アノス様の場合は全然なんともないってことだから、そういう方向性がいいってことだよね?」

「うんうん、そうだね」

「それを歌詞にすると考えて、アノス様らしいのって、どんな風になるかな?」

ファンユニオンの少女たちはじっと考える。

なかなか妙案が浮かばないといった様子だったが、やがて、一人がぼそっと言った。

「『キスしたからと言って、つき合ってるとでも思ったか?』」

きゃーっと少女たちは黄色い悲鳴を上げた。

「外道ーっ、アノス様外道ーっ。でもでも、そこがいいっ!! 外道格好いいっ! それ、絶対言うよね、アノス様」

言わんぞ。

「じゃあ、じゃあ、こういうのは? 『抱いてやったからといって、心まで奪ったと思ったか?』」

「いやぁぁぁ、鬼畜ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!! そんなの、そんなのっ、絶対、言われたいよぉぉっっ!!」

「『昼に会いたいからといって、体目的じゃないと思ったか?』」

「直球っ! 直球すぎるよっ、アノス様っ! 昼間からお盛んだよぉっ」

「じゃあ、これっ。これは? 『愛しているからといって、結婚できると思ったか?』」

「もうわけがわからないよぉぉぉっ! ミステリアスすぎて、頭沸騰しちゃいそうっ!!」

「最後、これ最後ねっ。『捨てたからといって、俺のものじゃないと思ったか?』」

「やぁだぁ、捨てられたいぃぃっ! もうやめて、やめて、アノス様ぁっ。そんなこと言われたら、あたし、都合の良い女の子になっちゃうんだからぁ……ひどいよ……」

ふむ。なんなのだ、これは、いったい。

「今の、いい感じだよね。歌詞のストーリーラインはばっちりじゃない?」

「うんっ、そう思うっ。じゃ、アノス様応援歌合唱曲第三番は、切ない系のラブソングでいこうっ!」

「ちょっと待って。でも、ラブソングは応援歌じゃないよね? アノス様が戦っているときに歌うのに、それってどうなのかな?」

「あ、そっか」

「おかしい……よね……」

「じゃ、こう考えたらどうかな? アノス様が強すぎて、戦いなんて些末なことだから、それよりも早くあの子と一夜の燃える恋を楽しみたいぞっていうアノス様の内心を表しているとかっ!?」

一瞬、その場に沈黙が訪れた。

そして次の瞬間――

「て、天才だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! ちょっとちょっと、アノス様の御心を見抜きすぎなんじゃないっ!?」

見抜いておらぬぞ。

「えへへ……応援歌だからといって、ラブソングじゃないと思ったか?」

きゃああぁぁぁぁぁっと黄色い悲鳴がユニオン塔に鳴り響いていた。

ふむ。まあ、あれだな。

聞かなかったことにしておこう。

楽しそうでなによりではないか。

そんなことよりも、メルヘイスに話を聞かなければな。

俺はユニオン塔を上っていった。